別名・関連疾患名
- 6q24重複症候群
- 6q24関連一過性新生児糖尿病(6q24-related Transient Neonatal Diabetes Mellitus; 6q24-related TNDM)
- ※本症候群の最も中核的な症状が「一過性新生児糖尿病」であるため、臨床的にはこの名称で呼ばれることが一般的です。
- TNDM1(Transient Neonatal Diabetes Mellitus type 1)
- 6q24トリソミー(Trisomy 6q24)
- 部分的6qトリソミー
- PLAGL1重複症候群
対象染色体領域
6番染色体 長腕(q)24領域
本疾患は、ヒトの6番染色体の長腕(qアーム)の「24」と呼ばれるバンド領域(特に6q24.2)において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細と「ゲノム刷り込み」】
この疾患を理解するためには、**「ゲノム刷り込み(Genomic Imprinting)」という概念が不可欠です。
通常、私たちの遺伝子は父親由来と母親由来の2セットを持っていますが、6q24領域にある特定の遺伝子群は、「父親から受け継いだ方だけが働き、母親から受け継いだ方はスイッチがオフになっている(発現しない)」**という特殊な制御を受けています。これを父性発現(Paternally expressed)と言います。
【責任遺伝子:PLAGL1とHYMAI】
この領域には、以下の重要な遺伝子が含まれています。
- PLAGL1 (ZAC1):
- 最重要の責任遺伝子です。
- 細胞周期の制御やアポトーシス(細胞死)、そしてインスリン分泌の調節に関わる転写因子です。
- 役割: 膵臓のβ細胞(インスリンを出す細胞)の増殖を抑える働きがあると考えられています。
- 重複の影響: この遺伝子が重複し、過剰に発現する(量が多すぎる)と、膵臓のβ細胞の発達が抑制され、インスリンが出なくなってしまいます。これが新生児糖尿病の原因です。
- HYMAI:
- PLAGL1と同じ制御を受けるノンコーディングRNAですが、詳細な機能は完全には解明されていません。
【なぜ「重複」で発症するのか?】
通常、父親由来の染色体(1本)からのみPLAGL1が作られ、母親由来(1本)からは作られません(合計1本分)。
しかし、父親由来の6q24領域が重複すると、父親由来の遺伝子が2本分になり、母親由来(0本)と合わせて合計2本分のPLAGL1が作られます。
つまり、**「通常の2倍の量のタンパク質」**が作られることになり、これが過剰な抑制作用として働いてしまうのです。
※母親由来の染色体で重複が起きても、母親由来のスイッチは元々オフになっているため、通常は発症しません(サイレント保因者となります)。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
「新生児糖尿病」自体が、出生300,000〜400,000人に1人程度の希少疾患です。
その新生児糖尿病のうち、約半数(50〜60%)が一過性(TNDM)であり、その一過性糖尿病の原因のうち、約70%がこの「6q24領域の異常」によるものです。
さらに、6q24領域の異常の原因内訳としては、「父親性ダイソミー(UPD)」が約40%、「父親由来染色体の重複(本疾患)」が約30-40%、「メチル化異常」が約20%とされています。
したがって、非常に稀な疾患ですが、新生児期に糖尿病を発症した場合は、まず第一に疑われる重要な鑑別疾患となります。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
6q24 duplication syndromeの症状は、**「一過性新生児糖尿病」「子宮内発育遅延」「特徴的な身体所見」**の3つが柱となります。
特に、糖尿病の経過(発症→寛解→再発)が非常に特徴的です。
1. 6q24関連一過性新生児糖尿病(TNDM)
本症候群の代名詞とも言える症状です。
- 発症時期:
- ほとんどの場合、生後1週間以内に発症します。遅くとも生後3ヶ月以内には発症します。
- 症状として、重度の高血糖、尿糖、脱水が見られますが、1型糖尿病のような「ケトアシドーシス(血液が酸性になる危険な状態)」にはなりにくい傾向があります(インスリンがゼロではないため)。
- 経過(一過性とは?):
- 寛解: インスリン治療を行うことで血糖値は安定し、多くの患児で生後12週〜18週(平均3〜4ヶ月)頃に、インスリン治療が不要な状態(寛解)になります。
- 膵臓の機能が成熟し、インスリン分泌能力が追いついてくるためと考えられています。
- 再発のリスク:
- 「一過性」という名前ですが、約50〜60%の患者さんで、将来的に糖尿病が再発します。
- 時期: 思春期(急激な成長期)や妊娠時、成人期以降に再発することが多いです。
- これは、加齢や体重増加によってインスリン抵抗性(効きにくさ)が出てきた時に、元々のインスリン分泌予備能の低さが露呈するためです。
2. 成長障害・子宮内発育遅延(IUGR)
PLAGL1遺伝子は細胞増殖を抑制するため、胎児期の成長全体が抑制されます。
