別名・関連疾患名
- 5p13重複症候群
- 5p13微細重複症候群(5p13 microduplication syndrome)
- 5p13トリソミー(Trisomy 5p13)
- 部分的5pトリソミー(Partial trisomy 5p)
- 5p重複症候群(Duplication 5p syndrome)
- ※5p13を含むより広範囲な重複の総称として使われます。
- NIPBL重複症候群(NIPBL duplication syndrome)
- ※5p13.2領域に含まれるNIPBL遺伝子の重複が主症状の原因である場合、このように呼ばれることがあります。
- 関連:5p欠失症候群(猫鳴き症候群 / Cri du Chat syndrome)
- ※同じ5番染色体短腕が「欠失」する疾患です。重複症候群とは対照的な症状(鏡像関係)を示すことがあります。
- 関連:コルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)
- ※NIPBL遺伝子の「機能喪失(変異や欠失)」で起こる疾患です。本疾患はその逆の「過剰」によって起こるため、症状比較の対象となります。
対象染色体領域
5番染色体 短腕(p)13領域
本疾患は、ヒトの5番染色体の短腕(pアーム)の中間付近にある「13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
5p13領域(5p13.1, 5p13.2, 5p13.3)の重複は、サイズが数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。
この領域の重複がどのような症状を引き起こすかは、重複範囲に含まれる「遺伝子の中身」によって決まります。特に重要なのが以下の遺伝子です。
【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】
- NIPBL (Nipped-B-Like Protein): 5p13.2に位置。
- 最重要の責任遺伝子です。
- この遺伝子は、身体の発達や遺伝子の発現調節に関わる「コヒーシン複合体」の制御因子です。
- 欠失/変異: 有名な「コルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)」を引き起こし、重度の成長障害や四肢奇形を呈します。
- 重複(本疾患): 逆にこの遺伝子が増えると、**「知的障害」「発達遅滞」**を引き起こしますが、身体的な奇形はCdLSほど重篤ではないか、あるいは逆の傾向(過成長など)を示すことがあります。
- GHR (Growth Hormone Receptor): 5p13.1-p12境界付近に位置。
- 成長ホルモンを受け取る受容体の遺伝子です。
- この遺伝子が重複に含まれると、成長ホルモンの感受性が高まり、**「過成長(高身長)」や「骨成熟の促進」**が見られることがあります。
- LIFR / SLC1A3:
- 神経発達に関わる遺伝子であり、知的障害や筋緊張低下に関与している可能性があります。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
対となる「5p欠失症候群(猫鳴き症候群)」は15,000〜50,000人に1人と比較的有名ですが、5p重複症候群の報告数はそれよりも少ないです。さらに「5p13」に限局した重複は非常に稀です。
世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例規模です。
しかし、身体的な特徴(奇形など)が目立たない軽症例では、染色体検査が行われずに「原因不明の発達遅滞」として過ごされている可能性があり、実際の頻度はもう少し高い(過少診断)と考えられています。
臨床的特徴(症状)
5p13 duplication syndromeの症状は、重複する範囲やサイズによって異なりますが、共通して**「神経発達遅滞」「筋緊張低下」「特徴的な頭部・顔貌」が見られます。
また、5p欠失(猫鳴き症候群)とは対照的に、「大頭症」や「肥満・過成長」**を呈することがあるのが大きな特徴です。
1. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 中等度〜重度の知的障害を伴うことが多いです。
- 特にNIPBL遺伝子の重複がある場合、顕著な知的障害が見られます。
- 言語発達遅滞:
- 言葉の理解・表出ともに遅れます。発語が限定的である(数語のみ、あるいは発語なし)ケースも報告されています。
- 運動発達遅滞:
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳児期に体が柔らかく(フロッピーインファント)、首すわりや歩行開始が遅れます。
- 歩行開始は2歳〜4歳頃になることがありますが、独歩を獲得できるケースも多いです。
- 行動特性:
- 多動、不安の強さ、自閉スペクトラム症(ASD)様の行動(こだわり、常同行動)、かんしゃくなどが見られることがあります。
2. 特徴的な顔貌・頭部(Craniofacial features)
5p欠失が「小頭症」になるのに対し、5p13重複では逆の傾向が見られることがあります。
- 大頭症(Macrocephaly):
- 頭囲が大きく、おでこが突出している(Frontal bossing)ことがあります。
- 顔貌:
- 丸い顔(Round face)。
- 眼間開離(目が離れている)。
- 短い鼻、上向きの鼻孔。
- 長い人中(鼻の下)。
- 耳の位置が低い、耳介の変形。
- これらの特徴は成長とともに変化し、個人差も大きいです。
3. 身体的成長・体格
ここが遺伝学的に興味深い点です。
- 過成長(Overgrowth) / 肥満:
- 一部の患者さん、特にGHR遺伝子を含む重複がある場合、身長が平均より高く、体重が増えやすい傾向があります。
- 手足が大きい(Large hands and feet)こともあります。
- これは、5p欠失症候群やCdLS(NIPBL欠損)に見られる「低身長・成長障害」とは正反対の特徴です。
- ただし、摂食障害などにより体重増加不良となるケースもあり、一概には言えません。
4. その他の合併症
内臓奇形の合併率はそれほど高くありませんが、以下の報告があります。
- てんかん: けいれん発作を合併することがあります。
- 骨格: 側弯症、関節の過伸展(体が柔らかい)、指の異常(クモ状指、短指など)。
- 心疾患: 心室中隔欠損症などの軽微な心疾患。
- 眼科: 斜視、眼振。
- 感染症: 免疫系の問題は明確ではありませんが、中耳炎や呼吸器感染を繰り返すことがあります。
原因
5番染色体短腕(5p13)における微細重複が原因です。
1. 発生機序の分類(重要:親の転座)
5p13重複症候群の原因には、大きく分けて2つのパターンがあります。
- De novo(新生突然変異):
- 両親の染色体は正常で、受精の過程(精子や卵子が作られる時)で偶然、5p13領域が重複してしまうケースです。
