2q13 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 2q13重複症候群
  • 2q13微細重複症候群(2q13 microduplication syndrome)
  • 2q13トリソミー(Trisomy 2q13)
  • 2q13コピー数変異(重複)(2q13 copy number variant, duplication)
  • 関連:2q13欠失症候群(2q13 deletion syndrome)
    • ※本疾患と同じ領域が欠失する、対(つい)となる疾患です。欠失の方が臨床症状(腎疾患リスクなど)が明確であることが多いです。

対象染色体領域

2番染色体 長腕(q)13領域

本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)にある「13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と「再発性」の理由】

2q13領域は、ヒトゲノムの中でも構造変化が起きやすい「ホットスポット」の一つです。

重複するサイズは患者さんによって異なりますが、最も典型的なのは**約1.7メガベース(Mb)**の重複です。

この領域の両端には、DNA配列が互いによく似た「LCR(Low Copy Repeats)」と呼ばれるブロックが存在しており、細胞分裂の際にこれらが誤ってペアを組むことで、欠失や重複が発生しやすくなっています(NAHRメカニズム)。

【含まれる重要な遺伝子】

この領域にはいくつかの遺伝子が含まれています。重複(トリプロセンシティ)による影響についてはまだ研究段階の部分もありますが、以下の遺伝子が注目されています。

  • NPHP1 (Nephrocystin 1):
    • 最も有名な遺伝子です。
    • 欠失の場合: 両方の染色体で欠失・変異すると「若年性ネフロン癆(腎不全に至る病気)」や「ジュベール症候群」の原因となります。
    • 重複の場合(本疾患): 遺伝子が増えることによる腎臓への悪影響は、欠失の場合ほど明確ではありません。現時点では、重複単独で重篤な腎疾患を引き起こすリスクは低いと考えられていますが、発達への関与が示唆されています。
  • BCL2L11 (BCL2 Like 11):
    • アポトーシス(プログラムされた細胞死)を制御する遺伝子です。
    • 脳の発生過程において、不要な神経細胞を整理するプロセスに関わっています。
    • この遺伝子が過剰になることで、神経回路の形成や脳の容積(頭囲)に微細な影響を与え、発達特性につながる可能性があります。
  • MALL (Mal, T-Cell Differentiation Protein Like):
    • 神経系や免疫系での発現が見られ、機能的な関連が推測されています。

発生頻度

比較的高い(Common among rare disorders)

正確な発生頻度は確立されていませんが、染色体微細重複の中では比較的頻度が高い部類に入ります。

発達遅滞や自閉スペクトラム症(ASD)などの症状でマイクロアレイ検査を受けた患者さんの集団では、約0.3%〜0.5%程度の頻度で見つかるとの報告があります。

しかし、一般の健康な集団(コントロール群)の中にも、この重複を持っている人が一定数(数千人に1人程度)存在することが分かっています。

つまり、**「重複を持っていても病院に来ない(診断されない)人」**が潜在的に多数存在しており、実際の頻度は報告されているよりも高いと考えられます。

臨床的特徴(症状)

2q13 duplication syndromeの臨床像は、**「極めて多様」であり、「無症状から軽度の発達遅滞まで」**幅広いスペクトラムを持ちます。

多くの場合、身体的な奇形や重篤な内臓疾患は伴いません。

1. 不完全浸透(Incomplete Penetrance)

この疾患を理解する上で最も重要なキーワードです。

2q13重複を持っていても、必ずしも「病気」としての症状が出るとは限りません。

  • 無症状の保因者:
    • 親御さんがこの重複を持っていても、全く健康で、学習や社会生活に何の問題もなかったというケースが非常に多いです。
    • お子さんに発達の遅れがあり、検査をして初めて「実は親も持っていた」と判明することがよくあります。
    • これは、この重複が「病気の決定的な原因」というよりは、**「発達の特性が出やすくなるリスク因子(感受性因子)」**として働いていることを示唆しています。

