6q24-q25 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 6q24-q25欠失症候群
  • 6q中間部欠失症候群(Interstitial deletion of 6q)
    • ※染色体の末端(テロメア)を含まない欠失の場合、こう呼ばれることがあります。
  • 6q末端欠失症候群(Distal 6q deletion syndrome)
    • ※欠失範囲が6q25から末端(6q27)まで及ぶ場合や、臨床症状が末端欠失と重複する場合に広義に含まれることがあります。
  • コフィン・シリス症候群様観(Coffin-Siris syndrome-like phenotype)
    • ※6q25.3領域に含まれるARID1B遺伝子が欠失している場合、コフィン・シリス症候群と類似した症状(小指の低形成、多毛、特徴的顔貌)を呈するため、鑑別疾患として重要です。
  • 6q24-q25モノソミー(Monosomy 6q24-q25)

対象染色体領域

6番染色体 長腕(q)24から25領域

本疾患は、ヒトの6番染色体の長腕(qアーム)の中間から末端寄りに位置する「24」から「25」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

6番染色体長腕の欠失は、古くから研究されてきましたが、近年のマイクロアレイ検査の普及により、欠失する場所によって症状が異なることが明らかになってきました。

6q24-q25領域は、**「脳の構造」と「知的発達」**に関わる非常に重要な遺伝子が密集しているホットスポットです。

【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】

欠失範囲は患者さんによって異なりますが、以下の遺伝子の欠失が症状形成に大きく関与しています。

  • ARID1B (AT-Rich Interaction Domain 1B): 6q25.3に位置。
    • 最重要の責任遺伝子の一つです。
    • 脳の神経細胞の分化や発達を制御する「クロマチンリモデリング因子」です。
    • 欠失の影響: この遺伝子が不足すると、重度の知的障害、脳梁欠損(左右の脳をつなぐ橋がない)、そしてコフィン・シリス症候群に似た特徴(手足の小指の爪が小さい、多毛など)が現れます。
  • TIAM2 (T-Cell Lymphoma Invasion And Metastasis 2): 6q25.2に位置。
    • 脳の神経細胞が正しい場所に移動したり、突起を伸ばしたりする(神経突起伸長)のに関わる遺伝子です。
    • 知的障害や脳の配線異常に関与していると考えられています。
  • PLAGL1 (ZAC1): 6q24.2に位置。
    • 細胞周期の制御や成長に関わるインプリンティング遺伝子(父親由来のみ発現)です。
    • 重複すると新生児糖尿病になりますが、欠失(特に父親由来の欠失)の場合、成長障害(低出生体重)に関与する可能性があります。
  • TAB2: 6q25.1に位置。
    • 先天性心疾患のリスクに関連する遺伝子として報告されています。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

6q欠失症候群全体としては、出生40,000人〜100,000人に1人程度と推定されていますが、6q24-q25という特定の領域に限局した欠失はさらに希少です。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例〜百例程度です。

しかし、特徴的な身体奇形が目立たない軽症例や、単なる「発達遅滞」として診断されているケースの中に、本疾患が含まれている可能性があり、実際の頻度はもう少し高い(過少診断)と考えられています。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

6q24-q25 deletion syndromeの症状は、**「特徴的な顔貌」「脳構造異常(脳梁欠損)」「発達遅滞」「手足の特徴」**が4大特徴です。

特に、6q25領域を含む場合、症状は重くなる傾向があります。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度です。
    • 特にARID1B遺伝子の欠失を含む場合、言葉の獲得が遅れる傾向が強く、重度の知的障害を呈することが多いです。
  • 精神運動発達遅滞(GDD):
    • 首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動発達マイルストーンが遅れます。
    • 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく(フロッピーインファント)、体幹が弱いため、座位や歩行の獲得に時間を要します。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD)様の行動(視線が合わない、こだわり)、多動、不安の強さなどが見られることがあります。
    • 穏やかで人懐っこい性格のお子さんも多く報告されています。

2. 脳・神経系の異常(Brain anomalies)

