17q21.31 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • 17q21.31重複症候群
  • 17q21.31微細重複症候群(17q21.31 microduplication syndrome)
  • クーレン・デ・フリース症候群の相反重複(Reciprocal duplication of Koolen-de Vries syndrome)
  • 部分的トリソミー17q21.31(Partial trisomy 17q21.31)
  • 17q21.31コピー数変異(重複)(17q21.31 copy number variant, duplication)

対象染色体領域

17番染色体 長腕(q)21.31領域

本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕にある「21.31」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と特徴】

この領域は、遺伝学的に非常に興味深い場所です。

  • サイズ: 典型的には約500キロベース(kb)〜600kbの領域が重複します。これは「クーレン・デ・フリース症候群(KdVS)」で欠失するのと全く同じ範囲です。
  • 責任遺伝子: この領域には、KANSL1CRHR1MAPT(微小管関連タンパク質タウ)、SPPL2Cといった遺伝子が含まれています。
    • KANSL1: 欠失(KdVS)ではこの遺伝子の不足が主原因ですが、重複(本疾患)ではこの遺伝子が過剰になることが、神経発達に何らかの影響(シナプス機能や可塑性の変化)を与えていると考えられています。
    • MAPT: タウタンパク質を作る遺伝子で、神経変性疾患(認知症など)との関連が知られていますが、小児期の重複症候群における役割は完全には解明されていません。

【欠失症候群との違い】

同じ領域の異常ですが、症状の出方は対照的です。

  • 欠失(KdVS): 特徴的な顔貌(球根状の鼻)や人懐っこい性格、中等度の知的障害など、比較的はっきりした臨床像を持ちます。

重複(本疾患): 症状が軽微であったり、個人差が大きかったりするため、身体的な特徴だけで診断することは非常に困難です。

発生頻度

稀(Rare)だが、潜在的な患者数は多い可能性

17q21.31重複症候群の正確な発生頻度は確立されていません。

染色体異常データベース(DECIPHERなど)への登録数は、欠失症候群(KdVS)に比べると少ない傾向にありますが、これは「稀だから」という理由だけではありません。

本疾患は症状が軽度で目立たないケースや、全く無症状(表現型正常)のケースが存在するため、検査を受けずに診断されていない**「過少診断(Underdiagnosis)」**の状態にあると考えられています。

近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、原因不明の発達遅滞や自閉スペクトラム症の患者さんの中から発見される頻度が増えています。

臨床的特徴(症状)

17q21.31 duplication syndromeの最大の特徴は、**「不完全浸透(Incomplete Penetrance)」と「可変表現性(Variable Expressivity)」**です。

つまり、「重複を持っていても症状が出ない人がいる(不完全浸透)」し、「症状が出る場合でも、その程度は人によって全く違う(可変表現性)」ということです。

親が同じ重複を持っているのに無症状で、子供には発達の遅れがある、といったケースも珍しくありません。

主な臨床的特徴は以下の通りです。

1. 神経発達・認知機能

最も一般的な受診理由となります。

  • 精神運動発達遅滞(Psychomotor retardation):
    • 全般的な発達の遅れが見られることがあります。
    • 運動発達(首すわり、歩行など)の遅れは、軽度〜中等度であることが多いです。
    • 筋緊張低下(Hypotonia)が乳幼児期に見られることがあり、運動の不器用さにつながることがあります。
  • 言語発達の遅れ:
    • 言葉が出始めるのが遅い、文章での会話が苦手といった特徴が見られることがあります。
    • ただし、欠失症候群(KdVS)で見られるような重度の「口腔顔面失行(口がうまく動かせない)」は、重複症候群ではあまり一般的ではありません。
  • 知的障害(ID):
    • 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いですが、境界域知能や、平均的な知能指数(Normal IQ)を持ち、通常の学校生活を送っている患者さんもいます。
    • 学習障害(LD)として、読み書きや計算に特異的な苦手さを持つ場合もあります。

2. 行動・精神面の特性

重複症候群において、ご家族や学校の先生が気づきやすい特徴です。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの難しさ、こだわり、感覚過敏などのASD特性を持つ頻度が比較的高いと報告されています。
  • その他の行動特性:
    • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)傾向(多動、不注意)。
    • 不安障害、対人関係の苦手さ(Shyness)、あるいは逆に多弁になるなど、行動パターンは様々です。
    • 感情のコントロールが苦手で、かんしゃくを起こしやすい(易刺激性)場合もあります。

