1q43-q44 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 1q43-q44欠失症候群
  • 1q43-q44微細欠失症候群(1q43-q44 microdeletion syndrome)
  • 1番染色体長腕末端欠失症候群(1q terminal deletion syndrome)
  • 1q43-q44モノソミー(Monosomy 1q43-q44)
  • 関連:1q44欠失症候群(1q44 deletion syndrome)
    • ※1q44欠失は本症候群の一部(サブセット)ですが、1q43領域まで欠失が及ぶ本症候群では、より広範な遺伝子の影響を考慮する必要があります。

対象染色体領域

1番染色体 長腕(q)43から44領域

本疾患は、ヒトの1番染色体の長腕(qアーム)の末端に近い「43」から、最末端(テロメア)である「44」にかけての領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と「クリティカルリージョン(責任領域)」】

1番染色体はヒトゲノム中で最大の染色体です。その末端である1q43-q44領域(約6Mbの範囲)には、脳の形成と機能維持に決定的な役割を果たす遺伝子が密集しています。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、1q44だけの小さな欠失(数百kb)から、1q43を含む大きな欠失(数Mb以上)まで様々です。

本症候群(1q43-q44欠失)では、以下の重要な遺伝子が複数失われていることが、重篤な症状の形成に関与しています。

【主要な責任遺伝子と役割】

  • AKT3 (AKT Serine/Threonine Kinase 3): 1q44
    • 細胞の成長と生存を制御するmTOR経路の重要因子です。
    • 脳のサイズを決定する役割を持ち、この遺伝子の欠失は**「小頭症」**の直接的な原因となります。
  • ZBTB18 (Zinc Finger and BTB Domain Containing 18 / ZNF238): 1q44
    • 神経細胞の分化や移動に関わる転写因子です。
    • この遺伝子の欠失は、**「脳梁の形成異常(脳梁欠損・低形成)」**や重度の知的障害と強く関連しています。
  • HNRNPU (Heterogeneous Nuclear Ribonucleoprotein U): 1q44
    • 近年注目されている遺伝子で、RNAの制御に関わります。
    • この遺伝子の欠失は、**「てんかん(特に早期発症型)」**や重度の発達遅滞の主要な原因と考えられています。
  • CEP170 (Centrosomal Protein 170): 1q43
    • 1q43領域に位置する遺伝子です。
    • 脳梁の形成に関与しており、ZBTB18と共に欠失することで、脳梁異常のリスクや重症度を高める可能性があります。
  • NUDS1 (Nuclear Distribution C, Dynein Complex Regulator): 1q43
    • 脳の発達(神経遊走)に関わり、小頭症や脳梁異常の重症度に関連するとされています。

つまり、1q43-q44欠失症候群は、これらの遺伝子がまとめて失われることで、脳の「大きさ(小頭症)」、「構造(脳梁欠損)」、「機能(てんかん・知的障害)」のすべてに影響が出る**「隣接遺伝子症候群」**です。

発生頻度

非常に稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数百例程度です。

しかし、これは「稀だから」という理由だけでなく、診断技術の問題も関係しています。

かつての染色体検査(Gバンド法)では、1q44の微細な欠失は見逃されることがありました。近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、原因不明の小頭症やてんかんを持つ患者さんの中から新たに発見されるケースが増加しており、実際の頻度は報告数よりも多いと考えられています。

1番染色体末端の欠失は、染色体欠失症候群の中では比較的報告が多い部類に入ります(1p36欠失ほどではありませんが、重要な位置を占めています)。

臨床的特徴(症状)

1q43-q44 deletion syndromeの症状は、**「重度の発達遅滞」「小頭症」「脳梁の異常」「特徴的な顔貌」「てんかん」**の5つが中核的な特徴です。

1q44単独欠失に比べ、1q43まで欠失が及ぶことで、知的障害の重症度が増したり、顔貌の特徴がより顕著になったりする傾向があります。

1. 中枢神経系の形成異常(CNS Malformations)

本症候群の最も象徴的な特徴です。

  • 小頭症(Microcephaly):
    • 患者さんの90%以上に見られます。
    • 出生時から頭囲が小さい場合もあれば、生後数ヶ月から頭囲の伸びが停滞し、-2SDから-3SD以下の顕著な小頭症となる場合もあります(AKT3遺伝子の欠失と相関)。
  • 脳梁の異常(Corpus callosum anomalies):
    • 脳梁は右脳と左脳をつなぐ神経の束です。
    • 患者さんの多くに、脳梁欠損(ACC)や脳梁低形成(薄い・短い)が見られます(ZBTB18およびCEP170遺伝子の欠失と相関)。
  • その他の脳奇形:
    • 小脳虫部の低形成、脳室拡大、皮質形成異常などが合併することがあります。

2. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、重度の発達への影響が認められます。

  • 重度の知的障害(Severe ID):
    • 多くの患者さんが重度の知的障害を伴います。
  • 言語発達の欠如:
    • 言葉の遅れが著しく、「発語がない(Non-verbal)」、つまり有意語を話さないケースが非常に多いです。
    • ただし、表情や身振り、発声による意思表示は可能であり、こちらの言っていることの理解(受容言語)は表出よりも良好な場合があります。
  • 精神運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などの運動マイルストーンが大幅に遅れます。
    • 歩行を獲得できる患者さんもいれば、車椅子による移動が必要な患者さんもいます。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかく、姿勢保持が困難です。

3. てんかん(Seizures)

患者さんの約50〜80%にけいれん発作が見られます。

  • 発症時期: 乳児期〜小児期早期に発症することが多いです。
  • 発作タイプ: 全般発作、部分発作、熱性けいれんなど様々です。
  • 難治性: 薬が効きにくい場合があり、複数の抗てんかん薬の調整が必要になることがあります(HNRNPU遺伝子の欠失が強く関与)。

4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

1q43-q44欠失特有の、「丸顔で愛らしい」といわれる特徴的なお顔立ちがあります。

  • 丸い顔(Round face): 頬がふっくらとしていることが多いです。
  • 眼間開離: 目と目が離れている。
  • 鼻の特徴: 鼻根部が低く平坦、鼻先が丸い。
  • 眉毛: 眉毛の形に特徴がある(内側が薄いなど)ことがあります。
  • 口: 口角が下がっている、上唇が薄い、人中(鼻の下)が長い。
  • 耳: 耳の位置が低い、耳の形の変形。

5. 成長・その他の合併症

  • 成長障害:
    • 出生後の身長・体重の伸びが悪く、顕著な低身長となることが多いです。
    • 哺乳不良や摂食障害(嚥下困難)を伴うことがあり、経管栄養が必要になることもあります。
  • 手足の異常:
    • 手足が小さい(Small hands and feet)。
    • 第5指の短縮や湾曲(内湾指)。
  • その他:
    • 先天性心疾患(心房中隔欠損症など)、腎・泌尿器系の異常(水腎症、停留精巣など)、斜視などの眼科的異常が合併することがあります。

原因

1番染色体長腕末端部(1q43-q44)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 1q43-q44欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)とされています。
  • 不均衡転座(Familial Translocation):
    • 一部の症例では、親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっているが量は正常)」の保因者であることに由来します。
    • 親が1番染色体末端を含む転座を持っている場合、子供に欠失が生じる(不均衡転座)リスクがあります。この場合、1qの欠失だけでなく、他の染色体の重複も合併することがあり、症状がより複雑になる可能性があります。

2. 遺伝子型と表現型の相関

  • 1q44のみの欠失: 小頭症、脳梁異常、てんかんが主症状です。
  • 1q43まで及ぶ欠失: 上記に加え、顔貌の特徴がより強くなり、成長障害や知的障害の程度が重くなる傾向があると報告されています。

診断方法

「小頭症」「てんかん」「重度の発達遅滞」があり、MRIで「脳梁欠損」が見つかった場合に強く疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**です。
    • 欠失の正確なサイズ(どこからどこまで欠けているか)と、AKT3ZBTB18HNRNPUCEP170などのどの重要遺伝子が含まれているかを詳細に特定できます。
  • 頭部MRI検査:
    • 脳梁の状態(欠損、低形成)、脳室の大きさ、皮質の形成などを確認するために必須です。
  • 両親の染色体検査:
    • 診断がついた後、それが突然変異なのか、親の転座由来なのかを確認するために行われることがあります。これは次子のリスク評価に重要です。

治療方法

欠失した染色体や遺伝子を修復する根本的な治療法は、現時点ではありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、生活の質(QOL)を高めるための包括的な療育支援、そして合併症管理が中心となります。

1. てんかんの管理

  • 薬物療法:
    • てんかん発作に対し、脳波所見に基づいた抗てんかん薬による治療を行います。
    • 難治性の場合、複数の薬剤調整や、ケトン食療法などが検討されることもあります。発作のコントロールは、脳の発達を守るためにも極めて重要です。

