6q25 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 6q25微細欠失症候群
  • 6q25欠失症候群(6q25 deletion syndrome)
  • 6q25モノソミー(Monosomy 6q25)
  • ARID1Bハプロ不全症候群(ARID1B haploinsufficiency syndrome)
    • ※本症候群の主要な症状は、この領域に含まれるARID1B遺伝子の欠失によって引き起こされるため、原因遺伝子に基づいてこう呼ばれることが増えています。
  • コフィン・シリス症候群 1型(Coffin-Siris syndrome 1; CSS1)
    • ARID1B遺伝子の変異や欠失は、コフィン・シリス症候群の最も主要な原因です。6q25欠失の患者さんは、臨床的にこの診断基準を満たすことが多くあります。
  • 脳梁欠損を伴う知的障害(Intellectual disability with corpus callosum agenesis)

対象染色体領域

6番染色体 長腕(q)25領域

本疾患は、ヒトの6番染色体の長腕(qアーム)の末端に近い「25」と呼ばれるバンド領域(6q25.1〜6q25.3)において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

6q25領域の欠失サイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

この領域にはいくつかの遺伝子が含まれていますが、本症候群の特徴的な症状(脳の構造異常、知的障害、特徴的な顔貌)を引き起こす決定的な原因(責任遺伝子)は、6q25.3に位置するARID1B遺伝子であると特定されています。

【最重要遺伝子:ARID1Bの役割】

  • ARID1B (AT-Rich Interaction Domain 1B):
    • この遺伝子は、SWI/SNFコンプレックスと呼ばれる「クロマチンリモデリング複合体」の一部を作る設計図です。
    • 役割: DNAの折りたたみ構造(クロマチン)を緩めたり締めたりすることで、「いつ、どの遺伝子のスイッチを入れるか」を制御する、いわば**「遺伝子の指揮者」**です。
    • 脳への影響: 特に胎児期の脳の発達、神経細胞(ニューロン)の分化、樹状突起の伸長において極めて重要な役割を果たしています。
    • ハプロ不全: この遺伝子が半分(欠失)になると、脳の発達プログラムが適切に実行されず、脳梁欠損や重度の言語遅滞などが引き起こされます。

※欠失範囲が広く、隣接する他の遺伝子(TIAM2など)も含まれる場合は、症状が修飾される可能性がありますが、臨床像の核となるのはARID1Bの欠失です。

発生頻度

稀(Rare)だが、知的障害の原因としては重要

正確な発生頻度は確立されていません。

染色体欠失症候群としては希少ですが、「原因不明の知的障害」を持つ患者さんを対象に大規模な遺伝子解析(全エクソーム解析など)を行うと、ARID1B遺伝子の異常(変異または欠失)は、**トップクラスの頻度(約1%弱)**で見つかることが知られています。

つまり、診断されていないだけで、潜在的な患者数はこれまで考えられていたよりも多い可能性があります。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

6q25 microdeletion syndromeの症状は、「知的障害(特に言語遅滞)」「脳梁欠損」「特徴的な顔貌」「小指の低形成」が4大特徴です。

これらはコフィン・シリス症候群の症状と大きく重なります。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度です。
  • 重度の言語発達遅滞(Expressive speech delay):
    • 本症候群の際立った特徴です。
    • 言葉の理解(受容言語)に比べて、話すこと(表出言語)が著しく遅れる傾向があります。
    • 数語しか話せない、あるいは発語がない(Non-verbal)場合でも、身振りや理解力は比較的良好なことが多いです。
  • 精神運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
    • 歩行開始は平均して2〜3歳頃ですが、多くの患者さんが独歩を獲得します。
    • 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達の遅れの一因となります。

2. 脳・神経系の異常(Brain anomalies)

  • 脳梁欠損・低形成(Corpus Callosum anomalies):
    • 左右の脳をつなぐ神経の束(脳梁)が生まれつき無い(欠損)、あるいは細い(低形成)状態です。
    • 患者さんの**約30〜50%**に見られる重要な所見であり、MRI検査で発見されます。
  • その他の脳所見:
    • 脳室拡大、小脳虫部の低形成などが見られることもあります。
  • てんかん:
    • 約20〜30%の患者さんで、乳幼児期〜小児期にてんかん発作を発症します。多くは薬物療法でコントロール可能です。

