別名・関連疾患名
- 7p欠失症候群
- 7p-症候群(7p minus syndrome)
- 7番染色体短腕欠失症候群
- 7pモノソミー(Monosomy 7p / Partial monosomy 7p)
- 関連:グレイグ・セファロポリシンダクティリー症候群(Greig Cephalopolysyndactyly Syndrome; GCPS)
- ※7p14.3領域のGLI3遺伝子が欠失に含まれる場合、この疾患の特徴(多指・合指・巨頭)が現れます。
- 関連:ゼーツレ・チョコット症候群(Saethre-Chotzen syndrome)
- ※7p21.1領域のTWIST1遺伝子が欠失に含まれる場合、この疾患の特徴(頭蓋骨縫合早期癒合症)が現れます。
- 7p21欠失症候群(7p21 deletion syndrome)
対象染色体領域
7番染色体 短腕(p)領域
本疾患は、ヒトの7番染色体の短腕(pアーム)の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じる染色体異常症候群の総称です。
「7p」とひとくくりにされますが、欠失する場所(バンド)や大きさによって症状は大きく異なります。大きく分けて以下の2つの重要な領域(クリティカルリージョン)が知られています。
1. 7p21領域(TWIST1遺伝子を含む):
- 染色体の先端に近い領域です。
- ここには、頭蓋骨の形成に重要なTWIST1遺伝子が含まれています。この領域が欠失すると、頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまう「頭蓋骨縫合早期癒合症」や、特徴的な顔貌が見られます。
2. 7p13-p14領域(GLI3遺伝子を含む):
- 染色体の中間付近の領域です。
- ここには、手足の指や脳の形成に重要なGLI3遺伝子が含まれています。この領域が欠失すると、指が多い(多指症)、指がくっついている(合指症)、頭が大きい(巨頭症)といった特徴が見られます。
【隣接遺伝子症候群としての性質】
7p欠失症候群の多くは、上記の重要な遺伝子だけでなく、その周りの遺伝子もまとめて欠失しています。そのため、遺伝子単体の変異(点変異)による疾患(GCPSやゼーツレ・チョコット症候群単独)に比べて、**「知的障害」や「発達遅滞」**が重くなる傾向があります。これを「隣接遺伝子症候群(Contiguous gene syndrome)」と呼びます。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における報告数は、領域ごとに異なりますが、数百例規模です。
頭蓋骨縫合早期癒合症や多指症という目に見える特徴があるため、比較的診断されやすい疾患ですが、微細な欠失の場合は見逃されている(過少診断)可能性もあります。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
7p deletion syndromeの症状は、**「頭蓋顔面の特徴」「手足の異常」「発達遅滞」**が3大特徴です。
欠失部位によって症状の出方が大きく異なるため、ここでは代表的な症状を解説します。
1. 頭蓋顔面の特徴(Craniofacial features)
欠失部位により、「頭が大きくなるタイプ」と「頭の形が変わるタイプ」に分かれます。
- 頭蓋骨縫合早期癒合症(Craniosynostosis):
- 主に**7p21欠失(TWIST1欠失)**で見られます。
- 赤ちゃんの頭の骨の継ぎ目(縫合線)が、脳が成長しきる前に閉じてしまう状態です。
- 閉じる場所によって、短頭(絶壁)、舟状頭(前後に長い)、三角頭(おでこが尖る)などの変形が生じます。
- 放置すると脳圧が上がり、発達に影響することがあるため、手術が必要になることがあります。
- 大頭症(Macrocephaly) / 前頭部突出:
- 主に**7p13-14欠失(GLI3欠失)**で見られます。
- おでこが広く、前に張り出しており、頭囲が大きいことが特徴です。
- 大泉門(頭のてっぺんの柔らかい部分)が大きく、閉じるのが遅い傾向があります。
- 顔貌:
- 眼間開離(Hypertelorism): 目と目が離れている。
- 眼瞼下垂: まぶたが下がっている。
- 鼻根部が低く広い。
- 低位付着耳、耳介の変形。
2. 手足・四肢の異常(Limb anomalies)
診断の重要な手がかりとなります。
- 多指症(Polydactyly):
- 手や足の指が6本以上ある状態です。特に親指側(軸前性)や小指側(軸後性)に見られます。
- 合指症(Syndactyly):
- 指と指の間が水かき状にくっついている状態です。
- 手だけでなく、足の指にも見られます。
- 多合指症(Polysyndactyly):
- 多指と合指が合併している状態です。これはGLI3遺伝子の影響によるグレイグ症候群様の特徴として典型的です。
- 指の特徴:
- 親指や足の親指が幅広い(Broad thumbs/halluces)。
3. 神経発達・認知機能
欠失範囲が広いほど、症状は重くなる傾向があります。
- 発達遅滞(DD) / 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅広いです。
- GLI3やTWIST1遺伝子の単独変異では知能が正常なことも多いですが、染色体欠失(deletion)の場合は周辺の遺伝子も失われるため、多くの場合で中等度〜重度の知的障害を伴います。
- 言語発達遅滞:
- 言葉の理解・表出ともに遅れます。
- 運動発達遅滞:
- 筋緊張低下(Hypotonia)があり、首すわりや歩行開始が遅れます。
4. その他の合併症
- 骨格: 側弯症、関節の緩さ、あるいは関節拘縮。
- 心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)などの先天性心疾患(約10〜20%)。
- 泌尿生殖器: 停留精巣(男児)、水腎症、膀胱尿管逆流症など。
- 眼科: 斜視、屈折異常。
原因
7番染色体短腕(7p)における微細欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 7p欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
- 家族性(親の転座):
- 親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっている)」などの構造異常を持っている場合があります。
- この場合、親は健康ですが、子に不均衡な欠失が生じます。
- 親が転座保因者の場合、きょうだいへの再発リスクが高くなります。
2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)と責任遺伝子
