別名・関連疾患名
- 2q13欠失症候群
- 2q13微細欠失症候群(2q13 microdeletion syndrome)
- 2q13モノソミー(Monosomy 2q13)
- 2q13コピー数変異(欠失)(2q13 copy number variant, deletion)
- 関連:若年性ネフロン癆(Nephronophthisis 1; NPHP1)
- 関連:ジュベール症候群(Joubert syndrome)
- ※この領域に含まれるNPHP1遺伝子が、本症候群(片方の欠失)と、これらの劣性遺伝疾患(両方の欠失・変異)の両方に関わるため、重要な関連疾患となります。
対象染色体領域
2番染色体 長腕(q)13領域
本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)にある「13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と特徴】
2q13領域は、遺伝学的に「再発性欠失(Recurrent deletion)」が起こりやすいホットスポットとして知られています。
- 欠失サイズ: 最も典型的な欠失サイズは約1.7メガベース(Mb)です。
- 位置: ゲノム座標(hg19)では、およそ chr2:110,800,000 – 112,500,000 付近に位置します。
【含まれる重要な遺伝子】
この領域にはいくつかの遺伝子が含まれていますが、症状との関連で特に重要なのは以下の遺伝子です。
- NPHP1 (Nephrocystin 1):
- 最重要の遺伝子です。
- 腎臓の尿細管や、脳、網膜にある「繊毛(せんもう)」という構造の機能に関わります。
- ヘテロ接合体(片方欠失=本症候群): 通常、腎臓病は発症しませんが、稀に嚢胞ができたり、発達遅滞に関与したりする可能性があります。
- ホモ接合体(両方欠失): もし、もう片方の染色体にも欠失や変異があると、「若年性ネフロン癆」や「ジュベール症候群」という重篤な疾患(腎不全や小脳奇形)になります。そのため、2q13欠失が見つかった場合は、必ず「もう片方は大丈夫か?」を確認する必要があります。
- BCL2L11 (BCL2 Like 11):
- アポトーシス(細胞死)の制御に関わる遺伝子です。
- 脳の神経発達や、免疫細胞の調節に関与しており、本症候群における**「脳のサイズ(小頭症など)」や「リンパ球減少」**などに関わっている可能性があります。
- MALL (Mal, T-Cell Differentiation Protein Like):
- 詳しい機能は研究段階ですが、神経系での発現が見られ、発達への影響が推測されています。
- FBLN7 (Fibulin 7):
- 歯や骨の形成に関わる可能性があり、一部の患者さんに見られる骨格の特徴に関連しているかもしれません。
発生頻度
比較的高い(Common among rare disorders)
正確な発生頻度は確立されていませんが、染色体微細欠失の中では比較的頻度が高い部類に入ります。
- 一般集団: 健康な人を含む一般集団における頻度は、約3,000〜4,000人に1人程度と推測されています。
- 臨床集団: 発達遅滞や自閉スペクトラム症(ASD)を持って検査を受けた患者さんの中では、約0.5%〜1%程度の頻度で見つかります。
これは、2q13欠失が「必ず病気を起こすわけではないが、発達障害のリスクを高める因子」として広く浸透していることを示しています。
臨床的特徴(症状)
2q13 deletion syndromeの症状は、**「神経発達症(発達障害)」が主体ですが、「不完全浸透(Incomplete Penetrance)」**が非常に顕著であるため、無症状の人から、複数の症状を持つ人まで、個人差が極めて大きいです。
1. 神経発達・認知機能
最も一般的な受診理由は、乳幼児期の発達の遅れです。
- 発達遅滞(DD):
- 全体的な発達のゆっくりさが見られます。
- 特に**「言語発達遅滞(Speech delay)」**が多く、言葉が出始めるのが遅い、文章で話すのが苦手といった特徴があります。
- 知的障害(ID):
- 軽度の知的障害が見られることがありますが、中等度以上の重い障害は稀です。
- 知能指数(IQ)は正常範囲内(Normal IQ)であることも多く、学習障害(LD)として現れる場合もあります。
- 行動特性:
- 自閉スペクトラム症(ASD): 社会性の苦手さやこだわりなど。
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD): 落ち着きのなさ、不注意など。
- これらの特性を持つ頻度が、一般集団より高いことが分かっています。
2. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)
「この病気特有」という強い特徴(特異的顔貌)はありません。
