1q21.1 duplication (distal) syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 1q21.1重複症候群(遠位型)
  • 1q21.1微細重複症候群(1q21.1 microduplication syndrome)
  • 1q21.1再発性微細重複(Recurrent 1q21.1 microduplication)
  • 1q21.1トリソミー(Trisomy 1q21.1)
  • 1q21.1コピー数変異(重複)(1q21.1 copy number variant, duplication)
  • 関連:1q21.1欠失症候群(1q21.1 deletion syndrome)
    • ※本疾患と「対(つい)」になる疾患です。

※疾患名の定義について:

1q21.1領域には「近位(Proximal)」と「遠位(Distal)」の2つの欠失/重複好発部位があります。

「近位重複」はTAR症候群の領域に関連しますが、一般的に「1q21.1重複症候群」と言う場合、より広範囲で臨床症状が顕著な**「遠位重複(Class II duplication)」**を指すことがほとんどです。本記事では、この遠位重複について解説します。

対象染色体領域

1番染色体 長腕(q)21.1領域(遠位領域:BP3-BP4)

本疾患は、ヒトの1番染色体の長腕(qアーム)にある「21.1」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と「鏡像効果(Mirror Effect)」】

この領域は、遺伝子疾患において非常にユニークな特徴を持っています。

全く同じ領域(BP3からBP4の間、約1.35Mb)が、「欠失」すると小頭症になり、「重複(本疾患)」すると大頭症になるという、まるで鏡に映したような逆の現象が見られるのです。

これは、この領域に含まれる遺伝子の量が、身体のサイズや脳の発達量に対して、アクセルやブレーキのように精密に働いていることを示唆しています。

【含まれる重要な遺伝子】

重複領域(BP3-BP4)には約10個以上の遺伝子が含まれていますが、特に症状との関連が注目されているのは以下の遺伝子です。

  • BCL9 (B-Cell CLL/Lymphoma 9):
    • 大頭症の鍵となる遺伝子と考えられています。
    • BCL9遺伝子は、細胞の増殖シグナル(Wnt経路)に関わっています。
    • 動物実験などから、この遺伝子が不足すると脳や頭が小さくなり(欠失症候群)、過剰になると脳や頭が大きくなる(重複症候群)ことが示唆されており、本疾患の特徴的な顔貌形成に強く関与しています。
  • GJA5 (Gap Junction Protein Alpha 5):
    • 心臓の形成に関わる遺伝子です。
    • 欠失症候群ではファロー四徴症などの心疾患が高頻度で見られますが、重複症候群においても、ファロー四徴症を含む先天性心疾患のリスク上昇(欠失よりは頻度が低い傾向)に関連しています。
  • CHD1L (Chromodomain Helicase DNA Binding Protein 1 Like):
    • 染色体の構造(クロマチン)を変化させる遺伝子であり、DNA修復や細胞分裂に関わります。自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達リスクに関連すると考えられています。

発生頻度

比較的高い(約1/1,000 〜 1/3,000)可能性あり

正確な発生頻度は確立されていませんが、欠失症候群よりも頻度が高い可能性があります。

大規模な人口調査では、一般集団の約0.03%〜0.05%に見つかるという報告もあります。

しかし、後述する「不完全浸透(症状が出ない)」の割合が欠失症候群よりもさらに高いため、**「診断されていない保因者」**が社会の中に多数存在していると考えられています。

臨床的に何らかの症状(発達遅滞や精神疾患など)を持って検査を受ける人の中での頻度は高くなります。

臨床的特徴(症状)

1q21.1 duplication (distal) syndromeの症状は、**「不完全浸透(Incomplete Penetrance)」と「可変表現性(Variable Expressivity)」が非常に顕著です。

つまり、重複を持っていても全く健康な人もいれば、発達障害や精神疾患を持つ人もおり、その現れ方は千差万別です。

全体的な傾向として、身体的な奇形は少なく、「神経・精神医学的な特徴」と「頭の大きさ」**が主要な症状となります。

1. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)

欠失症候群との対比が最も分かりやすい部分です。

  • 大頭症(Macrocephaly):
    • 患者さんの約50%以上に見られる、最も特徴的な身体所見です。
    • 出生時から頭が大きいこともあれば、乳幼児期の健診で「頭囲が成長曲線の上限を超えている」と指摘されることもあります。
    • 水頭症(脳に水がたまる病気)とは異なり、脳の実質そのものの容積が大きい(Megalencephaly)ことが多いですが、脳室拡大を伴うこともあります。
  • 前頭部の突出(Frontal bossing):
    • おでこが前に出ていて、広い印象を与えます。
  • 顔貌:
    • 特異的な顔つき(Dysmorphism)は目立たないことが多いですが、眼間開離(目が離れている)、平坦な鼻根部、尖った顎などが報告されています。

