別名・関連疾患名
- 17p13.3テロメア側重複症候群
- 17p13.3遠位重複症候群(Distal 17p13.3 microduplication syndrome)
- YWHAE重複症候群(YWHAE duplication syndrome)
- 17p13.3微細重複症候群 クラス1(17p13.3 microduplication syndrome, Class 1)
- 関連:17p13.3 duplication syndrome(広義の名称)
※用語の解説:
「Telomeric(テロメア側)」とは、染色体の「末端」を意味します。17p13.3領域の中でも、より先端に近い部分のみが重複していることを示しており、医学的には「YWHAE重複症候群」と同義として扱われることが一般的です。
対象染色体領域
17番染色体 短腕(p)13.3領域の末端(Telomeric / Distal)
本疾患は、17番染色体の短腕の最も先端にある「13.3」領域のうち、さらに末端側のDNA配列が重複(コピー数増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細と「クラス1」の定義】
17p13.3重複症候群は、重複する範囲に含まれる遺伝子の違いによって、症状が全く異なる2つのタイプに分類されます(Bi et al., 2009による分類)。
- クラス1(本疾患:Telomeric / Distal):
- YWHAE遺伝子を含み、PAFAH1B1 (LIS1) 遺伝子を含まない重複です。
- 今回解説する「17p13.3 telomeric duplication syndrome」はこれに該当します。
- クラス2(Centromeric / Proximal):
PAFAH1B1 (LIS1) 遺伝子を含み、YWHAE遺伝子を含まない、あるいは両方を含む重複です。こちらは小頭症や成長障害を引き起こします。
【責任遺伝子:YWHAE】
本疾患の症状形成において中心的な役割を果たすのがYWHAE遺伝子です。
- YWHAE(Tyrosine 3-Monooxygenase/Tryptophan 5-Monooxygenase Activation Protein Epsilon)は、脳の発達において神経細胞(ニューロン)が正しい場所に移動(遊走)するために必要なタンパク質を作ります。
- この遺伝子が過剰になる(3コピーになる)と、神経細胞の移動パターンに異常が生じ、自閉スペクトラム症(ASD)や認知機能の障害、そして身体的な過成長(体が大きくなる)が引き起こされます。
- 領域内にはCRK(成長因子シグナルに関与)などの遺伝子も含まれており、これが過成長に寄与している可能性も研究されています。
発生頻度
稀(Rare)
17p13.3領域全体の重複の頻度は、数万人〜10万人に1人程度と推定されていますが、そのうち「Telomeric(YWHAE単独)」のタイプがどの程度の割合を占めるかは、正確な統計がありません。
しかし、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、「自閉スペクトラム症(ASD)」や「発達遅滞」と診断されていた患者さんの中から、この重複が見つかるケースが増加しています。
症状が身体的に目立ちにくい(大奇形が少ない)ため、診断に至っていない潜在的な患者数は、従来の報告よりも多いと考えられています。
臨床的特徴(症状)
17p13.3 telomeric duplication syndromeの臨床像は、「過成長(体が大きい)」、「自閉症特性」、「特徴的な顔貌」の3つが特徴です。
同じ17p13.3重複でも、PAFAH1B1を含むタイプが「小柄で小頭症」になるのとは対照的に、本疾患では「大柄で大頭症傾向」になることが診断の重要な手がかりです。
1. 身体的特徴・成長(Overgrowth)
多くの患者さんにおいて、出生後から身体の発育が良い、あるいは平均よりも大きい傾向が見られます。
- 過成長(Macrosomia): 身長や体重が成長曲線の上限に近い、あるいは超えることがあります。
- 相対的大頭症(Macrocephaly): 頭囲が大きめになる傾向があります。
- 骨格: 手指の異常(長い指など)が見られることはありますが、重篤な骨格奇形は少ないです。
2. 神経発達・認知機能
神経発達への影響はほぼ必発ですが、その程度には個人差があります。
- 発達遅滞(DD):
- 運動: 歩行開始などの運動発達が遅れることがあります。筋緊張低下(Hypotonia)が背景にあることが多いです。
- 言語: 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著です。特に表出言語(話すこと)が苦手で、構音障害(発音がはっきりしない)を伴うことがあります。
- 知的障害(ID):
