20q11.2 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 20q11.2微細欠失症候群
  • 20q11.2欠失症候群(20q11.2 deletion syndrome)
  • 20q11.2モノソミー(Monosomy 20q11.2)
  • 20番染色体長腕部分欠失症候群
  • 関連:GDF5関連骨格異形成
  • 関連:Bohring-Opitz症候群(ASXL1遺伝子変異)
    • ※原因遺伝子の一つとして関連しますが、欠失症候群とは臨床像が異なります(後述)。

対象染色体領域

20番染色体 長腕(q)11.2領域(20q11.21 – q11.23)

本疾患は、ヒトの20番染色体の長腕(qアーム)の付け根に近い「11.2」と呼ばれるバンド領域周辺において、DNA配列の一部が微細に欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と責任領域】

20番染色体は比較的小さな染色体ですが、この20q11.2領域には身体の発達、特に骨格や神経系の形成に重要な遺伝子が含まれています。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、数メガベース(Mb)程度の微細な欠失であることが一般的です。近年の研究により、本症候群の特徴的な症状を引き起こす「最小責任領域(SRO: Smallest Region of Overlap)」が絞り込まれており、以下の遺伝子が症状形成に深く関与していると考えられています。

【主要な責任遺伝子とその役割】

  • GDF5 (Growth Differentiation Factor 5):
    • 最重要の責任遺伝子の一つです。
    • 骨形成タンパク質(BMP)ファミリーに属し、胎児期に骨や関節、軟骨が形成される際に必須の役割を果たします。
    • この遺伝子の機能低下は、本症候群に見られる**「短指症(指が短い)」「四肢の形成異常」**の直接的な原因と考えられています。
  • EPB41L1 (Erythrocyte Membrane Protein Band 4.1 Like 1):
    • 脳の神経細胞(ニューロン)に多く発現し、ドーパミン受容体の安定化などに関わるタンパク質を作ります。
    • この遺伝子の欠失は、知的障害運動発達遅滞筋緊張低下に関与している可能性が高いとされています。
  • SAMHD1 (SAM And HD Domain Containing Deoxynucleoside Triphosphate Triphosphohydrolase 1):
    • 免疫系や細胞内の代謝に関わる遺伝子です。
    • 両方の遺伝子が機能不全になると「Aicardi-Goutieres症候群」という重篤な脳症を引き起こしますが、本症候群のような片方の欠失(ハプロ不全)がどのような影響を与えるかは、まだ完全には解明されていません。
  • ASXL1 (Additional Sex Combs Like 1):
    • 欠失範囲が広い場合(20q11.21を含む場合)、この遺伝子が含まれることがあります。
    • ASXL1遺伝子の点変異(特定の文字化け)は、重度な「Bohring-Opitz症候群」の原因となりますが、欠失(遺伝子が丸ごとない状態)の場合は、そこまで重篤な表現型にはならず、中等度の知的障害や特徴的な顔貌に関与すると考えられています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は、現時点で数十例程度にとどまります。Orphanet(世界的な希少疾患データベース)の推定では、100万人に1人未満(<1 / 1,000,000)とされています。

しかし、これは「疾患が存在しない」ことを意味するのではなく、以下の理由により診断されていないケースが多いと考えられます。

  1. 検査の壁: 一般的な染色体検査(Gバンド法)では検出できないほど微細な欠失であるため、マイクロアレイ染色体検査(CMA)を行わないと診断できません。
  2. 症状の非特異性: 摂食障害や発達遅滞は他の多くの疾患でも見られるため、特徴的な「手足の異常」などに注目しない限り、この疾患を疑うことが難しいためです。

臨床的特徴(症状)

20q11.2 microdeletion syndromeの症状は、**「難治性の摂食障害」「成長障害」「特徴的な四肢・骨格異常」「発達遅滞」「特徴的な顔貌」**の5つが中核的な特徴です。

特に、乳幼児期の「ミルクが飲めない・体重が増えない」という悩みは、ご家族にとって非常に大きな負担となることが多いです。

1. 摂食障害と成長障害(Feeding difficulties & Failure to thrive)

本症候群の患者さんの多くが、出生直後から強い摂食の問題を抱えます。

  • 難治性摂食障害:
    • 哺乳力が弱い(吸う力が弱い)、嚥下機能(飲み込む力)が未熟、あるいはミルクを拒否するといった症状が見られます。
    • 一般的な「ミルクの飲みが悪い」レベルを超えて、医療的な介入が必要になるケースが多いです。
  • 胃食道逆流症(GERD):
    • 飲んだミルクを頻繁に吐いてしまう症状が高頻度で合併します。
  • 成長障害(Failure to thrive):
    • 上記の摂食障害に加え、子宮内発育遅延(IUGR)の影響もあり、身長・体重ともに成長曲線の範囲を下回る低身長・低体重となることが多いです。
    • 経管栄養(鼻チューブや胃ろう)が必要になる期間が長い傾向があります。

