別名・関連疾患名
- 2q37欠失症候群
- 2q37微細欠失症候群(2q37 microdeletion syndrome)
- 2q37モノソミー(Monosomy 2q37)
- 短指・精神遅滞症候群(Brachydactyly-mental retardation syndrome; BDMR)
- ※最も代表的な症状(指の短さと知的障害)を表した別名です。
- オルブライト遺伝性骨異栄養症様症候群(Albright hereditary osteodystrophy-like syndrome; AHO-like syndrome)
- ※顔つきや体型、短指症などの特徴が「偽性副甲状腺機能低下症(AHO)」に酷似しているためこう呼ばれますが、ホルモン異常(カルシウム値など)は伴わない点が異なります。
対象染色体領域
2番染色体 長腕(q)37領域
本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)の最も末端(テロメア側)に位置する「37」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と最重要遺伝子:HDAC4】
2q37領域は、さらに37.1、37.2、37.3というサブバンドに分かれています。
欠失のサイズや位置は患者さんによって異なりますが、本症候群の特徴的な症状(特に神経発達障害と骨格異常)を引き起こす決定的な要因(クリティカルリージョン)は、2q37.3領域に含まれるHDAC4 (Histone Deacetylase 4) 遺伝子にあることが解明されています。
- HDAC4遺伝子の役割(脳と骨の司令塔):
- HDAC4は、「ヒストン脱アセチル化酵素」というタンパク質を作ります。これはDNAが巻き付いているヒストンというタンパク質の構造を変化させ、他の遺伝子のスイッチをオフにする(転写抑制)役割を持っています。
- 脳への作用: 脳の神経細胞(ニューロン)の発達、シナプスの可塑性、記憶形成に関わる遺伝子群を制御しています。
- 骨への作用: 軟骨細胞が骨へと変わるプロセス(軟骨内骨化)を制御しており、骨の成長を適切なタイミングで止める役割があります。
- ハプロ不全: この遺伝子が半分(欠失)になると、脳の発達プログラムに異常が生じて「知的障害・自閉症」になり、骨の制御が効かなくなることで「短指症」などの骨格異常が生じると考えられています。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
1989年に初めて報告されて以来、世界で100例以上の報告がありますが、希少疾患の一つです。
しかし、特徴的な身体所見(短指症など)が目立たない軽症例や、自閉スペクトラム症として診断されているケースの中に、未診断の患者さんが含まれている可能性があり、実際の頻度はもう少し高いと推測されます。
男女差はなく、性別に関係なく発生します。
臨床的特徴(症状)
2q37 deletion syndromeの症状は多岐にわたりますが、**「短指症」「知的障害」「行動特性(自閉傾向)」「肥満」**が4大特徴です。
これらの症状は年齢とともに変化し、乳幼児期は筋緊張低下、学童期以降は肥満や行動の問題が目立ってくる傾向があります。
1. 骨格・四肢の特徴(Brachydactyly type E)
本症候群の最も特徴的な身体所見であり、診断の重要な手がかりです。
- 短指症E型(Brachydactyly type E):
- 手足の指の骨(中手骨・中足骨)が短くなるタイプです。
- 特に**第3指(中指)、第4指(薬指)、第5指(小指)**が短くなる傾向があります。
- 手を握って拳を作った時に、本来あるはずの拳の骨(ナックル)が凹んで見えることがあります。
- この症状は、乳幼児期には目立たず、成長とともに(2歳以降〜学童期)明らかになることが多いです。
- 低身長・肥満:
- 幼児期までは正常な成長曲線を示すことが多いですが、学童期以降に過食傾向や代謝の変化により肥満になるリスクが高いです。
- 身長は平均的か、やや低めとなる傾向があります。
- その他の骨格異常:
- 脊柱側弯症、関節の過伸展(体が柔らかい)、股関節脱臼など。
2. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅がありますが、多くは軽度〜中等度です。
- 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著で、運動発達の遅れも見られます。
- 筋緊張低下(Hypotonia):
- 乳児期に体が柔らかく、哺乳力が弱かったり、首すわりやお座りが遅れたりします。
- 成長とともに改善しますが、疲れやすさとして残ることがあります。
3. 行動・精神面の特性(Autism Spectrum Disorder)
- 自閉スペクトラム症(ASD):
- 患者さんの**約30〜50%**にASDの特性が見られます。
- 社会的コミュニケーションの苦手さ、反復行動(常同行動)、こだわり、感覚過敏などがあります。
