6q11-q14 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 6q11-q14欠失症候群
  • 6q近位欠失症候群(Proximal 6q deletion syndrome)
    • ※6番染色体長腕の「付け根(近位)」側の欠失であることを示す、最も一般的な医学的分類名です。
  • 6q11-q14微細欠失症候群(6q11-q14 microdeletion syndrome)
  • 6q中間部欠失(Interstitial deletion of 6q)
  • 6q11-q14モノソミー(Monosomy 6q11-q14)
  • 関連:6q11, 6q12, 6q13, 6q14欠失
    • ※欠失範囲がこれらのバンドの一部に限局する場合も、同様の臨床像を示すため、広義に含まれます。

対象染色体領域

6番染色体 長腕(q)11から14領域

本疾患は、ヒトの6番染色体の長腕(qアーム)の、セントロメア(染色体のくびれ部分)に近い**「11」から「14」**と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と「近位欠失」の特徴】

6番染色体の長腕欠失は、欠失する場所によって症状が大きく異なります。

  • 末端欠失(6q26-qter): 脳奇形やてんかんなどが主症状となります。
  • 近位欠失(6q11-q14):本疾患
    • 染色体の中間部分が抜ける「中間欠失(Interstitial deletion)」の一種です。
    • この領域の欠失は、**「結合組織(体のつなぎ目)の異常」「特徴的な体型(短い首など)」**を引き起こすことが最大の特徴であり、末端欠失とは明確に区別されます。

【含まれる重要な遺伝子】

この領域には多数の遺伝子が含まれていますが、特に以下の遺伝子が症状形成に関与していると考えられています。

  • COL12A1 (Collagen, Type XII, Alpha 1): 6q13-q14.1に位置。
    • コラーゲン(結合組織)を作る遺伝子です。
    • この遺伝子の欠失は、本症候群で見られる**「関節の過伸展(体が柔らかすぎる)」「筋緊張低下」「皮膚の弾力性の異常」**に関連している可能性が高いとされています。ベスレムミオパチーやウルリッヒ型筋ジストロフィーとの関連も研究されている遺伝子です。
  • SNAP91: 6q14.2に位置。
    • 神経伝達に関わる遺伝子であり、知的障害や発達遅滞に関与している可能性があります。
  • SYNCRIP: 6q14.3に位置。
    • 脳の発達や神経機能に重要な役割を果たしており、知的機能への影響が推測されています。
  • TBX18: 6q14.1に位置。
    • 骨格形成に関与する転写因子であり、耳の形成異常などに関連する可能性があります。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

6番染色体の欠失自体が比較的稀ですが、その中でも「近位欠失」は報告数が少なく、世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例〜百例未満の規模にとどまります。

しかし、これは「発生していない」のではなく、特徴的な大奇形を伴わない場合、診断に至らないまま過ごしている**「過少診断(Underdiagnosis)」**の可能性があります。

近年、マイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、発見されるケースが徐々に増えています。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

6q11-q14 deletion syndromeの症状は、**「特徴的な顔貌・体型」「筋緊張低下・結合組織の問題」「発達遅滞」が3大特徴です。

特に、「首が短く、皮膚が余っている」**という外見的特徴が、診断の最初の手がかりになることが多いです。

1. 特徴的な体型・顔貌(Dysmorphic features)

他の染色体異常(ターナー症候群やヌーナン症候群など)と一部共通する特徴を持つため、鑑別が必要です。

  • 短い首・翼状頸(Short neck / Webbed neck):
    • 最も特徴的な所見の一つです。
    • 首が短く見え、首の横に水かきのような皮膚の余り(翼状頸)が見られることがあります。
  • 顔貌:
    • 丸い顔(Round face)。
    • 眼の特徴: 眼瞼裂斜上(ツリ目)、内眼角贅皮(目頭のひだ)、眼間開離(目が離れている)。
    • 鼻: 球状の鼻先(団子鼻)、鼻根部が低い。
    • 口: 薄い上唇、人中(鼻の下)が長い、高口蓋。
    • 耳: 低位付着耳、耳介の変形、大きな耳。
    • これらは成長とともに変化し、個人差も大きいです。

