別名・関連疾患名
- 6p-症候群(6p minus syndrome / 6p deletion syndrome)
- ※最も一般的な呼称です。6番染色体短腕の欠失を総称する言葉ですが、その多くはこの6pter-p24領域を含みます。
- 6p欠失症候群
- 6番染色体短腕末端欠失症候群(Terminal 6p deletion syndrome)
- 6pter-p24モノソミー(Monosomy 6pter-p24)
- 関連:アクセンフェルト・リーガー症候群(Axenfeld-Rieger syndrome)
- ※本疾患の主要な症状である眼奇形は、この領域に含まれるFOXC1遺伝子の欠失によって引き起こされるため、臨床像が重複します。
- 関連:リッチャー・シンツェル症候群(Ritscher-Schinzel syndrome)
- ※6p25領域の欠失と症状が類似するため、鑑別や関連疾患として挙げられることがあります。
対象染色体領域
6番染色体 短腕(p)末端(ter)から24領域
本疾患は、ヒトの6番染色体の短腕(pアーム)の、一番端っこ(テロメア側:pter)から、バンド24(p24)までの領域が連続して欠失している状態です。
【ゲノム上の詳細と隣接遺伝子症候群】
「6pter-p24」という表記は、染色体の先端部分が約10Mb(メガベース)以上にわたって失われている(Terminal deletion:末端欠失)ことを意味します。
この範囲には、脳、眼、心臓、頭蓋骨の形成に関わる重要な遺伝子が多数並んでおり、これらがまとめて失われることで、多様な症状が現れる**「隣接遺伝子症候群」**となります。
欠失のサイズは患者さんによって異なり、「p25のみ(先端だけ)欠けている」場合よりも、「p24まで大きく欠けている」本疾患の方が、症状の種類が多く、重症度も高くなる傾向があります。
【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】
- FOXC1 (Forkhead Box C1): 6p25.3に位置。
- 最重要の責任遺伝子です。
- 眼の前眼部(角膜や虹彩)、脳(小脳)、骨格の発達を制御するマスター遺伝子です。
- この遺伝子の欠失は、**「アクセンフェルト・リーガー奇形(緑内障リスク)」や「ダンディー・ウォーカー奇形」**の直接的な原因となります。
- FOXF2 (Forkhead Box F2): 6p25.3に位置。
- 口蓋(口の天井)の形成や、脳血管の安定性に関わります。口蓋裂のリスク因子と考えられています。
- SERPINB6: 聴覚に関与し、難聴のリスクに関連する可能性があります。
- TUBB2A / TUBB2B: 脳の皮質形成に関わり、神経発達遅滞の要因となります。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
広義の「6p-症候群」全体としては、出生数万人に1人程度と推定されていますが、6pter-p24という特定の欠失範囲に限ると、さらに希少となります。
これまでに世界で報告されている症例数は100例を超えていますが、決して多い疾患ではありません。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
6pter-p24 deletion syndromeの症状は、**「眼の形成異常」「脳・神経系の異常」「発達遅滞」「特徴的な顔貌」**が4大特徴です。
特に、眼と脳の合併症は生活の質(QOL)に直結するため、早期の評価が重要です。
1. 眼球・視覚の異常(Ocular anomalies)
本症候群において最も注意すべき、かつ特徴的な症状です。患者さんの約半数〜8割程度に見られます。
- アクセンフェルト・リーガー奇形(Axenfeld-Rieger anomaly):
- 眼の「前眼部」と呼ばれる部分(角膜、虹彩、隅角)の発達不全です。
- 後部胎生環: 角膜の縁に白いリング状の線が見えることがあります。
- 虹彩の異常: 茶目(虹彩)の一部が欠けていたり(低形成)、瞳孔の位置がずれていたり(瞳孔偏位)、瞳孔が複数あったり(多瞳孔症)することがあります。
- 緑内障(Glaucoma):
- 最重要リスクです。前眼部の形成不全により、眼の中の水(房水)の排出がうまくいかず、眼圧が上がってしまいます。
- 乳幼児期に発症することもあれば、小児期〜成人期に発症することもあります。放置すると視神経が傷つき失明に至るため、生涯にわたる定期検診が必須です。
- その他:
- 斜視、眼振、小眼球症、白内障など。
2. 脳・神経系の異常(Brain anomalies)
- ダンディー・ウォーカー奇形(Dandy-Walker malformation) / 変異型:
- 小脳(運動やバランスを司る部分)の一部が欠損し、後頭部に嚢胞(水たまり)ができる状態です。
