別名・関連疾患名
- 17p13.1欠失症候群
- 17p13.1微細欠失症候群(16p13.1 microdeletion syndrome)
- 17p13.1モノソミー(Monosomy 17p13.1)
- TP53関連染色体欠失(TP53-related chromosomal deletion)
- 関連:リ・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni syndrome; LFS)様状態
- ※本疾患で欠失する領域には、リ・フラウメニ症候群の原因遺伝子であるTP53が含まれることが多いため、臨床的に関連が深いです。
対象染色体領域
17番染色体 短腕(p)13.1領域
本疾患は、ヒトの17番染色体の短腕(pアーム)の末端に近い「13.1」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【領域の遺伝学的詳細と重要性】
17番染色体短腕(17p)には、医学的に有名な疾患に関わる領域が密集しています。
例えば、さらに末端側の「17p13.3」の欠失は「ミラー・ディーカー症候群(滑脳症)」を、中心寄りの「17p11.2」の欠失は「スミス・マギニス症候群」を引き起こします。
今回解説する「17p13.1」は、それらの中間に位置する領域です。
【含まれる重要な遺伝子】
欠失のサイズは患者さんによって異なります(約200kb〜数Mb)が、症状形成において特に重要視されているのが以下の遺伝子です。
- TP53 (Tumor Protein p53):
- 「ゲノムの守護神」とも呼ばれる、人体で最も重要ながん抑制遺伝子の一つです。
- DNAが傷ついた細胞を修復したり、修復不可能な細胞を自死(アポトーシス)させたりして、がん化を防ぐ役割を持っています。
- この遺伝子が欠失に含まれる場合、生涯にわたって様々な腫瘍が発生するリスクが高まるため、本症候群における最重要管理項目となります。
- DLG4 (Discs Large MAGUK Scaffold Protein 4):
- 脳のシナプス(神経細胞同士のつなぎ目)の形成や機能に不可欠なタンパク質(PSD-95)を作ります。
- この遺伝子の欠失は、本症候群に見られる知的障害や自閉スペクトラム症、筋緊張低下などの神経発達症状の主要な原因と考えられています。
- KIF1B / TRAP1 / GPS2:
- これらの遺伝子も神経機能や代謝に関与しており、欠失することで複合的な症状に寄与する可能性があります。
発生頻度
非常に稀(Rare)
17p13.1欠失症候群は、希少染色体異常(Rare Chromosome Disorder)に分類されます。
正確な疫学的な頻度は確立されていませんが、世界的な医学文献での報告は数十例〜百例程度の規模であり、一般的な染色体検査では見つかりにくい微細欠失であることから、未診断の例も存在すると考えられます。
臨床的特徴(症状)
17p13.1欠失症候群の症状は、大きく分けて「神経発達・身体的特徴」と、「腫瘍発生リスク」の2つの側面があります。
特に腫瘍リスクについては、自覚症状が出る前からの管理が必要となるため、非常に重要です。
1. 神経発達・認知機能
ほぼ全ての患者さんにおいて、乳幼児期から発達の遅れが認められます。これは主にDLG4遺伝子などの神経関連遺伝子の欠失によると考えられています。
- 知的障害(ID): 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度の知的障害を伴います。
- 全般的な発達遅滞(GDD):
- 運動: 首すわり、お座り、歩行開始などの運動マイルストーンが遅れます。歩行獲得が数歳遅れることもあります。
- 言語: 言葉の理解・表出ともに遅れが見られます。重度の場合は発語が見られない(Non-verbal)こともあります。
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、抱きにくい、哺乳力が弱いといった症状が見られることが一般的です。
- 行動特性: 自閉スペクトラム症(ASD)の特性(社会的コミュニケーションの困難、こだわり)、多動、不安、睡眠障害などが報告されています。
2. 身体的特徴・顔貌
「この病気特有」というほど決定的な顔つきではありませんが、いくつかの共通した特徴(Dysmorphism)が報告されています。
- 小頭症(Microcephaly): 頭囲が平均よりも小さい傾向があります。
- 顔貌:
- 長い顔(Long face)
- 高い前頭部(おでこが広い)
- 眼瞼裂斜下(タレ目傾向)