本症候群の特徴的な所見であり、MRI検査で発見されます。

  • 脳梁欠損・低形成(Agenesis of the Corpus Callosum; ACC):
    • 右脳と左脳をつなぐ神経の束(脳梁)が生まれつき無い、あるいは細い状態です。
    • 6q25欠失患者の約30〜50%に見られる重要な特徴です。
    • これにより、情報の統合や運動協調性に影響が出ることがあります。
  • その他の脳奇形:
    • 脳室拡大、小脳の異常などが報告されています。
  • てんかん:
    • 脳の構造異常に伴い、てんかん発作(けいれん)を合併することがあります(約20〜30%)。

3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

「6q-顔貌」と呼ばれる共通した雰囲気がありますが、成長とともに変化します。

  • 目:
    • 眼間開離(目が離れている)。
    • 斜視、眼振。
    • 眉毛の外側が薄い、またはアーチ状の眉。
  • 鼻:
    • 鼻根部が平坦で広い。
    • 鼻先が丸い(球状の鼻)。
  • 口・顎:
    • 人中(鼻の下)が短い、あるいは長い(個人差あり)。
    • 薄い上唇(テント状の上唇)。
    • 小顎症(あごが小さい)。
  • 耳:
    • 低位付着耳、耳介の変形、大きな耳。
  • 頭部:
    • 小頭症(Microcephaly)が高頻度で見られます。

4. 手足・骨格の特徴(Skeletal anomalies)

コフィン・シリス症候群との類似点が見られる部分です。

  • 指の異常:
    • 第5指(小指)の短縮・爪の低形成: 小指が短く、爪が小さい、あるいは無いことがあります(ARID1B欠失の特徴)。
    • 短指症(指全体が短い)、合指症(指がくっついている)。
  • 関節:
    • 関節の過伸展(柔らかすぎる)や、逆に関節拘縮(硬くなる)が見られることがあります。
  • 低身長:
    • 出生前の発育遅延(IUGR)や、出生後の低身長が見られることが多いです。

5. 感覚器・その他の合併症

  • 聴覚障害:
    • 感音性難聴または伝音性難聴を合併することがあります。耳の構造異常(外耳道狭窄など)を伴うこともあります。
  • 眼科:
    • 網膜の異常や、視神経の異常が見られることがあります。
  • 心疾患:
    • 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)などの先天性心疾患(約20〜30%)。
  • 腎・泌尿器:
    • 水腎症、腎欠損など。

原因

6番染色体長腕(6q24-q25)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 6q24-q25欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(親の転座):
    • 欠失が比較的大きい場合、親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっている)」を持っている可能性があります。
    • この場合、親は健康ですが、子に不均衡な欠失が生じます。
    • 親が転座保因者の場合、きょうだいへの再発リスクが高くなります。

2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)

  • ARID1Bなどの重要な遺伝子が片方欠けることで、脳の発達に必要なタンパク質の量が半分になり、正常な発生プログラムが実行できなくなることが症状の直接的な原因です。

診断方法

「発達遅滞」「脳梁欠損」「小指の特徴」などの組み合わせから疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必要です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 6q24-q25領域の欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、ARID1Bなどの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 従来のGバンド検査(顕微鏡検査)では、欠失が微細な場合に見逃されることがあるため、CMAが必須です。
  • 頭部MRI検査:
    • 脳梁欠損やその他の脳奇形を確認し、診断の補助とします。
    • てんかん発作がある場合は、脳波検査も行います。
  • 聴力検査・心エコー:
    • 合併症のスクリーニングのために必須です。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、発達を最大限に促す**療育(ハビリテーション)**が中心となります。

1. 発達・療育的支援(最重要)

  • 早期療育:
    • 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 理学療法(PT):
    • 筋緊張低下や運動発達遅滞に対し、体幹を鍛え、這い這いや歩行などの粗大運動を促します。
  • 作業療法(OT):
    • 指先の不器用さに対し、遊びを通じた微細運動の訓練を行います。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れが顕著な場合、サインや絵カード(PECS)、タブレット端末などの**AAC(補助代替コミュニケーション)**を導入し、「伝える手段」を確保します。
  • 教育:
    • 特別支援学校や支援学級など、お子さんの発達段階や特性(聴覚障害の有無など)に合わせた教育環境を選択します。