3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

コフィン・シリス症候群に似た、特徴的なお顔立ちが見られます。成長とともに特徴がはっきりしてくることがあります。

  • 目:
    • 濃い眉毛、長いまつ毛。
    • 眼瞼裂斜下(タレ目)、または眼間開離(目が離れている)。
  • 鼻:
    • 鼻根部が広く平坦。
    • 鼻先が丸く太い(球状の鼻)。
  • 口:
    • 人中(鼻の下)が長い。
    • 薄い上唇(Thin upper lip): 特に上唇の山が平坦か、テント状に尖っていることがあります。
    • 口が大きい(大口症)、厚い下唇。
  • 多毛(Hypertrichosis):
    • 顔(額やこめかみ)、背中、腕などに毛が多い傾向があります。

4. 手足の特徴(Digital anomalies)

診断の決め手となる重要なサインです。

  • 第5指(小指)の低形成:
    • 小指の爪が小さい、あるいは無いことが特徴的です(Fifth digit nail hypoplasia/aplasia)。
    • 小指の末節骨(先端の骨)が短いこともあります。
    • これはコフィン・シリス症候群の主徴ですが、6q25欠失の患者さんでも軽度ながら見られることが多いです。ただし、全く正常な場合もあります。

5. その他の合併症

  • 成長:
    • 出生時の体格は正常なことが多いですが、出生後に成長率が低下し、低身長となることがあります。
    • 小頭症(Microcephaly)を合併することがあります。
  • 感覚器:
    • 難聴(感音性または伝音性)、視力障害(斜視、屈折異常)。
  • 消化器:
    • 哺乳困難、胃食道逆流症(GERD)、便秘。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD)様の行動、多動、不安、攻撃性などが見られることがあります。
    • 一方で、社交的で人懐っこい性格であることも多く報告されています。
  • その他:
    • 心疾患、腎奇形、停留精巣などを合併することがありますが、頻度は高くありません。

原因

6番染色体長腕(6q25)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 6q25欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(稀):
    • 非常に稀ですが、親が均衡型転座保因者である場合や、親自身が軽症のモザイク(体の一部だけ欠失を持っている)である場合、子に遺伝することがあります。

2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)

  • 本質的な原因は、ARID1B遺伝子の量が半分になることです。
  • 脳の発達には厳密な量のARID1Bタンパク質が必要であり、半分では足りず、神経回路の構築に支障が出ます。

診断方法

「発達遅滞」「言葉の遅れ」「脳梁欠損」があり、一般的な検査で原因が分からない場合に疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 6q25領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、ARID1B遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 従来のGバンド検査(顕微鏡検査)では、欠失が小さすぎて見逃されることが多いため、CMAが必須です。
  • 頭部MRI検査:
    • 発達遅滞の原因精査として行われ、脳梁欠損や低形成が見つかった場合、本疾患を疑う強力な根拠となります。
  • 全エクソーム解析(WES) / 遺伝子パネル検査:
    • 染色体欠失ではなく、ARID1B遺伝子の中の点変異でも全く同じ症状が出るため、CMAで異常がなかった場合にこれらの検査で診断されることがあります。現在はこれらをまとめて「ARID1B関連障害」として扱うことが一般的です。

治療方法

欠失した遺伝子を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、生活能力を向上させるための**療育(ハビリテーション)**が中心となります。

1. 発達・療育的支援(最優先)

  • 言語聴覚療法(ST):
    • 最も重要なアプローチです。
    • 理解力に比べて発語が困難なため、早期からサイン、絵カード(PECS)、タブレット端末(VOCA)などの**AAC(補助代替コミュニケーション)**を導入します。
    • 「伝えたいのに伝わらない」というフラストレーションを解消することで、かんしゃくなどの行動問題を減らすことができます。
  • 理学療法(PT)・作業療法(OT):
    • 筋緊張低下に対し、体幹を鍛え、運動発達を促します。
    • 手先の不器用さに対し、遊びを通じた訓練を行います。
  • 教育:
    • 知的障害の程度に合わせて、特別支援学校や支援学級を選択します。個別の教育支援計画(IEP)を作成し、視覚的な支援を取り入れた学習環境を整えます。

