2p12-p11.2 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 2p12-p11.2欠失症候群
  • 2p12-p11.2微細欠失症候群(2p12-p11.2 microdeletion syndrome)
  • 2p12-p11.2モノソミー(Monosomy 2p12-p11.2)
  • 近位2p欠失症候群(Proximal 2p deletion syndrome)
  • CTNNA2関連症候群(CTNNA2-related syndrome)
    • ※本欠失に含まれる主要な責任遺伝子の名前を用いてこう呼ばれることがあります。
  • 関連:皮質異形成(Cortical dysplasia) / 脳回異常

対象染色体領域

2番染色体 短腕(p)12から11.2領域

本疾患は、ヒトの2番染色体の短腕(pアーム)の付け根(セントロメア)に近い「12」から「11.2」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要遺伝子】

2番染色体は2番目に大きい染色体ですが、この「p12-p11.2」という領域の欠失報告は稀です。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

この領域にはいくつかの遺伝子が含まれていますが、本症候群の特徴的な神経症状(知的障害や脳形成異常)を引き起こす**「責任遺伝子」**として、以下の遺伝子が特定されています。

  • CTNNA2 (Catenin Alpha 2):
    • 最重要の責任遺伝子です。
    • この遺伝子は、脳の神経細胞(ニューロン)に多く発現している「α-N-カテニン」というタンパク質を作ります。
    • 役割: 神経細胞同士の接着や、細胞の骨組み(細胞骨格)の制御に関わっています。特に、胎児期の脳が作られる際、神経細胞が正しい場所へ移動する(神経細胞遊走)ために不可欠です。
    • 影響: この遺伝子が欠失すると、神経細胞がうまく移動できず、脳の表面のシワ(脳回)が厚くなったり(厚脳回)、発達の遅れや知的障害につながります。
  • LRIF1 (Ligand Dependent Nuclear Receptor Interacting Factor 1):
    • 遺伝子発現の調節に関わるタンパク質です。
    • この遺伝子の機能不全は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)に関連するメカニズム(SMCHD1の抑制など)に関与するとされていますが、本欠失症候群における臨床的意義(発達遅滞など)への寄与度は、CTNNA2に比べると副次的であると考えられています。
  • REEP1 (Receptor Accessory Protein 1):
    • 欠失範囲が広い場合に含まれることがあります。
    • 点変異では「遺伝性痙性対麻痺(HSP)」の原因となります。欠失した場合、運動機能(特に足のつっぱりなど)に影響を与える可能性があります。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例未満であり、非常に稀な染色体異常です。

Orphanetなどのデータベースでも、発生頻度は「不明」または「<1 / 1,000,000」と分類されます。

しかし、これは以下の理由による「過少診断」である可能性が高いです。

  1. 特異的な外見が少ない: ダウン症候群のような一見してわかる顔貌の特徴が少ないため、染色体検査が行われないことがあります。
  2. 検査技術の進歩: 従来のGバンド検査では見逃される微細な欠失である場合が多く、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)や全エクソーム解析(WES)の普及によって、ようやく発見されるようになった新しい疾患単位です。

臨床的特徴(症状)

2p12-p11.2 deletion syndromeの症状は、**「知的障害」「発達遅滞」「行動・精神面の特徴」「軽度の顔貌異常」**が主となります。

特に、CTNNA2遺伝子が欠失に含まれる場合、脳の構造的な変化(MRI所見)が見られることがあります。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、中等度以上の知的障害を伴うことが多いです。
    • 抽象的な思考や、複雑な課題の解決に困難を示します。
  • 言語発達遅滞:
    • 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著です。
    • 2〜3歳になっても発語がない、あるいは単語のみであるケースが多く、言語療法(ST)が必要になります。受容言語(理解)は表出言語(話すこと)より良好な場合があります。
  • 運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などの運動マイルストーンが遅れます。
    • 多くの患者さんは独歩(一人歩き)を獲得しますが、バランス感覚が悪かったり、手先の不器用さ(微細運動障害)が残ったりすることがあります。