2. 栄養・摂食管理

  • 栄養サポート:
    • 哺乳障害や嚥下機能低下がある場合、誤嚥性肺炎を防ぎ、適切な栄養を確保するために、トロミ食の利用や、必要に応じて経管栄養(経鼻、胃ろう)を検討します。
    • 胃食道逆流症(GERD)がある場合は、内服治療や手術が行われることもあります。

3. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、できるだけ早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 理学療法(PT):
    • 筋緊張低下に対し、座位保持や立位、歩行に向けた訓練を行います。車椅子や補装具の作成もサポートします。
  • コミュニケーション支援:
    • 発語が難しい場合が多いため、絵カード、サイン、スイッチ教材、タブレット端末(AAC)などを活用し、意思伝達の手段を確保します。
    • 「話せなくても理解している」ことを前提に関わることが、お子さんの意欲を育てます。

4. 合併症のサーベイランス

  • 定期検診:
    • 身体計測(身長・体重・頭囲)、眼科・聴覚検診、心エコー検査、腎臓エコー検査などを定期的に行い、異常の早期発見・対応に努めます。
  • 感染症対策:
    • 呼吸器感染症を起こしやすい場合があるため、ワクチン接種や感染予防を行います。

5. 家族支援と遺伝カウンセリング

  • 重度の障害を伴うことが多いため、ご家族の心理的・身体的負担は大きくなりがちです。福祉制度(障害児通所支援、ショートステイなど)の利用調整や、患者会との連携が重要です。
  • 次子の計画がある場合は、親の染色体検査の結果に基づいた遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。

まとめ

1q43-q44 deletion syndromeは、1番染色体の末端にある複数の重要な遺伝子が失われることで生じる疾患です。

「頭が小さい」「てんかん発作がある」「言葉が出ない」といった重い症状が重なることが多く、ご家族にとっては診断を受け入れるだけでも大きな葛藤があるかもしれません。

しかし、この疾患を持つお子さんたちは、言葉での会話は難しくても、豊かな笑顔や視線、身振りで感情を伝えてくれます。

「小頭症」や「脳梁欠損」といった脳の形の違いは、その子自身の脳の個性とも言えます。脳は可塑性(変化する力)を持っており、療育や日々の関わりを通して、その子なりの神経ネットワークを築いていきます。

てんかんのコントロールや栄養管理といった医療的ケアと、一人ひとりに合わせた療育を組み合わせることで、お子さんは着実に成長していきます。

医療、福祉、教育の専門家チームと一緒に、お子さんの心地よい生活と成長を支えていきましょう。

参考文献

  • Ballif, B.C., et al. (2012). Identification of a 1q43-q44 critical region for corpus callosum abnormalities, intellectual disability, and seizures.
    • (※1q43-q44領域の多数の欠失例を解析し、脳梁欠損(ZBTB18)、小頭症(AKT3)、てんかん(HNRNPU等)の責任領域(クリティカルリージョン)を詳細にマッピングした、本疾患の理解に不可欠な重要論文。)
  • Depienne, C., et al. (2017). Genetic and phenotypic dissection of 1q43q44 microdeletions and duplications.
    • (※1q43-q44領域の欠失と重複について、各遺伝子(AKT3, ZBTB18, HNRNPU)の機能と臨床症状の相関(Genotype-Phenotype Correlation)を網羅的に解説したレビュー。)
  • Nagamani, S.C., et al. (2012). Microdeletions including ZNF238 (ZBTB18) at 1q44 cause intellectual disability, corpus callosum abnormalities, and microcephaly.
    • (※ZBTB18遺伝子の欠失が脳梁異常の主原因であることを特定した研究。)
  • Thiffault, I., et al. (2013). ZNF238 is involved in cortical development and callosal projection neuron differentiation.
    • (※ZBTB18が脳梁を形成する神経細胞の分化にどう関わっているかを基礎的に解明した文献。)
  • de Munnik, S.A., et al. (2014). CE Centrosomal protein 170 (CEP170) as a potential candidate gene for microcephaly and corpus callosum anomalies in 1q43q44 deletion syndrome.
    • (※CEP170遺伝子が1q43領域における脳形成異常の候補遺伝子であることを示唆した研究。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: AKT3, HNRNPU, ZBTB18.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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