2. 四肢・骨格の異常(Skeletal anomalies)

GDF5遺伝子の欠失に関連する、ユニークな特徴が見られます。これらは診断の重要な手がかりとなります。

  • 短指症(Brachydactyly): 手足の指、特に中節骨などが短く、全体的に指が短く見えます。
  • 斜指症(Clinodactyly): 第5指(小指)などが内側に曲がっています。
  • 指の奇形:
    • 合指症(指の間が膜でつながっている)、多指症(指が多い)が見られることもあります。
    • 足の指の重なり(Overlapping toes)や、内反足(Talipes equinovarus)などの足の変形も報告されています。
  • 関節拘縮: 生まれつき関節が硬く、開きにくい(多発性関節拘縮)場合があります。

3. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で発達への影響が認められます。

  • 精神運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などの運動面と、言葉の理解・表出などの精神面の両方で遅れが見られます。
    • 独歩(一人歩き)の獲得は、2歳〜3歳以降になることが多いですが、多くの患者さんが獲得可能です。
  • 知的障害(ID):
    • 軽度から中等度の知的障害を伴うことが一般的です。
    • 重度の障害となるケースもありますが、コミュニケーション能力を獲得し、簡単な会話が可能になるお子さんも多いです。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 全身の筋肉の張りが弱く、体が柔らかい状態(フロッピーインファント)です。これが運動発達の遅れや摂食障害の一因となっています。

4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

成長とともに変化しますが、いくつかの共通した特徴が報告されています。

  • 顔の形: 逆三角形の顔立ち(Triangular face)。
  • 目:
    • 眼間開離(目が離れている)。
    • 眼球陥凹(目が奥まっている:Deep-set eyes)。
    • 眼瞼下垂(まぶたが下がっている)。
    • 吊り上がった目(Upslanting palpebral fissures)。
  • 鼻: 鼻根部が広く、鼻翼(小鼻)が低形成。
  • その他: 高い前額部(おでこが広い)、顎が小さい(小顎症)、耳の位置が低い。

5. その他の合併症

  • 眼科: 網膜異形成(Retinal dysplasia)、斜視、乱視など。網膜の問題は視力に影響するため注意が必要です。
  • 心疾患: 心室中隔欠損症などの先天性心疾患が稀に見られます。
  • 消化器: 便秘が頑固で、管理が必要な場合があります。

原因

20番染色体長腕(20q11.2)における微細欠失が原因です。

1. 遺伝子のハプロ不全(Haploinsufficiency)

染色体の一部が欠失することで、そこに含まれる遺伝子が1セット(片親分)しかなくなり、作られるタンパク質の量が半分になってしまう状態です。

  • GDF5不足の影響:
    骨や軟骨を作るシグナルが弱くなるため、指が十分に伸びなかったり、関節の形成がうまくいかなかったりします。これが短指症や関節拘縮の原因です。
  • EPB41L1不足の影響:
    神経細胞の機能維持に必要なタンパク質が減ることで、脳の発達や運動制御に遅れが生じると考えられています。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 20q11.2微細欠失症候群の大部分は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
    • 何か妊娠中の行動が原因で起こるものではありません。
    • この場合、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(稀):
    • 極めて稀ですが、親が症状を持たない(あるいは極めて軽微な)保因者である場合や、親の生殖細胞(精子・卵子)の一部にのみ変異がある「性腺モザイク」の可能性も完全には否定できません。

診断方法

「難治性の摂食障害」「指の異常」「発達遅滞」の組み合わせから疑われますが、臨床症状だけで確定することは困難です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 20q11.2領域の微細な欠失を検出し、欠失の正確なサイズと、GDF5ASXL1などの重要遺伝子が含まれているかどうかを特定できます。
    • 従来のGバンド法では見逃される可能性が高いため、CMAが必須です。
  • 画像検査:
    • レントゲン写真:手足の指の骨の形状(短指症など)を確認し、診断の補助とします。
    • 頭部MRI:脳の構造的な異常がないか確認します(脳萎縮などが報告されることがあります)。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、成長・発達を支えるための包括的な支援が中心となります。

1. 栄養・摂食管理(最優先事項)

