3q26-q27 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 3q26-q27欠失症候群
  • 3q26-q27微細欠失症候群(3q26-q27 microdeletion syndrome)
  • 3q26.33-3q27.2欠失症候群
    • ※この領域の欠失が報告された際、新たな症候群として提唱された名称です。
  • 3q27.3欠失症候群(3q27.3 microdeletion syndrome)
    • ※3q27領域に限局した欠失で、マルファン様体型などを特徴とする疾患単位です。
  • SOX2欠失症候群(SOX2 deletion syndrome / SOX2 anophthalmia syndrome)
    • ※欠失範囲に3q26.33(SOX2遺伝子)が含まれる場合、眼球異常が主症状となるため、臨床的にはこう呼ばれることが多いです。
  • 3q26-q27モノソミー

対象染色体領域

3番染色体 長腕(q)26から27領域

本疾患は、ヒトの3番染色体の長腕(qアーム)の末端に近い「26」から「27」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

この領域の欠失は、サイズが数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々であり、どの遺伝子が失われているかによって症状が大きく異なります。大きく分けて2つの重要なサブ領域(クリティカルリージョン)が存在します。

  • 3q26.33領域(SOX2遺伝子を含む):
    • SOX2 (SRY-Box Transcription Factor 2):
      • 眼球の発生や脳の発達を司るマスター遺伝子です。
      • この遺伝子が欠失に含まれると、**「無眼球症・小眼球症」**などの重篤な眼の形成異常が引き起こされます。
  • 3q27領域(SOX2を含まない):
    • この領域の欠失では、眼球異常は見られず、代わりに**「マルファン様体型(手足が細長い)」「精神症状(気分障害など)」**、特徴的な顔貌が見られることが報告されており、「3q27.3欠失症候群」として区別されることがあります。
    • 関連遺伝子として、EPHB3SSTなどが候補に挙がっていますが、完全な解明には至っていません。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における報告数は数十例規模にとどまります。

しかし、マイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及以前は、特徴的な身体所見が少ない(眼球異常がない場合など)軽症例が見逃されていた可能性があり、実際の頻度はもう少し高い可能性があります。

性別による発生頻度の差は報告されていません。

臨床的特徴(症状)

3q26-q27 deletion syndromeの症状は、**「成長障害」「発達遅滞」「特徴的な顔貌」を共通基盤としつつ、「眼球異常」**の有無によって大きく2つのタイプに分かれます。

1. 共通する特徴(General features)

欠失範囲に関わらず、多くの患者さんに共通して見られる症状です。

  • 重度の成長障害(Severe growth retardation):
    • 子宮内発育遅延(IUGR): 妊娠中から胎児が小さく、低出生体重で生まれることが多いです。
    • 出生後の成長障害: 生後も身長・体重の伸びが悪く、低身長となります。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 新生児期から乳児期にかけて体が柔らかく、哺乳力が弱いことが多いです。
  • 摂食障害(Feeding difficulties):
    • 哺乳困難、嚥下障害、胃食道逆流症(GERD)などが高頻度で見られ、経管栄養が必要になることもあります。
  • 発達遅滞・知的障害:
    • 全体的な発達の遅れ(GDD)が見られます。
    • 知的障害の程度は軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度です。

2. SOX2遺伝子を含む場合の特徴(3q26.33欠失)

  • 眼球形成異常(Ocular anomalies):
    • 無眼球症(Anophthalmia)または小眼球症(Microphthalmia):片方または両方の眼球が形成されない、あるいは極端に小さい状態。
    • 網膜形成不全や視神経低形成による重度の視力障害。
  • その他の合併症:
    • 食道閉鎖症、生殖器低形成(停留精巣、小陰茎など)、脳梁欠損などを合併することがあり、「SOX2症候群」としての全身管理が必要になります。

3. SOX2遺伝子を含まない場合の特徴(3q27欠失中心)

眼球異常は伴いませんが、独特の体型や精神面の特徴が現れます。

  • マルファン様体型(Marfanoid habitus):
    • 痩せ型で、手足の指が細長い(クモ状指)。
    • 皮下脂肪が少ない。
  • 顔貌の特徴:
    • 面長(細長い顔)。
    • 深くくぼんだ目(Deep-set eyes)。
    • 高い鼻梁、鷲鼻(Hooked nose)。
    • 短い人中、薄い上唇、下顎突出(しゃくれあご)。
  • 歯の異常:
    • 歯の生えるのが遅い(萌出遅延)、乳歯が抜けない、歯並びが悪い(叢生)。
  • 易感染性:
    • 上気道感染(風邪や中耳炎)を繰り返しやすい傾向があります。
  • 精神・行動面の特徴(重要):
    • ADHD(注意欠陥・多動性障害): 落ち着きのなさ、不注意。
    • 自閉スペクトラム症(ASD): 社会性の苦手さ、こだわり。
    • 精神症状: 思春期以降、気分障害(うつ状態など)や統合失調症様症状、精神病様症状のリスクが高まるという報告があり、メンタルヘルスのケアが重要です。

原因

3番染色体長腕(3q26-q27)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 3q26-q27欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 両親の染色体は正常であり、この場合、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(稀):
    • 非常に稀ですが、親が均衡型転座保因者である場合や、親自身がモザイク(体の一部だけ欠失を持っている)である場合、子に遺伝することがあります。

2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)

染色体の一部が欠けることで、そこに含まれる遺伝子が1セット(片親分)しかなくなり、機能不全に陥ります。

  • SOX2の不足: 眼球や脳の発生に必要な指令が不足し、形成不全が起こります。
  • その他の遺伝子の不足: 3q27領域の遺伝子不足が、骨格や代謝、脳の神経伝達に影響を与え、マルファン様体型や精神症状を引き起こすと考えられています。

