6q16 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 6q16微細欠失症候群
  • 6q16欠失症候群(6q16 deletion syndrome)
  • 6q16モノソミー(Monosomy 6q16)
  • プラダー・ウィリー様症候群(Prader-Willi-like syndrome; PWLS)
    • ※本疾患は、プラダー・ウィリー症候群(PWS)と臨床像が酷似している(肥満、過食、筋緊張低下など)ため、PWS様症候群の主要な原因の一つとして位置づけられています。
  • SIM1欠損症(SIM1 deficiency / SIM1 haploinsufficiency)
    • ※本症候群の中核症状である「肥満」は、この領域に含まれるSIM1遺伝子の欠失によって引き起こされるため、原因遺伝子に基づいてこう呼ばれることがあります。

対象染色体領域

6番染色体 長腕(q)16領域

本疾患は、ヒトの6番染色体の長腕(qアーム)の中間付近にある「16」と呼ばれるバンド領域(6q16.1〜6q16.3)において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

6q16領域の欠失サイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

近年の研究により、この領域には食欲の制御や脳の発達に関わる重要な遺伝子が含まれていることが判明しています。特に以下の遺伝子が、本症候群の特徴的な症状を引き起こす「責任遺伝子」として注目されています。

【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】

  • SIM1 (Single-minded 1): 6q16.3に位置。
    • 最重要の責任遺伝子です。
    • 脳の視床下部(食欲やホルモンの中枢)にある「室傍核(PVN)」の発達と機能維持に不可欠な転写因子です。
    • 役割: 食欲を抑制し、満腹感を感じさせるシグナル伝達に関わっています。
    • 欠失の影響: この遺伝子が半分(ハプロ不全)になると、満腹中枢がうまく働かず、**「過食(Hyperphagia)」「重度の肥満」**が引き起こされます。これはプラダー・ウィリー症候群の肥満メカニズムと共通する部分があります。
  • GRIK2 (Glutamate Receptor, Ionotropic, Kainate 2): 6q16.3に位置。
    • 脳内の主要な興奮性神経伝達物質である「グルタミン酸」の受容体です。
    • 役割: 認知機能や社会性に関与しています。
    • 欠失の影響: 知的障害や、**自閉スペクトラム症(ASD)**などの行動特性に関連していると考えられています。
  • POU3F2:
    • 神経発達や代謝に関与する遺伝子であり、肥満や発達遅滞への寄与が研究されています。
  • MCHR2:
    • メラニン凝集ホルモン受容体であり、エネルギー代謝や摂食行動の調節に関わっている可能性があります。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例〜百例程度です。

しかし、これは「発生していない」のではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。

  1. PWSとの混同: 症状がPWSに酷似しているため、PWSの遺伝子検査(15番染色体のメチル化解析など)を行い、「陰性(PWSではない)」と判定された後、原因不明のまま過ごされているケースの中に本疾患が含まれている可能性があります。
  2. 検査の壁: 一般的なGバンド染色体検査では見逃される微細な欠失であり、マイクロアレイ染色体検査(CMA)を行わないと診断できません。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

6q16 microdeletion syndromeの症状は、**「肥満・過食」「発達遅滞」「筋緊張低下」**が3大特徴です。

これらはプラダー・ウィリー症候群(PWS)と非常に共通していますが、いくつかの違いもあります。

1. 肥満・過食(Obesity & Hyperphagia)

本症候群の最も医学的管理を要する症状です。

  • 過食(Hyperphagia):
    • 満腹感を感じにくく、食べ物への執着が強くなります。「いくら食べてもお腹が空く」という感覚を持つことがあります。
    • 盗み食いや、ゴミ箱をあさるといった行動が見られることもあります。
  • 早期発症型肥満:
    • 幼児期(2〜3歳頃)から急速に体重が増加し始めます。
    • 適切な食事管理を行わないと、重度の肥満に至り、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などの合併症を引き起こすリスクがあります。
  • PWSとの違い:
    • PWSでは新生児期に「哺乳障害(ミルクが飲めない)」があり、その後幼児期に過食へ転じますが、6q16欠失でも新生児期の哺乳不良は見られるものの、PWSほど重度・長期間ではない傾向があります。

2. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度です。
    • 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著であり、構音障害(発音が不明瞭)を伴うことも多いです。
  • 運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
    • 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達の遅れの一因となります。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD): 社会性の苦手さ、こだわり、常同行動などが見られることがあります。
    • ADHD: 多動、不注意、衝動性。
    • かんしゃく: 感情のコントロールが難しく、パニックを起こしやすいことがあります。

3. 身体的特徴・顔貌

PWSと共通する特徴(PWS様顔貌)が見られます。

  • 顔貌:
    • 丸い顔(Round face)、ふっくらした頬。
    • 短い額、平坦な後頭部(Brachycephaly)。
    • アーモンド形の目、内眼角贅皮(目頭のひだ)。
    • 薄い上唇、口角が下がっている。
    • 鼻梁が平坦、短い鼻。
  • 手足:
    • 小さな手足(Small hands and feet): 体格に比べて手足が小さいことが特徴的です(PWSでも見られる特徴)。
  • 眼科:
    • 斜視(Strabismus)、屈折異常(遠視・乱視)、眼振など。

4. その他の合併症

  • 内分泌:
    • 低身長(Short stature)が見られることもありますが、PWSほど顕著ではありません。成長ホルモン分泌不全を合併するケースも報告されています。
    • 性腺機能低下症(Hypogonadism)や停留精巣(男児)が見られることがありますが、これもPWSに比べると頻度は低く、思春期の発来も比較的正常な場合が多いです。
  • 神経:
    • てんかん発作を合併することがあります(約20〜30%)。
    • 脳画像(MRI)で脳梁の異常や脳室拡大が見られることがあります。

原因

6番染色体長腕(6q16)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 6q16欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)です。
  • 家族性(Inherited):
    • 一部のケースでは、親からの遺伝が見られます。
    • 不完全浸透(Incomplete Penetrance): ここが重要です。親が同じ欠失を持っていても、親は肥満ではなく、軽度の学習障害のみである(あるいは無症状に近い)場合があります。
    • これは、SIM1遺伝子の欠失があっても、必ずしも全員が重度の肥満になるわけではない(環境要因や他の遺伝子の影響を受ける)ことを示唆しています。

2. SIM1ハプロ不全と視床下部

  • SIM1遺伝子は、視床下部の室傍核(PVN)にある神経細胞の分化を誘導します。
  • PVNは、食欲抑制ホルモン(メラノコルチンなど)のシグナルを受け取る重要な場所です。
  • SIM1が不足するとPVNが正しく形成されず、「もうお腹いっぱい」というシグナルが脳に届かなくなります。これが「終わりのない食欲」の正体です。

診断方法

「PWS様の肥満・過食」「発達遅滞」があり、PWSの遺伝子検査が陰性だった場合に強く疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 6q16領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、SIM1GRIK2遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 従来のGバンド検査(顕微鏡検査)では、欠失が小さすぎる場合に見逃されることがあるため、CMAが必須です。
  • PWSの除外診断:
    • 臨床症状が似ているため、まずは15番染色体のメチル化検査などでPWSの可能性を除外することが診断の第一歩となることが多いです。
  • 全エクソーム解析(WES) / 遺伝子パネル検査:
    • 染色体欠失ではなく、SIM1遺伝子の中の点変異でも同じ症状(SIM1欠損症)が出るため、CMAで異常がなかった場合にこれらの検査で診断されることがあります。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、PWSに準じた体重管理と、発達を促す療育が中心となります。

1. 肥満・過食の管理(最優先課題)