- 2q37欠失は、遺伝性の自閉症の原因としても重要視されています。
- その他の行動特性:
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD)、攻撃性、自傷行為、睡眠障害などが報告されています。
- 明るく人懐っこい性格を持つお子さんも多いです。
4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
「オルブライト骨異栄養症」に似た、丸顔で愛らしい特徴を持ちます。
- 丸い顔(Round face)。
- 前頭部突出(おでこが広い)。
- アーチ状の眉毛、濃い眉毛。
- 深くくぼんだ目(Deep-set eyes)。
- 薄い上唇、人中(鼻の下)が明瞭。
- 耳の形の特徴(耳介の変形)。
5. その他の合併症
約20〜30%の患者さんに内臓奇形が見られます。
- 神経系: てんかん発作(約20〜35%)、脳梁の低形成、脳室拡大。
- 心疾患: 心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、大動脈縮窄症など。
- 腎・泌尿器: 馬蹄腎、嚢胞腎、水腎症など。
- 消化器: 胃食道逆流症(GERD)、幽門狭窄症。
- 皮膚: 湿疹が出やすい傾向があります。
- 腫瘍リスク: HDAC4遺伝子変異を持つ一部の家系でウィルムス腫瘍(小児腎がん)の報告がありますが、2q37欠失全体としての明確な発がんリスク上昇は確立されていません。しかし、定期的な健診は重要です。
原因
2番染色体長腕末端(2q37)における欠失が原因です。
1. 責任遺伝子 HDAC4のハプロ不全
症状の多くは、HDAC4遺伝子が片方失われること(ハプロ不全)で説明がつきます。
- 骨への影響: HDAC4は、骨の成長板において、軟骨が骨に変わるのを「抑制」する働きがあります。これが不足すると、骨化が早く進みすぎてしまい、結果として指の骨が早く成長を止めてしまい「短指症」になります。
- 脳への影響: 脳の発達に必要な遺伝子群の制御が乱れ、知的障害や自閉症につながります。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 2q37欠失症候群の**大部分(約95%)**は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
- 染色体の末端が切れてしまう(Terminal deletion)ケースが一般的です。
- 親の年齢などが原因ではありません。次子への再発リスクは低いです。
- 家族性(稀):
- 親が均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっている)を持っている場合、不均衡な欠失として子に遺伝することがあります。
- ごく稀に、親自身も2q37欠失を持っている(症状が軽いため未診断だった)ケースもあります。
診断方法
「短指症」「知的障害」「肥満傾向」の組み合わせから疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 2q37領域の欠失を検出し、その正確なサイズと、HDAC4遺伝子が含まれているかを特定できます。
- 従来のGバンド検査では、末端の微細な欠失は見逃されることがあるため、CMAが必須です。
- FISH法:
- 2q37領域(サブテロメア)に特異的なプローブを用いたFISH法でも診断可能です。
- レントゲン検査:
- 手足のレントゲンを撮り、中手骨・中足骨の短縮(短指症E型)を確認します。これは診断の強力な裏付けとなります。
- 鑑別診断(重要):
- 偽性副甲状腺機能低下症(PHP / Albright遺伝性骨異栄養症): 顔つきや短指症がそっくりですが、こちらはホルモン異常(低カルシウム血症、高リン血症、PTH高値)があります。2q37欠失症候群では、血液検査(カルシウム、PTH)は正常です。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。
治療は、合併症の管理、発達支援、そして体重管理が中心となります。
1. 肥満・代謝管理(重要)
学童期以降、急激な体重増加が見られることがあります。
- 栄養指導:
- 早期からバランスの取れた食事と、カロリー摂取のコントロールを行います。
- 肥満は睡眠時無呼吸症候群や糖尿病のリスクを高めるため、家族ぐるみの生活習慣管理が大切です。
- 運動療法:
- 無理のない範囲で運動習慣を身につけます。
2. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 筋緊張低下や発達遅滞に対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
- 自閉スペクトラム症への対応:
- 構造化された環境作りや、応用行動分析(ABA)、SST(ソーシャルスキルトレーニング)などが有効です。
- こだわりやパニックがある場合、その背景にある不安や感覚過敏に配慮した対応を行います。