乳幼児期の最大の課題は、十分な栄養を摂り、体重を増やすことです。

  • 経管栄養:
    • 口からの摂取だけで必要量を満たせない場合、鼻から胃へチューブを通す(経鼻胃管)や、お腹に小さな穴を開ける(胃ろう)などの方法を積極的に検討します。
    • 「胃ろう」と聞くと抵抗があるかもしれませんが、安定して栄養を摂ることで体力がつき、リハビリや発達にも良い影響を与えます。嚥下機能が成長とともに改善すれば、将来的には口から食べられるようになる可能性もあります。
  • 逆流対策:
    • 胃食道逆流症に対し、ミルクにとろみをつける、食後の体位を工夫する、胃酸を抑える薬を使うなどの対応を行います。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 筋緊張低下や発達遅滞に対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
  • 理学療法(PT):
    • 体幹を鍛え、座る・歩くといった運動機能の獲得を目指します。関節拘縮がある場合は、関節可動域訓練も行います。
  • 作業療法(OT):
    • 手先の不器用さや、指の変形による使いにくさをカバーするための訓練や、自助具の提案を行います。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 摂食嚥下訓練を行うとともに、言葉の発達を促すコミュニケーション指導を行います。

3. 整形外科的治療

  • 四肢の異常:
    • 内反足や関節拘縮がある場合、装具療法やギプス矯正、必要に応じて手術を行います。
    • 多指症や合指症がある場合も、機能面・整容面を考慮して手術時期を検討します。

4. その他の健康管理

  • 眼科: 網膜異形成や斜視の早期発見・治療のため、定期的な眼科検診が必要です。
  • 歯科: 歯並びの問題や虫歯予防のため、定期的な歯科検診を行います。

5. 家族支援

  • 希少疾患であり、同じ病気の子を持つ家族と出会う機会が少ないため、孤立感を抱きやすいです。
  • 遺伝カウンセリングを通じて、疾患への正しい理解を深めるとともに、地域の療育センターや福祉サービス(障害児通所支援など)とつながり、レスパイト(休息)ケアなどを利用できる体制を整えることが大切です。

まとめ

20q11.2 microdeletion syndromeは、20番染色体の一部が欠けることで、骨や神経の発達に必要な遺伝子が不足して起こる疾患です。

「ミルクを飲むのがとても苦手」「手足の指が少し特徴的」「ゆっくりとした成長」というのが、この疾患のお子さんによく見られる姿です。

特に赤ちゃんの頃は、体重が増えず、ご家族は「どうして飲んでくれないの」と悩み、疲れ果ててしまうことがあるかもしれません。しかし、これはお子さんのわがままではなく、遺伝子の影響による「体質」なのです。

医療の力を借りて栄養をしっかり摂れるようになれば、お子さんはその子なりのペースで確実に成長していきます。歩けるようになったり、お話ができるようになったりと、嬉しい驚きをたくさん見せてくれるはずです。

この病気は非常に稀ですが、世界中の研究者によって少しずつ解明が進んでいます。

主治医やセラピスト、地域の支援者とチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を一緒に支えていきましょう。

参考文献

  • Posmyk, R., et al. (2011). Clinical and molecular characterization of the 20q11.2 microdeletion syndrome: Six new patients. American Journal of Medical Genetics Part A.
    • (※20q11.2微細欠失症候群の患者6名の臨床像を詳細に報告し、摂食障害、成長障害、特徴的顔貌、GDF5関連の四肢異常などの共通項を定義した、本症候群の基礎となる重要論文。)
  • Hiraki, Y., et al. (2011). A de novo deletion of 20q11.2-q12 in a boy presenting with abnormal hands and feet, retinal dysplasia, and intractable feeding difficulty. American Journal of Medical Genetics Part A.
    • (※難治性摂食障害、四肢異常、網膜異形成を呈する日本人症例の報告。GDF5を含む責任領域について考察している。)
  • Loddo, I., et al. (2018). 20q11.2 microdeletion syndrome: Clinical and molecular characterization of a new patient and review of the literature.
    • (※過去の報告例をレビューし、20q11.2欠失症候群の臨床的スペクトラム(知的障害の程度や身体合併症など)をまとめた文献。)
  • Uehara, T., et al. (2017). The smallest de novo 20q11.2 microdeletion causing intellectual disability and dysmorphic features. Human Genome Variation.
    • (※GDF5を含む1.2Mbの最小欠失領域を持つ症例を報告し、この領域の遺伝子(GDF5, EPB41L1, SAMHD1)が主要な症状の原因であることを突き止めた研究。)
  • Orphanet: 20q11.2 microdeletion syndrome.
    • (※世界的な希少疾患データベースにおける疾患概要と疫学情報。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: GDF5, ASXL1.
    • (※各遺伝子のハプロ不全が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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