別名・関連疾患名
- 20p13微細欠失症候群
- 20p13欠失症候群(20p13 deletion syndrome)
- 20p13モノソミー(Monosomy 20p13)
- 20番染色体短腕末端欠失症候群(20p terminal deletion syndrome)
- 20pサブテロメア欠失(20p subtelomeric deletion)
- 関連:SOX12関連神経発達障害(SOX12-related neurodevelopmental disorder)
対象染色体領域
20番染色体 短腕(p)13領域
本疾患は、ヒトの20番染色体の短腕(pアーム)の最も末端(テロメア側)に位置する「13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と特徴】
20番染色体はヒトの染色体の中では小さい部類に入りますが、その先端である「20p13」領域は遺伝子密度が高く、脳の発達や機能維持に関わる重要な遺伝子が含まれています。
欠失のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)の微細なものから、数メガベース(Mb)に及ぶ大きなものまで様々です。
【重要な責任遺伝子:SOX12】
この領域の欠失によって引き起こされる症状(特に発達遅滞)の主な原因として、近年最も注目されているのがSOX12遺伝子です。
- SOX12 (SRY-Box Transcription Factor 12):
- 最重要の責任遺伝子です。
- SOXファミリーと呼ばれる遺伝子群の一つで、他の遺伝子の働きを調節する「転写因子」を作ります。
- SOX12は、胎児期の脳において、神経細胞(ニューロン)が生まれたり、移動したり、ネットワークを作ったりする過程(神経発生)に深く関与しています。
- 動物実験などにより、この遺伝子が不足すると脳の構造や機能に影響が出ることが確認されており、本症候群における知的障害や運動発達遅滞の主要な原因であると考えられています。
- NRSN2 (Neurensin 2):
- 脳の海馬や扁桃体などで働く遺伝子で、記憶や学習に関わるとされています。
- SOX12のすぐ近くにあり、同時に欠失することが多く、知的発達への影響を増強している可能性があります。
※注意点:アラジール症候群との違い
20番染色体短腕には、アラジール症候群の原因遺伝子であるJAG1(20p12.2)が存在します。
20p13欠失が大きく広がり、20p12.2領域まで及んでいる場合は、アラジール症候群(肝臓や心臓の重篤な病気)を合併することがありますが、狭義の「20p13微細欠失症候群(末端欠失)」は、通常JAG1遺伝子を含まないため、アラジール症候群とは区別されます。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例程度ですが、これは氷山の一角である可能性があります。
なぜなら、本疾患の主な症状である「発達遅滞」や「軽度の顔貌異常」は、他の多くの疾患でも見られるため、染色体検査(特にマイクロアレイ検査)を行わない限り、診断がつかないまま過ごされている「未診断例」が多く存在すると考えられるからです。
希少染色体異常(Rare Chromosome Disorder)の一つに分類されます。
臨床的特徴(症状)
20p13 microdeletion syndromeの症状は、欠失の範囲や含まれる遺伝子によって個人差がありますが、**「発達の遅れ」「特徴的な顔貌」「筋緊張低下」**などが主要な特徴です。
重篤な内臓奇形を伴うことは比較的少なく、生命予後は良好なケースが多いとされていますが、生活面での長期的なサポートが必要となります。
1. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、軽度から中等度、時に重度の発達への影響が認められます。
- 全般的な発達遅滞(GDD):
- 首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動発達のマイルストーンが遅れる傾向があります。
- これは、後述する筋緊張低下や、脳の運動制御機能の発達のゆっくりさが関係しています。
- 知的障害(ID):
- 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いです。
- 学習のペースがゆっくりで、抽象的な概念の理解や、複雑な課題の処理に難しさが見られることがあります。
- 言語発達の遅れ:
- 特に「言葉の遅れ(Speech delay)」が顕著な場合があります。
- こちらの言っていることは理解していても(受容言語)、自分で話すこと(表出言語)が苦手な傾向があり、コミュニケーションにジェスチャーを用いることがあります。
- 協調運動障害:
- 手先の不器用さ(微細運動)や、走る・ジャンプするといった全身運動(粗大運動)のぎこちなさが見られることがあります。
2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
「この病気なら必ずこの顔」というほど強い特徴ではありませんが、いくつかの共通点(Dysmorphism)が報告されています。成長とともに変化し、目立たなくなることもあります。
- 高い額・広い額(Prominent forehead): おでこが広く、前に出ているような印象を与えます。
- 鼻の特徴: 鼻根部(目と目の間)が広い、鼻筋が通っている。
- 眼間開離: 目と目が離れている。
- 口元の特徴: 口角が下がっている、顎が小さい(小顎症)。
- 耳: 耳の位置が低い、耳の形の変形。
3. 神経・筋骨格系の特徴
- 筋緊張低下(Hypotonia):
- 乳幼児期に体が柔らかく、抱っこした時にぐにゃっとする感じ(フロッピーインファント)が見られることがあります。
- 哺乳力が弱い、運動発達が遅れる原因となります。
- 手足の異常:
- 指が短い(短指症)、第5指の湾曲(内湾指)、手足が小さいなどの軽微な特徴が見られることがあります。
- てんかん:
- 頻度は高くありませんが、一部の患者さんでけいれん発作が報告されています。多くは薬物療法でコントロール可能です。
4. 行動・精神面の特性
- 自閉スペクトラム症(ASD):
- 社会的コミュニケーションの苦手さや、こだわりといったASDの特性を持つ場合があります。
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
- 落ち着きのなさ、注意力の散漫さが見られることがあります。
- 性格:
- 一般的に、人懐っこく社交的な性格であると報告されることもありますが、不安を感じやすい一面もあります。
5. その他の合併症(頻度は低い)
- 成長: 低身長が見られることがありますが、逆に過成長(背が高い)の報告もあり、一定しません。
- 眼科: 斜視、遠視、近視などの屈折異常。
- 歯科: 歯並びの問題や、歯の欠損。
原因
20番染色体短腕末端(20p13)における微細欠失が原因です。
1. 遺伝子ハプロ不全の影響
20p13領域の遺伝子が片方失われることで、タンパク質の生産量が半分になります(ハプロ不全)。
