別名・関連疾患名
- 2q11.2重複症候群
- 2q11.2微細重複症候群(2q11.2 microduplication syndrome)
- 2q11.2トリソミー(Trisomy 2q11.2)
- 2q11.2コピー数変異(重複)(2q11.2 copy number variant, duplication)
- 関連:2q11.2欠失症候群(2q11.2 deletion syndrome)
- ※本疾患と同じ領域が欠失する、対(つい)となる疾患です。
- 関連:AFF3重複関連症候群
対象染色体領域
2番染色体 長腕(q)11.2領域
本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)の付け根(セントロメア)に近い「11.2」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細と遺伝子量効果】
2番染色体はヒトゲノムで2番目に大きな染色体です。この2q11.2領域の重複は、サイズが患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。
この領域にはいくつかの遺伝子が含まれていますが、本症候群の症状形成において、特に以下の遺伝子の過剰(トリプロセンシティ)が関与していると考えられています。
- AFF3 (AF4/FMR2 Family Member 3) / 旧名 LAF4:
- 最重要の責任遺伝子と考えられています。
- この遺伝子は「転写因子」と呼ばれるタンパク質を作り、他の遺伝子の働きを調節します。特に胎児期の脳の大脳皮質や骨格の発達において、細胞の分化をコントロールする重要な役割を担っています。
- 欠失の場合: AFF3が不足すると、成長障害(低身長)や知的障害を引き起こす「2q11.2欠失症候群」となります。
- 重複の場合(本疾患): AFF3が過剰になると、神経細胞の発達バランスが崩れ、**「発達遅滞(特に言語)」や「行動特性」**などが引き起こされると考えられています。
- FHL2 (Four And A Half LIM Domains 2):
- 筋肉や心臓、骨の代謝に関わる遺伝子です。
- この遺伝子の重複が身体的な特徴に微細な影響を与えている可能性があります。
発生頻度
不明(Unknown)だが、潜在的には稀ではない可能性あり
正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における「2q11.2重複症候群」としての症例報告数は少ないですが、これは「発生していない」のではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**の影響が大きいと考えられます。
- 症状がマイルド: 多くの患者さんは重篤な身体奇形を持たず、健康状態も良好です。そのため、「少し言葉が遅い子」「個性的で活発な子」として過ごしており、医療機関で染色体検査を受ける機会がないまま成人しているケースが多いと推測されます。
- 不完全浸透: 重複を持っていても症状がほとんど出ない(無症状)の人が存在するため、親から子へ気づかれないまま受け継がれていることがあります。
- 検査技術: マイクロアレイ染色体検査(CMA)が行われないと診断できない微細な重複であるため、近年の検査普及によりようやく発見され始めた新しい疾患概念です。
臨床的特徴(症状)
2q11.2 duplication syndromeの症状は、**「神経発達症(発達障害)」が主体であり、身体的な特徴は目立たないか、軽微であることが多いです。
また、「症状の個人差が大きい(可変表現性)」**ことが大きな特徴です。
1. 神経発達・認知機能
最も一般的な受診理由は、乳幼児期の発達の遅れです。
- 言語発達遅滞:
- 最も顕著な特徴の一つです。
- 言葉が出始めるのが遅い(Speech delay)、発音が不明瞭、文章で話すのが苦手といった特徴が見られます。
- しかし、多くの患者さんは成長とともに言語を獲得し、日常会話が可能になります。
- 運動発達遅滞:
- 首すわり、お座り、歩行開始などの運動マイルストーンが軽度に遅れることがあります。
- 筋緊張低下(体が柔らかい)を伴う場合に遅れが見られやすいですが、多くは独歩を獲得します。
- 知的障害(ID):
- 軽度から中等度の知的障害が見られることがありますが、境界域知能や**正常知能(Normal IQ)**であることも珍しくありません。
- 学習障害(LD)として、読み書きや計算など特定の学習に苦手さを持つ場合があります。
2. 行動・精神面の特性
発達の遅れに加え、行動面での特徴が生活上の課題となることがあります。
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
