別名・関連疾患名
- 19p13重複症候群
- 19p13微細重複症候群(19p13 microduplication syndrome)
- 部分的トリソミー19p13(Partial trisomy 19p13)
- 19p13コピー数変異(重複)(19p13 copy number variant, duplication)
- 関連:19p13.1重複症候群 / 19p13.2重複症候群 / 19p13.3重複症候群
- ※19p13領域はさらに細かいバンド(帯)に分かれており、どの部分が重複するかによって区別して呼ばれることがあります。
対象染色体領域
19番染色体 短腕(p)13領域(19p13.1 – 19p13.3)
本疾患は、ヒトの19番染色体の短腕(pアーム)にある「13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【19番染色体の特徴と「遺伝子密度」】
19番染色体は、サイズこそ小さいですが、ヒトゲノムの中で**最も遺伝子密度が高い(遺伝子がぎっしり詰まっている)**染色体の一つとして知られています。
そのため、他の染色体での同じサイズの重複に比べて、影響を受ける遺伝子の数が多くなりやすく、症状が多岐にわたる傾向があります。
【サブバンドによる違い】
19p13領域は広く、中心に近いほうから「13.1」「13.2」、そして末端(テロメア側)の「13.3」へと区分されます。重複の範囲は患者さんによって異なり、特定の遺伝子を含むかどうかで症状が変わります。
- 19p13.1: CACNA1A、NFIX、SCN1Bなどの遺伝子が含まれ、てんかんや過成長/低成長に関わります。
- 19p13.2: SMARCA4、DNM2などの遺伝子が含まれ、発達遅滞や特徴的な顔貌に関わります。
- 19p13.3: 最も末端の領域で、MAP2K2などが含まれます。
発生頻度
稀(Rare)
正確な疫学的頻度は確立されていません。
19番染色体全体の異常は、流産に至ることが多く、出生に至るケースは稀であるとされていますが、19p13領域の「部分的な重複(微細重複)」に関しては、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により発見数が増加しています。
希少染色体異常(Rare Chromosome Disorder)の一つであり、世界的な報告数は数百例規模と推測されますが、症状が軽度で見過ごされているケース(過少診断)も含めると、潜在的な頻度はもう少し高い可能性があります。
臨床的特徴(症状)
19p13 duplication syndromeの症状は、重複している範囲(サイズ)と、そこに含まれる遺伝子の種類によって大きく異なります(可変表現性)。
しかし、多くの症例で共通して見られる特徴として、**「発達の遅れ」「特徴的な顔貌」「成長の問題」**が挙げられます。
1. 神経発達・認知機能
ほぼ全ての患者さんにおいて、何らかの発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅広いです。
- 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著で、受容言語(理解)に比べて表出言語(話すこと)が苦手な傾向があります。
- 精神運動発達遅滞:
- 首すわり、お座り、歩行開始などの運動マイルストーンが遅れます。
- 筋緊張低下(Hypotonia)が乳幼児期によく見られ、体が柔らかく、運動の不器用さにつながることがあります。
- 協調運動障害:
- 手先の微細運動(箸を使う、ボタンを留めるなど)や、粗大運動(走る、ジャンプするなど)のぎこちなさが見られることがあります。
2. 身体的特徴・成長
成長に関しては、重複する場所によって「大きくなる」か「小さくなる」かが分かれる傾向があります。
- 成長障害(Failure to thrive)または過成長(Overgrowth):
- 19p13.13重複などでは、NFIX遺伝子の影響で過成長(背が高い、体が大きい)が見られることがあります(これはソトス症候群やマラン症候群と逆の現象あるいは類似の現象として現れることがあり、遺伝子量効果の複雑さを示しています)。
- 一方、19p13.2重複などでは、出生後の成長障害や低身長が見られることが報告されています。
- 摂食障害(飲み込みにくさ、食欲不振)が乳児期に見られることがあり、体重増加不良の一因となります。
- 頭囲:
- 小頭症(Microcephaly)または大頭症(Macrocephaly)のいずれも見られる可能性があります。
3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