診断方法

臨床症状(成長障害、眼球異常、特徴的顔貌)から疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 3q26-q27領域の微細な欠失を検出し、その正確な範囲(bp単位)を特定できます。
    • 特に、SOX2遺伝子が含まれているかどうかを確認することは、予後(視覚障害の有無)を判断する上で決定的に重要です。
  • 全エクソーム解析(WES) / 遺伝子パネル検査:
    • 眼球異常がある場合、SOX2遺伝子の点変異などを調べる過程で、染色体欠失(CNV)として検出されることもあります。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、生活の質(QOL)を高めるための療育・支援が中心となります。

1. 眼科的治療・視覚支援(SOX2欠失例)

  • 小眼球・無眼球のケア:
    • 顔面骨格(眼窩)の正常な成長を促すため、幼少期から義眼(コンフォーマー)を装着し、段階的にサイズを大きくしていく拡張器治療を行います。
    • 形成外科や眼科の専門医による長期的な管理が必要です。
  • 視覚発達支援:
    • 視力障害がある場合、盲学校や視覚支援センターと連携し、聴覚や触覚を活用した発達支援(ロービジョンケア)を行います。

2. 成長・栄養管理

  • 栄養サポート:
    • 哺乳困難や体重増加不良に対し、高カロリーミルクの使用や、重度の場合は経管栄養(鼻チューブや胃ろう)を検討します。
    • 胃食道逆流症の治療も行います。
  • 感染症対策:
    • 呼吸器感染を繰り返す場合、予防接種の徹底や、早めの受診を心がけます。

3. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 筋緊張低下や発達遅滞に対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
  • 歯科管理:
    • 歯の異常(叢生など)に対し、定期的な歯科検診と矯正治療の相談を行います。

4. 精神医学的サーベイランス(3q27欠失例)

  • メンタルヘルスケア:
    • 特に3q27領域の欠失がある場合、思春期以降の気分の変化や行動の変化に注意を払います。
    • 不安、うつ、引きこもりなどのサインがあれば、早めに児童精神科や精神科に相談し、環境調整やカウンセリング、必要に応じた薬物療法を行います。

5. 遺伝カウンセリング

  • 疾患の遺伝学的背景(突然変異か家族性か)を確認し、次子の再発リスクについて説明を受けます。
  • 希少疾患であるため、長期的な見通しや利用できる福祉制度について情報を整理し、家族の不安を軽減します。

まとめ

3q26-q27 deletion syndromeは、3番染色体の一部が欠けることで起こる希少な疾患です。

この病気は、欠けた場所に「SOX2」という遺伝子が含まれているかどうかで、症状が大きく変わるという特徴があります。

もしSOX2が含まれている場合は、生まれつき目が小さかったり、視力にハンディキャップがあったりすることがあります。この場合、小さな頃から義眼を使って目の周りの骨の成長を助けたり、視覚を使わない遊びで発達を促したりするケアが大切になります。

一方、SOX2が含まれていない場合は、目の異常はありませんが、手足がほっそりと長かったり、少し風邪をひきやすかったりすることがあります。また、思春期の頃に心のバランスを崩しやすいこともあるため、おうちの方が優しく見守り、変化に気づいてあげることが大切です。

どちらのタイプでも、生まれた時は体が小さめで、ミルクを飲むのが苦手なことが多いですが、成長とともにゆっくりと体重も増えていきます。

発達のペースもゆっくりですが、療育を通じて「できること」を着実に増やしていくことができます。

この病気は非常に稀ですが、眼科医、小児科医、心理士、そして遺伝カウンセラーといった専門家チームが、お子さんとご家族をサポートします。

お子さんの個性を理解し、その成長を一緒に支えていきましょう。

参考文献

  • Slaats, I., et al. (2013). 3q26.33-3q27.2 microdeletion: A new microdeletion syndrome? European Journal of Medical Genetics.
    • (※3q26-q27領域の微細欠失を持つ患者3例を報告し、共通する臨床特徴(低緊張、摂食障害、顔貌、歯の異常)を定義した重要論文。)
  • Jewell, R., et al. (2017). 3q27.3 microdeletion syndrome: further delineation of the second region of overlap and atopic dermatitis as a phenotypic feature. Clinical Dysmorphology.
    • (※3q27.3欠失症候群の臨床像をさらに詳細に検討し、アトピー性皮膚炎などの免疫・皮膚症状との関連を示唆した文献。)
  • Lorda-Sanchez, I., et al. (2014). 3q27.3 microdeletional syndrome: a recognisable clinical entity associating dysmorphic features, marfanoid habitus, intellectual disability and psychosis with mood disorder.
    • (※3q27.3領域の欠失が、マルファン様体型や精神症状(精神病、気分障害)と関連することを明確にし、新たな症候群として提唱した論文。)
  • GeneReviews® [Internet]: SOX2 Disorder. Initial Posting: February 23, 2006; Last Update: January 20, 2022. Authors: Williamson KA, et al.
    • (※3q26.33欠失(SOX2欠失)を含むSOX2関連疾患の診断、眼科的管理、遺伝カウンセリングに関する包括的なガイドライン。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 3q deletions (2019).
    • (※患者家族向けに、発達の目安、摂食障害への対応、各領域欠失ごとの特徴を平易にまとめたガイドブック。)
  • Orphanet: 3q26 microdeletion syndrome / 3q27.3 microdeletion syndrome.
    • (※希少疾患データベースにおける疾患定義と疫学情報。)

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