2. 脳の構造異常(Brain malformations)

CTNNA2遺伝子のハプロ不全に関連して、脳の形成異常が見られることがあります。

  • 皮質形成異常:
    • 脳の表面(皮質)の層構造が乱れることがあります。
  • 厚脳回(Pachygyria) / 滑脳症スペクトラム:
    • 脳のシワが少なく、厚くなっている状態です。これは神経細胞が移動を途中で止めてしまったことを示唆しています。
    • ただし、MRIで明らかな異常が見られない(正常に見える)患者さんもいます。

3. 行動・精神面の特性

発達の遅れに加え、行動面での特徴が生活上の課題となることがあります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの苦手さ、視線が合いにくい、こだわりが強い、感覚過敏といったASD特性を持つ頻度が高いです。
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
    • 落ち着きのなさ、衝動性、注意散漫などが見られます。
  • その他:
    • 不安の強さ、かんしゃく(Meltdown)、睡眠障害などが報告されています。

4. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)

「特徴的」とは言われますが、非常に軽微で、ご家族に似ている範囲内であることも多いです。

  • 高い前頭部(おでこが広い)。
  • 眼間開離(目が離れている)。
  • 眼瞼裂斜下(タレ目)、または斜上(つり目)。
  • 鼻根部が広い、鼻先が丸い。
  • 薄い上唇、口角が下がっている。
  • 耳の位置が低い、耳の形の変形。
  • 小頭症(頭が小さい)が見られることもあります。

5. 神経・筋骨格系の特徴

  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかく、姿勢保持が困難な状態が見られます。
  • 痙縮(Spasticity):
    • 成長とともに、足の筋肉が突っ張る(痙性)などの症状が出ることがあります(REEP1遺伝子の関与の可能性)。
  • 眼科:
    • 斜視、遠視、乱視、弱視などの視覚的問題。

6. その他の合併症

内臓奇形の合併率は比較的低いですが、以下の報告があります。

  • 停留精巣(男児)。
  • 側弯症。
  • てんかん発作(脳形成異常がある場合リスクが高まります)。

原因

2番染色体短腕近位(2p12-p11.2)における微細欠失が原因です。

1. 遺伝子ハプロ不全と神経細胞遊走

この疾患の本質的な原因は、CTNNA2遺伝子などの量が半分になる(ハプロ不全)ことです。

  • 正常な脳の発達: 胎児期に脳が作られる際、神経細胞は脳の奥深くで生まれ、表面(皮質)に向かって長い旅(遊走)をします。この時、細胞の骨組み(アクチン骨格)を変化させながら動く必要があります。
  • 欠失の影響: CTNNA2が作るタンパク質は、この細胞骨格の制御に重要です。これが不足すると、神経細胞がうまく動けず、途中で止まってしまったり、配置が乱れたりします。これが知的障害や厚脳回などの原因となります。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 2p12-p11.2欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や生活習慣などが原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(遺伝):
    • 親が同じ欠失を持っているケースは非常に稀ですが、報告がないわけではありません。
    • 親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっている)」の保因者である場合、子に不均衡な欠失が生じることがあります。

診断方法

特徴的な外見が乏しいため、臨床症状だけで診断することは困難です。「原因不明の発達遅滞」や「自閉症」として検査が進められる中で発見されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 2p12-p11.2領域の微細な欠失を検出し、欠失の正確なサイズと、CTNNA2遺伝子などが含まれているかを特定できます。
  • 頭部MRI検査:
    • 発達遅滞の原因精査として行われます。
    • 脳のシワの状態(厚脳回や多小脳回など)や、白質の状態を確認し、CTNNA2関連の脳形成異常がないかを評価します。
  • 全エクソーム解析(WES):
    • 染色体欠失ではなく、CTNNA2遺伝子そのものの点変異でも類似の症状が出るため、遺伝子レベルの解析で見つかることもあります。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、お子さんの持っている能力を最大限に引き出すための療育的支援が中心となります。