「この病気特有」と一言で言える顔つきはありませんが、いくつかの共通点(Dysmorphism)が報告されています。
- 広い前頭部(おでこが広い)、高い額
- 眼間開離(目が離れている)
- 眼瞼裂斜下(タレ目)または斜上(つり目)
- 鼻根部が平坦、鼻先が丸い
- 薄い上唇、口角が下がっている
- 耳の位置が低い、耳の形の異常
- 小さな顎(小顎症)
4. 行動・精神面の特性
- 神経発達症:
- 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)の特性を持つ頻度が高いです。
- 視線が合わない、こだわりが強い、落ち着きがないといった行動が見られます。
- その他の行動:
- 不安障害、強迫的行動、攻撃的行動、睡眠障害などが報告されています。
5. その他の合併症
重複範囲によっては、臓器の形成異常を伴うことがあります。
- てんかん: 19p13領域にはイオンチャネル遺伝子(CACNA1Aなど)が含まれるため、けいれん発作のリスクがあります。
- 心疾患: 心室中隔欠損症などの先天性心疾患が稀に見られます。
- 手足の異常: 指が細長い(くも状指)、関節の過伸展、内反足など。
- 腎・泌尿器: 水腎症などが報告されています。
原因
**19番染色体短腕(19p13)における微細重複(コピー数増加)**が原因です。
1. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
遺伝子は通常2本(父由来・母由来)でバランスよく働いていますが、重複により3本になると、タンパク質が過剰に作られてしまいます(トリプロセンシティ)。
19p13領域は遺伝子密度が高いため、過剰になった遺伝子たちが相互作用し、複雑な症状を引き起こします。
【注目される責任遺伝子の例】
- NFIX (19p13.13):
- この遺伝子の欠失は「マラン症候群(過成長や知的障害)」を引き起こします。
- 逆に重複した場合も、成長パターンや脳の発達に影響を与え、知的障害や特徴的な行動特性の原因となります。
- CACNA1A (19p13.13):
- カルシウムイオンチャネルを作る遺伝子です。
- この遺伝子の異常は、片麻痺性片頭痛や失調症、てんかんに関わります。重複によって神経の興奮性が変化し、てんかん発作のリスクを高める可能性があります。
- SMARCA4 (19p13.2):
- クロマチンリモデリング因子です。変異はコフィン・シリス症候群の原因となりますが、重複による影響も発達遅滞に関与すると考えられています。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶発的に生じた突然変異です。
- 家族性(親の転座など):
- 親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっているが量は正常)」の保因者である場合、減数分裂の際に不均衡が生じ、子供に重複が遺伝することがあります。
- また、親自身が小さな重複を持っていて症状が軽い(あるいは無症状)ため気づかれず、子供に遺伝して症状が顕在化する場合もあります。
診断方法
外見上の特徴だけでは診断が難しいため、遺伝学的検査が必要です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 現在のゴールドスタンダードです。19p13領域のコピー数が「3」になっていることを検出し、重複の正確な範囲(サイズ)と含まれる遺伝子を特定します。
- FISH法:
- 特定の領域(例えば19p13.3など)をターゲットとしたプローブを用いて、重複を確認します。
- 画像検査(MRI等):
- 脳の構造異常(脳梁低形成や小脳の異常など)がないかを確認するために行われることがあります。
治療方法
過剰な染色体領域を取り除くような根本的な遺伝子治療法はありません。
治療は、お子さんの具体的な症状に合わせた対症療法と、発達を促すための療育的支援が中心となります。
1. 発達・教育的支援(療育)
- 早期療育(Early Intervention):
- 診断後、あるいは発達の遅れが気になった時点から、遊びを通じた療育を開始します。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張低下がある場合、体幹を鍛え、粗大運動(座る・歩く)の発達を促します。
- 作業療法(OT):
- 手先の不器用さ(微細運動)の改善や、日常生活動作(食事・着替え)の自立を支援します。感覚統合療法も有効です。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。視覚的な手がかり(絵カード)やAAC(補助代替コミュニケーション)の活用も検討します。