3. 身体的特徴・顔貌

欠失症候群(KdVS)のような「一目でわかる特徴的な顔つき」は、重複症候群ではほとんどありません。

  • 顔貌:
    • 特異的な顔貌(Dysmorphism)は目立たない(非特異的)ことが多いです。
    • 詳細に観察すると、前頭部が広い、眉毛が濃い、耳の形が少し特徴的、小顎症などの所見が見られることがありますが、家族に似ている範囲内であることも多いです。
  • 頭囲:
    • 小頭症(Microcephaly)が見られるという報告と、大頭症(Macrocephaly)が見られるという報告の両方があり、一定の傾向はありません。
  • 成長:
    • 多くの場合は正常範囲内ですが、低身長や、乳幼児期の体重増加不良(Failure to thrive)が見られることがあります。

4. その他の合併症

内臓の大奇形を伴うことは比較的稀ですが、以下の報告があります。

  • 骨格: 手指の異常(指が細い、第5指の湾曲)、関節の過伸展、足の変形など。
  • 心疾患: 稀に心室中隔欠損症などの軽微な心疾患が見られることがあります。

てんかん: 一部の患者さんでけいれん発作が見られますが、必須の症状ではありません。

原因

17番染色体長腕(17q21.31)における約500-600kbの微細重複が原因です。

1. 発生機序:NAHRと「H2ハプロタイプ」

この領域で重複が起こるメカニズムは、対になる「17q21.31欠失症候群(KdVS)」と全く同じ遺伝学的背景を持っています。ここが非常に専門的かつ重要なポイントです。

  • 染色体の「反転(Inversion)」:
    ヒトの17q21.31領域には、**「H1」と「H2」**という2種類の染色体パターン(ハプロタイプ)があります。
    • H1: 一般的な配列。
    • H2: ヨーロッパ系の人々に多く見られる配列で、この領域がくるっとひっくり返っています(反転)。
  • 重複のリスク:
    親がこの「H2型」の染色体を持っている場合、その領域にはDNA配列が非常によく似た「反復配列(LCR)」が複雑に配置されています。
    精子や卵子が作られる減数分裂の際、この似た配列同士が誤ってペアを組み、染色体の組換え(情報の交換)が起こると、エラーが発生します。
    • 一方の染色体では領域が抜け落ちる → 欠失(クーレン・デ・フリース症候群)
    • もう一方の染色体では領域が倍になる → 重複(17q21.31重複症候群)

つまり、この重複症候群は、親が持つ「H2型」という染色体の特徴(多型)がきっかけとなって発生することが多いのです。

2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)

  • KANSL1の過剰:
    • KANSL1遺伝子は、DNAのスイッチをONにする(クロマチン構造を緩める)役割を持っています。これが過剰になることで、神経細胞の発達に必要な遺伝子制御のバランスが崩れ、シナプスの形成や機能に微妙な影響を与えると考えられています。
  • MAPT (Tau) の過剰:
    • タウタンパク質の過剰は、長期的には神経細胞にストレスを与える可能性がありますが、小児期の発達障害との直接的な関連メカニズムはまだ研究段階です。

3. 遺伝形式

  • 家族性(遺伝)の頻度が高い:
    • 欠失症候群(KdVS)の多くがDe novo(突然変異)であるのに対し、重複症候群は**「親からの遺伝」であるケースが比較的多い**ことが知られています。
    • 親自身も同じ重複を持っているが、症状がなかったり(無症候性保因者)、軽度の学習障害程度で済んでいたりする場合です。
  • 常染色体顕性(優性)遺伝:
    • 親が重複を持っている場合、子に遺伝する確率は50%です。ただし、遺伝しても症状の程度は予測できません。

診断方法

外見上の特徴が少ないため、臨床症状だけで診断することはほぼ不可能です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 現在のゴールドスタンダードです。17q21.31領域のコピー数が「3」になっていることを検出し、確定診断とします。
  • 臨床的な疑い:
    • 原因不明の発達遅滞、自閉スペクトラム症、軽度の異形顔貌がある場合に、網羅的な遺伝子検査(CMAや全エクソーム解析)を行った結果、偶発的に発見されることが多いです。

治療方法

過剰な染色体領域を取り除くような根本的な遺伝子治療法はありません。

治療は、お子さんの具体的な困りごとに焦点を当てた対症療法と療育的支援が中心となります。

1. 発達・教育的支援(療育)

