別名・関連疾患名
- 17q12欠失症候群
- 17q12微細欠失症候群(17q12 microdeletion syndrome)
- 腎嚢胞・糖尿病症候群(Renal Cysts and Diabetes syndrome; RCAD)※1
- 若年発症成人型糖尿病5型(Maturity-Onset Diabetes of the Young type 5; MODY5)※2
- HNF1B関連疾患(HNF1B-related disorder)
- 17q12モノソミー(Monosomy 17q12)
※疾患名の解説:
この症候群は、歴史的に「MODY5(糖尿病の一種)」や「RCAD(腎臓と糖尿病の病気)」として知られてきましたが、それらの根本原因が「17q12領域の欠失」であることが判明しました。
そのため、現在では「17q12欠失症候群」という名称が、腎臓・糖尿病・神経・生殖器のすべての症状を包括する診断名として用いられます。
対象染色体領域
17番染色体 長腕(q)12領域
本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕にある「12」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と欠失タイプ】
- 欠失サイズ: 典型的には約1.4メガベース(Mb)の領域が欠失します。
- 含まれる遺伝子: この領域には約15個以上の遺伝子が含まれていますが、本症候群の症状形成において決定的な役割を果たしているのは以下の2つの遺伝子です。
- HNF1B (Hepatocyte Nuclear Factor 1-Beta):
- 最重要の責任遺伝子です。
- この遺伝子は、胎児期に腎臓、膵臓、肝臓、生殖管(ミュラー管)などの臓器が作られる際に司令塔となる「転写因子」を作ります。
- この遺伝子が半分になる(ハプロ不全)ことで、腎臓の奇形や、インスリン分泌不全(糖尿病)、子宮奇形などが引き起こされます。
- LHX1 (LIM Homeobox 1):
- 脳や生殖器の発達に関与する遺伝子です。
- 神経発達症(自閉スペクトラム症など)や、女性の生殖器形成不全(MRKH症候群様症状)に関与していると考えられています。
その他、ACACAなどの遺伝子も欠失範囲に含まれ、代謝や神経機能への影響が研究されています。
発生頻度
稀だが、過少診断されている可能性が高い
- 推定頻度: 一般集団における頻度は、約14,000人に1人 〜 62,500人に1人程度と推定されています。
- 臨床現場での頻度:
- 腎奇形(特に腎低形成や嚢胞)を持つ小児の約2〜6%に見つかると言われています。
- 若年発症の糖尿病患者の中にも一定数含まれています。
- 診断の難しさ: 症状に個人差が非常に大きく、腎臓の症状しかない人、糖尿病だけの 人、あるいは発達の問題だけの人がいるため、すべての症状が揃わない限り「17q12欠失症候群」として診断されずに見過ごされているケースが多いと考えられています。
臨床的特徴(症状)
17q12 deletion syndromeの症状は、「腎臓」「膵臓(糖尿病)」「神経発達」「生殖器」の4つの柱で構成されます。これらがどの程度現れるかは、患者さん一人ひとり全く異なります(可変表現性)。
1. 腎臓・尿路系の異常(CAKUT)
最も高頻度(約85〜90%)に見られる症状であり、胎児期のエコー検査で見つかる最初のサインとなることが多いです。
- 腎嚢胞(Cysts): 腎臓の中に水がたまった袋(嚢胞)ができます。皮質に多発することが特徴です。
- 腎異形成・低形成: 腎臓の組織が正常に作られない、あるいはサイズが小さい(片方または両方)。
- 胎児期の高輝度腎: 妊娠中の超音波検査で、胎児の腎臓が白く輝いて見える(Hyperechogenic kidneys)ことがあり、診断のきっかけになります。
- 腎機能障害: 小児期から慢性腎臓病(CKD)を発症することがあり、成人期にかけて末期腎不全に至り、透析や移植が必要になるケースもあります。ただし、腎機能が正常なまま経過する方もいます。
- その他: 単腎(片方しかない)、馬蹄腎などの形態異常。
2. 糖尿病(MODY5)
約40〜60%の患者さんが、小児期〜若年成人期(多くは25歳未満)に糖尿病を発症します。
- MODY5の特徴:
- 1型糖尿病(自己免疫)でも、2型糖尿病(生活習慣)でもない、遺伝子異常による糖尿病(MODY)の一つです。
- HNF1B遺伝子の不足により、膵臓の形成不全(膵臓の萎縮や欠損)が起こり、インスリンを出す力が弱いために発症します。
- 経過: 最初は食事療法や飲み薬で管理できることもありますが、インスリン分泌能が低下しているため、早期からインスリン注射が必要になることが多いです。肥満とは無関係に発症します。
- 膵外分泌不全: 消化酵素の分泌が減り、脂肪便などが見られることがあります。
