20p12.3 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 20p12.3微細欠失症候群
  • 20p12.3欠失症候群(20p12.3 deletion syndrome)
  • 20p12.3モノソミー(Monosomy 20p12.3)
  • BMP2関連骨格・頭蓋顔面異形成(BMP2-related skeletal and craniofacial dysplasia)
  • ウォルフ・ヒルシュホーン症候群様顔貌を伴う20p欠失(20p deletion with Wolf-Hirschhorn syndrome-like facial features)
  • 関連:ピエール・ロバン連鎖(Pierre Robin sequence)
  • 関連:アラジール症候群(Alagille syndrome)
    • ※アラジール症候群の責任領域(20p12.2)と隣接しているため、欠失範囲によっては合併することがあります。

対象染色体領域

20番染色体 短腕(p)12.3領域

本疾患は、ヒトの20番染色体の短腕(pアーム)にある「12.3」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要遺伝子:BMP2】

20番染色体は比較的小さな染色体ですが、この「p12.3」という領域には、胎児期の体の形成、特に「骨」と「軟骨」の発生に不可欠な遺伝子が含まれています。

本症候群の症状形成において、最も中心的かつ決定的な役割を果たしているのがBMP2 (Bone Morphogenetic Protein 2) 遺伝子です。

  • BMP2遺伝子の役割:
    • 骨形成タンパク質(BMP)の一種を作り出す遺伝子です。
    • このタンパク質は、胎児の発生段階において、細胞が骨や軟骨に変化(分化)するスイッチを入れる役割を担っています。
    • また、顔面(特に顎や口蓋)の形成や、心臓の発生にも深く関与しています。
    • 20p12.3欠失によりBMP2遺伝子が片方失われる(ハプロ不全)と、これらの組織が十分に発達できず、口蓋裂や顎の低形成、骨格異常などが引き起こされます。

なお、欠失範囲が近位(体の中心側)に広がると、隣接する20p12.2領域のJAG1遺伝子まで巻き込まれることがあり、その場合は「アラジール症候群(肝臓や心臓の病気)」の症状も合併することになります(隣接遺伝子症候群)。しかし、狭義の「20p12.3欠失症候群」は、主にBMP2欠失による症状を指します。

発生頻度

非常に稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例規模にとどまります。

しかし、口唇口蓋裂や顎の小ささ(小顎症)を持つ患者さんの中に、染色体検査が行われていないために診断されていないケースが含まれている可能性があり、実際の頻度は報告数よりも多いと推測されます。

また、本疾患はマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及によって発見されるようになった比較的新しい疾患概念であることも、報告数が少ない一因です。

臨床的特徴(症状)

20p12.3 microdeletion syndromeの症状は、**「特徴的な顔貌(ウォルフ・ヒルシュホーン様)」「口蓋裂・小顎症(ピエール・ロバン連鎖)」「骨格異常」「発達の遅れ」**が主要な特徴です。

特に、4番染色体の異常である「ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(WHS)」と顔つきが非常によく似ていることが知られていますが、遺伝学的な原因は全く異なります。

1. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

  • ウォルフ・ヒルシュホーン様顔貌:
    • 眉間(目と目の間)が広く、鼻根部が高い、いわゆる「ギリシャの戦士のヘルメット」に似た顔貌を示すことがあります。
    • 高い額、アーチ状の眉毛、眼間開離(目が離れている)。
  • 耳の異常:
    • 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳介の変形、耳の前にある小さな穴(耳瘻孔)や突起(副耳)。

2. 口腔・顎の形成異常(ピエール・ロバン連鎖)

本症候群において最も医学的管理を要する重要な症状群です。BMP2の不足により、顎や口の中の骨の成長が悪くなることで生じます。

  • ピエール・ロバン連鎖(Pierre Robin sequence):
    • 以下の3つの症状が連鎖的に起こる状態です。
      1. 小顎症(Micrognathia): 下あごが極端に小さい。
      2. 舌根沈下(Glossoptosis): あごが小さいため、舌が喉の奥に落ち込んでしまう。
      3. 気道閉塞・呼吸困難: 舌が気道を塞ぎ、呼吸ができなくなる。
    • 多くの場合、口蓋裂(Cleft palate)(上あごの割れ)を伴います。
  • 口唇裂: 唇が割れていることもあります。