- 鼻の変形(鼻根部が太い、鼻先が丸い)
- 小さな口、薄い上唇
- 耳の位置が低い、または耳の形の異常
- 骨格・四肢: 低身長、側弯症、手指の短縮、関節の過伸展(関節が柔らかすぎる)、内反足などが報告されています。
3. 腫瘍発生リスク(TP53欠失に関連)
本症候群において、生命予後を左右する最も重要な特徴です。
欠失範囲にTP53遺伝子が含まれている場合、患者さんは「リ・フラウメニ症候群(LFS)」と同様の腫瘍発生リスクを持つことになります。
- リスクの概要: 通常の人よりも、小児期から成人期にかけて、様々ながんを発症する確率が高くなります。
- 好発する腫瘍(LFSスペクトラム):
- 骨軟部肉腫: 骨肉腫、横紋筋肉腫など。
- 脳腫瘍: 脈絡叢癌、髄芽腫、神経膠腫など。
- 副腎皮質癌: 小児期に発症することがある稀な腫瘍。
- 白血病: 急性リンパ性白血病など。
- 乳がん: 女性の場合、若年(20代〜30代)での発症リスクが高まります。
- 特徴: これらのがんは、小児期や若年期に発症しやすく、また生涯で複数のがん(多重がん)にかかる可能性があります。
※注意: すべての17p13.1欠失患者さんががんになるわけではありませんが、リスクが高い状態(ハイリスク群)であるという認識のもと、予防的なサーベイランスを受けることが強く推奨されます。
原因
17番染色体短腕(17p13.1)における微細欠失による、遺伝子のハプロ不全が原因です。
1. 主要責任遺伝子とその影響
- DLG4のハプロ不全:
脳の神経細胞がネットワークを作る際、シナプス後部で足場となるタンパク質(PSD-95)が不足します。これにより、神経伝達の効率が悪くなり、知的障害や運動発達遅滞、筋緊張低下などの神経症状が引き起こされます。 - TP53のハプロ不全:
「がん抑制遺伝子」が片方しか機能しない状態になります。通常、細胞のDNAに傷がつくとp53タンパク質が修復や細胞死を指令しますが、この監視機能が弱まるため、DNA変異が蓄積しやすくなり、がん細胞が発生しやすくなります。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異): 17p13.1欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶発的に生じた突然変異です。この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは一般集団と同程度(非常に低い)です。
家族性(親の転座など): 稀に、親が均衡型転座を持っていたり、親自身がモザイク(体の一部だけ欠失を持つ)や、軽度の症状を持つ保因者である場合があります。
診断方法
一般的な染色体検査(Gバンド法)では、欠失が微細で見逃されることがあります。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
ゲノム全域のコピー数変化を調べる検査で、17p13.1領域の微細欠失を確実に検出できます。現在、第一選択となる検査です。 - FISH法:
17p13.1領域(特にTP53遺伝子座)をターゲットとしたプローブを用いることで、欠失の有無を確認できます。
診断の際は、「欠失範囲にTP53遺伝子が含まれているかどうか」を確認することが、その後の医学的管理方針を決める上で極めて重要です。
治療方法・医学的管理
欠失した染色体を修復する根本治療はありません。
治療の柱は、「発達支援(療育)」と、がんを早期発見するための「厳重なサーベイランス(検診)」の2本立てとなります。
1. 腫瘍サーベイランス(TP53欠失例)
TP53遺伝子欠失がある場合、国際的なガイドライン(通称:トロント・プロトコルやその改訂版)に準じた検診が推奨されます。早期発見できれば、治療の選択肢が広がり、予後を改善できます。
- 全身MRI検査: 放射線被曝のないMRIを用いて、全身(特に脳、軟部組織、骨)の腫瘍をスクリーニングします。年に1回程度の実施が推奨されることが多いです。
- 血液検査・腹部エコー: 副腎皮質癌や白血病の兆候がないか、定期的にチェックします。
- 身体診察: 神経学的所見(脳腫瘍の兆候)や、皮膚・体表のしこりがないかを確認します。
- 被曝の回避: TP53機能不全がある場合、放射線によるDNA損傷に対する修復能力が弱いため、診断目的のCT検査やX線撮影は必要最小限にし、可能な限りMRIやエコーで代用することが推奨されます。
2. 発達・教育的支援
- 療育(ハビリテーション):
- 理学療法(PT): 低緊張や運動発達遅滞に対し、身体作りを支援します。
- 作業療法(OT): 微細運動や感覚統合療法を行います。