- 低出生体重:
- ほぼ全例で、在胎週数に比べて小さく生まれます(SGA児)。平均出生体重は2000g前後となることが多いです。
- 出生後の成長:
- 乳幼児期は成長がゆっくりなことがありますが、多くの場合は徐々に追いつき(キャッチアップ)、最終身長は正常範囲内に入ることが多いです。
3. 特徴的な顔貌・身体所見
糖尿病以外にも、いくつかの身体的特徴が見られることがあります。
- 巨舌(Macroglossia):
- 舌が大きいことがあり、哺乳障害の原因になることがあります。
- 臍ヘルニア(Umbilical hernia):
- いわゆる「でべそ」が見られることがあります。
- ※「巨舌」と「臍ヘルニア」は、11番染色体異常の「ベックウィズ・ヴィーデマン症候群」の特徴でもありますが、6q24重複でも見られるため、鑑別が必要です。
- 顔貌:
- 広い額、小さな顎、目と目が離れている(眼間開離)などの特徴が報告されていますが、目立たないことも多いです。
4. 神経発達・認知機能
- 知的発達:
- 一般的に、6q24重複症候群(特に重複範囲が狭い場合)では、知能は正常であることが多いです。
- しかし、重複範囲が広く、周辺の他の遺伝子も含まれる場合や、新生児期の重篤な高血糖・脱水の影響を受けた場合には、発達遅滞や学習障害が見られることがあります。
- 文献によっては、軽度の発達遅滞や精神運動発達の遅れが約20%程度に見られるとの報告もあります。
5. その他の合併症
- 腎・泌尿器: 水腎症など。
- 心疾患: 軽微な心奇形(稀)。
- 貧血・血小板減少: 新生児期に一過性に見られることがあります。
原因
6番染色体長腕(6q24)における、父親由来の重複が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 多くは、受精の過程で偶然生じた突然変異(duplication)です。
- 特に、精子が作られる過程でのエラーが原因となります。
- 家族性(Inherited):
- 父親からの遺伝: 父親がこの重複を持っている場合、50%の確率で子に遺伝し、子は発症します。
- 母親からの遺伝: 母親がこの重複を持っている場合、子に遺伝しても(母親由来のPLAGL1はオフになっているため)子は発症しません。しかし、その子がさらに孫へ遺伝させる際、性別によって発症リスクが変わります(これをインプリンティング遺伝と言います)。
2. 6q24領域のメチル化異常
- 6q24領域には、遺伝子のスイッチを制御する「メチル化調節領域(DMR)」があります。
- 正常な場合、母親由来のDMRはメチル化(スイッチOFF)され、父親由来は非メチル化(スイッチON)されています。
- 重複症候群では、この「スイッチON(父親型)」の染色体領域が増えているため、過剰な指令が出てしまいます。
3. 他の原因との違い(参考)
- 6q24異常には、重複以外に「父性片親性ダイソミー(UPD)」があります。これは、2本の6番染色体が両方ともお父さんから来てしまった状態です。症状は重複症候群とほぼ同じです。
- 治療方針や遺伝カウンセリング(次子再発リスク)が異なるため、原因が「重複」なのか「UPD」なのかを区別することは重要です。
診断方法
「低出生体重」で生まれ、生後間もなく「高血糖」を呈した場合に強く疑われます。
- 血液検査・尿検査:
- 高血糖、尿糖、低インスリン血症(C-ペプチド低値)を確認します。
- 1型糖尿病関連自己抗体(GAD抗体など)は陰性です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 重複(Duplication)を診断するための第一選択です。
- 6q24領域のコピー数増加(3コピー)を検出できます。
- その重複が「父親由来」であることを確認するために、両親の検体を用いた解析が必要になることがあります。
- MS-MLPA法:
- 6q24領域のメチル化状態とコピー数を同時に解析できる検査です。
- 重複だけでなく、UPDやメチル化異常も鑑別できるため、確定診断に非常に有用です。
治療方法
根本的な遺伝子治療法はありませんが、糖尿病に対する治療法は確立されています。
治療は、**「急性期の血糖管理」と、「長期的な再発予防」**の2段階で行われます。
1. 新生児期(急性期)の治療
- インスリン療法:
- 生後すぐの高血糖に対しては、インスリン投与(点滴または皮下注射)が必須です。
- 非常に微量な調整が必要なため、NICU(新生児集中治療室)での管理が行われます。
- 目的は、高血糖による脱水を防ぎ、体重増加(成長)を促すことです。
- インスリンからの離脱:
- 生後数ヶ月経ち、自分の膵臓からインスリンが出るようになってきたら、徐々にインスリンを減量し、中止します。
2. 寛解期(幼児期〜学童期)の管理
- インスリンが不要になっても、「治癒」したわけではありません。
- 定期的なモニタリング:
- 数ヶ月〜1年に1回程度、HbA1c(過去1-2ヶ月の血糖状態を示す数値)を測定し、隠れた高血糖がないかチェックします。
- 生活習慣:
- 肥満は再発の最大のリスク因子です。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、適正体重を維持することが重要です。
3. 再発時の治療
- 思春期以降に糖尿病が再発した場合、再び治療が必要になります。
- 食事・運動療法: まずは生活習慣の改善から始めます。
- 経口血糖降下薬: スルホニル尿素薬(SU薬)などが効果的な場合があります。
- インスリン療法: 必要に応じて再開します。
4. 発達支援
- 重複範囲が広く、発達の遅れが見られる場合は、理学療法(PT)や言語聴覚療法(ST)などの療育的支援を行います。
5. 遺伝カウンセリング
- 非常に重要です。
- 原因が「父親由来の重複」であった場合、父親自身も(無症状であっても)重複を持っている可能性があります。
- 次子の再発リスクや、将来患者さん自身が子供を持つ際のリスクについて、正確な情報提供を行います。
まとめ
6q24 duplication syndromeは、6番染色体の一部が増えることで、赤ちゃんの時に一時的に糖尿病になる疾患です。
「生まれたばかりの赤ちゃんが糖尿病」と聞くと、ご家族は大変驚き、ショックを受けられると思います。一生インスリン注射が必要なのかと不安になるかもしれません。
しかし、この病気の最大の特徴は、生後数ヶ月で一度糖尿病が**「治る(寛解する)」ことです。
膵臓の機能が成長とともに追いついてくるため、多くの赤ちゃんがインスリンを卒業し、その後は他のお子さんと同じように元気に学校生活を送ることができます。知的な発達も、多くの場合は正常です。
ただし、完全に治ったわけではなく、将来、思春期や大人になった時に糖尿病がまた顔を出すことがあります。
この「再発」を防ぐ、あるいは遅らせるための鍵は、「太りすぎない健康的な生活」**です。
この診断は、いわば「将来の健康を守るためのパスポート」を早くに手に入れたようなものです。幼い頃からご家族で健康的な食生活を心がけることで、糖尿病のリスクをコントロールすることができます。
小児科医、内分泌専門医、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、長い目で、しかし過度に心配しすぎず、お子さんの成長を見守っていきましょう。
参考文献
- Temple, I.K., et al. (2000). Transient neonatal diabetes mellitus: widening the understanding of the etiology and epidemiology of diabetes. Diabetes.
- (※一過性新生児糖尿病の臨床的特徴、疫学、遺伝的基盤(6q24異常)について包括的に解説した、本疾患の基礎となる重要論文。)
- Mackay, D.J., et al. (2008). Hypomethylation of multiple imprinted loci in individuals with transient neonatal diabetes is associated with mutations in ZFP57.
- (※6q24領域のメチル化異常のメカニズムや、インプリンティング異常に関連する遺伝学的背景を詳細に解析した研究。)
- Docherty, L.E., et al. (2013). Clinical presentation of 6q24 transient neonatal diabetes mellitus (6q24 TNDM) and genotype-phenotype correlation in an international cohort of patients. Diabetologia.
- (※国際的な大規模コホート研究により、6q24重複を含む各遺伝子型の臨床像(再発率、合併症など)を比較検討した重要文献。)
- Gardner, R.J., et al. (2000). 6q24 duplication and transient neonatal diabetes mellitus.
- (※6q24重複がTNDMの原因であることを示し、PLAGL1遺伝子の過剰発現が病態に関与することを示唆した初期の研究。)
- GeneReviews® [Internet]: 6q24-Related Transient Neonatal Diabetes Mellitus. Initial Posting: 2005; Last Update: 2018. Authors: Temple IK, et al.
- (※診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング、再発リスクに関するデータを網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)
- Shield, J.P. (2000). Neonatal diabetes.
- (※新生児糖尿病の分類と、一過性(TNDM)と永続性(PNDM)の鑑別、長期予後についてのレビュー。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