3. 骨格・四肢の異常

全身の骨格形成に関わるBMP2の影響により、様々な骨の特徴が見られます。

  • 指の異常:
    • 多指症(指が多い:ただしこれは隣接するALX4遺伝子の影響の可能性があります)。
    • 合指症(指がくっついている)。
    • 指の短縮、爪の形成不全。
  • 脊椎の異常:
    • 頸椎の癒合(首の骨がくっついている:クリッペル・ファイル症候群様)や、側弯症。
  • 成長障害:
    • 出生後の身長の伸びが悪く、低身長となることが多いです。

4. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、軽度から中等度の発達への影響が認められますが、個人差があります。

  • 発達遅滞(DD):
    • 首すわりや歩行などの運動発達、および言葉の発達に遅れが見られます。
    • 難聴(口蓋裂に伴う中耳炎や骨格異常による)がある場合、言語発達への影響が大きくなります。
  • 知的障害(ID):
    • 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いです。
    • 重度の障害となることは比較的少なく、適切な療育によりコミュニケーション能力を獲得できるケースが多いです。

5. その他の合併症

  • 難聴: 伝音性難聴(中耳の問題)または感音性難聴。
  • 心疾患: 心房中隔欠損症(ASD)や心室中隔欠損症(VSD)など。
  • 腎・泌尿器: 停留精巣や尿道下裂など。

原因

20番染色体短腕(20p12.3)における微細欠失による、BMP2遺伝子のハプロ不全が主原因です。

1. ハプロ不全(Haploinsufficiency)のメカニズム

通常、遺伝子は父由来と母由来の2本セットで機能しています。

BMP2遺伝子は、骨や顔を作るための非常に強力な指令を出す遺伝子です。これが欠失によって1本(半分)になってしまうと、タンパク質の量が不足し、細胞に対して「骨になれ」「あごを作れ」という指令が弱くなってしまいます。

その結果、あごが十分に成長しなかったり(小顎症)、口蓋が閉じなかったり(口蓋裂)、指の骨が変形したりといった症状が現れます。

2. フェノコピー(表現型の模写)

なぜ、全く違う場所の染色体異常である「ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p16.3欠失)」と顔が似るのでしょうか?

近年の研究では、20p12.3にあるBMP2遺伝子と、4p16.3にあるWHS関連遺伝子は、顔面形成の過程において同じシグナル伝達経路あるいは密接に関わるネットワーク上で働いている可能性が示唆されています。

つまり、違う場所の故障でも、最終的な顔の形成プロセスにおいては似たようなエラーが起きるため、結果として似た顔つきになる(フェノコピー)と考えられています。

3. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
  • 家族性(親の転座など):
    • 親が「均衡型転座」の保因者である場合、子供に不均衡な欠失が生じることがあります。
    • また、親が非常に軽微な症状(軽度の低身長や顔貌の特徴のみ)を持っており、欠失が遺伝しているケースも報告されています(可変表現性)。

診断方法

「口蓋裂」「小顎症」「発達遅滞」に加え、「ウォルフ・ヒルシュホーン症候群に似ているが4番染色体は正常だった」という場合に疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 20p12.3領域の微細欠失を検出するための**第一選択(ゴールドスタンダード)**の検査です。
    • 欠失の正確なサイズと、BMP2遺伝子が含まれているか、隣のJAG1遺伝子(アラジール症候群)まで及んでいないかを詳細に特定できます。
  • 臨床的な除外診断:
    • ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失)の検査が陰性であった場合に、次のステップとして全ゲノムのチェック(CMA)を行い発見されることが多いです。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、特に「ピエール・ロバン連鎖(呼吸・哺乳障害)」に対する早期介入と、口蓋裂に対する外科的治療、そして発達支援が中心となります。

1. ピエール・ロバン連鎖への対応(新生児期〜乳児期)