2. 神経発達・認知機能

症状が出る場合、最も一般的なのは発達面への影響です。

  • 発達遅滞(DD):
    • 言葉の遅れ(Speech delay)や、運動発達の遅れが見られることがあります。
    • 重篤な遅れというよりは、「全体的にゆっくり」というマイルドな表現型が多い傾向にあります。
  • 知的障害(ID):
    • 軽度の知的障害が見られることがありますが、境界域知能や**正常知能(Normal IQ)**であることも多いです。
    • 学習障害(LD)として、読み書きや計算に特異的な苦手さを持つ場合もあります。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD): 社会性の苦手さやこだわりなど。
    • 注意欠陥・多動性障害(ADHD): 落ち着きのなさ、不注意など。
    • これらの特性を持つ頻度が、一般集団よりやや高いことが分かっています。

3. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)

「この病気特有」という強い特徴(特異的顔貌)はありません。

  • 顔貌:
    • 高い前頭部(おでこが広い)、眼間開離(目が離れている)、小さめの口などが報告されていますが、非常に軽微であり、「家族に似ている」範囲内であることがほとんどです。
  • 頭囲:
    • 小頭症(頭が小さい)または大頭症(頭が大きい)が見られることがありますが、一定の傾向はありません。
    • BCL2L11遺伝子の過剰が脳のサイズに影響を与える可能性が研究されています。

4. 身体的健康・合併症

対となる「2q13欠失症候群」では腎臓の病気のリスクが懸念されますが、重複症候群ではどうでしょうか?

  • 腎・泌尿器:
    • 重複における腎疾患のリスクは低いとされていますが、稀に腎低形成や尿路の異常が報告されています。
  • 心疾患:
    • 心室中隔欠損症などの先天性心疾患が稀に見られることがありますが、頻度は高くありません。
  • その他:
    • 筋緊張低下(体が柔らかい)、成長障害(低身長)、視力の問題(斜視など)が報告されています。

原因

2番染色体長腕(2q13)における約1.7Mbの微細重複が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

この領域には、DNA配列がそっくりなブロック(LCR)が存在するため、細胞分裂の際に染色体の組換えエラーが起こりやすくなっています。

  • その結果、染色体の一部が「抜け落ちる(欠失)」細胞と、「倍になる(重複)」細胞が同時に生まれます。
  • 本疾患は、この「倍になった」染色体を受け継ぐことで発生します。

2. 遺伝子量効果と多因子遺伝

  • 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect):
    • 遺伝子が3コピーになることで、タンパク質が過剰に作られます。
    • BCL2L11などが過剰になることで、神経発達のバランスに微細な変化が生じると考えられていますが、なぜ症状が出る人と出ない人がいるのかは完全には解明されていません。
  • 多因子遺伝(Two-hit hypothesis):
    • 近年では、2q13重複は単独で症状を引き起こすというよりは、**「神経発達症への感受性(なりやすさ)を高める因子」**と考えられています。
    • ここに、他の遺伝子の小さな変化や、環境要因などの「第2の要因(セカンド・ヒット)」が加わった時に初めて、発達遅滞などの症状として現れるという説が有力です。

3. 遺伝形式:家族性の頻度が高い

  • De novo(新生突然変異):
    • 突然変異で発生することもあります。
  • 家族性(Inherited):
    • 本疾患は、**「親からの遺伝」**であるケースが非常に多いです。
    • 親は無症状であるため、自分が重複を持っていることに気づいていません。
    • 親が重複を持っている場合、性別に関わらず50%の確率で子に遺伝します。

診断方法

外見や症状だけでは診断できないため、発達遅滞や自閉症の検査過程で、遺伝学的検査が行われて発見されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 2q13領域のコピー数増加を検出し、その正確なサイズと、NPHP1遺伝子などが含まれているかを特定できます。
    • この検査により、欠失(Deletion)なのか重複(Duplication)なのかが明確になります。これは予後を考える上で重要です。
  • 両親の解析(Parental Testing):
    • お子さんに重複が見つかった場合、両親の検査を行うことが強く推奨されます。
    • 意義: もし親も同じ重複を持っていた場合、その重複の病原性は低い(良性寄り)か、あるいは不完全浸透であると判断されます。
    • 親が健康であれば、お子さんも将来的に健康に生活できる可能性が高いという、安心材料になることが多いです。