2. 医学的管理
- てんかんの管理:
- 発作が疑われる場合は脳波検査を行い、適切な抗てんかん薬でコントロールします。
- 定期検診:
- 身体計測:成長障害や過成長、頭囲の推移をモニタリングします。
- 歯科検診:歯並びの問題や虫歯予防を行います。
- 眼科・耳鼻科:視力や聴力の問題を早期に発見します。
- 栄養管理:
- 摂食障害や体重増加不良がある場合、栄養指導や食事形態の調整を行います。
3. 心理・行動面のサポート
- 環境調整:
- ASDやADHDの特性がある場合、刺激の少ない環境を作ったり、見通しの持ちやすいスケジュール提示を行ったりします。
- 薬物療法:
- 衝動性、不安、睡眠障害などが強く、生活に支障が出る場合は、医師と相談の上で薬物療法を検討します。
4. 遺伝カウンセリング
- 次子の妊娠を考えている場合や、きょうだいへの影響を心配される場合、両親の染色体検査(転座の有無など)を行うかどうかについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談します。
- 親の検査で正常であれば、次子への再発リスクは低い(1%以下)と説明されますが、稀に性腺モザイクの可能性も考慮されます。
まとめ
19p13 duplication syndromeは、19番染色体の一部が増えることで生じる先天性の体質です。
この染色体領域には多くの重要な遺伝子が詰まっているため、重複によって発達のゆっくりさや、言葉の遅れ、てんかん、特徴的なお顔立ちなど、様々な症状が現れることがあります。
症状の出方は一人ひとり全く異なり、「この病気なら必ずこうなる」という決まった型はありません。
重い障害を持つお子さんもいれば、ゆっくりながらも着実に成長し、学校生活を楽しんでいるお子さんもいます。
大切なのは、他のお子さんと比べるのではなく、その子自身の「今の成長」に目を向けることです。
早期から療育(PT/OT/ST)を行い、得意なことを伸ばし、苦手なことをサポートする環境を整えることで、お子さんはその子らしいペースで可能性を広げていくことができます。医療と福祉のチームと連携しながら、長い目で成長を見守っていきましょう。
参考文献
- Jensen, L.R., et al. (2009). A novel 19p13.12 microdeletion syndrome with developmental delay and distinctive facial features. (References reciprocal duplication).
- (※19p13領域の欠失と重複を比較検討し、この領域のCNVが発達遅滞の原因となることを示した文献。)
- Nevado, J., et al. (2015). New microdeletion and microduplication syndromes: A comprehensive review.
- (※19p13重複を含む、新規の微細欠失・重複症候群に関する包括的なレビュー。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 19p duplications (2018).
- (※患者家族向けに作成されたガイドライン。19p13.1, 19p13.2, 19p13.3それぞれの重複の特徴について、実際の患者データに基づいて詳しく解説されています。)
- Dolan, M., et al. (2010). Partial trisomy 19p associated with a de novo translocation.
- (※19p部分トリソミー(重複)の症例報告。臨床的特徴の詳細な記述あり。)
- Malekpour, M., et al. (2018). NFIX and 19p13.3 duplications.
- (※19p13.3領域(特にNFIX遺伝子)の重複が過成長や発達遅滞に与える影響についての研究。)
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 19p13 duplications.
- (※世界中の患者データを集積したデータベース。遺伝子型と表現型の相関を確認できる。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: CACNA1A, NFIX, SMARCA4.
- (※各遺伝子の用量効果(重複による病原性)に関する科学的根拠の評価。)
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