3p25.3 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 3p25.3欠失症候群
  • 3p25.3微細欠失症候群(3p25.3 microdeletion syndrome)
  • 3p25.3モノソミー(Monosomy 3p25.3)
  • 遠位3p欠失症候群(Distal 3p deletion syndrome)の一部
    • ※歴史的には、3番染色体短腕末端の欠失を総称して「3p-症候群(3p minus syndrome)」と呼んでいました。本疾患はその中でも「25.3」領域に限局したものを指しますが、臨床症状は3p-症候群と多く重なります。
  • 関連:フォン・ヒッペル・リンドウ病(Von Hippel-Lindau disease; VHL)
    • ※欠失領域にVHL遺伝子が含まれる場合、この疾患のリスク管理が必要となります。
  • 関連:SETD5関連障害 / BRPF1関連障害
    • ※本症候群の知的障害や顔貌の特徴の主な原因となる遺伝子です。

対象染色体領域

3番染色体 短腕(p)25.3領域

本疾患は、ヒトの3番染色体の短腕(pアーム)の末端に近い「25.3」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

3p25.3領域は、遺伝子密度が高く、発生や腫瘍抑制に関わる重要な遺伝子が密集している領域です。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

この領域の欠失は、隣接する3p26領域まで及ぶ「末端欠失(Terminal deletion)」の一部として見つかることもあれば、3p25.3領域だけが抜けている「中間欠失(Interstitial deletion)」として見つかることもあります。

近年、この領域に含まれるSETD5、BRPF1、VHLなどの遺伝子の欠失が、本症候群の主要な症状を形成していることが明らかになっています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

広義の「3p-症候群(3番染色体短腕欠失)」全体としては、出生50,000〜100,000人に1人程度の頻度と推定されていますが、「3p25.3」に限局した欠失の報告数は世界でも数十例〜百例程度にとどまります。

しかし、マイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、これまで「原因不明の発達遅滞」や「自閉スペクトラム症」と診断されていた方の中から、この微細欠失が見つかるケースが増えてきています。

性別による発生頻度の差は報告されていません。

臨床的特徴(症状)

3p25.3 deletion syndromeの症状は、**「成長障害」「知的障害・発達遅滞」「特徴的な顔貌」の3つが中核となりますが、欠失範囲にVHL遺伝子が含まれる場合は、将来的な「腫瘍リスク」**への配慮が医学的に最も重要になります。

1. 成長・身体的特徴

  • 子宮内発育遅延(IUGR) / 低出生体重:
    • 妊娠中から胎児が小さめであり、出生時も低体重(SGA児)であることが多いです。
  • 出生後の成長障害:
    • 身長や体重の増えが緩やかで、低身長となる傾向があります。
  • 小頭症(Microcephaly):
    • 頭囲が小さく、小顔の印象を与えることがあります。これは脳の容量が小さいことを反映している場合があります。

2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

3p-症候群に共通する、愛らしくも特徴的なお顔立ちが見られます。

  • 眼の特徴:
    • 眼瞼下垂(Ptosis): まぶたが下がっていることが非常に多く、本症候群の代表的な特徴です。
    • 眼間開離(目が離れている)、内眼角贅皮(目頭の皮膚の被さり)。
  • 耳の特徴:
    • 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳介の形が単純、あるいは後方に回転している。
  • 鼻・口:
    • 鼻が短い、鼻根部が低い。
    • 人中(鼻の下)が長い。
    • 小顎症(あごが小さい)、薄い上唇。
  • その他:
    • 眉毛がつながっている(Synophrys)場合もあります。

3. 神経発達・認知機能

  • 知的障害(ID):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度の知的障害を伴います。
    • SETD5BRPF1遺伝子の欠失が大きく関与しています。
  • 言語発達遅滞:
    • 言葉の理解・表出ともに遅れる傾向があります。
  • 運動発達遅滞:
    • 筋緊張低下(体が柔らかい)を伴うことが多く、首すわりや歩行開始が遅れます。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD): 社会性の苦手さ、こだわり、常同行動などが見られる頻度が高いです。
    • 多動、注意散漫、強迫的な行動が見られることもあります。

4. 腫瘍リスク(VHL遺伝子関連・最重要)