生命に関わるため、最優先で行われます。

  • 体位管理: 腹臥位(うつ伏せ寝)にすることで、重力により舌を前に出し、気道を確保します。
  • 経鼻エアウェイ: 鼻からチューブを入れて気道を確保します。
  • 外科的手術:
    • 舌唇癒着術: 舌を唇に縫い付けて、奥に落ち込まないようにします。
    • 下顎延長術(骨延長法): 骨を切って少しずつ伸ばす装置を付け、小さい下あごを前に出して気道を広げます。根本的な改善が期待できる治療法です。

2. 形成外科・口腔外科的治療

  • 口蓋裂手術:
    • 生後1歳〜1歳半頃に、口蓋(上あご)を閉じる手術を行います。
    • 術後は、言葉の練習(言語聴覚療法)を行い、正しい発音の獲得を目指します。
  • 歯科矯正:
    • 顎の成長や歯並びの問題に対し、長期間の矯正治療が必要になることが多いです。

3. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 口蓋裂に伴う構音障害(発音の不明瞭さ)や、言語発達遅滞に対して専門的な指導を行います。
  • 難聴ケア:
    • 中耳炎を繰り返しやすいため、鼓膜換気チューブ留置術などを行い、聴力を確保することが言語発達において重要です。

4. 成長・内分泌管理

  • 低身長:
    • 成長曲線をモニタリングし、著しい低身長がある場合は内分泌学的評価を行います。

5. 遺伝カウンセリング

  • 次子の妊娠を考えている場合など、両親の染色体検査(転座の有無)を行うかどうかについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談します。
  • 本疾患は稀ですが、適切な治療と療育を行えば、多くの患者さんが社会生活を送れるようになります。長期的な見通しについて情報を得ることが大切です。

まとめ

20p12.3 microdeletion syndromeは、20番染色体の一部、特に骨や顔を作るBMP2という遺伝子が欠失することで生じる疾患です。

「あごが小さい」「口蓋裂がある」「呼吸が苦しい」といった症状で生まれ、新生児期には呼吸やミルクを飲むための集中ケアが必要になることが多いです。

また、顔つきが他の染色体疾患(4p-)と似ているため、診断がつくまでに時間がかかることもあります。

ご家族にとっては、手術や呼吸管理など、最初は大変なことが多いかもしれません。しかし、あごの骨は成長とともに大きくなり、呼吸や食事の問題は徐々に改善していきます。

口蓋裂の手術や言葉の練習、そして発達のサポートを受けることで、お子さんは着実に成長していきます。

形成外科、小児科、耳鼻科、リハビリテーション科など、多くの専門家がチームとなってお子さんを支えます。焦らず、一つひとつの課題をクリアしながら、お子さんの成長を見守っていきましょう。

参考文献

  • Coukouma, A., et al. (2019). A 20p12.3 microdeletion involving BMP2 contributes to syndromic cleft palate and Pierre Robin sequence. American Journal of Medical Genetics Part A.
    • (※20p12.3欠失とBMP2遺伝子のハプロ不全が、ピエール・ロバン連鎖や口蓋裂の直接的な原因であることを、詳細な症例解析と共に報告した重要論文。)
  • Gingras, S., et al. (2022). Genotype-phenotype correlations in 20p12.3 deletion syndrome: A case report and review of literature.
    • (※新たな症例報告に加え、過去の文献をレビューし、BMP2遺伝子の欠失がウォルフ・ヒルシュホーン様顔貌や骨格異常を引き起こすメカニズム(フェノコピー)について考察した文献。)
  • Barber, J.C., et al. (2013). 8p23.1 duplication syndrome; common, confirmed, and novel features in six further patients. (Contains comparative data on 20p deletions and WHS-like features).
    • (※染色体微細欠失における顔貌の類似性についての議論を含む文献。)
  • Riley, B.M., et al. (2007). Impaired FGF signaling contributes to cleft lip and palate. (References BMP2 pathways).
    • (※口唇口蓋裂の発生におけるBMPシグナル伝達経路の重要性についての基礎研究。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: BMP2 (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence).
    • (※BMP2遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠レベルを評価したデータベース。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 20p deletions (2020).
    • (※患者家族向けに、20番染色体短腕欠失(p12領域含む)の症状や生活上のアドバイスをまとめたガイドブック。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。