2p24.3 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 2p24.3重複症候群
  • 2p24.3微細重複症候群(2p24.3 microduplication syndrome)
  • 2p24.3トリソミー(Trisomy 2p24.3)
  • MYCN重複症候群(MYCN duplication syndrome)
  • 関連:ファインゴールド症候群1型(Feingold syndrome type 1)
    • ※本疾患と同じ領域(MYCN遺伝子)が「欠失」または変異することで起こる疾患です。本疾患とは対照的な症状を示す「鏡像関係」にあります。

対象染色体領域

2番染色体 短腕(p)24.3領域

本疾患は、ヒトの2番染色体の短腕(pアーム)の先端に近い「24.3」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と最重要遺伝子:MYCN】

2p24.3領域の重複範囲は患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

しかし、本症候群の特徴的な症状(特に神経発達や身体的特徴)を形成する上で、決定的な役割を果たしているのがMYCN (v-myc avian myelocytomatosis viral oncogene neuroblastoma derived homolog) 遺伝子です。

  • MYCN遺伝子の役割(オーケストラの指揮者):
    • MYCNは「転写因子」と呼ばれるタンパク質を作り、他の多くの遺伝子の働きを調節する、いわばオーケストラの指揮者のような役割を持っています。
    • 特に、胎児期の脳の発達四肢(手足)の形成細胞の増殖をコントロールする上で不可欠です。
  • 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect):
    • 遺伝子は量が厳密に決まっています。
    • 欠失(量が減る): MYCNが不足すると、脳や体が十分に大きくならず、「小頭症」や「低身長」「指の異常」を伴うファインゴールド症候群になります。
    • 重複(量が増える): 本疾患のようにMYCNが過剰になると、逆に細胞増殖のバランスが崩れ、**「大頭症(頭が大きい)」「神経回路の形成不全」**などが引き起こされます。

他にも、NBASDDX1といった遺伝子が重複範囲に含まれることがあり、これらの遺伝子の過剰も症状の個人差(可変表現性)に寄与している可能性があります。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例程度ですが、これは「診断されていない」ケースが多いことを示唆しています。

マイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により発見されるようになった比較的新しい疾患概念であり、軽度の発達遅滞のみを持つ患者さんの中に、未診断のまま生活している方が一定数存在すると推測されます。

男女差についての明確な報告はなく、性別に関係なく発生します。

臨床的特徴(症状)

2p24.3 duplication syndromeの症状は、**「神経発達遅滞」「特徴的な顔貌」「身体的成長の特徴」**が主な柱となります。

特に、対となる疾患(ファインゴールド症候群)と比較すると、「頭の大きさ」や「指の特徴」において逆の傾向が見られることが興味深い特徴です。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、軽度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度の知的障害を呈します。
    • 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著で、運動発達(歩行など)の遅れも見られます。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD)様の特徴(こだわり、対人関係の苦手さ)や、注意欠陥・多動性障害(ADHD)のような落ち着きのなさが見られることがあります。
    • 不安の強さや、感覚過敏を持つこともあります。

2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

「この病気なら必ずこの顔」というほど特異的ではありませんが、いくつかの共通した特徴(Dysmorphism)が報告されています。

  • 前頭部突出(Prominent forehead): おでこが広く、前に出ている印象。
  • 眼間開離(Hypertelorism): 目と目が離れている。
  • 眼瞼裂斜下(Downslanting palpebral fissures): 目尻が下がっている(タレ目)。
  • 鼻の特徴: 鼻根部が広く、平坦である。
  • 耳の特徴: 耳の位置が低い、耳介の変形、大きな耳たぶ。
  • 口の特徴: 薄い上唇、長い人中(鼻の下)。

3. 身体的成長・骨格(鏡像効果)

