1q41-q42 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 1q41-q42欠失症候群
  • 1q41-q42微細欠失症候群(1q41-q42 microdeletion syndrome)
  • 1q41-q42モノソミー(Monosomy 1q41-q42)
  • 関連:先天性横隔膜ヘルニア(Congenital Diaphragmatic Hernia; CDH)
  • 関連:DISP1関連欠失症候群
  • 関連:フリンズ症候群(Fryns syndrome)
    • ※フリンズ症候群は別の疾患ですが、1q41-q42欠失症候群の患者さんが、横隔膜ヘルニアや顔貌の特徴から、誤ってフリンズ症候群と臨床診断されるケースが過去に多く報告されており、重要な鑑別疾患(見分けるべき病気)です。

対象染色体領域

1番染色体 長腕(q)41から42領域

本疾患は、ヒトの1番染色体の長腕(qアーム)にある「41」から「42」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要遺伝子】

1番染色体はヒトで最も大きな染色体です。この1q41-q42領域には多数の遺伝子が含まれていますが、近年の研究により、本症候群の特徴的な症状を引き起こす「責任遺伝子」が特定されてきています。欠失の範囲は患者さんによって異なり(数百kb〜数Mb)、どの遺伝子が含まれているかによって症状の重さが変わります。

  • DISP1 (Dispatched RND Transporter Family Member 1):
    • 最重要の責任遺伝子の一つです。
    • 「ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達経路」という、胎児期の体の形成に不可欠なシステムに関与しています。
    • 特に、体の左右を分け、中心を作るプロセスに関わるため、この遺伝子の欠失は**「口唇口蓋裂」「脳梁欠損」**などの正中線欠損、および微細な顔貌異常の原因となります。
  • HLX (H2.0 Like Homeobox):
    • 横隔膜や内臓の形成に関わる遺伝子です。
    • この遺伝子の欠失は、本症候群における**「先天性横隔膜ヘルニア(CDH)」**の主要な原因と考えられています。
  • FBXO28 (F-Box Protein 28):
    • 近年、**「てんかん」**や発達遅滞との関連が強く示唆されている遺伝子です。神経細胞の機能に関与している可能性があります。
  • TPM3 (Tropomyosin 3):
    • 筋肉の収縮に関わる遺伝子であり、筋緊張低下などに関与している可能性があります。

発生頻度

非常に稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例〜百例程度の規模です。

1q41-q42領域の欠失は、一般的な染色体検査(Gバンド法)では見逃されるほど微細な場合もあり、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及によって発見されるようになった新しい疾患単位の一つです。

したがって、原因不明の横隔膜ヘルニアやてんかん、発達遅滞を持つ患者さんの中に、未診断のまま含まれている可能性があり、実際の頻度は報告数よりも高いと推測されます。

臨床的特徴(症状)

1q41-q42 deletion syndromeの症状は多岐にわたりますが、「正中線の形成異常(Midline defects)」、「てんかん」、「発達遅滞」、**「特徴的な顔貌」**が4大徴候と言えます。

特に、先天性横隔膜ヘルニアを合併する染色体異常症として重要視されています。

1. 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)

本症候群の最も重篤かつ注意すべき合併症の一つです。

  • 病態: 胸とお腹を仕切る「横隔膜」に生まれつき穴が開いており、腸や胃などの臓器が胸の方へ入り込んでしまう状態です。
  • 影響: 肺が圧迫されるため、肺低形成(肺が小さい)や肺高血圧症を引き起こし、出生直後から重篤な呼吸障害を呈することがあります。
  • 関連遺伝子: HLX遺伝子の欠失を含む場合のリスクが高いとされています。

2. 神経発達・精神医学的特徴

ほぼ全例で発達への影響が見られます。

  • 知的障害(ID):
    • 中等度から重度の知的障害を伴うことが多いです。
  • 発達遅滞(DD):
    • 言葉の遅れが顕著です。発語がほとんどない(Non-verbal)患者さんもいれば、短文での会話が可能な方もいます。
    • 運動発達(歩行開始など)も遅れる傾向があります。
  • てんかん(Seizures):
    • 患者さんの約50%以上に見られる非常に頻度の高い症状です。
    • 発症時期は乳児期から小児期が多く、欠神発作、全般発作などタイプは様々です。
    • FBXO28遺伝子の欠失が関与している可能性が高く、治療抵抗性(難治性)の場合もありますが、薬物療法でコントロール可能な場合もあります。