早期からの介入が予後を左右します。

  • 食事療法:
    • 厳格なカロリー制限が必要です。
    • 「食べたい」という欲求は本人の意志ではコントロールできない(脳の機能障害である)ため、物理的に食べ物を遠ざける環境調整(冷蔵庫や棚に鍵をかけるなど)が不可欠です。
    • 家族全員で協力し、決まった時間に決まった量だけを提供し、おかわりなどの例外を作らないことが重要です。
  • 運動療法:
    • 筋緊張低下があり運動を嫌がることが多いですが、代謝を上げ、体重増加を防ぐために、日常的な運動習慣(ウォーキングなど)を取り入れます。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング):
    • かんしゃくやこだわりの強さに対し、感情のコントロール方法や社会的なルールを学びます。

3. 合併症の管理

  • 内分泌:
    • 成長ホルモン分泌不全がある場合、成長ホルモン補充療法が検討されることがありますが、PWSほど一般的な適応ではありません。慎重な評価が必要です。
    • 糖尿病のスクリーニングを定期的に行います。
  • 眼科:
    • 斜視や屈折異常に対し、眼鏡装用などの治療を行います。
  • てんかん:
    • 発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • 疾患理解:
    • 「食べてしまうのはわがままではなく、病気の症状である」ことを家族や学校関係者が理解することが、本人を守ることにつながります。
  • 家族への支援:
    • 親の染色体検査を行い、次子再発リスクや不完全浸透の可能性について説明を受けます。

まとめ

6q16 microdeletion syndromeは、6番染色体の一部が欠けることで起こる希少な疾患です。

この病気は、「プラダー・ウィリー症候群(PWS)」と双子のように似た症状、特に「食べても食べてもお腹が空く(過食)」や「太りやすい」という特徴を持っています。

PWSの検査を受けて「陰性」と言われ、原因がわからずに悩まれてきたご家族にとって、この診断は大きな転機となるはずです。

原因は、脳の満腹中枢を作るための遺伝子(SIM1)が不足していることにあります。つまり、過食は「意思の弱さ」や「しつけの問題」ではなく、脳の構造的な問題なのです。

このことを理解するだけで、お子さんへの接し方は大きく変わります。

「我慢しなさい」と叱るのではなく、食べ物が目に入らないように環境を整えてあげることが、お子さんの心を安定させ、肥満を防ぐ最良の方法です。

また、発達の遅れや言葉の遅れについても、療育を受けることで着実に成長していきます。手先が小さく不器用なこともありますが、根気強くサポートすることで、できることは増えていきます。

肥満の管理は生涯続く課題ですが、早期から適切な生活習慣を確立することで、健康に過ごすことができます。

小児科医、栄養士、心理士、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの健やかな未来を一緒に守っていきましょう。

参考文献

  • Bonaglia, M.C., et al. (2008). Detailed phenotype-genotype study in five patients with chromosome 6q16 deletion: narrowing the critical region for Prader-Willi-like phenotype. European Journal of Human Genetics.
    • (※6q16欠失を持つ患者の詳細な臨床像を解析し、PWS様症状(肥満など)の責任領域をSIM1遺伝子を含む4.1Mbに絞り込んだ重要論文。)
  • El Khattabi, L., et al. (2015). Incomplete penetrance and phenotypic variability of 6q16 deletions including SIM1. European Journal of Human Genetics.
    • (※SIM1を含む6q16欠失を持つ15例を報告し、SIM1ハプロ不全と肥満の関連を確認しつつ、不完全浸透(欠失があっても肥満にならない例)の存在を明らかにした研究。)
  • Varela, E.S., et al. (2006). Monogenic and syndromic obesity: the role of SIM1.
    • (※SIM1遺伝子の機能と、ヒトにおける肥満症候群(PWS様症状)との関連について詳述したレビュー。)
  • Holder, J.L. Jr., et al. (2000). SIM1 gene deletion in a patient with a Prader-Willi-like phenotype.
    • (※SIM1遺伝子欠失がPWS様表現型を引き起こすことを示唆した初期の症例報告。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 6q16 deletions and Prader-Willi-like syndrome (2019).
    • (※患者家族向けに、食事管理の重要性、PWSとの違い、発達支援のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
  • Orphanet: 6q16 microdeletion syndrome.
    • (※希少疾患データベースにおける疾患定義と疫学情報。)

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