特にSOX12遺伝子は、脳の神経ネットワークが作られる重要な時期に必要な因子であるため、その量が不足することで、神経細胞の配置や接続がうまくいかず、発達の遅れや協調運動の苦手さにつながると考えられています。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 20p13微細欠失症候群の大部分は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)とされています。
- 不均衡転座(Familial Translocation):
- 一部の症例では、親が「均衡型転座(20番染色体の先端が他の染色体と入れ替わっている)」の保因者であることに由来します。
- 親が保因者の場合、子供に欠失(および他の染色体の重複)が遺伝する可能性があります。このケースでは、家族内での再発リスクが高くなります。
診断方法
特徴的な外見が乏しいため、臨床症状だけで診断することは困難です。「原因不明の発達遅滞」として検査が進められる中で発見されることが一般的です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 20p13領域の微細な欠失を検出し、欠失の正確なサイズと、SOX12などの重要遺伝子が含まれているかどうかを特定できます。
- 従来のGバンド検査(顕微鏡での観察)では、欠失が小さすぎる場合に見逃されることがありましたが、CMAでは確実に診断できます。
- 両親の染色体検査:
- 診断がついた後、それが突然変異なのか、親の転座由来なのかを確認するために行われることがあります。これは次子のリスク評価や、きょうだいへの影響を考える上で重要です。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。
治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、お子さんの持っている能力を最大限に引き出すための療育的支援が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育(Early Intervention):
- 診断後、あるいは発達の遅れが気になった時点から、遊びを通じた療育を開始します。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張低下がある場合、体幹を鍛え、粗大運動(座る・歩く)の発達を促します。
- 転びやすい、運動が苦手といった症状に対し、バランス感覚を養うトレーニングを行います。
- 作業療法(OT):
- 手先の不器用さ(微細運動)の改善や、日常生活動作(着替え、食事、書字など)の自立を支援します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。
- 言葉での表現が難しい時期は、絵カードやサイン、タブレット端末などを活用し、「伝えたい」という意欲を育てます。
2. 教育環境の調整
- 個別支援:
- 知的障害の程度や特性に合わせ、特別支援学級や通級指導教室など、個別に適した教育環境を選択します。
- 視覚的な支援(見てわかるスケジュールなど)や、落ち着ける環境作りが有効な場合があります。
3. 医学的管理
- 定期検診:
- 身長・体重・頭囲の計測を行い、成長を見守ります。
- 眼科検診(斜視や視力)、聴力検査、歯科検診を定期的に行い、問題があれば早期に対応します。
- てんかん管理:
- 発作が疑われる場合は脳波検査を行い、抗てんかん薬による治療を行います。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は希少であり、ネット上などの情報も少ないため、ご家族は不安を感じやすいです。
- 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから、疾患の特性、将来の見通し、次子の再発リスクについて正確な説明を受けることが大切です。
- 特に親が均衡型転座を持っていた場合、家系全体に関わる話となるため、慎重なカウンセリングが必要です。
まとめ
20p13 microdeletion syndromeは、20番染色体の先端部分、特に脳の発達に関わるSOX12遺伝子が欠失することで生じる疾患です。
「言葉がゆっくり」「運動が少し苦手」「おっとりしている」といった特徴が見られることが多いですが、重い内臓の病気を合併することは少なく、多くのお子さんは元気に成長していきます。
診断された当初は、「染色体異常」という言葉に戸惑われるかもしれませんが、この診断は、お子さんの「苦手さ」の原因を理解し、適切なサポートをするための第一歩です。
言葉の遅れや運動のぎこちなさには、早期からの療育(リハビリテーション)が非常に効果的です。お子さんはそれぞれのペースで、確実にできることを増やしていきます。
医療、教育、福祉の専門家とチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を温かく見守っていきましょう。
参考文献
- Sebold, C., et al. (2010). Tetrasomy 20p13 resulting from a de novo inverted duplication of the distal short arm of chromosome 20. (Includes comparative analysis of 20p deletions and dosage effects).
- (※20p13領域の遺伝子量効果(重複と欠失)について比較検討した論文。)
- Melchiorre, L., et al. (2019). SOX12: a candidate gene for the 20p13 microdeletion syndrome.
- (※20p13欠失症候群の患者の詳細な臨床像を報告し、SOX12遺伝子が神経発達障害の主要な原因遺伝子であることを提唱した重要論文。)
- Lau, C.C., et al. (2001). 20p13 chromosome microdeletion in a patient with global developmental delay and distinctive facial features.
- (※20p13微細欠失の初期の症例報告。顔貌の特徴や発達遅滞について詳細に記載。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 20p deletions (2019).
- (※患者家族向けに、20番染色体短腕欠失(p13領域含む)の症状や生活上のアドバイスをまとめたガイドブック。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: SOX12.
- (※SOX12遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 20p13 deletions.
- (※世界中の患者データを集積したデータベース。)
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