別名・関連疾患名
- 2q24微細欠失症候群
- 2q24欠失症候群(2q24 deletion syndrome)
- 2q24モノソミー(Monosomy 2q24)
- 関連:SCN1A関連発作性疾患(SCN1A-related seizure disorders)
- 関連:ドラベ症候群(Dravet syndrome / 乳児重症ミオクロニーてんかん)
- ※本症候群の欠失領域にSCN1A遺伝子が含まれる場合、ドラベ症候群の表現型(重症型)を示すことが多いため、非常に密接な関連があります。
- 関連:大田原症候群、ウェスト症候群(点頭てんかん)
- ※発症初期にこれらのてんかん性脳症の形をとることがあります。
対象染色体領域
2番染色体 長腕(q)24領域(2q24.1 – 2q24.3)
本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)にある「24」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と「ナトリウムチャネルクラスター」】
2q24領域は、脳の神経細胞の興奮を制御するために極めて重要な遺伝子が集まっている場所です。
特に重要なのが、**「電位依存性ナトリウムチャネル遺伝子群(SCNクラスター)」**です。この領域には、以下の遺伝子が隣り合って並んでいます。
- SCN1A (Sodium Voltage-Gated Channel Alpha Subunit 1):
- 最重要の責任遺伝子です。
- 脳の抑制性ニューロン(興奮を抑える神経)の活動に不可欠なナトリウムチャネルを作ります。
- この遺伝子が欠失すると、脳のブレーキが効かなくなり、激しいてんかん発作(ドラベ症候群など)を引き起こします。
- SCN2A:
- 興奮性ニューロンに関わるチャネルです。この遺伝子の欠失も、てんかんや自閉スペクトラム症、知的障害に深く関与します。
- SCN3A:
- 胎児期や乳児期の脳発達に関わるとされています。
- GPD2, GALNT3:
- 欠失範囲が広い場合、これらの遺伝子も失われ、骨代謝やその他の身体症状に関与する可能性があります。
【遺伝子型と表現型の相関】
2q24微細欠失症候群は、単なるドラベ症候群(SCN1Aの点変異が原因の場合が多い)とは異なり、隣接するSCN2AやSCN3Aなども一緒にごっそりと欠失する**「隣接遺伝子症候群」**です。
そのため、典型的なドラベ症候群の症状に加え、より重度な発達遅滞や、特有の身体的特徴を合併する傾向があります。
発生頻度
極めて稀(Ultra-rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例から百例程度ですが、ドラベ症候群と診断されている患者さんの中に、詳細な染色体検査(マイクロアレイ)を行っていない染色体欠失例が含まれている可能性があります。
ドラベ症候群自体は2万〜4万人に1人とされていますが、そのうちの数%がこの微細欠失によるものと考えられています。
臨床的特徴(症状)
2q24 microdeletion syndromeの症状は、**「難治性てんかん」「重度の精神運動発達遅滞」「特徴的な顔貌・身体所見」**が3大特徴です。
特に、てんかん発作の管理が生活の中心となることが多いです。
1. てんかん(Epilepsy)
ほぼ全例(90%以上)で見られる、最も医学的対応を要する症状です。
- 発症時期:
- 非常に早期、多くは**生後1年以内(平均して生後3〜5ヶ月頃)**に発症します。
- 発作の特徴:
- 熱性けいれん重積: 発熱に伴って長時間(30分以上)続く発作が起こりやすいのが特徴です。入浴や予防接種後の発熱が誘引になることがあります。
- 多彩な発作型: 全般強直間代発作(大発作)、ミオクロニー発作(ピクッとする動き)、焦点発作、脱力発作など、成長とともに発作の形が変化することがあります。
- 難治性:
- 既存の抗てんかん薬が効きにくく(薬剤抵抗性)、発作のコントロールに難渋することが多いです。
2. 神経発達・認知機能
てんかん発作の影響に加え、遺伝子の欠失そのものによる脳発達への影響が見られます。
- 精神運動発達遅滞:
- 発症前(生後数ヶ月)までは順調に発達していても、発作の開始とともに発達が停滞、あるいは退行(できていたことができなくなる)することがあります。
- 重度の知的障害:
- 多くの場合、重度の知的障害を伴います。
- 言葉の獲得は限定的で、発語がない(Non-verbal)場合や、数語の単語のみの場合が多いです。
- 運動機能:
- 首すわりや歩行の遅れが見られます。