3. 頭部・脳の構造異常

体の「正中線(中心)」の形成不全が脳にも現れることがあります。

  • 脳梁欠損症(Agenesis of the corpus callosum; ACC):
    • 右脳と左脳をつなぐ「脳梁」が欠損、あるいは細い(低形成)ことがあります。
  • 小頭症(Microcephaly):
    • 頭囲が小さく、成長とともに顕著になることがあります。

4. 顔面・口腔の形成異常

  • 口唇口蓋裂(Cleft lip/palate):
    • 唇や上あごに裂け目がある状態です。これも正中線の癒合不全の一種であり、DISP1遺伝子の影響と考えられています。
    • 口蓋裂のみ(粘膜下口蓋裂など)の場合もあり、哺乳障害の原因となることがあります。
  • 特徴的な顔貌(Dysmorphism):
    • 前頭部が突出している(おでこが出ている)。
    • 眼球陥凹(目が奥まっている)。
    • 鼻根部が広い、鼻先が丸いまたは四角い。
    • 薄い上唇。
    • 耳の位置が低い、耳介の変形。
    • これらの特徴は、フリンズ症候群と似ていると指摘されることがあります。

5. その他の合併症

  • 骨格・四肢:
    • 手足が小さい(Small hands and feet)。
    • 第5指の短縮や湾曲(内湾指)。
    • 内反足(Clubfoot)や爪の低形成。
  • 成長:
    • 低身長(Short stature)が多く見られます。
  • その他:
    • 腎臓の形成異常(水腎症など)、心疾患、停留精巣(男児)などが報告されています。

原因

1番染色体長腕(1q41-q42)における微細欠失が原因です。

1. 遺伝子のハプロ不全(Haploinsufficiency)

通常2本ある染色体のうち、片方の1番染色体の一部が失われることで、そこに含まれる遺伝子の数が半分(1コピー)になります。

これにより、作られるタンパク質の量が不足し、正常な発生・発達ができなくなる状態を「ハプロ不全」と呼びます。

  • DISP1とSHHシグナル:
    • DISP1遺伝子が不足すると、細胞間の情報伝達物質であるソニック・ヘッジホッグ(SHH)がうまく放出・拡散されません。SHHは「体の中心を決める」「顔を作る」「脳を分ける」といった初期発生の重要イベントを指揮しているため、ここが狂うと口蓋裂や脳梁欠損などの正中線異常が起きます。
  • HLXと横隔膜:
    • HLX遺伝子は横隔膜の筋肉や結合組織の発達に必須であり、不足すると穴が塞がらず、ヘルニアとなります。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 1q41-q42欠失症候群の大部分は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)とされています。
  • 家族性(親の転座など):
    • 稀に、親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっているが量は正常)」の保因者である場合があります。その場合、減数分裂の際に不均衡が生じ、子供に欠失が遺伝することがあります。

診断方法

特徴的な臨床症状(横隔膜ヘルニア、口蓋裂、てんかんなど)の組み合わせから疑われますが、症状が多岐にわたるため、臨床診断だけで確定することは困難です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 1q41-q42領域の微細欠失を検出するための**第一選択(ゴールドスタンダード)**の検査です。
    • 欠失の正確なサイズ(bp単位)と、DISP1HLXFBXO28などの重要遺伝子が含まれているかどうかを特定できます。これにより、合併症のリスク予測(例:HLXが欠失していれば呼吸器系の厳重管理、FBXO28ならてんかん注意など)が可能になります。
  • 画像検査:
    • 胎児エコーや出生後のレントゲン/CT:横隔膜ヘルニアの診断。
    • 頭部MRI:脳梁欠損や脳形成異常の確認。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、生命に関わる合併症への外科的介入、症状をコントロールする対症療法、そして発達を促す療育の3本柱で行われます。

1. 外科的治療(生命予後に関わるもの)