2. 神経発達・精神医学的特徴(Neuropsychiatric)

本症候群の診断において、最も生活への影響が大きい領域です。

  • 発達遅滞・知的障害:
    • 軽度から中等度の発達遅滞や知的障害が見られることがありますが、**知能は正常範囲(Normal IQ)**であることも多いです。
    • 言葉の遅れ(Speech delay)や、運動の不器用さが幼児期に見られることがあります。
  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの苦手さや、こだわりといったASD特性を持つ頻度が高いです。
    • 知的障害を伴わない「高機能自閉症」のタイプも多く見られます。
  • 精神疾患(Schizophrenia & Mood disorders):
    • 非常に重要な特徴です。
    • 成人期以降、統合失調症や双極性障害などの精神疾患を発症するリスクが、一般集団に比べて有意に高いことが多数の研究で示されています。
    • もちろん全ての患者さんが発症するわけではありませんが、1q21.1重複は、生物学的な精神疾患のリスク因子(CNV)として注目されています。
  • その他の行動特性:
    • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)、不安障害、睡眠障害など。

3. 先天性心疾患(Cardiac defects)

欠失症候群ほど高頻度ではありませんが、注意が必要です。

  • ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot):
    • 重複症候群においても、ファロー四徴症などの流出路異常(心臓から血管が出る部分の異常)が報告されています。これはGJA5遺伝子の過剰発現が影響している可能性があります。
  • その他、心室中隔欠損症(VSD)などの一般的な心疾患も稀に見られます。

4. その他の合併症

  • てんかん: けいれん発作を起こすことがあります。
  • 低身長または高身長: 成長にはばらつきがあります(大頭症に伴い背が高いケースと、逆に発育不良のケースがあります)。
  • 骨格: 側弯症や関節の柔軟性。
  • 眼科: 斜視など。

原因

1番染色体長腕(1q21.1)における約1.35Mbの微細重複が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

この領域には、DNA配列がそっくりな「反復配列(LCR)」が、BP3とBP4という場所に配置されています。

精子や卵子が作られる減数分裂の際、染色体の組換えエラーが起こりやすくなっています。

  • 一方の染色体で領域が抜け落ちる(欠失)と同時に、**もう一方の染色体では領域が倍に増える(重複)**という現象が起こります。
  • これが、1q21.1欠失症候群と重複症候群が「表裏一体」の関係にある理由です。

2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)

  • 遺伝子は「多ければ良い」わけではありません。通常2コピーでバランスが取れているものが3コピーになると、タンパク質が過剰に作られ(トリプロセンシティ)、細胞のシグナル伝達や発生のタイミングが乱れます。
  • 特にBCL9などの遺伝子が過剰になることで、脳細胞の増殖シグナルが強まり、大頭症や神経回路の形成異常(精神疾患リスク)につながると考えられています。

3. 遺伝形式と不完全浸透

  • 常染色体顕性(優性)遺伝:
    • 親が重複を持っている場合、子に遺伝する確率は50%です。
  • De novo(新生突然変異):
    • 患者さんの一部は突然変異で発生します。
  • 家族性(遺伝)の頻度が高い:
    • 1q21.1重複症候群は、欠失症候群に比べて**「親からの遺伝」**であるケースが非常に多いです(約70%以上という報告もあります)。
    • これは、重複を持っていても症状が軽い、あるいは全くない親(不完全浸透)が多いため、気づかれないまま子に受け継がれるからです。

診断方法

特徴が少ないため、臨床症状だけでの診断は困難です。発達の遅れや大頭症、あるいは家族歴の精査で見つかります。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 1q21.1領域のコピー数増加を検出する**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 重複のサイズや位置を正確に特定できます。
  • 両親の解析:
    • 本疾患が見つかった場合、両親の検査が強く推奨されます。
    • 親も同じ重複を持っている場合、その親の健康状態や精神状態などの情報は、お子さんの将来を予測する上で重要な参考情報となります(ただし、表現型は家族内でも異なるため、完全に予測できるわけではありません)。