- 運動失調(Ataxia): 歩けるようになっても、ふらつきがあり、足を開いて歩く(ワイドベース)特徴的な歩き方が見られることがあります。
3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
点変異によるドラベ症候群では顔貌の特徴は少ないですが、染色体欠失である本症候群では、いくつかの特徴が見られることがあります。
- 高い前頭部(おでこが広い)。
- 幅広い鼻根部、鼻梁が低い。
- 長い人中(鼻の下)。
- 耳の位置が低い、耳介の変形。
- 上唇が薄い、口唇口蓋裂(稀)。
4. 筋骨格・その他の特徴
- 筋緊張低下(Hypotonia):
- 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達の遅れにつながります。
- 指の異常:
- 短指症(指が短い)、第5指の湾曲、手足が小さいなど。
- 成長:
- 出生時は正常範囲であることが多いですが、成長とともに低身長や小頭症(頭が小さい)を呈することがあります。
- 行動特性:
- 多動、注意散漫、自閉スペクトラム症(ASD)様の特徴(こだわり、常同行動)が見られることがあります。
原因
2番染色体長腕(2q24)における微細欠失が原因です。
1. ナトリウムチャネルの機能不全
脳の神経細胞は、電気信号を使って情報のやり取りをしています。この電気信号を生み出すために必要なのが「ナトリウムチャネル」という細胞のドアです。
- SCN1A欠失の影響:
- 抑制性ニューロン(興奮を鎮める神経)にあるナトリウムチャネルが不足します。
- これにより、ブレーキ役の神経が働かず、脳全体が異常に興奮しやすい状態(暴走状態)になり、てんかん発作が起きます。
- 隣接遺伝子の影響:
- SCN2AやSCN3Aなども同時に欠失することで、てんかんの重症度や発症時期、発達障害の程度に複雑な修飾が加わります。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 2q24微細欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
- この場合、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
- 家族性(稀):
- 親が均衡型転座を持っている場合など、稀に遺伝性のケースがあります。
診断方法
「早期発症の難治性てんかん」と「発達遅滞」がある場合、特に発熱による発作誘発が見られる場合に強く疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 2q24領域の微細な欠失を検出し、その範囲にSCN1Aなどの重要遺伝子が含まれているかを正確に特定できます。
- 従来のGバンド検査や、単一遺伝子検査(SCN1Aシークエンス)では、染色体欠失の全容が分からないため、CMAが必須です。
- 遺伝子パネル検査 / 全エクソーム解析:
- てんかん遺伝子パネルなどでSCN1Aのコピー数異常(CNV)として検出されることもあります。
治療方法
欠失した染色体を修復する治療法はありません。
治療は、てんかん発作のコントロールを中心とした対症療法と、発達を支える包括的なケアとなります。
1. てんかん薬物療法(最重要:禁忌薬に注意)
SCN1A機能不全がある場合、使用する薬の選択には細心の注意が必要です。**「使ってはいけない薬」**があることが大きな特徴です。
- 有効性が期待される薬:
- バルプロ酸(VPA)、クロバザム(CLB)、トピラマート(TPM)、スチリペントール(STP)、臭化カリウム(KBr)、フェンフルラミンなど。
- 近年、ドラベ症候群に対してカンナビジオール(CBD)製剤も承認されています。
- 避けるべき薬(増悪リスクあり):
- ナトリウムチャネル遮断薬は、症状を悪化させる恐れがあるため、原則として使用を避けます。
- 例:カルバマゼピン(CBZ)、ラモトリギン(LTG)、フェニトイン(PHT)、オクスカルバゼピンなど。
- ※診断前にこれらの薬が処方され、発作が悪化しているケースがあるため、遺伝学的診断の意義は極めて大きいです。
2. 発熱時の管理・重積予防
- 発熱対策:
- 発熱は発作の強力な引き金になります。感染症予防を徹底し、発熱時は早めに解熱剤を使用したり、体を冷やしたりするなどの対応が必要です。
- 重積時の対応:
- 発作が止まらない(重積状態)場合は、ブコラム(ミダゾラム口腔用液)やダイアップ(ジアゼパム坐剤)などの救急薬を使用し、速やかに医療機関を受診する体制(救急搬送計画)を整えておきます。
3. 発達・療育的支援
- 理学療法(PT)・作業療法(OT):