  • 先天性横隔膜ヘルニア(CDH):
    • 出生直後からの呼吸管理(人工呼吸器やECMOなど)と、状態が安定した段階での外科的手術(横隔膜の閉鎖術)が必要です。
    • 最も優先度の高い治療であり、高度医療機関(NICU/小児外科)での管理が必須です。
  • 口唇口蓋裂:
    • 形成外科や口腔外科により、生後数ヶ月〜1歳頃にかけて閉鎖手術を行います。
    • 術後の言語療法や歯科矯正も長期的に行います。

2. 内科的・神経学的管理

  • てんかん治療:
    • 脳波検査に基づき、発作型に合った抗てんかん薬を使用します。難治性の場合は、複数の薬剤調整やケトン食療法などが検討されることもあります。
  • 呼吸器管理:
    • 横隔膜ヘルニア術後も、肺の未熟さや感染症への弱さが残る場合があり、長期的なフォローアップ(シナジス投与など)が必要です。

3. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 全身状態が落ち着き次第、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 摂食指導:
    • 口蓋裂や筋緊張低下による哺乳・摂食障害に対し、専門的な指導や栄養管理(経管栄養など)を行います。
  • 教育:
    • 知的障害の程度やてんかんの状況に合わせ、特別支援学校や特別支援学級など、医療的ケアにも対応できる教育環境を選択します。

4. 遺伝カウンセリング

  • 本疾患は希少かつ症状が複雑であるため、ご家族は大きな不安を抱えがちです。
  • 次子の再発リスクや、将来の見通しについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談し、正確な情報を得ることが大切です。
  • 特に横隔膜ヘルニアの既往がある場合、次回の妊娠時の管理についても相談が必要です。

まとめ

1q41-q42 deletion syndromeは、1番染色体の一部が欠失することで、体の中心部分の形成や神経の発達に影響が出る希少な疾患です。

「生まれつき横隔膜に穴が開いている(CDH)」「口蓋裂がある」「けいれん発作(てんかん)がある」といった症状が重なった時に見つかることが多いですが、症状の出方は欠失の範囲によって一人ひとり異なります。

出生直後は手術や呼吸管理など、命を守るための治療が優先されることが多く、ご家族にとっては試練の時かもしれません。

しかし、医療技術の進歩により、これらの身体的な問題は乗り越えられるケースが増えています。

手術などの急性期を過ぎた後は、その子なりのペースでの発達を支える「療育」が中心となります。言葉はゆっくりかもしれませんが、表情やサインでコミュニケーションをとれるようになります。

てんかんや発達のことなど、長期的なサポートが必要ですが、小児科医、外科医、療法士、そして地域の支援者とチームを組み、お子さんの成長を一緒に支えていきましょう。

参考文献

  • Rosenfeld, J.A., et al. (2011). 1q41q42 microdeletions include a distinct phenotype with developmental delay, CNS anomalies, and midline defects.
    • (※1q41-q42欠失症候群の臨床的特徴(正中線欠損、脳形成異常など)を多数例で解析し、疾患概念を確立した重要論文。)
  • Kantaputra, P.N., et al. (2011). Haploinsufficiency of the DISP1 gene is associated with cleft lip and palate and microcephaly.
    • (※DISP1遺伝子の欠失が口唇口蓋裂や小頭症の主原因であることを突き止めた研究。)
  • Slavotinek, A.M., et al. (2009). Array comparative genomic hybridization in patients with congenital diaphragmatic hernia: mapping of four CDH-critical regions and sequencing of candidate genes at 15q26.1-15q26.2.
    • (※先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の患者における染色体解析を行い、1q41-q42領域(特にHLX遺伝子付近)がCDHの重要領域であることを示した文献。)
  • Au, P.Y., et al. (2011). Gene prioritization in 1q41q42 deletion syndrome identifies FBXO28 as a potential candidate for seizure susceptibility.
    • (※1q41-q42欠失症候群における「てんかん」の原因として、FBXO28遺伝子が候補であることを特定した研究。)
  • Filges, I., et al. (2010). Fatal outcome in a child with a de novo microdeletion 1q41q42 detected by array CGH.
    • (※重篤な症例(Fryns症候群様表現型)の報告を通じて、遺伝子型と表現型の相関を考察した文献。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: DISP1, HLX.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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