別名・関連疾患名
- 4p16.3重複症候群
- 4p16.3微細重複症候群(4p16.3 microduplication syndrome)
- 4p16.3トリソミー(Trisomy 4p16.3)
- 部分的4pトリソミー(Partial trisomy 4p)
- ※4番染色体短腕の一部のみが重複しているため、こう呼ばれることがあります。
- 関連:ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(Wolf-Hirschhorn syndrome; WHS / 4p16.3 deletion syndrome)
- ※本疾患と同じ領域が欠失する疾患です。WHSは「低身長」「特徴的なヘルメット様顔貌」を呈しますが、本疾患はその逆の特徴(カウンタータイプ)を示すことがあります。
- 関連:4p重複症候群(4p duplication syndrome)
- ※より広範囲な重複を含めた総称ですが、4p16.3重複はその中核的な症状を形成する最も重要なサブタイプです。
対象染色体領域
4番染色体 短腕(p)16.3領域
本疾患は、ヒトの4番染色体の短腕(pアーム)の最も末端(テロメア側)に位置する「16.3」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細とWHS責任領域(WHSCR)】
4p16.3領域は、遺伝学的に極めて重要な領域です。ここには、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(WHS)の原因となる「WHS責任領域(WHS Critical Region; WHSCR)」が含まれています。
WHSではこの領域が失われることで重篤な症状が出ますが、本疾患では逆にこの領域が過剰になります。
重複のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々ですが、以下の遺伝子の用量変化が症状形成に深く関わっています。
【含まれる重要な遺伝子と「遺伝子量効果」】
- NSD2 (WHSC1):
- 最も重要な責任遺伝子の一つです。
- ヒストンメチル化酵素であり、全身の細胞の成長や発達を制御する「エピジェネティック・レギュレーター」です。
- 欠失(WHS): 重度の成長障害(低身長)、小頭症、骨年齢の遅れを引き起こします。
- 重複(本疾患): 逆に**「過成長(高身長)」「骨成熟の促進」「肥満傾向」**を引き起こすことがあり、遺伝子の量と身体の大きさが相関すること(Gene Dosage Effect)が示唆されています。
- LETM1:
- ミトコンドリアの機能に関わる遺伝子です。
- この遺伝子の欠失はWHSにおける「てんかん発作」の主因とされていますが、重複においてもてんかんのリスクに関与する可能性があります。
- FGFR3:
- 骨の成長、特に軟骨の形成に関わる遺伝子です。
- この遺伝子の変異は軟骨無形成症(低身長)などを起こしますが、重複(過剰)による影響は完全には解明されていません。頭蓋骨の形状などに影響を与える可能性があります。
- TACC3:
- 細胞分裂や顔面形成に関与すると考えられています。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
対となるWHS(4p欠失)は約50,000人に1人とされていますが、4p16.3重複の報告数はそれよりも少ないです。
しかし、これは「疾患が存在しない」のではなく、以下のような理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。
- 症状がマイルド: 欠失症候群に比べて身体奇形が目立たない場合があり、単なる発達遅滞や「体格の良い子」として診断がつかないまま過ごしている可能性があります。
- 検査の普及: マイクロアレイ染色体検査(CMA)が行われないと診断できない微細な重複であるため、近年の検査普及によりようやく発見数が増えてきた疾患です。
性別による差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
4p16.3 duplication syndromeの症状は、**「特徴的な顔貌」「発達遅滞」「身体発育の特徴(過成長など)」**が3大特徴です。
特に、WHS(欠失)と対照的な症状を示す点が診断の鍵となります。
1. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
WHSが「ギリシャ兵のヘルメット」と呼ばれる特徴的な顔(広い鼻梁、高い眉弓)を持つのに対し、4p16.3重複症候群はそれとは異なる、ある種「逆」の特徴を持つことがあります。
- 鼻の特徴:
- 球状の鼻先(Bulbous nose): 鼻先が丸く、団子鼻のような形状。
- 高い鼻梁(High nasal bridge): 鼻筋がスッと通って高い(WHSでは平坦で広い)。
- 鼻柱(鼻の穴の間)が垂れ下がっている。
- 眉・目:
- 太く濃い眉毛(Bushy eyebrows): 左右がつながっている(連眉)こともあります(WHSでは眉毛が薄く、高いアーチ状)。
- 深くくぼんだ目(Deep-set eyes)、眼瞼裂斜下(タレ目)。
- 口・顎:
- 小顎症(あごが小さい)、あるいは尖ったあご。
- 薄い上唇、口角が下がっている。