2. 筋骨格系・結合組織の異常(Connective tissue issues)

COL12A1遺伝子などの影響により、体を支える組織が弱い傾向があります。

  • 関節過伸展(Joint hypermobility):
    • 関節が非常に柔らかく、可動域が広すぎることがあります。
    • 指が反り返る、肘や膝が逆に曲がるなど。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかく(フロッピーインファント)、抱き心地が頼りない、運動発達が遅れる原因となります。
  • ヘルニア:
    • 鼠径ヘルニア(脱腸)や臍ヘルニア(でべそ)を高頻度で合併します。組織の膜が弱いために起こります。
  • その他:
    • 側弯症、手足の小ささ、短指症(指が短い)など。

3. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 中等度〜重度の知的障害を伴うことが多いです。
    • 学習のペースはゆっくりですが、継続的な支援により着実に伸びていきます。
  • 言語発達遅滞:
    • 言葉の遅れが顕著です。
    • 構音障害(発音が不明瞭)を伴うことがありますが、理解力(受容言語)は比較的保たれていることが多く、身振りや単語でのコミュニケーションが可能です。
  • 運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
    • 歩行開始は2歳〜4歳頃になることが多いですが、多くの患者さんが独歩を獲得します。

4. 成長・栄養

  • 子宮内発育遅延(IUGR):
    • 出生体重が小さめであることが多いです。
  • 成長障害:
    • 幼児期までは身長・体重ともに増えにくいことがありますが、学童期以降は標準範囲に追いつくこともあります。
    • 肥満のリスク: 6q14より少し下の領域(6q16)には肥満関連遺伝子(SIM1)がありますが、6q14欠失の患者さんでも、学童期以降に過食や肥満傾向が見られるという報告があり、体重管理が必要になる場合があります。
  • 哺乳困難:
    • 新生児期は吸う力が弱く、授乳に時間がかかることがあります。

5. その他の合併症

  • 心疾患: 心房中隔欠損症(ASD)や心室中隔欠損症(VSD)などの先天性心疾患(約30〜40%)。
  • 眼科: 斜視、屈折異常(遠視・乱視)、眼振。
  • 皮膚: 湿疹ができやすい、皮膚が柔らかく伸びやすい。
  • 脳画像所見: 脳梁欠損や脳室拡大が見られることがありますが、特異的なものではありません。

原因

6番染色体長腕(6q11-q14)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 6q11-q14欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(親の転座):
    • 親が「均衡型転座」や「逆位」などの構造異常を持っている場合があります。
    • 6番染色体の近位部は、比較的染色体の組み換えが起こりやすい場所が含まれるため、親の染色体検査で確認することが推奨されます。
    • 親が転座保因者の場合、きょうだいへの再発リスクが高くなります。

2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)

  • 染色体の一部が欠けることで、そこに含まれる遺伝子(COL12A1など)が1セット(片親分)しかなくなり、作られるタンパク質の量が半分になってしまう状態です。
  • これにより、結合組織の強度が保てなくなったり、脳の発達に必要な物質が不足したりして症状が現れます。

診断方法

「短い首」「関節の柔らかさ」「発達遅滞」の組み合わせから疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 6q11-q14領域の欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、含まれる遺伝子を特定できます。
    • これにより、末端欠失(6q26など)や、他の症候群(ターナー症候群など)との鑑別が可能です。
  • Gバンド染色体検査(核型分析):
    • 欠失サイズが大きい場合(数Mb以上)、顕微鏡検査でも「6q-」として発見可能です。
    • 重要: お子さんの診断がついた場合、両親の染色体検査が強く推奨されます。親の転座(家族性)を確認するためです。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、症状に応じた対症療法と、生活能力を向上させるための療育が中心となります。