2. 合併症の管理

  • てんかん:
    • 抗てんかん薬による発作コントロールを行います。
  • 感覚器:
    • 難聴や視力障害がある場合、補聴器や眼鏡を使用し、感覚入力を確保します。
  • 消化器・栄養:
    • 哺乳困難や成長障害がある場合、栄養指導や高カロリーミルクの使用を検討します。
  • 歯科:
    • 歯並びの悪さや虫歯に対し、定期的なケアを行います。

3. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 「コフィン・シリス症候群」という診断名がついた場合でも、重症度は人それぞれです。特に6q25欠失(ARID1B欠失)の場合は、内臓奇形などの合併症は比較的軽度であることが多いため、過度に不安にならないよう正しい情報を伝えます。
  • 家族支援:
    • 次子再発リスクや、将来の生活設計について相談に乗ります。

まとめ

6q25 microdeletion syndromeは、6番染色体の一部、特に脳の発達に重要なARID1B遺伝子が欠失することで起こる疾患です。

この疾患のお子さんは、言葉を話し始めるのがゆっくりですが、こちらの言っていることはよく理解しており、豊かな表情や身振りでコミュニケーションをとってくれます。

「脳梁欠損」や「知的障害」という言葉を聞くと、ご家族は将来について大きな不安を感じられるかもしれません。

しかし、この疾患のお子さんは、重篤な心臓病などを合併することは比較的少なく、身体的には健康に過ごせることが多いです。

性格は人懐っこく、社交的であることも多く、学校生活や地域社会の中で愛される存在として成長していきます。

特徴的な「小指の爪が小さい」ことや「毛深い」といった身体的特徴も、その子の個性の一部です。

最も大切なサポートは、言葉が出にくい時期に「絵カード」や「サイン」を使って、お子さんの伝えたい気持ちを汲み取ってあげることです。コミュニケーションの手段があれば、お子さんの世界は大きく広がります。

小児科医、神経科医、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんのゆっくりですが着実な歩みを、長く、温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Nagamani, S.C., et al. (2009). Interstitial deletion of 6q25.2-q25.3: a novel microdeletion syndrome associated with microcephaly, developmental delay, dysmorphic features and hearing loss. European Journal of Human Genetics.
    • (※6q25領域の欠失を新たな微細欠失症候群として提唱し、小頭症、難聴、特徴的顔貌などの臨床像を定義した重要論文。)
  • Halgren, C., et al. (2012). Corpus callosum abnormalities, intellectual disability, speech impairment, and autism in patients with haploinsufficiency of ARID1B.
    • (※ARID1B遺伝子の欠失(6q25.3)が脳梁欠損や重度言語遅滞の直接的な原因であることを大規模なコホート研究で証明した画期的な文献。)
  • Santen, G.W., et al. (2012). Mutations in SWI/SNF chromatin remodeling complex gene ARID1B cause Coffin-Siris syndrome. Nature Genetics.
    • (※ARID1Bの異常がコフィン・シリス症候群の原因であることを発見し、6q25欠失症候群との臨床的・遺伝的なつながりを明らかにした記念碑的な研究。)
  • Hoyer, J., et al. (2012). Haploinsufficiency of ARID1B causes severe speech impairment, corpus callosum dysgenesis, and a distinctive facial phenotype.
    • (※ARID1Bハプロ不全(欠失)を持つ患者の特徴として、特に「表出言語の重度遅滞」と「脳梁形成異常」を強調した論文。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 6q deletions (from 6q15 to 6q27) (2019).
    • (※患者家族向けに、発達の目安、コミュニケーション支援(AAC)、ARID1B関連の情報を平易にまとめたガイドブック。)
  • GeneReviews® [Internet]: ARID1B-Related Disorder. Initial Posting: 2019. Authors: Santen GWE, et al.
    • (※本症候群の中核となるARID1B関連障害の診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。