- 顔貌:
- 高い前頭部(おでこが広い)、眼間開離(目が離れている)、小さめの口、下顎後退などが報告されていますが、非常に軽微であり、家族に似ている範囲内であることがほとんどです。
- 頭囲:
- 小頭症(頭が小さい)が見られるケースと、大頭症(頭が大きい)が見られるケースがあり、一定しません(BCL2L11遺伝子の影響などが推測されています)。
3. 神経・筋骨格系の特徴
- 筋緊張低下(Hypotonia):
- 乳幼児期に体が柔らかく、お座りや歩行の開始が遅れる原因となります。
- 運動機能:
- 協調運動障害(不器用さ)や、バランス感覚の弱さが見られることがあります。
4. 腎臓・その他の合併症(要注意)
- 腎・泌尿器系の異常:
- NPHP1遺伝子が含まれているため、腎臓の嚢胞(のうほう)や、腎低形成などが稀に見られることがあります。
- ほとんどの患者さんは腎機能正常ですが、定期的なチェックは推奨されます。
- 心疾患:
- 先天性心疾患(心室中隔欠損症など)が約15〜20%程度に見られるとの報告がありますが、軽度で自然治癒するものも含まれます。
- その他:
- 免疫系の弱さ(風邪をひきやすい)、反復性中耳炎、視力の問題(斜視など)が報告されています。
原因
2番染色体長腕(2q13)における約1.7Mbの微細欠失が原因です。
1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)
なぜ、2q13領域は欠失しやすいのでしょうか?
この領域の両端には、DNA配列がそっくりな「LCR(Low Copy Repeats)」または「分節重複(Segmental Duplications)」と呼ばれるブロックが存在しています。
精子や卵子が作られる減数分裂の際、このそっくりな配列同士が誤ってペアを組み、染色体の組換えエラー(NAHR)を起こすことで、この区間がすっぽりと抜け落ちてしまいます。
これは構造的な「脆さ」によるものであり、親の生活習慣などが原因ではありません。
2. 遺伝形式と不完全浸透
- 家族性(Inherited)の頻度が高い:
- 本疾患の最大の特徴です。
- 診断されたお子さんの約半数以上において、親(父または母)も同じ欠失を持っています。
- 親は「無症状」であったり、「少し勉強が苦手だった」程度で社会生活を送っていたりするため、自分が欠失を持っていることに気づいていません。
- これを**「不完全浸透」**と呼びます。欠失を持っていても、必ずしも症状が出るとは限らないのです。
3. 多因子遺伝的な考え方(Susceptibility Factor)
なぜ親は無症状で、子に症状が出るのでしょうか?
近年では、2q13欠失は単独で病気を起こすというよりは、**「神経発達症になりやすくなるリスク因子(感受性因子)」**として働くと考えられています。
ここに、別の遺伝子の小さな変化や、環境要因などが「セカンド・ヒット(第2の要因)」として加わることで、初めて発達の遅れなどの症状として現れるという仮説(Two-hit hypothesis)が有力です。
診断方法
外見からは診断できないため、発達遅滞や自閉症の検査過程で、遺伝学的検査が行われて発見されます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 2q13領域の欠失を確実に検出し、その範囲にNPHP1などの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
- 両親の解析(Parental Testing):
- お子さんに欠失が見つかった場合、両親の検査を行うことが強く推奨されます。
- 意義: 親も同じ欠失を持っていた場合、その欠失自体の病原性は低い(良性寄り)と判断する材料になります。これは、ご家族の不安を軽減し、将来の見通しを立てる上で非常に重要です。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。
治療は、症状に応じた対症療法と、発達・学習面への療育的支援が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 言葉の遅れが目立つ場合、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
- 筋緊張低下がある場合、理学療法(PT)や作業療法(OT)を通じて、身体の使い方を練習します。
- 教育的支援:
- 知的障害がなくても、学習障害(LD)やADHDの傾向がある場合は、学校での環境調整や通級指導教室の利用を検討します。
- お子さんは「視覚的な情報処理」が得意な場合が多いため、絵や図を使った学習方法が有効です。
2. 医学的管理・サーベイランス(重要)
2q13欠失症候群特有の管理ポイントとして、腎臓のチェックが挙げられます。
- 腎臓超音波検査:
- 診断時に一度は腎臓のエコー検査を行い、嚢胞や形成異常がないか確認します。
- NPHP1遺伝子が関与しているため、稀に若年性ネフロン癆のリスク(もし片親からNPHP1変異を受け継いでいた場合)を否定するためにも、尿検査や血圧測定を含めた定期的な腎機能チェック(数年に1回など、主治医と相談)が推奨されます。
- 眼科・聴覚:
- 視力や聴力の検査を行い、異常があれば早期に対応します。
3. 遺伝カウンセリング
- 最も重要なケアの一つです。
- 「親からの遺伝」への理解:
- 親が同じ欠失を持っていた場合、「自分のせいで」と深く悩まれることがあります。
- しかし、これは誰のせいでもない自然な現象です。また、健康な親から受け継がれたということは、むしろ**「この欠失があっても健康に生きられる可能性が高い」**という、お子さんにとっての希望の光(ポジティブな予後因子)でもあります。
- 次子のリスク:
- 親が保因者の場合、次子へ遺伝する確率は50%です。しかし、遺伝しても同じように症状が出るとは限らないため、慎重なカウンセリングが必要です。
まとめ
2q13 deletion syndromeは、2番染色体の一部が欠けることで生じる体質です。
この診断名を聞くと驚かれるかもしれませんが、実はこの欠失は、一般の人の中にも一定数(数千人に1人)存在し、気づかずに生活している人も多い「ありふれた微細欠失」の一つです。
お子さんに言葉の遅れや、こだわりの強さなどがあり、検査の結果この欠失が見つかったとしても、それが「将来ずっと続く重い障害」を意味するわけではありません。
多くの患者さんは、内臓の病気などは持たず、健康に成長します。知的にも正常範囲であることも多く、ゆっくりながらも学校生活や社会生活に適応していきます。
この欠失は、病気の「原因」というよりは、「発達がゆっくりになるタイプ」「個性が強くなるタイプ」の体質を持っている、と捉えるのが一番近いかもしれません。
ただし、腎臓の遺伝子が含まれているため、念のために定期的な健康診断だけは受けておくと安心です。
療育や教育的なサポートがあれば、お子さんはその子なりのペースで着実に力をつけていきます。
「遺伝子の欠失」という言葉に縛られすぎず、目の前にいるお子さんの「得意なこと」や「好きなこと」を伸ばしてあげてください。
参考文献
- Yu, S., et al. (2012). 2q13 deletion syndrome: report of 23 new patients and review of the literature.
- (※2q13欠失を持つ23名の患者データを詳細に解析し、発達遅滞、軽度の顔貌異常、不完全浸透の高さなど、本症候群の臨床的特徴を定義づけた重要論文。)
- Russell, B., et al. (2014). 2q13 microdeletions: clinical and molecular characterization of a new neurodevelopmental susceptibility locus.
- (※2q13欠失が特定の疾患を引き起こすというよりは、神経発達障害の「感受性因子(リスク因子)」として働くことを、大規模なコホート解析から示した文献。)
- Biswas, K., et al. (2016). 2q13 microdeletion: A case series and literature review of a recurrent microdeletion associated with neurodevelopmental abnormalities.
- (※NPHP1遺伝子やBCL2L11遺伝子の機能と、臨床症状(小頭症や発達遅滞)との関連について考察したレビュー。)
- Baris, H.N., et al. (2006). Microdeletions of 2q13 are associated with juvenile nephronophthisis.
- (※NPHP1遺伝子を含む2q13欠失が、複合ヘテロ接合体となった場合にネフロン癆を引き起こすリスクについて警告した重要な臨床報告。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q13 microdeletions (2019).
- (※患者家族向けに、症状の幅広さ、親が保因者である場合の考え方、腎臓のチェックの必要性などを平易にまとめたガイドブック。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: NPHP1, BCL2L11.
- (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。NPHP1の単独欠失(ヘテロ)は通常良性または低浸透率と評価されている。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