もし欠失範囲にVHL遺伝子が含まれている場合、**「フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)」**と同様の管理が必要になります。

  • 血管芽腫: 小脳や網膜、脊髄に血管の塊のような腫瘍ができることがあります。
  • 腎細胞がん: 腎臓にがんができるリスクがあります。
  • 褐色細胞腫: 副腎などの腫瘍により、高血圧などを引き起こすことがあります。
  • ※注意: すべての3p25.3欠失患者さんがVHL病になるわけではありません。欠失範囲にVHL遺伝子が含まれているかどうかの確認が必須です。

5. その他の合併症

  • 心疾患: 心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、房室中隔欠損症(AVSD)などの先天性心疾患(約30%程度)。
  • 腎・泌尿器: 水腎症、多嚢胞腎など。
  • 聴覚: 感音性難聴(ATP2B2遺伝子欠失に関連)。
  • 消化器: 胃食道逆流症、哺乳困難。
  • 骨格: 多指症(指が多い)が見られることがありますが、これは3p25-26領域の欠失に特徴的です。

原因

3番染色体短腕(3p25.3)における微細欠失が原因です。

1. 責任遺伝子のハプロ不全

この領域には、神経発達や腫瘍抑制に重要な遺伝子が並んでおり、それらがまとめて失われる(隣接遺伝子症候群)ことで多彩な症状が現れます。

  • SETD5 (SET Domain Containing 5):
    • 知的障害・自閉症の主要因です。
    • ヒストンメチル化に関わる遺伝子で、脳の神経細胞の遺伝子発現を調節しています。この遺伝子の変異や欠失は、知的障害や特徴的な顔貌を引き起こすことが知られています(SETD5関連障害)。
  • BRPF1 (Bromodomain And PHD Finger Containing 1):
    • ヒストンアセチル化に関わり、脳の発達を制御します。
    • この遺伝子の欠失も、知的障害、眼瞼下垂、発達遅滞の原因となります(BRPF1関連障害)。
  • VHL (Von Hippel-Lindau Tumor Suppressor):
    • 強力ながん抑制遺伝子です。
    • 通常2つある遺伝子のうち1つが失われると、残りの1つに変異が起きた際(Two-hit theory)に、細胞増殖のブレーキが効かなくなり、特定の腫瘍ができやすくなります。
  • ATP2B2:
    • カルシウムポンプに関わる遺伝子で、欠失すると難聴のリスクが高まります。
  • SRGAP3:
    • 神経回路の形成に関わり、重度の知的障害や筋緊張低下に関連するとされています。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 3p25.3欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
    • 両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは低いです。
  • 家族性(親の転座):
    • 親が「均衡型転座(場所が入れ替わっている)」や「逆位」などの構造異常を持っている場合、子に不均衡な欠失が生じることがあります。
    • 親が同じ微細欠失を持っている(家族性)ケースは稀ですが、表現型がマイルドな場合はあり得ます。

診断方法

特徴的な顔貌(眼瞼下垂など)や発達遅滞から疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 3p25.3領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズと、特にVHL遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • VHLが含まれているか否かは、その後の人生における検診プラン(サーベイランス)を大きく左右するため、極めて重要です。
  • FISH法:
    • 3p末端欠失(3p-)を疑う場合に行われることがありますが、微細な中間欠失は見逃す可能性があります。
  • 両親の染色体検査:
    • 欠失が確認された後、両親の検査を行い、転座などの構造異常がないかを確認します。これにより次子のリスク評価を行います。

治療方法

欠失した染色体を修復する治療法はありません。

治療は、症状に応じた対症療法、発達を促す療育、そしてVHL遺伝子欠失例に対する**厳重なサーベイランス(定期検査)**が柱となります。

1. 腫瘍サーベイランス(VHL遺伝子欠失例)

もしVHL遺伝子が欠失に含まれている場合、症状がなくても以下の定期検査が推奨されます(VHL病のガイドラインに準ずる)。早期発見・早期治療が生命予後を改善します。