- 言語聴覚療法(ST): 言葉の遅れや摂食嚥下機能へのアプローチを行います。
- 教育: 知的障害の程度や特性に合わせ、特別支援学級や特別支援学校など、適切な教育環境を選択します。
3. その他、症状に応じた治療
- てんかん: 脳波検査を行い、発作がある場合は抗てんかん薬でコントロールします。
- 眼科・整形外科: 視力障害や側弯症などに対し、定期的なチェックと装具療法などを行います。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は、単なる発達障害だけでなく、「がん家系になる可能性がある(遺伝性腫瘍)」という側面を持つため、ご家族への心理的サポートと正確な情報提供が不可欠です。
- 「いつ、どのような検診を受けるべきか」「きょうだいの検査はどうするか」といったデリケートな問題について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと共に計画を立てていきます。
まとめ
17p13.1 deletion syndromeは、17番染色体の一部が欠失することで生じる疾患です。
発達のゆっくりさや、少し小柄な体格といった特徴に加えて、がん抑制遺伝子TP53を含む欠失の場合は、将来的な腫瘍のリスクが高いという特徴を持っています。
「がんのリスク」と聞くと大きな不安を感じられるかと思いますが、重要なのは「リスクを知っているからこそ、先手を打てる」ということです。
現在は、被曝のない全身MRIなどを活用した「トロント・プロトコル」などの検診体制が確立されつつあり、万が一腫瘍ができても早期発見・早期治療によって克服できるケースが増えています。
お子さんの発達を療育で支えながら、定期的なメディカルチェックを生活の一部に組み込むことで、健やかな成長を守っていくことができます。
参考文献
- Carvalho, C.M., et al. (2010). 17p13.1 microdeletions: a spectrum of molecular and clinical heterogeneity. American Journal of Medical Genetics Part A.
- (※17p13.1微細欠失症候群の臨床的特徴と、TP53を含む・含まないケースの違いについて詳細に解析した重要論文。)
- Zguro, K., et al. (2015). 17p13.1 Microdeletion including TP53 gene in a boy with intellectual disability, psychomotor retardation, obesity and epilepsy. European Journal of Medical Genetics.
- (※TP53欠失を伴う17p13.1欠失患者の症例報告と臨床像のまとめ。)
- Malkin, D., et al. (2016). Li-Fraumeni syndrome: an evolving paradigm. Cancer.
- (※TP53変異/欠失を持つ患者に対するサーベイランス指針「トロント・プロトコル」に関する基礎文献。)
- Kratz, C.P., et al. (2017). Cancer screening recommendations for individuals with Li-Fraumeni syndrome. Clinical Cancer Research.
- (※がん検診の具体的な推奨事項。)
- Lelieveld, S.H., et al. (2016). Spatial clustering of de novo missense mutations identifies candidate neurodevelopmental disorder genes. American Journal of Human Genetics.
- (※DLG4遺伝子が神経発達障害の重要な候補遺伝子であることを示した研究。)
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 17p13.1 deletions.
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: TP53 (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence), DLG4.
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