3. 神経発達・精神医学的特徴
近年、特に注目されている症状です。約50%以上の患者さんに何らかの神経発達への影響が見られます。
- 発達遅滞・知的障害:
- 言葉の遅れや運動発達の遅れが見られることがあります。
- 知的機能は正常範囲の方から、軽度〜中等度の遅れがある方まで様々です。
- 自閉スペクトラム症(ASD):
- 社会的コミュニケーションの困難さやこだわりなど、ASDの特性を持つ頻度が高いです。
- 精神疾患のリスク:
- 統合失調症や双極性障害の発症リスクが一般集団よりも高いことが報告されており、思春期以降のメンタルヘルスケアが重要です。
- てんかん: 一部の患者さんでけいれん発作が見られます。
4. 生殖器の異常(特に女性)
- 女性(MRKH症候群様症状):
- LHX1やHNF1Bの影響で、ミュラー管(子宮や膣の元になる管)の発達が阻害されることがあります。
- 子宮奇形: 双角子宮(ハート型)、重複子宮、あるいは子宮欠損(MRKH症候群:Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser syndrome Type 2)が見られることがあります。
- これにより、無月経や不妊症の原因となることがあります。
- 男性: 停留精巣などが稀に見られます。
5. その他の合併症
- 高尿酸血症・痛風: 若いうちから尿酸値が高くなり、痛風発作を起こすことがあります(腎機能低下とは独立して起こることもあります)。
- 低マグネシウム血症: 尿中へのマグネシウム排泄が増え、血中のマグネシウム濃度が低下することがあります。
肝機能異常: 肝酵素の上昇や胆管の異常が見られることがあります。
原因
17番染色体長腕(17q12)における約1.4Mbの微細欠失が原因です。
1. HNF1Bのハプロ不全
症状の大部分(腎臓、糖尿病、尿酸、肝臓)は、この領域に含まれるHNF1B遺伝子が片方失われることで説明がつきます。
HNF1Bタンパク質は、複数の臓器が作られる際の「設計図の読み手」のような役割をしており、これが不足することで、臓器の形がいびつになったり(嚢胞、奇形)、機能が不十分になったり(インスリン不足)します。
2. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)
17q12領域の両端には、DNA配列が互いによく似た「反復配列(LCR)」が存在します。
精子や卵子が作られる際、この似た配列同士が誤って結びつき、その間の領域が抜け落ちてしまうエラー(NAHR)が起こりやすい構造になっています。
3. 遺伝形式
- 常染色体顕性(優性)遺伝: 親から子へ50%の確率で遺伝します。
- De novo(新生突然変異): 患者さんの約半数は、両親からの遺伝ではなく、突然変異で発生します。
家族性: 残りの半数は、親からの遺伝です。親自身も軽度の症状(「腎臓に小さな袋があると言われたことがある」「妊娠糖尿病だった」など)を持っているものの、診断されていないケースが多々あります。
診断方法
「腎臓が悪い」「糖尿病がある」「発達が気になる」など、入り口は様々です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 17q12領域の微細な欠失を検出する最も確実な検査です。
- 遺伝子パネル検査 / MLPA法:
- 「MODY(若年糖尿病)」や「腎嚢胞」の遺伝子検査として、HNF1B遺伝子の欠失・変異を調べる際に発見されることがあります。
治療方法・医学的管理
欠失した染色体を元に戻す治療法はありません。
この症候群の管理は、「多臓器にわたる症状を、それぞれの専門科が連携して診ていくこと」が何より重要です。
1. 腎臓の管理(腎臓内科・小児腎臓科)
- 定期検診: 少なくとも年に1回、血液検査(クレアチニン、eGFR、電解質、尿酸、マグネシウム)と尿検査、血圧測定を行います。
- 画像検査: 定期的に腎臓超音波検査を行い、嚢胞の状態や腎サイズを確認します。
- 腎保護: 腎機能障害がある場合、塩分制限や血圧管理、腎臓に負担をかける薬剤(NSAIDsなど)の回避を指導します。末期腎不全に至った場合は、透析や腎移植が行われます。
2. 糖尿病の管理(糖尿病内科・内分泌科)
- モニタリング: 定期的に血糖値やHbA1cを測定し、糖尿病の発症を早期に捉えます。
- 治療: 食事療法や運動療法から始めますが、インスリン分泌不全が主体であるため、早期からのインスリン療法が必要になることが多いです。一般的な2型糖尿病薬(スルホニルウレア薬など)の効果は限定的か、副作用が出やすい場合があるため、専門医による調整が必要です。
3. 神経発達・精神科的ケア
- 発達支援: 発達の遅れがある場合、早期から療育(ST/OT/PT)を開始します。