治療方法

過剰な染色体領域を取り除くような根本的な治療法はありません。

治療は、症状に応じた対症療法と、発達・精神面でのサポートが中心となります。

1. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 発達の遅れやASD特性がある場合、早期から療育(SST:ソーシャルスキルトレーニングなど)を開始します。
  • 教育的配慮:
    • 知的能力は正常範囲のことも多いため、学習障害(LD)やADHDの特性に合わせた環境調整(静かな環境での学習、タブレットの活用など)を行うことで、学力を伸ばすことが可能です。

2. 精神医学的サーベイランス(予防と早期介入)

  • メンタルヘルス:
    • 本疾患において最も重要な管理ポイントの一つです。
    • 思春期から成人期にかけて、ストレス耐性の低下や、気分の変動、統合失調症様の症状(幻聴や妄想など)が出現しないか、長期的に見守る必要があります。
    • 「リスクがある」と知っておくことで、不調のサインを早期にキャッチし、早期に専門医につなげることができます。早期介入により、予後を大きく改善できます。

3. 身体的管理

  • 頭囲測定:
    • 乳幼児期は定期的に頭囲を測定します。急激な増大や神経症状(嘔吐など)がなければ、大頭症そのものに対する治療は不要です。
  • 循環器:
    • 診断時に心エコー検査を行い、異常がなければ定期的なフォローは不要な場合が多いです。

4. 遺伝カウンセリング

  • 親が「自分も重複を持っていた」と知った時の衝撃や、「自分のせいで」という罪悪感に対して、丁寧なケアが必要です。これは自然な生物学的現象であり、誰の責任でもありません。
  • また、症状のない親が重複を持っていることは、「重複があっても健康に生活できる可能性がある」という希望的な情報でもあります。
  • 家族全体のリスク管理と心理的サポートのために、遺伝カウンセリングの継続的な利用が推奨されます。

まとめ

1q21.1 duplication (distal) syndromeは、1番染色体の一部が増えることで生じる体質です。

この疾患の大きな特徴は、「頭が少し大きめ」であることと、「症状の個人差がとても大きい」ことです。

重複を持っていても、勉強や運動が得意で、全く普通に生活している人もたくさんいます。一方で、人とのコミュニケーションが苦手だったり、心のバランスを崩しやすかったりする人もいます。

この診断は、お子さんの「個性」や「得意・不得意」の背景にある設計図の一部が分かった、ということです。

特に、心の健康については、あらかじめ「デリケートな体質かもしれない」と知っておくことが、将来の大きな武器になります。ストレスを溜め込まない環境作りや、早めの相談を心がけることで、健やかな生活を守ることができます。

ご家族だけで悩まず、医師、心理士、療育スタッフとチームを組み、お子さんの豊かな可能性を一緒に育てていきましょう。

参考文献

  • Mefford, H.C., et al. (2008). Recurrent rearrangements of chromosome 1q21.1 and variable pediatric phenotypes. New England Journal of Medicine.
    • (※1q21.1領域の欠失・重複を発見し、大頭症や発達特性、精神疾患との関連を解析した、本疾患の基礎となる最重要論文。)
  • Bernier, R., et al. (2016). Clinical phenotype of the recurrent 1q21.1 copy-number variant. Genetics in Medicine.
    • (※1q21.1重複を持つ患者の詳細な臨床像を調査し、欠失症候群(小頭症)との対比において、重複症候群では大頭症が高頻度で見られること、および自閉症との関連を報告した研究。)
  • Stefansson, H., et al. (2008). Large recurrent microdeletions associated with schizophrenia. Nature.
    • (※統合失調症の大規模ゲノム解析を行い、1q21.1重複が統合失調症の強力なリスク因子(CNV)であることを突き止めた画期的な論文。)
  • Brunetti-Pierri, N., et al. (2008). Recurrent reciprocal 1q21.1 deletions and duplications associated with microcephaly or macrocephaly and developmental and behavioral abnormalities. Nature Genetics.
    • (※1q21.1領域の欠失と重複が、それぞれ小頭症と大頭症を引き起こす「鏡像効果」を持つこと、およびBCL9遺伝子などの関与を示唆した重要文献。)
  • Soemedi, R., et al. (2012). Phenotype-specific effect of chromosome 1q21.1 rearrangements and GJA5 duplications in 2436 congenital heart disease patients.
    • (※先天性心疾患における1q21.1重複の影響、特にGJA5遺伝子の重複とファロー四徴症との関連について解析した研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 1q21.1 microduplications (2019).
    • (※患者家族向けに、症状、不完全浸透、精神疾患リスクへの対応などを平易にまとめたガイドブック。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。