- 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いですが、境界域(Borderline)の場合もあります。重度の知的障害は、PAFAH1B1を含む重複に比べて少ない傾向にあります。
3. 行動・精神面の特性(自閉スペクトラム症)
本疾患において、ご家族が最も直面する課題の一つが行動面の特徴です。YWHAE遺伝子の重複は、ASDの強力なリスク因子として確立されています。
- 自閉スペクトラム症(ASD):
- 患者さんの多くがASDの診断基準を満たすか、その傾向を持っています。
- 社会的コミュニケーションの困難(視線が合わない、友達との関わりが苦手)。
- 反復行動、常同行動(手をひらひらさせる、くるくる回るなど)。
- 強いこだわり、感覚過敏。
- その他の行動特性:
- 多動、注意欠陥(ADHD様症状)。
- 不安障害、易刺激性(イライラしやすい)、かんしゃく。
- 攻撃的行動や自傷行動が見られることもあり、環境調整や行動療法が必要になる場合があります。
4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
顔つきには共通した特徴(Dysmorphism)が見られますが、それらは「微細」なものであり、一見して診断できるほど特異的ではないこともあります。
- 前頭部突出: おでこが広く、前に出ている。
- 眼間開離: 両目の間隔が離れている。
- 鼻の特徴: 鼻根部(目と目の間)が低く平坦。
- 顎の特徴: 顎が小さい、あるいは尖った顎(Pointed chin)。
- 耳: 耳の位置が低い、耳の形が特徴的。
5. その他の合併症
内臓の大奇形を伴うことは比較的稀ですが、以下の報告があります。
- 脳MRI所見: 脳梁の菲薄化(薄い)、小脳の異常、キアリ奇形タイプ1などが稀に見られますが、正常範囲であることも多いです。
- てんかん: 一部の患者さんでけいれん発作が報告されています。
その他: 斜視、屈折異常、軽度の摂食障害など。
原因
17番染色体短腕末端(17p13.3 telomeric)における微細重複が原因です。
1. 遺伝子型と表現型の相関(なぜ症状が出るのか)
本疾患の症状は、主にYWHAE遺伝子の用量効果(Gene Dosage Effect)によって説明されます。
- 正常な脳発達: 神経細胞は胎児期に脳の深部で生まれ、表面(皮質)に向かって移動します。この移動には、14-3-3εタンパク質(YWHAE産物)とLIS1タンパク質(PAFAH1B1産物)が結合して働くことが必要です。
- 重複によるバランス崩壊: YWHAEだけが増えてPAFAH1B1が正常なままだと、タンパク質の結合バランスが崩れます。これにより、神経細胞の移動速度や方向が微妙に狂い、脳の配線(ネットワーク)に異常が生じます。これがASDや知的障害の原因となります。
- 過成長の原因: YWHAEまたは隣接するCRK遺伝子は、細胞の増殖シグナルに関与しているため、これらが過剰になることで全身の細胞増殖が促進され、体が大きくなると考えられています。
2. 遺伝形式
- De novo(新生突然変異): 多くのケースは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で生じた突然変異です。
- 家族性(遺伝):
- ここが重要なポイントです。17p13.3 telomeric duplicationは、親から遺伝しているケースが比較的多く報告されています。
- 親自身が同じ重複を持っているものの、症状が軽微(「少し勉強が苦手だった」「背が高い」「こだわりが強い性格」程度)で、診断されずに社会生活を送っている場合があります。
- 親が保因者の場合、子に遺伝する確率は50%です。
診断方法
通常の染色体検査(Gバンド法)では、この微細な重複を検出することは困難です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 現在のゴールドスタンダードです。
- 重複の正確な位置とサイズを特定し、「YWHAE遺伝子を含んでいるか」「PAFAH1B1遺伝子を含んでいないか」を確認することで確定診断となります。
- FISH法:
YWHAE領域に特異的なプローブを用いることで、コピー数の増加を確認できます。
治療方法
根本的な遺伝子治療法はありません。
治療の中心は、それぞれの症状に対する対症療法と、特性に合わせた療育的支援です。
本疾患では身体的な大奇形が少ないため、医療的ケアよりも「発達・行動支援」がメインになることが多いです。
1. 発達・行動支援(療育)
- 早期療育: 診断後、早期から療育(Early Intervention)を開始することが、二次的な行動問題を防ぐために重要です。
- 応用行動分析(ABA): ASD特性(こだわり、コミュニケーション困難)に対し、ABAなどの行動療法が有効な場合があります。
- 言語聴覚療法(ST): 言葉の遅れに対し、絵カードやAAC(補助代替コミュニケーション)を活用し、意思伝達の手段を確立します。