- この場合、次子への再発リスクは低いです。
- 家族性(親の転座・逆位由来):
- 比較的頻度が高いパターンです。
- 親のどちらかが**「均衡型転座」(5番染色体と他の染色体の間で場所が入れ替わっている)や「逆位」**を持っている場合があります。
- 特に、5番染色体内で「逆位重複(Inverted duplication)」が生じているケースが報告されています。
- 親が転座保因者の場合、きょうだいへの再発リスクが高くなります。
2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
- NIPBLのトリプロセンシティ:
- NIPBLは遺伝子発現の「調整役」です。この量が1.5倍(3コピー)になることで、脳の発達プログラムが乱れ、知的障害などが引き起こされます。
- GHRのトリプロセンシティ:
- 成長ホルモン受容体が増えることで、体が大きくなるシグナルが過剰になり、過成長につながると考えられています。
診断方法
臨床症状(発達遅滞、大頭症など)だけでは診断がつかず、遺伝学的検査によって発見されます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 5p13領域の重複を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、NIPBLやGHRなどの遺伝子が含まれているかを特定できます。
- これにより、他の領域(5p末端など)の欠失を伴っていないかも確認できます(転座由来の場合、重複と欠失が同時に起こることがあるため)。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 重複サイズが大きい場合、顕微鏡検査でも発見可能です。
- 重要: お子さんの診断がついた場合、両親の染色体検査が強く推奨されます。親の転座(家族性)を確認するためです。
治療方法
重複した染色体を元に戻す治療法はありません。
治療は、症状に応じた対症療法と、生活能力を向上させるための**療育(ハビリテーション)**が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張低下に対し、体幹を鍛え、運動発達を促します。関節が柔らかすぎる場合は、装具や靴の調整を行います。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。発語が難しい場合は、サインや絵カードなどのAAC(補助代替コミュニケーション)を活用します。
- 教育:
- 特別支援学校や支援学級など、お子さんの特性(知的障害の程度や行動特性)に合わせた教育環境を選択します。
2. 合併症の管理
- てんかん: 抗てんかん薬による発作コントロールを行います。
- 整形外科: 側弯症の定期チェックを行います。
- 肥満対策: 過成長や肥満傾向がある場合、栄養バランスの取れた食事や、運動習慣の定着を支援します。
3. 家族支援と遺伝カウンセリング
- 最も重要なプロセスの一つです。
- 親の検査: 親が転座保因者であるかどうかの確認は、次子の家族計画において不可欠です。
- 親族への情報提供: 親が転座保因者の場合、親族(おじ・おば等)への影響についても相談します。
- 心理的サポート: 希少疾患であるため、孤独感を感じないよう、家族会やサポートグループの情報を提供します。
まとめ
5p13 duplication syndromeは、5番染色体の一部が増えることで起こる希少な疾患です。
この疾患のお子さんは、生まれた時は体が柔らかく、首すわりや歩くのがゆっくりですが、時間をかけて着実に成長していきます。
特徴的なこととして、頭が少し大きめだったり、背が高くがっしりとした体格になったりすることがあります。これは、同じ染色体が「欠ける」病気(猫鳴き症候群)とは逆の特徴であり、遺伝子の不思議な性質を表しています。
ご家族にとって、発達の遅れや「親からの遺伝かもしれない」という話は、大きな不安の種になるかもしれません。
しかし、仮にご両親のどちらかが染色体の特徴(転座)を持っていたとしても、それは誰のせいでもない、自然な生命の多様性の一つです。
この疾患は、重篤な心臓病などを合併することは比較的少なく、命に関わるリスクは低い傾向にあります。
言葉での会話が難しくても、ニコニコとした表情や身振りで、たくさんの気持ちを伝えてくれます。
療育を通じて「できること」を増やし、肥満などに気をつけながら健康的な生活を送ることで、その子らしい豊かな人生を歩むことができます。
医師、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性と成長を、長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Ockeloen, C.W., et al. (2016). NIPBL intragenic duplication is associated with a recognizable phenotype.
- (※NIPBL遺伝子内の重複が、CdLSとは異なる、しかし特徴的な臨床像(知的障害、言語遅滞など)を引き起こすことを報告した重要論文。5p13.2重複の中核症状を理解する上で不可欠。)
- Nevado, J., et al. (2015). Comprehensive analysis of 5p duplications: genotype-phenotype correlations.
- (※5p重複を持つ多数の患者データを解析し、重複部位(5p13を含む)と臨床症状の関連を体系的にまとめた大規模研究。)
- Cerreto, M., et al. (2012). 5p13 duplication syndrome: a new case report and review of the literature.
- (※5p13重複症候群の症例報告と文献レビュー。過成長や大頭症といった特徴的な症状について言及。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Duplications of 5p (2019).
- (※患者家族向けに、発達の目安、健康管理のポイント、転座に関する遺伝カウンセリングの重要性などを平易にまとめたガイドブック。)
- Schinzel, A. (2001). Catalogue of Unbalanced Chromosome Aberrations in Man.
- (※染色体不均衡による症候群を網羅したカタログ。5p重複の典型的な臨床像や合併症頻度についてのデータ。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: NIPBL, GHR.
- (※各遺伝子のトリプロセンシティ(重複による影響)に関する科学的評価。NIPBLの重複が神経発達障害の原因となることのエビデンスが評価されている。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


