別名・関連疾患名
- 3q26微細重複症候群
- 3q26重複症候群(3q26 duplication syndrome)
- 3q26トリソミー(Trisomy 3q26)
- 3q26コピー数変異(重複)(3q26 copy number variant, duplication)
- SOX2重複症候群(SOX2 duplication syndrome)
- ※3q26.33領域にあるSOX2遺伝子が重複に含まれる場合、眼球異常などの主症状を引き起こすため、こう呼ばれることがあります。
- 関連:コルネリア・デ・ランゲ症候群(Cornelia de Lange syndrome; CdLS)様表現型
- ※3q26を含む3番染色体長腕の重複は、CdLSによく似た外見(多毛、特徴的顔貌)を呈するため、鑑別が必要となります。
- 関連:3q重複症候群(Duplication 3q syndrome)
- ※より広範囲(3q21-qterなど)の重複の一部として3q26が含まれる場合もあります。
対象染色体領域
3番染色体 長腕(q)26領域
本疾患は、ヒトの3番染色体の長腕(qアーム)の末端に近い「26」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
3q26領域(3q26.1, 3q26.2, 3q26.3)は、発生生物学的に非常に重要な領域です。
重複のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)の局所的なものから、数メガベース(Mb)に及ぶものまで様々です。
この症候群の症状、特に「目」と「顔つき」の特徴を決定づける責任遺伝子(クリティカルリージョン)として、以下の遺伝子が重要視されています。
【含まれる重要な遺伝子】
- SOX2 (SRY-Box Transcription Factor 2): 3q26.33に位置。
- 最重要の責任遺伝子です。
- 胎児期における眼球の発生、脳下垂体や前脳の発達を制御するマスター転写因子です。
- 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect):
- SOX2は「少なすぎても(欠失)、多すぎても(重複)、正常な眼が作られない」という、量のバランスが非常にシビアな遺伝子です。
- 欠失: 無眼球症・小眼球症症候群(SOX2 Anophthalmia Syndrome)の原因となります。
- 重複(本疾患): 興味深いことに、重複しても同様に**「小眼球症」や「コロボーマ(眼の欠損)」**を引き起こすことが知られています。これは、過剰なSOX2タンパク質が正常な発生プロセスを阻害するためと考えられています。
- TNFSF10 (TRAIL): 3q26.32に位置。
- 細胞のアポトーシス(プログラム死)に関わる遺伝子です。
- NAALADL2:
- コルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)様の顔貌や多毛に関連する可能性がある遺伝子の一つとして研究されています。
- ECT2 / PIK3CA:
- 細胞増殖に関わる遺伝子であり、過成長や特定のがんリスクとの関連が研究されていますが、先天性重複症候群における役割は複雑です。
発生頻度
極めて稀(Ultra-rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
3番染色体長腕の部分重複全体としては世界で数百例の報告がありますが、「3q26微細重複」として限局した報告数は数十例規模にとどまります。
しかし、眼球異常(小眼球など)や特徴的な顔貌を持つ患者さんに対し、マイクロアレイ染色体検査(CMA)が行われるようになったことで、発見数は増加傾向にあります。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
3q26 microduplication syndromeの症状は、**「眼球の形成異常」「コルネリア・デ・ランゲ症候群様の顔貌」「発達遅滞」「内臓疾患」**が特徴です。
特に、SOX2遺伝子を含むかどうかで、目の症状の重症度が大きく変わります。
1. 眼球・視覚の異常(Ocular anomalies)
本症候群において最も医学的注意を要する症状の一つです。
- 小眼球症(Microphthalmia) / 無眼球症(Anophthalmia):
- 片方または両方の眼球が生まれつき小さい、あるいは形成されていないことがあります。
- SOX2遺伝子の重複例で特に高頻度に見られます。
- ぶどう膜コロボーマ(Coloboma):
- 虹彩(茶目)や網膜の一部が欠けている状態(鍵穴のような瞳孔)が見られます。
- その他:
- 白内障、視神経低形成、斜視、眼振など。
- これらは重度の視力障害につながる可能性があるため、早期の介入が必要です。
2. 特徴的な顔貌・皮膚所見(CdLS様)
「コルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)」に非常によく似たお顔立ちや皮膚の特徴を示します。
- 多毛症(Hypertrichosis):
- 全身の毛が濃い、背中や額に産毛が多い、髪の毛の生え際が低い。
- 眉・まつ毛:
- 連眉(Synophrys): 左右の眉毛がつながっている。
- 濃い眉毛、長くカールしたまつ毛。
- 鼻・口:
- 鼻梁が広い、鼻先が上を向いている(短鼻)。
- 人中(鼻の下)が長い、または平坦。
- 薄い上唇、口角が下がっている。
- 小顎症(あごが小さい)。
- 耳:
- 低位付着耳、耳介の変形。
3. 神経発達・認知機能
- 知的障害(ID):
- 多くの場合、中等度から重度の知的障害を伴います。
- SOX2重複のみの限局例では軽度の場合もありますが、重複範囲が広いほど重度になる傾向があります。
- 言語発達遅滞:
- 言葉の理解・表出ともに遅れます。発語がない(Non-verbal)場合や、身振りでのコミュニケーションが中心になることもあります。
- 運動発達遅滞:
- 筋緊張低下(Hypotonia)を伴い、首すわりや歩行開始が遅れます。
- てんかん:
- 一部の患者さんでけいれん発作が報告されています。
4. 身体的成長・骨格
- 子宮内発育遅延(IUGR):
- 出生時の体重が小さめであることが多いです。
- 成長障害:
- 出生後も体重増加不良や低身長が見られることがあり、摂食障害(哺乳困難、胃食道逆流)が影響している場合もあります。
- 骨格異常:
- 小頭症(Microcephaly)。
- 手足が小さい、短指症(指が短い)、第5指の湾曲。
- 股関節形成不全など。
5. その他の合併症
- 心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)などの先天性心疾患(約40-50%)。
- 尿路生殖器: 停留精巣(男児)、腎奇形(水腎症、低形成など)。
- 消化器: 腸回転異常症、幽門狭窄症など。
- 聴覚: 難聴の合併。
原因
3番染色体長腕(3q26)における微細重複が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 3q26微細重複の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。この場合、次子への再発リスクは低いです。
- 家族性(親の転座):
- 3q26を含む広範囲な重複(3q21-q26など)の場合、親のどちらかが**「均衡型転座」(染色体の場所が入れ替わっている)や「逆位」**を持っている可能性があります。
- 親が保因者の場合、染色体の不均衡が生じやすく、きょうだいでの再発リスクが高まります(数%〜数十%)。
2. トリプロセンシティ(Triplosensitivity)
遺伝子は「多ければ良い」わけではありません。通常2コピーある遺伝子が3コピーになると、タンパク質の量が増えすぎ、正常な発生プログラムが狂ってしまいます。
- SOX2のパラドックス: 通常、遺伝子が「欠失」すると機能不全になりますが、SOX2に関しては「重複」しても「欠失」と同じような症状(小眼球など)が出ます。
- これは、眼球形成のような精密なプロセスにおいて、SOX2の量が厳密に一定範囲内に制御されている必要があることを示しています。過剰なSOX2は、眼球のもととなる細胞の分化を妨げてしまうと考えられています。
診断方法
「眼球異常(小眼球)」「多毛・連眉」「発達遅滞」の組み合わせから疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 3q26領域の重複を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、SOX2遺伝子が含まれているかを特定できます。
- SOX2が含まれている場合、眼科的な予後管理が重要になります。
- 両親の染色体検査(Gバンド / FISH):
- お子さんの診断後、それが「突然変異」なのか「親の転座由来」なのかを確認するために行われます。これは次子のリスク評価や、親族への遺伝カウンセリングに不可欠です。
- 画像検査(MRI / エコー):
- 眼球の構造(視神経の状態)、脳、心臓、腎臓の奇形がないかを確認します。
治療方法
重複した染色体を元に戻す治療法はありません。
治療は、症状(特に眼と心臓)に対する対症療法と、発達を最大限に促す療育が中心となります。
1. 眼科的治療・視覚支援
- 小眼球・無眼球のケア:
- 視力が残っている場合は、弱視治療(眼鏡装用など)を行い、保有視力を最大限に活用できるようにします。
- 眼球が非常に小さい場合、顔面骨格(眼窩)の成長を促すために、義眼(コンフォーマー)を段階的に大きくしていく治療を行うことがあります。
- 視覚支援:
- 視覚障害がある場合、盲学校や視覚支援センターと連携し、触覚や聴覚を活用した発達支援(ロービジョンケア)を行います。
2. 合併症の管理
- 心疾患: 薬物療法や、必要に応じて手術を行います。
- 栄養管理: 哺乳困難や体重増加不良に対し、経管栄養や高カロリーミルクの使用を検討します。
- 尿路生殖器: 停留精巣の手術や、腎機能のフォローを行います。
3. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 視覚を考慮した療育:
- 視力に問題がある場合、一般的な療育プログラムを視覚障害児向けにアレンジする必要があります。
- コミュニケーション:
- 言葉の遅れに対し、聴覚や触覚を使ったコミュニケーション(サイン、実物提示など)を取り入れます。
4. 遺伝カウンセリング
- 親の染色体検査の結果に基づき、次子の再発リスクについて説明を受けます。
- 家族性の転座が見つかった場合、親族への影響についても相談します。
- 長期的な見通しや、利用できる福祉制度(身体障害者手帳、小児慢性特定疾病など)についての情報を整理します。
まとめ
3q26 microduplication syndromeは、3番染色体の一部が増えることで起こる希少な疾患です。
この疾患のお子さんは、キリッとした濃い眉毛や長いまつ毛、少し毛深いといった、とても印象的で愛らしいお顔立ちをしていることがあります。
また、生まれつき「目」が小さかったり、視力に影響が出る形をしていたりすることが医学的に重要な特徴です。
ご家族にとって、目のことや発達の遅れは大きな心配事かと思います。
しかし、目は小さくても、適切なケア(義眼調整や視覚支援)を行うことで、お子さんは残された感覚をフルに使って世界を認識し、成長していきます。
また、心臓の病気なども、医療の力で管理が可能です。
この疾患の原因であるSOX2遺伝子は、増えすぎても減りすぎても目に影響するという不思議な性質を持っています。このことが分かったおかげで、的確な診断と予測ができるようになりました。
発達のペースはゆっくりですが、療育を通じて、座れるようになったり、気持ちを伝えられるようになったりと、その子なりのステップを着実に進んでいきます。
眼科医、小児科医、視覚支援の専門家、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Toudjarska, I., et al. (2001). Molecular analysis of a 3q26.3-q27 duplication in a patient with clinical features of Cornelia de Lange syndrome.
- (※3q26重複がCdLS様顔貌を引き起こすことを分子レベルで解析し、SOX2遺伝子近傍の重要性を示唆した初期の重要論文。)
- Faas, B.H., et al. (2002). Evaluation of the 3q21q26 duplication syndrome/Cornelia de Lange syndrome phenotype correlation.
- (※3q重複症候群とCdLSの臨床的・遺伝学的関連を詳細に検討した文献。3q26領域がCdLS様表現型の中心であることを示している。)
- Doco-Fenzy, M., et al. (2010). A 3q26.31-q27.3 microduplication associated with early-onset severe intra-uterine growth retardation, mental retardation and congenital heart defects.
- (※3q26微細重複患者の症例報告。重度の成長障害や心疾患などの臨床特徴を詳細に記述。)
- Kantarci, S., et al. (2010). Microphthalmia associated with 3q26.33 microduplication involving the SOX2 gene.
- (※SOX2遺伝子を含む3q26.33微細重複が小眼球症の原因となることを明確にし、SOX2の遺伝子量効果(Triplosensitivity)を証明した重要論文。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Duplications of 3q (2018).
- (※患者家族向けに、発達の目安、視覚障害への対応、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: SOX2.
- (※SOX2遺伝子のトリプロセンシティ(重複による病原性)に関する科学的評価。重複が眼球異常や神経発達障害を引き起こすことのエビデンスが評価されている。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