- 落ち着きのなさ、衝動性、不注意などが比較的高頻度で見られます。
- 授業中に座っていられない、順番が待てないといった行動が現れることがあります。
- 自閉スペクトラム症(ASD)様症状:
- 社会的コミュニケーションの不器用さや、こだわりといった特徴が見られることがあります。
- その他:
- 不安の強さ、攻撃的な行動(かんしゃく)などが見られることもありますが、環境調整や成長とともに落ち着くことも多いです。
3. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)
「この病気特有」という強い特徴はありませんが、いくつかの共通点が報告されています。ただし、これらは「家族に似ている」範囲内であることがほとんどです。
- 顔貌:
- 高い前頭部(おでこが広い)。
- 長いまつ毛。
- 薄い上唇。
- 三角形の顔立ち、あるいは小顎症(あごが小さい)。
- 頭囲:
- 小頭症(頭が小さい)が見られることもあれば、正常範囲であることもあります。
- 骨格:
- 手足の指が少し短い、あるいは長いなど微細な特徴。
- 関節の過伸展(体が柔らかい)。
4. 成長(欠失症候群との対比)
ここが診断上のポイントになることがあります。
- 成長:
- 対となる「2q11.2欠失症候群」では、著しい「低身長」が特徴ですが、本疾患(重複)では**「低身長は見られない」か、あるいは「正常範囲〜軽度の低身長」**程度にとどまることが多いです。
- 著しい成長障害がないことが、欠失症候群との大きな違いです。
5. その他の合併症
内臓奇形の合併は比較的稀ですが、以下の報告があります。
- 口蓋: 粘膜下口蓋裂や口蓋垂裂。
- 眼科: 斜視、遠視、乱視。
- 消化器: 胃食道逆流症(GERD)。
原因
2番染色体長腕(2q11.2)における微細重複が原因です。
1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)
この領域には、DNA配列が似ているブロック(分節重複)が存在しており、精子や卵子が作られる際に、染色体の組換えエラーが起こりやすくなっています。
- その結果、染色体の一部が「抜け落ちる(欠失)」細胞と、「倍になる(重複)」細胞が生まれ、本疾患は後者の受精によって発生します。
2. AFF3遺伝子の過剰発現(Gene Dosage Effect)
- AFF3遺伝子は、脳の発生過程において、神経細胞の分化や配置をコントロールしています。
- 通常2コピーでちょうど良いバランスが保たれていますが、3コピー(重複)になることで、タンパク質が過剰に作られます。
- これにより、神経回路の形成に微細な変化が生じ、言語処理や注意機能のネットワークに影響を与える(ニューロダイバーシティ)と考えられています。
3. 遺伝形式:家族性の頻度が高い
- De novo(新生突然変異):
- 突然変異で発生することもあります。
- 家族性(Inherited):
- 本疾患において非常に重要な点です。
- 2q11.2重複症候群は、**「親からの遺伝」**であるケースが比較的多いと推測されます。
- 親自身も同じ重複を持っていますが、親は症状が軽微(「勉強が苦手だった」「話し始めるのが遅かった」程度)あるいは無症状であるため、診断されずに社会生活を送っています。
- 子どもが発達の遅れなどで検査を受けた際に、初めて親の重複も判明する(不完全浸透・可変表現性)というパターンがよく見られます。
診断方法
臨床症状だけでは特徴がつかめないため、診断は困難です。発達遅滞やADHDの検査過程で、遺伝学的検査が行われて発見されます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 2q11.2領域のコピー数増加を検出し、その正確なサイズと、AFF3遺伝子などが含まれているかを特定できます。
- 従来のGバンド検査では、重複が微細な場合に見逃されることが多いため、CMAが必須です。
- 両親の解析(Parental Testing):
- お子さんに重複が見つかった場合、両親の検査を行うことが強く推奨されます。
- 意義: 親も同じ重複を持っていた場合、その親の健康状態や発達歴(「大人になれば普通に生活できる」など)は、お子さんの将来を予測する上で最も確かな情報源となります。これは、ご家族の安心材料となることが多いです。
治療方法
過剰な染色体領域を取り除くような根本的な治療法はありません。また、無症状であれば治療の必要もありません。
治療は、症状に応じた対症療法と、発達・学習面への療育的支援が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 言葉の遅れが目立つ場合、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。絵カードやサインなどの視覚支援も有効です。