- 学習支援: 学習障害がある場合、学校での配慮を求めます。
- メンタルヘルス: 思春期以降、気分の落ち込みや幻聴などの精神症状がないか注意深く見守り、必要に応じて精神科でのケアを行います。
4. 産婦人科的管理
- 子宮形態の確認: 思春期以降の女性患者さんでは、腹部超音波やMRIで子宮や膣の形態を確認します。無月経や月経困難症がある場合は早めに受診します。
- 妊娠・出産: 子宮奇形がある場合や、糖尿病・腎疾患がある場合の妊娠はハイリスクとなるため、計画的な管理と周産期センターでの対応が必要です。
5. その他の管理
- マグネシウム・尿酸: 低マグネシウム血症がある場合はサプリメントで補充します。高尿酸血症がある場合は尿酸降下薬を使用します。
- 肝機能: 定期的に肝酵素をチェックします。
6. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は「浸透率が高い(欠失があれば何らかの症状が出やすい)」一方で、「表現型が多様(症状の出方は人それぞれ)」です。
- 親が保因者の場合、子への遺伝確率は50%ですが、親が軽症でも子が重症になる(あるいはその逆)可能性もあります。この点について十分な情報提供と心理的サポートを行います。
まとめ
17q12 deletion syndromeは、17番染色体の一部が欠けることで、腎臓、膵臓(糖尿病)、脳、生殖器など、体の様々な部分に影響が出る全身性の疾患です。
「糖尿病と腎臓病と発達障害が、同じ遺伝子の原因で起こる」というのは驚きかもしれませんが、これは遺伝子が体の設計図として複数の役割を持っているためです。
この疾患と診断された場合、最も大切なのは「全身の定期検診」です。
症状が出ていなくても、定期的に腎機能や血糖値をチェックすることで、病気を早期に発見し、適切な治療を始めることができます。
また、ご本人の性格や発達の特性を理解し、環境を整えることも大切です。
医療チームと連携し、身体と心の両面から長期的な健康管理を続けていくことで、安定した生活を送ることが可能です。
参考文献
- GeneReviews® [Internet]: HNF1B-Related Disorder. Initial Posting: June 17, 2009; Last Update: January 13, 2022. Authors: Clissold RL, et al.
- (※本疾患の臨床マネジメント、遺伝学、カウンセリングに関する最も信頼できる包括的なガイドライン。RCADやMODY5も含めて解説されています。)
- Moreno-De-Luca, D., et al. (2010). Deletion 17q12 is a recurrent copy number variant that confers high risk of autism and schizophrenia. American Journal of Human Genetics, 87(5), 618-630.
- (※17q12欠失が自閉スペクトラム症や統合失調症の強力なリスク因子であることを明らかにした重要論文。)
- Bockenhauer, D., & Jaureguiberry, G. (2016). HNF1B-associated clinical phenotypes: the kidney and beyond. Pediatric Nephrology.
- (※HNF1B関連疾患の多様な表現型(腎臓、低マグネシウム、痛風など)についての詳細なレビュー。)
- Dubois-Laforgue, D., et al. (2017). Diabetes, Associated Clinical Spectrum, and Genotype-Phenotype Correlations in 201 Patients with Hepatocyte Nuclear Factor 1B (HNF1B) Mutations. Diabetes Care.
- (※HNF1B変異/欠失を持つ患者201名の糖尿病および全身症状を解析した大規模臨床研究。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17q12 microdeletions (2018).
- (患者家族向けのガイドライン。生活面でのアドバイスが充実しています。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: HNF1B (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence), LHX1.
- (遺伝子のハプロ不全と疾患の関連性を評価したデータベース。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