  • 眼科検査: 網膜血管芽腫のチェック(幼児期から)。
  • 腹部超音波/MRI: 腎臓や副腎、膵臓の腫瘍チェック(小児期〜成人期)。
  • 頭部・脊髄MRI: 中枢神経系の血管芽腫チェック(思春期以降など)。
  • 血圧測定・血液検査: 褐色細胞腫の兆候がないか確認。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 筋緊張低下や発達遅滞に対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
  • 眼瞼下垂への対応:
    • まぶたが下がって視界を遮る場合、視力発達(弱視予防)のために手術を行うことがあります。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導やAAC(補助代替コミュニケーション)の導入を行います。
  • 教育:
    • 特別支援教育を含め、お子さんの発達段階に合わせた学習環境を整えます。

3. 合併症管理

  • 心疾患: 定期的な経過観察や、必要に応じた手術を行います。
  • 聴覚: 難聴がある場合、補聴器の使用や聴覚活用を行います。
  • 栄養: 哺乳困難や成長障害に対し、栄養指導や経管栄養によるサポートを行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理: 「3p-症候群」という古い病名と、「3p25.3欠失」という詳細な診断では、情報の精度が異なります。特にVHL遺伝子の有無によるリスクの違いについて、専門家から正確な説明を受けることが大切です。
  • 家族支援: 将来の腫瘍リスクに対する不安(VHL関連)は大きいため、心理的なサポートを含めた継続的なカウンセリングが必要です。

まとめ

3p25.3 deletion syndromeは、3番染色体の先端近くの一部が欠けることで起こる希少な疾患です。

この疾患のお子さんは、まぶたが下がっている(眼瞼下垂)などの愛らしい特徴的なお顔立ちや、小柄な体格、そしてゆっくりとした発達のペースを持っています。

ご家族にとって、発達の遅れは心配な要素かと思いますが、多くのお子さんは明るく、療育を通じてコミュニケーション能力を伸ばしていきます。

この病気で医学的に最も重要なポイントは、欠失した部分に**「VHL遺伝子」が含まれているかどうか**です。

もし含まれている場合は、将来的な腫瘍のリスクに備えて、定期的に眼科や超音波の検査を受ける必要があります。「病気になるかもしれない」と聞くと怖いかもしれませんが、これは逆に言えば「定期検診さえ受けていれば、何かあっても早期に見つけて完全に治せる」という、強力な武器を持っていることと同じです。

検査のスケジュールさえ守れば、過度に恐れる必要はありません。

眼瞼下垂の手術や、補聴器の使用、心臓のケアなど、それぞれの症状には専門の治療法があります。

医師、遺伝カウンセラー、療育スタッフとチームを組み、定期検診をペースメーカーにして、お子さんの健やかな成長を見守っていきましょう。

参考文献

  • Kellogg, G., et al. (2013). Distinct phenotypes associated with deletions of 3p25.3 versus 3p26. American Journal of Medical Genetics Part A.
    • (※3p末端欠失(3p26)と中間欠失(3p25.3)の臨床像を比較し、3p25.3欠失特有の症状(SETD5やBRPF1関連の知的障害など)を明確にした重要論文。)
  • Kuechler, A., et al. (2015). De novo mutations in SETD5 cause a recognizable neurodevelopmental syndrome. Nature Genetics.
    • (※3p25.3領域に含まれるSETD5遺伝子の単独変異が、3p欠失症候群の主要な症状(知的障害、顔貌)を引き起こすことを証明した研究。)
  • Yan, H., et al. (2017). BRPF1 mutations are associated with a recognizable developmental disorder with intellectual disability, speech delay, ptosis, and facial dysmorphism.
    • (※3p25.3領域のもう一つの重要遺伝子BRPF1の機能喪失が、眼瞼下垂や言語障害などの3p-様症状の原因であることを特定した文献。)
  • Maher, E.R., et al. (2011). Von Hippel-Lindau Disease: A Clinical and Scientific Review.
    • (※VHL病の包括的なレビュー。3p欠失によるVHL遺伝子欠失例における腫瘍リスクとサーベイランスの重要性について言及。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 3p deletions (2019).
    • (※患者家族向けに、3p欠失(3p-症候群)全般の症状、発達の経過、VHL遺伝子欠失時の対応などを平易にまとめたガイドブック。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: VHL, SETD5, BRPF1.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。VHLの欠失は腫瘍リスクと関連し、SETD5/BRPF1は神経発達障害と関連することが支持されている。)

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