- これにより、運動発達の遅れや、バランス感覚の悪さ(失調)が生じます。
- 水頭症(Hydrocephalus):
- 脳室に髄液が溜まりすぎて脳を圧迫する状態です。シャント手術が必要になることがあります。
- 脳梁欠損・低形成:
- 右脳と左脳をつなぐ橋(脳梁)が細い、またはないことがあります。
- 白質脳症:
- 脳の白質(神経線維の束)の発達異常が見られることがあり、FOXF2遺伝子の関与が示唆されています。
3. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。
- 精神運動発達遅滞(GDD):
- 首すわり、お座り、歩行などの運動発達が遅れます。
- 小脳の異常がある場合、筋緊張低下(Hypotonia)やふらつきが見られるため、理学療法が重要になります。
- 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度です。
- 欠失範囲がp24まで及ぶ場合、p25のみの欠失に比べて知的障害が重くなる傾向があります。
- 言語発達遅滞:
- 言葉の理解・表出ともに遅れます。
- 難聴:
- 感音性難聴または伝音性難聴を合併することがあり、言語発達に影響します。
4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
「6p-顔貌」と呼ばれる共通した特徴があります。
- 高く広い額、平坦な後頭部。
- 眼間開離(Hypertelorism): 目と目が離れている。
- 平坦な鼻根部: 鼻の付け根が低い。
- 短い鼻、上向きの鼻孔。
- 長い人中(鼻の下)。
- 低位付着耳、耳介の変形。
- 小頭症: 頭が小さいことが多いですが、水頭症がある場合は頭囲が大きくなることもあります。
5. その他の合併症
- 心疾患: 心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)など(約30〜40%)。
- 腎・泌尿器: 水腎症、多嚢胞腎など。
- 歯科: 歯が小さい(矮小歯)、歯が足りない(欠損歯)。これはアクセンフェルト・リーガー症候群の特徴でもあります。
- 骨格: 首が短い、余分な皮膚(翼状頸)、指の異常など。
原因
6番染色体短腕末端(6pter-p24)における欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 本症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異(染色体切断)です。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは低いです。
- 家族性(親の転座由来):
- 欠失が比較的大きいため、親の**「均衡型転座」**(染色体の場所が入れ替わっている)に由来するケースも考慮する必要があります。
- 例えば、親の6番染色体の一部が他の染色体にくっついている場合、子に不均衡な欠失(および他の染色体の重複)が生じることがあります。
- この場合、症状はより複雑になる可能性があり、次子の再発リスクも高くなります。
2. 遺伝子量効果(Haploinsufficiency)
- FOX遺伝子群は「転写因子」であり、体の設計図の監督役です。
- これが片方なくなる(量が半分になる)と、眼や脳を作るための指令が不十分になり、複雑な構造異常(奇形)が生じます。
診断方法
「眼の異常(リーガー奇形)」「小脳の異常」「発達遅滞」の3徴候から疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 6p領域の欠失を検出し、その正確な範囲(どこからどこまで欠けているか)と、FOXC1などの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
- p24まで及ぶ大きな欠失か、p25のみの微細欠失かを区別することは、予後予測に重要です。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 6pter-p24のような大きな欠失の場合、顕微鏡によるこの検査でも診断可能なことが多いです。
- 重要: 診断がついた場合、両親の染色体検査が推奨されます。親の転座の有無を確認するためです。
- 画像検査(MRI / エコー):
- 脳のMRIでダンディー・ウォーカー奇形や水頭症の有無を確認します。
- 心エコー、腹部エコーで内臓奇形をチェックします。
治療方法
欠失した染色体を元に戻す治療法はありません。
治療は、特に「眼」と「脳」の合併症に対する早期介入・管理と、発達を促す療育が中心となります。
1. 眼科的管理(生涯にわたるケア)
最も重要な医療的ケアです。
- 緑内障のモニタリング:
- 眼圧検査を定期的に行います。乳幼児は検査が難しいため、鎮静下(眠らせて)での検査が必要になることもあります。