- TWIST1(7p21.1): * 頭蓋骨の縫合線を制御する遺伝子です。これが半分になると、骨の成長シグナルが乱れ、早期癒合が起こります。
- GLI3(7p14.3):
- 手足の指の数や形、脳の形を決める「ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル」の調節因子です。これが半分になると、指の形成停止がうまくいかず多指になったり、指の分離ができず合指になったりします。
診断方法
「頭の形や大きさの異常」「多指・合指」「発達遅滞」の組み合わせから疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 7p領域の欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、TWIST1やGLI3といった重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
- これにより、予後(手術の必要性や発達の見通し)をより正確に予測できます。
- 頭部CT / 3D-CT:
- 頭蓋骨縫合早期癒合症の診断と、手術計画のために行われます。縫合線の閉鎖状況を立体的に確認します。
- レントゲン検査:
- 手足の骨の構造(多指・合指の骨の状態)を確認します。
- 両親の染色体検査:
- 診断確定後、次子のリスク評価のために行われることがあります。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。
治療は、頭蓋骨や手足の形態異常に対する外科的治療と、発達を促す療育が中心となります。
1. 頭蓋顔面外科・脳神経外科的治療
7p21欠失(頭蓋骨縫合早期癒合症)の場合、非常に重要です。
- 頭蓋形成術:
- 脳の成長に必要なスペースを確保し、頭蓋内圧亢進を防ぐため、また整容面(見た目)を改善するために手術を行います。
- 時期は変形の程度や脳圧によりますが、生後数ヶ月〜1歳頃に行われることが多いです。
- 内視鏡手術や、骨延長器を用いた手術など、お子さんの状態に合わせた術式が選択されます。
2. 手足の形成外科的治療
- 多指症・合指症の手術:
- 手の機能獲得と整容面の改善を目的に、余分な指の切除や、くっついている指の分離手術を行います。
- 通常、1歳前後から就学前に行われることが多いですが、指の使い勝手などを考慮して時期を決定します。
3. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張低下に対し、運動発達を促します。
- 作業療法(OT):
- 手指の手術後など、手の機能(つまむ、握るなど)を高めるリハビリを行います。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。
4. 合併症の管理
- 眼科: 斜視や屈折異常に対し、眼鏡装用などの治療を行います。
- 心疾患: 定期的な経過観察や、必要に応じた手術を行います。
5. 遺伝カウンセリング
- 情報の整理:
- 「7p欠失」といっても、GLI3欠失(グレイグ型)とTWIST1欠失(チョコット型)では症状が異なります。お子さんのタイプに合わせた正確な情報提供を行います。
- 家族支援:
- 次子再発リスクや、将来の生活設計について相談に乗ります。
まとめ
7p deletion syndromeは、7番染色体の一部が欠けることで起こる疾患です。
この疾患のお子さんは、生まれつき頭の形が少し特徴的だったり、手足の指が多かったりくっついていたりすることがあります。
これらは、赤ちゃんがお腹の中で体を作るときに必要な「設計図(遺伝子)」の一部が不足していたために起こったものです。
「頭の手術」や「指の手術」と聞くと、ご家族はとても不安に思われるかもしれません。しかし、現在の医療技術では、これらの手術は確立されており、適切な時期に行うことで、脳の発達を守り、手の機能を十分に引き出すことができます。
また、発達に関してはゆっくりとしたペースで進んでいきますが、療育を通じて「できること」は着実に増えていきます。
手術を乗り越え、リハビリを頑張るお子さんの姿は、ご家族に多くの勇気を与えてくれるはずです。
この疾患は、欠けている場所によって症状が一人ひとり違います。インターネット上の情報だけで判断せず、遺伝子検査の結果をもとに、その子自身の「特徴」を正しく理解することが大切です。
脳神経外科医、形成外科医、小児科医、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの健やかな成長を、長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Cai, J., et al. (2003). A spectrum of 7p deletions: clinical phenotype and molecular characterization.
- (※7p21(TWIST1)と7p13(GLI3)を含む様々な7p欠失症例を比較し、欠失部位と臨床症状(頭蓋癒合 vs 巨頭・多指)の明確な相関(Genotype-Phenotype Correlation)を示した重要論文。)
- Johnston, J.J., et al. (2002). Molecular analysis of the GLI3 gene in 107 cases of polysyndactyly.
- (※GLI3遺伝子の異常が多指・合指症の原因であることを詳細に解析し、微細欠失も含めた遺伝学的背景を明らかにした研究。)
- El-Gharbawy, A.H., et al. (2006). Molecular characterization of a patient with 7p21 deletion and Saethre-Chotzen syndrome.
- (※TWIST1を含む7p21欠失患者の症例報告。隣接遺伝子症候群としての発達遅滞と、頭蓋骨縫合早期癒合症の関連について詳述。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 7p deletions (2018).
- (※患者家族向けに、頭蓋骨の手術、手足のケア、発達の目安、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: Greig Cephalopolysyndactyly Syndrome / Saethre-Chotzen Syndrome.
- (※本症候群の主要な表現型であるGCPSおよびSCSの診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)
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