- 耳:
- 低位付着耳、耳介の変形、大きめの耳。
- 頭部:
- 小頭症(Microcephaly)が見られることもありますが、正常範囲、あるいは大頭症(Macrocephaly)のケースもあり、欠失症候群ほど顕著な小頭症にはなりにくい傾向があります。
2. 身体的成長・体格
ここが遺伝学的に最も興味深い点です。
- 過成長(Overgrowth)の傾向:
- 一部の患者さんでは、出生時から体が大きかったり、乳幼児期以降に身長の伸びが良く、平均を上回る高身長になったりすることがあります。
- また、肥満傾向や、がっしりとした体格になることもあります。
- これは、NSD2遺伝子の過剰による細胞増殖の促進が関与していると考えられています。
- ※ただし、重複範囲が広く、他の合併症が重い場合は、成長障害(低身長)となることもあり、全ての患者さんが高身長になるわけではありません。
3. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度です。
- WHS(欠失)では重度の知的障害となることが多いですが、重複症候群では比較的マイルドで、会話によるコミュニケーションが可能なケースも多いです。
- 言語発達遅滞:
- 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著です。
- 表出言語(話すこと)が苦手でも、受容言語(理解すること)は比較的保たれていることが多く、ジェスチャーなどを交えた意思疎通が可能です。
- 運動発達遅滞:
- 首すわり、お座り、歩行開始が遅れます。
- 筋緊張異常: 乳児期は筋緊張低下(Hypotonia)が見られますが、成長とともに筋緊張亢進(体が硬くなる)や痙縮が見られることがあります。
4. 四肢・骨格の異常
- 大きな手足: 年齢に比べて手足が大きいことがあります。
- 指の異常:
- 屈指症(Camptodactyly): 指が曲がったまま伸びにくい。
- 短指症、第5指の湾曲。
- 多指症(指が多い)や合指症が稀に見られます。
- 関節: 関節拘縮(関節が固まって動きにくい)や、逆に関節過伸展(柔らかすぎる)が見られることがあります。
5. その他の合併症
- てんかん:
- 一部の患者さんでけいれん発作が見られますが、WHSほど高頻度・難治性ではない傾向があります。
- 内臓奇形:
- 先天性心疾患(心室中隔欠損症など)、腎奇形(水腎症など)、停留精巣(男児)などが報告されています。
- 呼吸器:
- 新生児期に呼吸障害や、頻繁な呼吸器感染症が見られることがあります。
原因
4番染色体短腕末端(4p16.3)における微細重複が原因です。
1. 発生機序の分類(重要:親の転座)
4p16.3重複症候群においては、原因が「親由来」である可能性を常に考慮する必要があります。
- 家族性(親の転座・逆位由来):
- 本症候群の患者さんの約半数以上は、親のどちらかが**「均衡型転座」(染色体の場所が入れ替わっている)や「逆位」**を持っていることに由来します。
- 例えば、親が「4番染色体と8番染色体の均衡型転座」を持っている場合、子には「4pの重複」と「8pの欠失」が同時に起こる(不均衡転座)可能性があります。
- この場合、重複だけでなく欠失の影響も加わるため、純粋な4p16.3重複よりも症状が複雑になることがあります。
- 親が転座保因者の場合、きょうだいへの再発リスクが高くなります。
- De novo(新生突然変異):
- 両親の染色体は正常で、受精の過程で偶然4p16.3領域が重複してしまうケースです。
- 染色体内で重複が起こる(Tandem duplication)場合などがこれに当たります。
2. NSD2遺伝子の用量依存性
- 研究により、NSD2遺伝子は「成長のアクセル」のような働きをすることが分かってきました。
- 欠失(WHS)ではアクセルがなくなって「低身長」に、重複(本疾患)ではアクセルが踏み込まれて「過成長」になるというメカニズムが、症状の対比を説明しています。
診断方法
「特徴的な顔貌」「発達遅滞」「過成長などの身体特徴」から疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 4p16.3領域の重複を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、NSD2遺伝子などが含まれているかを特定できます。
- 他の染色体の欠失や重複(複合的な異常)がないかも同時にチェックできます。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 重複が十分に大きい場合、顕微鏡によるこの検査でも診断可能です。
- 重要: お子さんの診断がついた場合、両親のGバンド検査が強く推奨されます。親の転座(家族性)を確認するためです。
- FISH法:
- 4p末端領域に特異的なプローブを用いて、重複を確認することができます。
治療方法
重複した染色体を元に戻す治療法はありません。
治療は、症状に応じた対症療法と、能力を最大限に引き出す**療育(ハビリテーション)**が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張の異常に対し、適切な運動発達を促し、関節拘縮を予防するリハビリを行います。装具(インソールや短下肢装具)を使用することもあります。
- 作業療法(OT):
