別名・関連疾患名
- 3q21重複症候群
- 3q21微細重複症候群(3q21 microduplication syndrome)
- 3q21トリソミー(Trisomy 3q21)
- 部分的トリソミー3q(Partial trisomy 3q)
- ※3q21から末端(qter)までを含む広範囲な重複の場合、このように呼ばれることが多いです。
- 3q重複症候群(Duplication 3q syndrome)
- 関連:コルネリア・デ・ランゲ症候群(Cornelia de Lange syndrome; CdLS)様表現型
- ※3q21-q26領域の重複は、多毛や特徴的な顔貌がCdLSに酷似するため、鑑別が必要な疾患として挙げられます。
対象染色体領域
3番染色体 長腕(q)21領域
本疾患は、ヒトの3番染色体の長腕(qアーム)の中間付近にある「21」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細と隣接遺伝子症候群】
3q21領域の重複には、主に以下の2つのパターンがあります。
- 中間重複(Interstitial duplication): 3q21領域(例えば3q21.1から3q21.3など)だけが局所的に重複しているタイプ。
- 末端重複(Terminal duplication)の一部: 3q21から染色体の端(qter)までが連続して重複している「3q重複症候群」の始点となるタイプ。これは、親の染色体転座に由来する場合によく見られます。
この領域には、発生や細胞分化に重要な遺伝子が多数含まれており、それらが過剰になる(トリプロセンシティ)ことで、身体や脳の発達に影響を与えます。
【含まれる重要な遺伝子と関連性】
- GATA2 (GATA Binding Protein 2): 3q21.3に位置します。血液細胞の産生や血管、内耳の発達に関わる重要遺伝子です。この遺伝子の変異や欠失は免疫不全症などを引き起こしますが、重複による過剰発現も造血システムや特定の組織発生に影響を与える可能性があります。
- MME (Membrane Metalloendopeptidase): 神経機能に関わる遺伝子で、重複範囲に含まれることがあります。
- CdLS関連領域: 3q21-q26領域の重複が「コルネリア・デ・ランゲ症候群」に似た症状を引き起こすことから、この領域には顔面形成や毛髪の成長制御に関わる重要な遺伝子ネットワーク(コヒーシン複合体関連など)が存在すると考えられています。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
染色体異常全体の中では、3番染色体長腕の部分重複は比較的よく報告される(世界で数百例以上)部類に入りますが、3q21に限局した重複は稀です。
しかし、「3q21から末端まで」の重複を含めると、部分トリソミー症候群として一定の認知度があります。
親が「均衡型転座」を持っている場合の不均衡転座として生じることが多く、その場合は家系内に複数人発生する可能性があります。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
3q21 duplication syndromeの臨床像は、**「多毛・特徴的な顔貌」「重度の精神発達遅滞」「内臓奇形」が3大特徴です。
特に、「コルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)」**に似た外見(多毛、つながり眉、長いまつ毛など)を示すことが、診断の大きな手がかりとなります。
1. 特徴的な顔貌・皮膚所見
他の染色体異常と比較しても、非常に特徴的なお顔立ちを示します。
- 多毛症(Hypertrichosis):
- 全身の毛が濃い、背中や額に産毛が多いといった特徴がよく見られます。
- 眉・目の特徴:
- 連眉(Synophrys): 左右の眉毛がつながっている。
- 濃い眉毛、長いまつ毛。
- 眼間開離(目が離れている)、眼瞼裂斜下(タレ目)、眼瞼下垂。
- 鼻・口の特徴:
- 鼻梁が広い、鼻先が上を向いている(短鼻)。
- 人中(鼻の下)が長い。
- 薄い上唇、口角が下がっている(への字口)。
- 小顎症(あごが小さい)、口蓋裂を合併することもあります。
- 耳:
- 低位付着耳(耳の位置が低い)、耳介の変形。
2. 神経発達・認知機能
重複範囲が広いほど、症状は重くなる傾向があります。
- 知的障害(ID):
- 中等度から重度の知的障害を伴うことが一般的です。
- 3q21に限局した小さな重複であれば軽度の場合もありますが、3q21-qterのような大きな重複では重度となり、生涯にわたる支援が必要となることが多いです。
- 精神運動発達遅滞:
- 首すわり、お座り、歩行開始などの運動発達が遅れます。
- 歩行獲得後も、バランスが悪かったり、不器用さが残ったりすることがあります。
- 言語発達遅滞:
- 言葉の理解・表出ともに遅れます。発語がない(Non-verbal)ケースや、身振りや単語でのコミュニケーションが中心となるケースもあります。
- 行動特性:
- 多動、自閉スペクトラム症(ASD)様の特徴(こだわり、常同行動)、自傷行為、攻撃性などが見られることがあります。
3. 身体的成長・骨格
- 子宮内発育遅延(IUGR):
- 出生時の体重が小さめであることが多いです。
- 成長障害:
- 出生後も体重増加不良や低身長が見られることがありますが、欠失症候群(3p-など)に比べると、体格は比較的保たれている、あるいは平均的な場合もあります。
- 四肢の異常:
- 手足が小さい。
- 短指症(Brachydactyly): 指が短い。
- 側弯症や関節拘縮が見られることがあります。
4. 合併症(内臓・感覚器)
生命予後に関わる重要な合併症が含まれます。
- 心疾患(約40〜50%):
- 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)、ファロー四徴症など、先天性心疾患の合併率が高いです。
- 腎・泌尿器系(約30%):
- 水腎症、腎低形成、嚢胞腎。
- 男児では停留精巣、尿道下裂、小陰茎などがよく見られます。
- 眼科疾患:
- 緑内障、白内障、斜視、眼振、小眼球症など、視力に関わる異常が高い頻度で報告されており、早期の眼科検診が必須です。
- その他:
- てんかん発作、難聴、消化管奇形(腸回転異常など)。
原因
3番染色体長腕(3q21)を含む領域の重複が原因です。
1. 発生機序の分類
この症候群において、発生機序の特定は、次子の再発リスクを知る上で極めて重要です。
- 家族性(親の転座由来):
- 頻度が高いパターンです。
- 親のどちらかが**「均衡型転座」**(3番染色体と他の染色体の間で、場所が入れ替わっているが遺伝子の量は正常)を持っている場合があります。
- 親自身は健康ですが、生殖細胞(精子・卵子)が作られる際に染色体の配分がアンバランスになり、子に「3q21部分の重複(と、相手の染色体の欠失)」が生じます。
- この場合、染色体検査(Gバンドなど)で親の転座が確認されると、次子への再発リスクや、きょうだい・親族への遺伝カウンセリングが必要になります。
- De novo(新生突然変異):
- 両親の染色体は正常で、受精の過程で偶然、3q21領域が重複してしまうケースです。
- この場合、次子への再発リスクは低いです。
2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
- 3q21領域の遺伝子が3コピー(1.5倍)になることで、タンパク質が過剰に作られます。
- 特に、顔面形成や脳神経系の発達に関わる遺伝子のバランスが崩れることが、CdLS様顔貌や知的障害の直接的な原因となります。
- 重複範囲が広い(3q21-qter)場合、SOX2(3q26.33に位置する重要遺伝子)なども重複に含まれることがあり、これにより眼球異常などの症状が修飾されます。
診断方法
「多毛」「特徴的な顔貌」「発達遅滞」「心疾患」の組み合わせから疑われますが、確定診断には染色体検査が必要です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 3q21領域の重複を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、含まれる遺伝子を特定できます。
- 単なる3q21の重複なのか、他の染色体の欠失を伴う(転座由来の)不均衡なのかを詳細に分析できます。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 3q21を含む大きな重複(3q21-qterなど)の場合、顕微鏡によるこの検査でも診断可能です。
- 重要: 転座が疑われる場合、両親のGバンド検査が強く推奨されます。
- 画像検査(エコー・MRI):
- 心臓、腎臓、脳の構造異常をチェックするために行われます。
治療方法
重複した染色体を元に戻す治療法はありません。
治療は、合併症に対する外科的・内科的治療と、発達を促す**療育(ハビリテーション)**が中心となります。
1. 合併症の管理(生命予後の改善)
- 心疾患の治療:
- 心室中隔欠損症などの心疾患がある場合、薬物療法による心不全管理や、手術による修復を行います。循環器専門医による定期的なフォローが必要です。
- 眼科的治療:
- 緑内障や白内障は、放置すると失明につながるため、早期発見・早期治療(点眼、手術)が極めて重要です。
- 腎・泌尿器:
- 尿路感染症の予防や、停留精巣の手術などを行います。
- てんかん:
- 発作がある場合、抗てんかん薬によるコントロールを行います。
2. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、できるだけ早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張のバランスを整え、お座りや歩行などの粗大運動の発達を促します。
- 作業療法(OT):
- 手先の不器用さを改善し、食事や着替えなどの日常生活動作(ADL)の自立を目指します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、個々の理解度に合わせたコミュニケーション指導を行います。絵カードやサインの活用も有効です。
- 教育:
- 特別支援学校や支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を整えます。
3. 健康管理・サーベイランス
- 定期的な全身チェック:
- 成長(身長・体重)のモニタリング。
- 視力・聴力の定期検査。
- 歯科検診(歯並びや虫歯のケア)。
4. 遺伝カウンセリング
- 最も重要なプロセスの一つです。
- 親の検査: 親が均衡型転座を持っているかどうかで、次子のリスクが大きく変わります(数%〜数十%)。
- 家族への支援: 親族内に同じ転座を持つ方がいる可能性があるため、家系図を作成し、必要に応じて親族への情報提供について相談します。
- 将来の見通し: 症状の個人差が大きいため、長期的な生活のイメージや、利用できる福祉制度について情報提供を受けます。
まとめ
3q21 duplication syndromeは、3番染色体の一部が重複することで起こる疾患です。
この疾患のお子さんは、キリッとした濃い眉毛や長いまつ毛、少し毛深いといった、とても印象的で愛らしいお顔立ちをしていることが多いです。これは「コルネリア・デ・ランゲ症候群」という別の疾患に似ていると言われることもあります。
生まれた時に、心臓の穴や、おしっこの通り道の病気が見つかることもありますが、医療の進歩により適切な手術や治療を受けることができます。
特に気をつけていただきたいのは「目」のことです。緑内障などが見つかることがあるので、小さいうちから眼科で診てもらうことが大切です。
発達に関しては、ゆっくりなペースではありますが、お座りができたり、歩けるようになったりと、その子なりに着実に成長していきます。
ご家族にとって、「染色体異常」や「親の遺伝かもしれない」という話は、大きな不安や葛藤を生むかもしれません。
しかし、遺伝子の変化は誰にでも起こりうる自然なことであり、誰のせいでもありません。大切なのは、今のお子さんの状態を正しく知り、必要なサポートを行うことです。
言葉での会話が難しくても、笑顔や身振りでたくさんの気持ちを伝えてくれます。
医師、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Faas, B.H., et al. (2002). Evaluation of the 3q21q26 duplication syndrome/Cornelia de Lange syndrome phenotype correlation.
- (※3q21-q26重複症候群とCdLSの臨床的類似性について詳細に検討し、遺伝子型と表現型の相関を解析した重要文献。)
- Aqua, M.S., et al. (1995). Duplication 3q syndrome: molecular delineation of the critical region.
- (※3q重複症候群の責任領域(クリティカルリージョン)を分子レベルで特定し、3q21-qter重複の臨床像を定義した基礎的研究。)
- Raggio, V., et al. (2004). Pure distal 3q21.3-q25.2 duplication.
- (※他の染色体異常を伴わない、純粋な3q中間重複の症例報告。臨床的特徴(多毛、心疾患など)を詳細に記述。)
- Schinzel, A. (2001). Catalogue of Unbalanced Chromosome Aberrations in Man.
- (※染色体不均衡による症候群を網羅したカタログ。3q重複症候群の典型的な顔貌や合併症頻度についての統計的データ。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Duplications of 3q (2018).
- (※患者家族向けに、発達の目安、合併症(特に眼科・心臓)への対応、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: Cornelia de Lange Syndrome. (For differential diagnosis comparison).
- (※鑑別疾患であるCdLSの遺伝学的背景や臨床的特徴についての参照元。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