2. 合併症の管理

  • 聴覚管理:
    • 難聴がある場合、補聴器の装用や、静かな環境での学習など、環境調整を行います。定期的な聴力検査が重要です。
  • てんかん:
    • 抗てんかん薬による発作コントロールを行います。
  • 眼科:
    • 斜視や屈折異常に対し、眼鏡装用やアイパッチなどの治療を行います。
  • 心疾患・腎疾患:
    • 定期的な経過観察を行い、必要に応じて手術や投薬を行います。

3. 遺伝カウンセリング

  • 診断の受容と理解:
    • 「6q欠失」といっても範囲によって症状が異なるため、ネット上の情報で混乱しないよう、お子さんの欠失範囲(遺伝子)に基づいた個別的な情報を整理します。
  • 家族への支援:
    • 親の染色体検査を行うかどうか、次子のリスクはどうなるかといった悩みに対し、専門的な視点から相談に乗ります。

まとめ

6q24-q25 deletion syndromeは、6番染色体の一部が欠けることで起こる希少な疾患です。

この疾患のお子さんは、ゆっくりとしたペースで成長していきます。

生まれた時から体が柔らかく、首がすわったり歩いたりするのに少し時間がかかるかもしれませんが、リハビリテーションを通じて着実に力をつけていきます。

特徴的なこととして、脳の左右をつなぐ橋(脳梁)の形が違ったり、手足の小指が可愛らしく小さかったりすることがあります。

また、言葉を話すのが少し苦手な傾向がありますが、こちらの言っていることはよく理解しており、豊かな表情や身振りで気持ちを伝えてくれます。

ご家族にとって、発達の遅れや合併症は心配事かと思いますが、重篤な心臓病などを合併する頻度はそれほど高くなく、生命予後は一般的に安定しています。

大切なのは、聴力や視力、脳波などの定期的なチェック(サーベイランス)を行い、お子さんが世界を感じ取るための「入力(感覚)」をサポートしてあげることです。

補聴器や眼鏡、療育など、その子に合ったサポートがあれば、お子さんは持てる力を十分に発揮することができます。

小児科医、神経科医、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を、長く、温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Nagamani, S.C., et al. (2009). Interstitial deletion of 6q25.2-q25.3: a novel microdeletion syndrome associated with microcephaly, developmental delay, dysmorphic features and hearing loss. European Journal of Human Genetics.
    • (※6q25領域の欠失を新たな微細欠失症候群として提唱し、小頭症、難聴、特徴的顔貌などの臨床像を定義した重要論文。)
  • Halgren, C., et al. (2012). Corpus callosum abnormalities, intellectual disability, speech impairment, and autism in patients with haploinsufficiency of ARID1B.
    • (※ARID1B遺伝子の欠失(6q25.3)が脳梁欠損や重度言語遅滞の直接的な原因であることを大規模なコホート研究で証明した画期的な文献。)
  • Engels, H., et al. (2019). Comprehensive phenotype-genotype correlations in patients with distal 6q deletions.
    • (※6q末端側(6q24-q27)の欠失を持つ多数の患者を解析し、欠失部位ごとの詳細な症状マップを作成した包括的研究。)
  • Tsurusaki, Y., et al. (2012). Mutations in the ARID1B gene are a frequent cause of Coffin-Siris syndrome.
    • (※6q25欠失症候群とコフィン・シリス症候群の遺伝的背景(ARID1B)が共通していることを明らかにし、臨床症状の重複を説明した論文。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 6q deletions (from 6q15 to 6q27) (2019).
    • (※患者家族向けに、脳梁欠損への対応、発達の目安、療育のアドバイス、ARID1B関連の情報を平易にまとめたガイドブック。)
  • GeneReviews® [Internet]: ARID1B-Related Disorder. (For detailed management of ARID1B haploinsufficiency).
    • (※本症候群の中核となるARID1B関連障害の管理指針、サーベイランス項目についての参照元。)

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