- 手先の不器用さを改善し、食事や着替えなどの日常生活動作(ADL)の自立を目指します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、個々の理解度に合わせたコミュニケーション指導を行います。
- 教育:
- 特別支援学校や支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を整えます。
2. 合併症の管理
- てんかん:
- 抗てんかん薬による発作コントロールを行います。
- 心疾患・腎疾患:
- 定期的なエコー検査などで経過観察を行い、必要に応じて内科的・外科的治療を行います。
- 整形外科:
- 側弯症や関節拘縮の定期チェックを行います。
- 肥満対策:
- 過成長や肥満傾向がある場合、栄養バランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、生活習慣病を予防します。
3. 家族支援と遺伝カウンセリング
- 最も重要なプロセスの一つです。
- 親の検査: 親が転座保因者であるかどうかの確認は、次子の家族計画において不可欠です。
- 親族への情報提供: 親が転座保因者の場合、親の兄弟姉妹なども同じ転座を持っている可能性があります。
- 心理的サポート:
- 「親から遺伝したかもしれない」という事実は、ご両親に大きな心理的負担(罪悪感など)を与えることがあります。
- 専門家によるカウンセリングを通じ、「転座は誰のせいでもない自然な現象である」こと、「お子さんの個性として受け止めていく」ためのサポートを行います。
まとめ
4p16.3 duplication syndromeは、4番染色体の先端部分が増えることで起こる疾患です。
この疾患のお子さんは、キリッとした太い眉毛や、鼻筋の通った顔立ちなど、印象的な特徴を持っていることがあります。また、背が高くなったり、がっしりとした体格になったりすることもあり、これは同じ場所が「欠ける」病気(ウォルフ・ヒルシュホーン症候群)とは逆の特徴です。
ご家族にとって、「染色体異常」や「親の転座」といった言葉は、とても難しく、不安を感じるものだと思います。
特に、親御さん由来の可能性があると聞くと、ご自身を責めてしまう方もいらっしゃいます。しかし、染色体の変化は誰にでも起こりうることであり、ご両親が悪いわけではありません。
大切なのは、今目の前にいるお子さんの特徴を正しく理解し、必要なサポートをしてあげることです。
この疾患のお子さんは、発達のペースはゆっくりですが、療育を受けることでできることがどんどん増えていきます。
言葉での会話が苦手でも、身振りや笑顔で豊かなコミュニケーションをとることができます。
心臓の病気やてんかんがある場合も、現在の医療でしっかりと管理していくことができます。
小児科医、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を、長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Hasi-Zogaj, M., et al. (2015). The role of the NSD2 gene in the pathogenesis of 4p- syndrome and 4p duplication.
- (※4p16.3領域にあるNSD2遺伝子の量が、成長(低身長/過成長)や顔貌形成にどのように影響するか、遺伝子量効果の観点から詳細に解析した重要論文。)
- Partridge, J.C., et al. (2009). Distinct craniofacial features of distal 4p duplication.
- (※4p末端重複に特有の顔貌(球状の鼻、太い眉など)を詳細に記述し、WHS(欠失)との対比を行った文献。)
- Zollino, M., et al. (1999). Partial trisomy 4p: clinical and cytogenetic correlations.
- (※4p重複症候群の臨床的特徴と、重複領域(4p16.3を含むかどうか等)との相関を解析し、WHSCR(責任領域)の重要性を示した基礎的な論文。)
- Thangavelu, M., et al. (1997). The 4p syndrome: a case report and review.
- (※4p重複症候群の症例報告と過去の文献レビュー。臨床像の多様性について言及。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Duplications of 4p (2019).
- (※患者家族向けに、発達の目安、健康管理のポイント、転座に関する遺伝カウンセリングの重要性などを平易にまとめたガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: Wolf-Hirschhorn Syndrome. (For comparison and critical region details).
- (※対となる疾患WHSの解説だが、4p16.3領域の遺伝子機能(NSD2, LETM1など)についての詳細な記述があり、重複症候群の理解にも役立つ。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