ここが遺伝学的に非常に重要なポイントです。

  • 大頭症(Macrocephaly):
    • MYCN遺伝子の過剰により、頭囲が大きくなる(大頭症)傾向があります。
    • これは、MYCN欠失(ファインゴールド症候群)における「小頭症」とは正反対の特徴です。
  • 成長(身長):
    • 身長は正常範囲、あるいは平均より高い(高身長)傾向が見られることがあります。これも欠失症候群の「低身長」とは対照的です。
  • 四肢の異常:
    • 指が長い(Arachnodactyly)ことや、多指症(指が多い)が見られることが稀にあります。
    • 欠失症候群では「短指症」や「指の癒合」が見られるのに対し、重複では過剰な成長が見られる場合があります。

4. その他の合併症

内臓奇形の合併率は比較的低いですが、以下の報告があります。

  • 神経系: 脳梁低形成や脳室拡大などの脳構造異常、てんかん発作。
  • 生殖器: 停留精巣(男児)や尿道下裂。
  • 骨格: 側弯症。

※腫瘍リスクについて(重要):

MYCN遺伝子は、神経芽腫(小児がんの一種)の腫瘍組織の中で増幅していることが知られています(体細胞変異)。

しかし、本疾患のように「生まれつき全身の細胞でMYCNが重複している(生殖細胞系列変異)」場合において、神経芽腫の発症リスクが明確に高いかどうかは、まだ結論が出ていません。

現時点では、本症候群の患者さんが高頻度でがんを発症するという報告はありませんが、MYCNという遺伝子の性質上、定期的な健康診断において留意されるべき点の一つです。過度な心配は不要ですが、主治医と情報の共有をしておくことが望ましいです。

原因

2番染色体短腕(2p24.3)における微細重複が原因です。

1. MYCN遺伝子のトリプロセンシティ

本症候群の主症状は、MYCN遺伝子が3コピー(通常より1.5倍)になることによる**「トリプロセンシティ(Triplosensitivity)」**、つまり過剰発現による毒性や発生プログラムの乱れによって引き起こされます。

脳神経系の細胞は、遺伝子の量の変化に非常に敏感です。MYCNが多すぎることで、神経細胞の分化のタイミングがずれたり、正しいネットワークが作れなくなったりすることが、知的障害や発達遅滞の原因となります。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 多くのケースは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や生活習慣などが原因で起こるものではありません。
  • 家族性(遺伝):
    • 親が同じ重複を持っているケースも報告されています。
    • 親は症状が軽度(学習障害のみ、あるいは正常範囲)で診断されておらず、子が診断されて初めて親も検査を受け、判明することがあります(不完全浸透や可変表現性)。
    • 親が重複を持っている場合、子へ遺伝する確率は50%(常染色体顕性遺伝)です。

診断方法

臨床症状(大頭症や発達遅滞)だけでは診断がつかないため、遺伝学的検査によって確定診断されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 2p24.3領域のコピー数増加を検出し、その正確なサイズと、MYCN遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 従来のGバンド検査(顕微鏡での観察)では、重複が微細な場合に見逃されることが多いため、CMAが必須です。
  • 両親の解析(Parental Testing):
    • お子さんに重複が見つかった場合、両親の検査を行うことが強く推奨されます。
    • これにより、「突然変異(De novo)」なのか「家族性(Inherited)」なのかが判明します。
    • 親が健康で同じ重複を持っていた場合、その重複がもたらす影響は比較的マイルドである可能性が示唆され、将来の見通しを立てる上で重要な情報となります。

治療方法

過剰な染色体領域を取り除くような根本的な治療法はありません。

治療は、症状に応じた対症療法と、お子さんの持っている能力を最大限に引き出すための療育的支援が中心となります。

1. 発達・療育的支援(Habilitation)

  • 早期療育:
    • 脳の可塑性が高い乳幼児期から、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れが顕著な場合が多いため、コミュニケーション指導に重点を置きます。絵カードやサインなどの視覚支援も有効です。
  • 感覚統合療法:
    • 感覚過敏や不器用さがある場合、遊びを通じた感覚統合アプローチが役立ちます。
  • 教育的支援:
    • 知的障害や学習の遅れがある場合は、個別の教育支援計画(IEP)に基づき、特別支援学級や通級指導教室などの環境調整を行います。