- 作業療法(OT): 感覚過敏がある場合、感覚統合療法を行い、日常生活のストレスを軽減します。
- ソーシャルスキルトレーニング(SST): 学齢期以降、集団生活での対人スキルを学びます。
2. 教育環境の調整
- 知的障害の程度やASD特性に合わせ、通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校など、個別に適した教育環境を選択します。
- 視覚優位(見て理解するのが得意)な場合が多いため、視覚的な指示を取り入れるなどの工夫が学習を助けます。
3. 医学的管理
- 定期検診: 発育(過成長の評価)、視力・聴力検査を行います。
- 神経学的管理: てんかん発作が疑われる場合は脳波検査を行い、治療します。
- 精神科的ケア: 思春期以降、不安や行動の問題が強まる場合は、薬物療法を含めた精神科的アプローチを検討します。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は親からの遺伝である可能性が否定できないため、両親の検査を行うかどうかについて、十分なカウンセリングが必要です。
- 「親も持っている」と判明した場合、それは「親のせいで症状が出た」のではなく、「親が同じ体質を持ちながら適応できている」というポジティブな情報(予後予測の参考)としても捉えられます。
まとめ
17p13.3 telomeric duplication syndromeは、17番染色体末端のYWHAE遺伝子などが増えることで生じる先天性の体質です。
この重複を持つお子さんは、体が大きく健やかに育つ一方で、言葉の遅れや自閉症などの特性を持つことが多いです。
他の染色体疾患に見られるような重い内臓の病気は少ないため、命に関わることは稀ですが、社会的なコミュニケーションやこだわりの強さで困り感を抱えることがあります。
重要なのは、その子の行動を「わがまま」と誤解せず、「脳の配線の違いによる特性」として理解することです。
早期からその子の特性(視覚的な理解が得意、など)に合わせた療育環境を整えることで、お子さんは自分なりの方法でコミュニケーションを学び、社会の中で成長していくことができます。
参考文献
- Bi, W., et al. (2009). 17p13.3 microduplications: a critical review of the genotype-phenotype correlations. American Journal of Medical Genetics Part A.
- (※17p13.3重複をクラス1(Telomeric/YWHAE)とクラス2(Centromeric/PAFAH1B1)に分類し、本疾患の特徴である過成長やASDとの関連を定義づけた、最も基本的かつ重要な論文。)
- Bruno, D.L., et al. (2010). Further molecular and clinical delineation of co-locating 17p13.3 microdeletions and microduplications. Journal of Medical Genetics.
- (※YWHAE遺伝子の重複が、自閉スペクトラム症(ASD)や過成長の主要な原因であることを明らかにした研究。)
- Curry, C.J., et al. (2013). Duplication of the LIS1 (PAFAH1B1) gene: A newly recognized cause of microcephaly and mild brain malformation?
- (※対照的な疾患であるLIS1重複(小頭症)との比較において、YWHAE重複(大頭症・過成長)の特徴を際立たせている文献。)
- Petit, F., et al. (2013). 17p13.3 microduplications involving YWHAE but not PAFAH1B1: A retrospective study of 24 patients.
- (※Telomeric duplication(クラス1)患者24例の詳細な臨床データをまとめ、顔貌や行動特性を解析した研究。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: YWHAE (Triplosensitivity score: 3 – Sufficient evidence).
- (YWHAE遺伝子が3コピーになることで病原性(ASDや過成長)を持つことを裏付ける専門データベース評価。)
DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 17p13.3 distal duplications.
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