1. 発達・療育的支援(Habilitation)

  • 早期療育:
    • 脳の可塑性(変化する力)が高い乳幼児期から、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 言語療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。
    • 発語が難しい場合、絵カード、サイン、AAC(補助代替コミュニケーション)ツールを活用し、意思伝達の手段を確保します。これにより、かんしゃく等の行動面の問題が軽減することがあります。
  • 作業療法(OT):
    • 手先の不器用さや感覚過敏に対し、遊びを通じたアプローチを行います。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST):
    • 自閉傾向がある場合、集団生活のルールや対人関係のスキルを学びます。

2. 教育環境の調整

  • 個別支援:
    • 知的障害の程度に合わせ、特別支援学級や特別支援学校など、個別に適した教育環境を選択します。
    • 視覚的な支援(見てわかるスケジュールなど)や、刺激の少ない環境設定が有効な場合があります。

3. 医学的管理

  • てんかん:
    • 発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
  • 眼科・整形外科:
    • 斜視や脊柱側弯症などがないか、定期的なチェックを行い、必要に応じて装具療法などを行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • 本疾患は非常に稀であるため、情報の少なさがご家族の不安につながりやすいです。
  • 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから、疾患の特性、将来の見通し、次子の再発リスクについて正確な説明を受けることが大切です。
  • 親が未診断の保因者である可能性(家族性)を確認するため、両親の検査を検討する場合もあります。

まとめ

2p12-p11.2 deletion syndromeは、2番染色体の一部、特に脳の神経細胞が移動するために必要なCTNNA2遺伝子などが欠失することで起こる希少な疾患です。

「言葉がなかなか出ない」「運動がゆっくり」「こだわりが強い」といった症状で見つかることが多く、脳のMRI検査で特徴的な所見が見られることもあります。

診断された当初は、「脳の形成異常」という言葉にショックを受けられるかもしれませんが、これは病気が進行するという意味ではありません。脳は成長とともに新しい回路を作り、学習していく力を持っています。

特効薬はありませんが、早期からの療育(リハビリテーション)や、お子さんの特性に合わせた教育環境を整えることが、最大の治療となります。

言葉での表現が苦手でも、お子さんは豊かな感情を持っています。コミュニケーションの方法を工夫し、周囲が理解者となることで、その子らしい成長を支えていくことができます。

医療、教育、福祉の専門家とチームを組み、お子さんの歩みを温かく見守っていきましょう。

参考文献

  • Rolland, A.S., et al. (2014). Phenotypic severity of pachygyria mechanisms associated with CTNNA2 deletions.
    • (※2p12-p11.2欠失を持つ患者における脳回異常(厚脳回)と、CTNNA2遺伝子の欠失範囲との関連を詳細に解析した重要論文。CTNNA2が神経細胞遊走に不可欠であることを示唆。)
  • Schoch, K., et al. (2016). Clinical and molecular characterization of a patient with a 2p11.2 deletion and a review of the literature. American Journal of Medical Genetics Part A.
    • (※2p11.2欠失症候群の症例報告と文献レビュー。知的障害、発達遅滞、軽度の顔貌異常などの臨床的特徴をまとめている。)
  • Mencarelli, M.A., et al. (2011). A 2p11.2-p12 deletion in a child with intellectual disability and pachygyria.
    • (※知的障害と厚脳回を持つ小児の症例報告。CTNNA2遺伝子のハプロ不全が脳形成異常の主要な原因であると結論付けている。)
  • Deciphering Developmental Disorders Study: Genotype-phenotype data for 2p12 deletions.
    • (※大規模な遺伝学的研究データにおいて、この領域の欠失が神経発達障害のリスク因子として同定されている。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: CTNNA2.
    • (※CTNNA2遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患(特に知的障害や脳奇形)を引き起こすことの科学的根拠評価。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2p deletions (2020).
    • (※患者家族向けに、2番染色体短腕欠失全般の症状や生活上のアドバイスをまとめたガイドブック。近位欠失についての言及あり。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。