- 運動療法:
- 筋緊張低下や運動のぎこちなさがある場合、理学療法(PT)や作業療法(OT)を通じて、身体の使い方を練習します。
- 教育的支援:
- 知的障害がなくても、学習障害(LD)やADHDの傾向がある場合は、学校での環境調整(座席の配慮、個別の課題設定など)や、通級指導教室の利用を検討します。
- お子さんの得意な学習スタイル(見て覚える、聞いて覚えるなど)を見つけることが大切です。
2. 行動・精神面のケア
- ADHDへの対応:
- 多動や衝動性が強く、日常生活や学習に支障が出る場合、環境調整に加えて、医師の判断により薬物療法が検討されることがあります。
- 心理的サポート:
- 「できないこと」を責めるのではなく、「できたこと」を褒めて自己肯定感を育む関わりが重要です。
3. 健康管理
- 定期検診:
- 特別な内臓の病気がなければ、頻繁な通院は不要です。
- 就学前などに、視力・聴力のチェックや、歯科検診を受ける程度で十分な場合がほとんどです。
4. 遺伝カウンセリング
- 最も重要なケアの一つです。
- 診断の受け止め: 「染色体異常」と聞くと重い病気を想像しがちですが、「重複」は「欠失」に比べて症状がマイルドで、健康に生活できる可能性が高いことを理解することが大切です。
- 親が保因者だった場合: 「自分のせいで」と罪悪感を感じる必要はありません。多くの人が何らかの遺伝的変異を持っています。健康な親から受け継がれたということは、むしろ「良性な変化である可能性」を示唆するポジティブな情報でもあります。
まとめ
2q11.2 duplication syndromeは、2番染色体の一部が増えることで生じる体質です。
この疾患は、同じ場所が欠ける「欠失症候群」とは異なり、著しい低身長などの身体的な特徴はほとんど見られません。
主な特徴は、「言葉がゆっくり」「じっとしているのが苦手」といった、発達や行動の面に現れます。
診断を受けた時、ご家族は驚かれるかもしれませんが、この重複を持っていても、全く症状がなく、元気に社会で活躍している人(親御さんを含む)がたくさんいます。
つまり、この重複があるからといって、将来が悲観的なもので決定づけられているわけではありません。
大切なのは、お子さんの「現在の困り感」に寄り添うことです。
言葉の練習や、学習のサポートなど、その時のお子さんに合った療育を行えば、お子さんはその子なりのペースで着実に成長していきます。
特別な医療処置が必要になることは稀です。
医師、心理士、教育者とチームを組み、お子さんのユニークな個性を理解し、その成長を温かく見守っていきましょう。
参考文献
- Riley, B.M., et al. (2010). A 3.1 Mb microdeletion of 2q11.2 associated with developmental delay and dysmorphic features.
- (※2q11.2欠失症候群の主要論文だが、AFF3遺伝子の機能や、この領域のCNV(コピー数変異)のメカニズムについて詳細に解説しており、重複症候群を理解する上でも基礎となる文献。)
- Metsu, S., et al. (2014). AFF3 microdeletions: a distinct 2q11.2 microdeletion syndrome phenotype?
- (※AFF3遺伝子の機能に焦点を当てた研究。脳の発達におけるAFF3の重要性と、遺伝子量効果(Dosage effect)について考察している。)
- Deciphering Developmental Disorders Study: Genotype-phenotype data for 2q11.2 duplications.
- (※世界的なデータベース(DECIPHER)において、この領域の重複を持つ患者の臨床データ(言語遅滞、ADHD傾向、あるいは無症状など)が集積されており、多様な症状の幅が確認できる。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q11.2 microdeletions and duplications (2019).
- (※患者家族向けに、欠失と重複の違い、症状の幅広さ、親が保因者である場合の考え方などを平易にまとめたガイドブック。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: AFF3.
- (※AFF3遺伝子のトリプロセンシティ(重複による影響)に関する科学的評価。重複が神経発達障害のリスクとなる可能性について、エビデンスレベルが評価されている。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