  • 早期療育(Early Intervention):
    • 診断後、あるいは発達の遅れに気づいた時点から、遊びを通じた療育を開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、語彙を増やしたり、コミュニケーション意欲を高めたりする支援を行います。
  • 作業療法(OT):
    • 不器用さや感覚過敏がある場合、生活動作の練習や感覚統合療法を取り入れます。
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング):
    • ASD特性がある場合、集団生活でのルールや、相手の気持ちを推測する練習などを行います。

2. 教育環境の調整

  • 個別の支援計画:
    • 知的障害の有無や程度、学習障害の特性(読み書きが苦手など)に合わせ、通級指導教室や特別支援学級などの利用を検討します。
    • 通常の学級に在籍する場合でも、視覚的な補助教材を使う、座席を配慮するなどの「合理的配慮」が学習の助けになります。

3. 医学的管理

  • 定期検診:
    • 身体計測(成長の確認)、視力・聴力検査を行います。
    • 心雑音などがあれば心エコー検査を行いますが、重篤な心疾患の合併は稀です。
  • 神経学的管理:
    • てんかん発作が疑われる場合は脳波検査を行い、適切な抗てんかん薬で治療します。
  • 精神科的ケア:
    • 不安が強い、衝動性が高いなどの行動問題があり、日常生活に支障が出る場合は、環境調整や薬物療法を検討します。

4. 遺伝カウンセリング(非常に重要)

  • 親の検査:
    • 診断がついた場合、両親の検査を行うことが推奨されます。
  • 「不完全浸透」の説明:
    • 親にも重複が見つかった場合、「親のせいで」と自分を責める必要はありません。「親が無症状で生活できている」という事実は、お子さんの将来にとっても「重篤な障害に至らない可能性がある」という希望的な要素を含んでいます。
    • 次子の再発リスクや、きょうだいへの遺伝子検査の必要性について、専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー)と十分に話し合うことが大切です。

まとめ

17q21.31 duplication syndromeは、17番染色体の一部が増えることで生じる先天性の体質です。

この重複を持つお子さんは、言葉がゆっくりだったり、人付き合いが少し苦手だったりすることがありますが、大きな身体の病気を抱えることは少ないです。

最大の特徴は「個人差が大きい」ことです。重複を持っていても、特別な支援なしで社会生活を送っている人もたくさんいます。

診断は「レッテル」ではなく、その子の「苦手さの理由」を知るためのヒントです。

「なぜできないの?」と叱るのではなく、「染色体の特性で、今はまだ難しいんだね」と理解し、その子に合ったペースで療育や学習支援を行うことで、お子さんは着実に成長していきます。

ご家族は、医療や教育の専門家とチームを組み、お子さんの「得意なこと」を伸ばしながら、長い目で成長を見守っていくことが大切です。

参考文献

  • Steinberg, S., et al. (2012). A common inversion at chromosome 17q21.31 affects cognition and behaviour in the general population. Nature Genetics.
    • (※17q21.31領域の反転(H2ハプロタイプ)と重複が、一般集団の認知機能や行動に与える影響について解析した大規模研究。)
  • Koolen, D.A., et al. (2008). The Koolen-de Vries syndrome: a phenotypic comparison of patients with a 17q21.31 microdeletion versus a KANSL1 sequence variant. (References reciprocal duplication).
    • (※欠失症候群(KdVS)の研究の中で、相反する重複症候群についても言及されている文献。)
  • Grisart, B., et al. (2009). 17q21.31 duplication causes a recognizable syndrome with psychomotor retardation and characteristic facies. European Journal of Medical Genetics.
    • (※重複症候群の患者における精神運動遅滞や顔貌の特徴を報告し、症候群としての確立を試みた論文。)
  • Vulto-van Silfhout, A.T., et al. (2013). Detailed clinical and molecular characterization of 17q21.31 microduplication syndrome.
    • (※多数の重複症候群患者のデータを集積し、臨床像の多様性や不完全浸透について詳細に解析した重要論文。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: KANSL1 (Triplosensitivity score: 1 – Little evidence for dosage pathogenicity).
    • (※現時点では、KANSL1単独の過剰が疾患を引き起こすという証拠は限定的であり、領域全体の重複による影響が考慮されるべきという評価。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17q21.31 duplications (2019).
    • (患者家族向けのガイドライン。)

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