2. 医学的管理・サーベイランス

  • 神経学的評価:
    • てんかん発作の有無に注意し、疑わしい場合は脳波検査を行います。
    • 頭囲の拡大が急激な場合は、水頭症などの除外のために画像検査(MRI/CT)を行うことがあります。
  • 整形外科・泌尿器科:
    • 側弯症や停留精巣などの合併症に対し、定期的なチェックと必要に応じた治療を行います。
  • 腫瘍リスクへの配慮:
    • 前述の通り、明確なガイドラインはありませんが、MYCN遺伝子の関連を考慮し、一般的な小児がん検診を含めた定期的な健康チェックを継続することが安心につながります。

3. 家族支援と遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 「2p24.3重複」と診断されると、ネット検索で「神経芽腫(がん)」の情報が出てきて不安になるご家族が多いです。
    • 「がん細胞の中で遺伝子が増えること(体細胞変異)」と「生まれつき遺伝子が多い体質(生殖細胞系列変異)」は、医学的に意味合いが異なることを正しく理解し、過度な不安を取り除くことが大切です。
  • きょうだいへの対応:
    • 次子の再発リスクについては、両親の検査結果に基づいて正確な見積もりを行います。

まとめ

2p24.3 duplication syndromeは、2番染色体の一部、特に体の成長や脳の発達をコントロールするMYCN遺伝子が増えることで生じる体質です。

この遺伝子が増えると、頭が大きくなったり、言葉の発達がゆっくりになったりすることがあります。これは、同じ場所が「足りない」病気(ファインゴールド症候群)とは逆の特徴が現れるという、遺伝子の不思議な側面でもあります。

診断名を聞いて、特に遺伝子名(MYCN)から「がん」との関連を心配されるかもしれませんが、この体質を持つお子さんが必ずがんになるわけではありません。定期的な健診を受けながら、日々の成長を見守っていくことが大切です。

発達の面では、ゆっくりではありますが、着実にできることは増えていきます。言葉の練習や、得意なことを見つけて伸ばす教育的なサポートが、お子さんの力を大きく引き出します。

特効薬はありませんが、療育や環境調整という「手立て」はたくさんあります。

医師、心理士、教育者、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、正しい知識を持って、お子さんの個性豊かな成長を一緒に支えていきましょう。

参考文献

  • Van Esch, H., et al. (2018). MYCN duplication syndrome: A new recognizable syndrome with intellectual disability, macrocephaly, and distinct facial features.
    • (※MYCN重複症候群を独立した疾患単位として定義し、大頭症や特徴的顔貌などの臨床的特徴を詳細に報告した重要論文。Feingold症候群との鏡像関係についても言及。)
  • Kato, M., et al. (2019). Clinical and genetic characterization of patients with 2p24.3 duplications.
    • (※2p24.3重複を持つ患者の日本人症例を含む解析。発達遅滞の程度や顔貌の特徴、MYCN以外の遺伝子の関与について検討している。)
  • Deciphering Developmental Disorders Study: Genotype-phenotype data for 2p24.3 duplications.
    • (※世界的なデータベース(DECIPHER)において、この領域の重複を持つ患者の臨床データが集積されており、多様な症状の幅(スペクトラム)が確認できる。)
  • Magen, D., et al. (2015). Feingold syndrome: Clinical review and genetic analysis.
    • (※対となる疾患であるFeingold症候群のレビューだが、MYCN遺伝子の機能や、遺伝子量効果(Dosage effect)についての解説が詳しく、重複症候群を理解する上での基礎文献となる。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2p duplications (2020).
    • (※患者家族向けに、2番染色体短腕重複全般の症状や生活上のアドバイスをまとめたガイドブック。MYCN領域についての言及あり。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: MYCN.
    • (※MYCN遺伝子のトリプロセンシティ(重複による病原性)に関する科学的根拠評価。重複が神経発達障害の原因となることの証拠レベルが評価されている。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。