- 運動失調や低緊張に対し、身体機能の向上を目指します。歩行器などの補装具を使用することもあります。
- 言語聴覚療法(ST):
- 発語が少ない場合、絵カードやジェスチャー、AAC(補助代替コミュニケーション)を活用し、意思伝達の手段を確保します。
- 摂食指導:
- 嚥下機能に問題がある場合、食事形態の工夫や経管栄養の管理を行います。
4. 家族支援と遺伝カウンセリング
- てんかん発作への常時の備えが必要なため、ご家族の精神的・身体的負担は大きいです。
- 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから、疾患の予後、薬の注意点、次子のリスクについて正確な情報を得ることが大切です。
- 訪問看護やレスパイトケア(短期入所)などの福祉資源を積極的に活用し、家族が休息できる体制を作ることが重要です。
まとめ
2q24 microdeletion syndromeは、脳の電気信号を調節する重要な遺伝子(SCN1Aなど)が欠失することで起こる疾患です。
生後まもなくから、お熱が出た時などをきっかけに、強いてんかん発作を起こすことが特徴です。
ご家族にとって、繰り返す発作や、なかなか言葉が出ないといった発達の遅れは、大きな不安の種かと思います。
しかし、この病気の原因が「SCN1A遺伝子の欠失」だと分かることは、治療において非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、「使ってはいけないてんかん薬」を避け、「効果が期待できる薬」を的確に選ぶことができるようになるからです。
正しい診断は、お子さんを守るための最大の武器になります。
てんかんの管理は長期戦になりますが、成長とともに発作の傾向が変わったり、落ち着いたりすることもあります。
また、言葉での会話が難しくても、お子さんは表情や身振りでたくさんのことを伝えてくれます。
主治医(小児神経専門医)、薬剤師、訪問看護師、療育スタッフと強固なチームを作り、お子さんの安全を守りながら、日々の成長を一緒に支えていきましょう。
参考文献
- Heron, S.E., et al. (2010). Extended spectrum of early-onset epilepsy and intellectual disability linked to the SCN1A gene.
- (※SCN1A遺伝子の点変異だけでなく、2q24欠失が重篤なてんかん性脳症の原因となることを示し、遺伝子型と表現型の相関を詳細に解析した重要論文。)
- Pereira, S., et al. (2004). Severe epilepsy, retardation, and dysmorphic features following a 2q deletion including SCN1A and SCN2A. Neurology.
- (※SCN1AとSCN2Aの両方を含む欠失を持つ患者の臨床像を報告。点変異によるドラベ症候群よりも重篤な身体的特徴や発達遅滞が見られることを指摘。)
- Møller, R.S., et al. (2013). Difficulties in phenotype-genotype correlations in SCN1A-related epilepsy.
- (※SCN1A関連疾患の多様性について、欠失例を含めて検討したレビュー。隣接遺伝子の影響による「ドラベ症候群プラス」の概念について考察。)
- Pescucci, C., et al. (2011). 2q24-q31 deletion: report of a case and review of the literature.
- (※2q24領域の欠失範囲と臨床症状の関連をレビューし、各遺伝子(SCNクラスター以外も含む)の役割についてまとめた文献。)
- GeneReviews® [Internet]: SCN1A Seizure Disorders. Initial Posting: November 29, 2007; Last Update: April 18, 2019. Authors: Miller IO, et al.
- (※ドラベ症候群を含むSCN1A関連疾患の診断、治療(禁忌薬含む)、管理に関する包括的なガイドライン。欠失例についても言及あり。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q24 deletions (2020).
- (※患者家族向けに、てんかんの管理、発熱時の対応、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