- 眼圧が高い場合は、点眼薬による治療や、手術(線維柱帯切開術など)を行います。早期発見により、視力を守ることができます。
- 屈折矯正:
- 弱視を防ぐため、眼鏡などで視力を矯正します。
2. 脳・神経系の管理
- 水頭症の治療:
- 脳圧亢進症状(嘔吐、不機嫌、頭囲拡大など)がある場合、シャント手術(余分な髄液をお腹に流す手術)を行います。
- てんかん:
- 発作がある場合、抗てんかん薬による治療を行います。
3. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 理学療法(PT):
- 小脳異常によるバランスの悪さや筋緊張低下に対し、身体機能の向上を目指します。
- 聴覚・言語支援:
- 難聴がある場合、補聴器の使用や環境調整を行い、言語発達を促します。
- コミュニケーションが難しい場合、絵カードやサインなどのAAC(補助代替コミュニケーション)を活用します。
4. 歯科管理
- 歯の欠損やエナメル質の形成不全があるため、定期的な歯科検診と虫歯予防、将来的な矯正治療や義歯の相談が必要です。
5. 遺伝カウンセリング
- 親の染色体検査の結果に基づき、次子の再発リスクについて説明を受けます。
- 眼の症状などは家族内で表現型(症状の出方)が異なることもあるため、詳細な家系分析が行われることもあります。
まとめ
6pter-p24 deletion syndromeは、6番染色体の先端部分が欠けることで起こる疾患です。
この病気は、特に「目」と「脳」の発達に影響が出やすいことが特徴です。
具体的には、眼の中の水の出口が狭くなりやすく(アクセンフェルト・リーガー奇形)、将来的に緑内障になるリスクがあります。また、小脳の形に特徴があったり(ダンディー・ウォーカー奇形)、水頭症を合併したりすることがあります。
ご家族にとって、こうした合併症の名前は耳慣れず、大きな不安を感じられることと思います。
しかし、重要なのは「リスクを知っている」ということです。
緑内障のリスクがあることを知っていれば、症状が出る前から定期的に眼科に通い、眼圧をチェックすることで、大切な視力を守ることができます。水頭症も、適切な手術でコントロールが可能です。
発達に関しては、お子さんのペースはゆっくりですが、療育を通じてできることは確実に増えていきます。
笑顔が可愛らしく、人懐っこい性格のお子さんも多いと言われています。
眼科医、脳神経外科医、小児科医、そして療育スタッフとチームを組み、定期的なチェック(サーベイランス)を続けながら、お子さんの健やかな成長を支えていきましょう。
参考文献
- Gould, D.B., et al. (2004). Role of FOXC1 in the development of the anterior segment and prevention of glaucoma.
- (※6p25領域にあるFOXC1遺伝子が、眼の前眼部形成に不可欠であり、その欠損が緑内障のリスクとなるメカニズムを解明した基礎的な重要論文。)
- Aldred, M.A., et al. (2004). Molecular analysis of 20 patients with isolated aniridia or aniridia-like phenotypes.
- (※眼の奇形を持つ患者の遺伝子解析を行い、6p25欠失とPAX6変異などの関連を検討した研究。)
- Mirchi, A., et al. (2020). The 6p25 deletion syndrome: a review of the literature and report of a new case.
- (※6p25(およびp24を含む)欠失症候群の臨床的特徴、特に眼、脳、心臓の合併症について網羅的にレビューした文献。)
- Chitayat, D., et al. (2007). 6p25 deletion syndrome: a distinctive phenotype.
- (※6p末端欠失症候群が、特徴的な顔貌、眼奇形、発達遅滞を持つ識別可能な症候群であることを臨床的に定義した論文。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 6p deletions (2019).
- (※患者家族向けに、緑内障への注意点、発達の目安、療育のアドバイスなどを平易にまとめた包括的なガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: Axenfeld-Rieger Syndrome. (For overlap symptoms).
- (※本症候群の主要症状であるアクセンフェルト・リーガー症候群の管理指針、特に眼科的サーベイランスについての参照元。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