1. 身体的ケア・合併症管理

  • 循環器:
    • 診断時に心エコー検査を行い、心疾患があれば定期的な経過観察や手術を行います。
  • 整形外科・外科:
    • 鼠径ヘルニアや臍ヘルニアがある場合、適切な時期に手術を行います。
    • 側弯症や関節の問題に対し、定期的なチェックや装具療法を行います。
    • 関節が柔らかいため、脱臼や捻挫に注意が必要です。
  • 眼科:
    • 斜視や弱視の早期発見・治療(眼鏡装用など)を行います。
  • 肥満対策:
    • 学童期以降、体重が増えやすい傾向がある場合は、栄養指導や運動習慣の支援を行います。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 理学療法(PT):
    • 筋緊張低下に対し、体幹を鍛える遊びを取り入れ、安定した歩行を目指します。
    • 関節の過伸展がある場合、関節を守るような身体の使い方を指導します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。
    • 言葉が出にくい時期は、サインや絵カードなどのAAC(補助代替コミュニケーション)を活用し、フラストレーションを軽減します。
  • 教育:
    • 特別支援学校や支援学級など、個々の発達段階に合わせた教育環境を選択します。

3. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 非常に稀な疾患であり、情報は限られています。臨床遺伝専門医から、疾患の特性や長期的な見通しについて説明を受けます。
  • 家族への支援:
    • 親の検査結果に基づき、次子再発リスクについて相談します。
    • 「短い首」などの外見的特徴について、どのように周囲に説明するか、本人が気にした時にどう対応するかなども相談できます。

まとめ

6q11-q14 deletion syndromeは、6番染色体の「付け根に近い部分」が欠けることで起こる希少な疾患です。

この疾患のお子さんは、首がちょこんと短く見えたり、体がとても柔らかかったりと、愛らしい特徴的な体つきをしていることが多いです。これは、体を支えるコラーゲンなどの成分を作る遺伝子が少なくなっているためと考えられています。

ご家族にとって、発達の遅れやヘルニアの手術などは心配事かと思いますが、重篤な奇形を合併することは少なく、生命予後は一般的に良好です。

赤ちゃんの頃は体がフニャフニャとしていて、ミルクを飲むのも運動するのもゆっくりペースですが、成長とともに体もしっかりしてきます。

言葉を話すのは少し苦手かもしれませんが、こちらの言っていることはよく理解しており、ニコニコとした表情や身振りで豊かなコミュニケーションをとってくれます。

大切なのは、関節の柔らかさやヘルニアなどの体質を理解し、整形外科的なケアを行いながら、療育を通じて「できること」を増やしていくことです。

また、将来的に太りやすくなることもあるので、健康的な食生活を心がけることも大切です。

小児科医、整形外科医、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんのユニークな個性と成長を、長く、温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Engels, H., et al. (2018). Comprehensive phenotype-genotype correlation in patients with proximal interstitial 6q deletions.
    • (※6q近位欠失(6q11-q16)を持つ多数の患者データを集積し、欠失部位ごとの臨床的特徴を詳細にマッピングした、本疾患の理解において最も重要な包括的論文。)
  • Mosca-Boidron, A.L., et al. (2016). Interstitial 6q13q16 deletion in a patient with severe intellectual disability and dysmorphic features.
    • (※6q13-q16欠失の症例報告。短い首や顔貌の特徴、およびCOL12A1などの遺伝子との関連について考察。)
  • Hopkin, R.J., et al. (1997). Interstitial deletion of the long arm of chromosome 6 (6q11-q15) associated with webbing of the neck.
    • (※6q11-q15欠失が「翼状頸(Webbed neck)」やヌーナン症候群様の表現型を引き起こすことを報告した初期の重要文献。)
  • Quintana, M., et al. (2014). Deletion 6q13-q15 associated with connective tissue laxity and muscular hypotonia.
    • (※6q近位欠失における結合組織の異常(関節過伸展)や筋緊張低下に焦点を当て、COL12A1遺伝子のハプロ不全との関連を強く示唆した研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 6q proximal deletions (6q11-q16) (2019).
    • (※患者家族向けに、近位欠失特有の症状(ヘルニア、短い首など)、発達の目安、生活上のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。