治療方法

過剰な染色体領域を取り除くような根本的な治療法はありません。また、無症状であれば治療の必要もありません。

治療は、症状に応じた対症療法と、発達・学習面への療育的支援が中心となります。

1. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 言葉の遅れがある場合、言語聴覚療法(ST)を活用します。
    • 筋緊張低下や運動のぎこちなさがある場合、理学療法(PT)や作業療法(OT)を通じて、身体の使い方を練習します。
  • 教育的支援:
    • 知的障害がなくても、ADHDや学習障害の傾向がある場合は、学校での環境調整(座席の配慮、個別の課題設定など)や、通級指導教室の利用を検討します。
    • 「視覚優位(見て理解するのが得意)」なお子さんが多い傾向があるため、視覚支援を取り入れた学習が有効です。

2. 健康管理

  • 定期検診:
    • 重篤な合併症は少ないですが、念のため診断時に一度は全身のチェック(心エコー、腹部エコーなど)を行い、隠れた異常がないか確認します。
    • その後は、通常の乳幼児健診や学校健診で、成長や視力・聴力を確認していく程度で十分な場合がほとんどです。
    • 欠失症候群のような腎臓病リスク(ネフロン癆)は、重複症候群では通常懸念されませんが、異常な所見があれば泌尿器科を受診します。

3. 遺伝カウンセリング

  • 最も重要なケアの一つです。
  • 診断の受け止め: 「染色体異常」と聞くと不安になりますが、「重複」は「欠失」に比べて症状がよりマイルド、あるいは無症状であることも多いです。ネット上で「2q13」と検索すると「腎不全(欠失の情報)」が出てきてしまうことがありますが、混同しないように注意が必要です。
  • 親が保因者だった場合: 「遺伝させてしまった」と自分を責める必要はありません。多くの人が何らかの遺伝的変異を持っています。健康な親から受け継がれたということは、むしろ「良性な変化である可能性」を示唆するポジティブな情報でもあります。

まとめ

2q13 duplication syndromeは、2番染色体の一部が増えることで生じる体質です。

この疾患の大きな特徴は、「持っているけれど症状がない」人がたくさんいるということです。

お子さんに言葉の遅れや、こだわりの強さなどがあり、検査の結果この重複が見つかったとしても、それが「重い病気」を意味するわけではありません。

むしろ、健康なお父さんやお母さんも同じ重複を持っていて、今まで気づかずに元気に過ごしてきた、ということがよくあります。

これは、この重複が病気の「原因」そのものというよりは、「発達がゆっくりになるかもしれないタイプ」の体質を表していると捉えるのが一番近いです。

特別な手術や入院が必要になることは稀です。

言葉の練習や、学習のサポートなど、その時のお子さんの「困り感」に合わせた療育を行えば、お子さんはその子なりのペースで着実に成長していきます。

インターネット上の情報(特に欠失症候群の重い症状)に惑わされず、遺伝の専門家と連携して、正しい知識を持ってお子さんの成長を見守っていきましょう。

参考文献

  • Riesch, E., et al. (2019). Variable phenotype in 2q13 microduplication syndrome: Clinical and molecular characterization of 11 patients.
    • (※2q13重複を持つ11名の患者データを解析し、発達遅滞、ASD、ADHDなどの症状が見られる一方で、不完全浸透や家族性遺伝の頻度が高いことを報告した重要論文。)
  • Russell, B., et al. (2014). 2q13 microdeletions: clinical and molecular characterization of a new neurodevelopmental susceptibility locus.
    • (※欠失に関する論文だが、対照群として重複(Duplication)についても解析しており、2q13領域のCNVが神経発達障害の「感受性因子」であることを示している。)
  • Yu, S., et al. (2012). 2q13 deletion syndrome: report of 23 new patients and review of the literature.
    • (※2q13領域の再発性CNVのメカニズム(NAHR)や、LCR構造について詳細に解説しており、重複症候群の発生機序を理解するための基礎文献。)
  • Costain, G., et al. (2013). Pathogenic rare copy number variants in community-based schizophrenia patients.
    • (※統合失調症などの精神疾患患者において、2q13重複などのCNVがリスク因子として検出される頻度について検討した研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q13 microduplications (2019).
    • (※患者家族向けに、欠失との違い、症状の幅広さ、親が保因者である場合の考え方などを平易にまとめたガイドブック。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: NPHP1, BCL2L11.
    • (※各遺伝子のトリプロセンシティ(重複による影響)に関する科学的評価。現時点では重複による重篤な病原性の証拠は限定的(Little evidence)とされている。)

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