- 教育的支援:
- 特別支援学級や通級指導教室など、個々の発達段階に合わせた教育環境を選択します。
3. 医学的管理・サーベイランス
- 神経学的管理:
- てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
- 定期検診:
- 心疾患や腎疾患の合併がないか、診断時に心エコー・腹部エコーで確認します。
- 側弯症の進行がないか、整形外科的なチェックを行います。
- 聴力検査や眼科検診も定期的に行います。
4. 遺伝カウンセリング
- 親が均衡型転座保因者である可能性を除外するため、両親の染色体検査を検討します。
- 診断後の見通しや、きょうだいへの影響について、専門家から正確な情報を得ることが不安の軽減につながります。
まとめ
2q37 deletion syndromeは、2番染色体の端っこ(末端)が欠失することで起こる希少な疾患です。
この疾患のお子さんは、赤ちゃんの頃は体が柔らかく、発達がゆっくりですが、成長するにつれてニコニコとした愛らしい丸顔になり、人懐っこい性格を見せることが多いです。
特徴的なこととして、手足の指(特に中指・薬指・小指)が短く、握りこぶしを作ると骨の出っ張り(ナックル)がえくぼのように凹むことがあります。また、自閉症のようなこだわりを持っていたり、少し太りやすかったりする体質もあります。
診断名を聞いて、「染色体異常」という言葉に不安を感じられたかもしれません。
しかし、この病気の原因遺伝子であるHDAC4の役割が分かってきたことで、どのようなケアが必要かが明確になってきました。
特に大切なのは、早期からの療育で「言葉」や「社会性」を育むこと、そして将来の肥満を防ぐために、小さい頃から「健康的な食習慣」を身につけることです。
てんかんや心臓の病気が隠れていないか、定期的なチェックも忘れずに受けましょう。
指の短さは、生活に大きな支障をきたすことは少なく、むしろその子のチャームポイントでもあります。
医師、心理士、栄養士、そして学校の先生とチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を一緒に支えていきましょう。
参考文献
- Falk, R.E., et al. (2007). 2q37 deletion syndrome: clinical characteristics and natural history.
- (※2q37欠失症候群の臨床的特徴、自然歴、合併症の頻度などを網羅的に調査した重要文献。)
- Leroy, C., et al. (2013). The 2q37-deletion syndrome: an update of the clinical spectrum including overweight and behavioural problems. European Journal of Human Genetics.
- (※肥満や行動障害(自閉症、多動)に焦点を当て、年齢に伴う症状の変化について報告した論文。)
- Williams, S.R., et al. (2010). Haploinsufficiency of HDAC4 causes brachydactyly mental retardation syndrome, with brachydactyly type E, developmental delays, and behavioral problems. American Journal of Human Genetics.
- (※HDAC4遺伝子のハプロ不全が、2q37欠失症候群の主要な症状(短指症、知的障害、行動異常)の原因であることを決定づけた画期的な研究。)
- Villavicencio-Lorini, P., et al. (2013). Clinical and molecular characterization of 2q37 deletions.
- (※欠失範囲と臨床症状の相関(Genotype-Phenotype Correlation)を解析し、2q37.3領域の重要性を示した文献。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q37 deletion syndrome (2018).
- (※患者家族向けに、発達の目安、行動面への対応、体重管理のコツなどを平易にまとめたガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: 2q37 Deletion Syndrome. Initial Posting: July 19, 2011; Last Update: January 20, 2022. Authors: Morris B, et al.
- (※診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)
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