別名・関連疾患名
- 7p22.1微細重複症候群
- 7p22.1重複症候群(7p22.1 duplication syndrome)
- 7p22.1トリソミー(Trisomy 7p22.1)
- 部分的7pトリソミー(Partial trisomy 7p)
- ※7p22.1を含むより広範囲な重複の総称としても使われますが、現在はマイクロアレイ検査により詳細な「7p22.1」として区別されます。
- ACTB重複症候群(ACTB duplication syndrome)
- ※本症候群の主要な症状(発達遅滞、大頭症など)が、この領域に含まれるACTB遺伝子の重複によって引き起こされるため、原因遺伝子に基づいてこう呼ばれることがあります。
対象染色体領域
7番染色体 短腕(p)22.1領域
本疾患は、ヒトの7番染色体の短腕(pアーム)の末端(テロメア)に近い「22.1」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
7p22.1領域の重複サイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。
かつては「7pトリソミー」としてひとくくりにされていましたが、近年の解析技術の進歩により、この領域には脳の発達や細胞の構造維持に不可欠な遺伝子が含まれていることが判明しました。
特に、以下の遺伝子が本症候群の特徴的な症状を引き起こす「責任遺伝子(Critical Gene)」として重要視されています。
【最重要遺伝子:ACTB (Actin Beta)】
- 役割: ACTB遺伝子は、「βアクチン」というタンパク質を作ります。これは細胞の骨組み(細胞骨格)を構成する最も基本的な成分の一つです。神経細胞が正しい場所に移動したり、形を変えたり、シナプスを形成したりするために不可欠な役割を果たします。
- 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect):
- βアクチンは、多すぎても少なすぎても細胞に悪影響を与えます。
- 変異(点変異): ACTB遺伝子の点変異は「バライツァー・ウィンター症候群(Baraitser-Winter syndrome)」を引き起こし、小頭症や脳回異常を呈します。
- 重複(本疾患): 逆にこの遺伝子が増えて過剰になると、**「大頭症(Macrocephaly)」や「知的障害」**を引き起こすことが分かっています。つまり、遺伝子の量のバランスが崩れること(トリプロセンシティ)が病態の本質です。
※その他、RAC1などの隣接遺伝子も重複に含まれる場合、心疾患などの合併症リスクに影響を与える可能性があります。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
7番染色体短腕の異常自体は比較的報告されていますが、「7p22.1」という特定の微細重複に限ると、世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例規模です。
しかし、これは疾患が存在しないのではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。
- 検査技術: 一般的なGバンド染色体検査(顕微鏡検査)では見逃されるほど微細な重複である場合が多く、マイクロアレイ染色体検査(CMA)を行わないと診断できません。
- 症状の非特異性: 大頭症や発達遅滞以外に目立った身体奇形がない軽症例では、遺伝子検査に至らず「個性の範囲」や「原因不明の発達遅滞」として過ごされている可能性があります。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
7p22.1 microduplication syndromeの症状は、重複する範囲やサイズによって個人差がありますが、共通して**「特徴的な顔貌(特に大頭症)」「発達遅滞」「骨格の特徴」**が見られます。
重篤な内臓奇形を伴うことは比較的少なく、生命予後は良好なケースが多いですが、神経発達への影響が中心となります。
1. 頭部・顔貌の特徴(Craniofacial features)
本症候群において最も特徴的な身体所見です。
- 大頭症(Macrocephaly):
- 非常に高い頻度で見られます。
- 頭囲が成長曲線の上限を超える、あるいは上限ギリギリで推移します。
- おでこが広く、前に張り出している(前頭部突出)ことが多いです。
- これは、ACTB遺伝子の重複による細胞骨格の変化が影響していると考えられています。
- 顔貌:
- 眼間開離(Hypertelorism): 目と目が離れている。
- 鼻根部が広く平坦。
- 鼻先が上を向いている、あるいは丸い鼻。
- 尖ったあご(Pointed chin)。
- 低位付着耳、耳介の変形。
- 眉毛が薄い、あるいはアーチ状の眉。
2. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、軽度から中等度(時に重度)の発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
- 多くの場合、軽度〜中等度の知的障害を伴います。
- 言葉の理解や表出が遅れる傾向があります(Speech delay)。
- 抽象的な概念の理解や、学習面でのサポートが必要になることが多いです。
- 運動発達遅滞:
- 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達の遅れの一因となります。
- 行動特性:
- 自閉スペクトラム症(ASD): 社会的なコミュニケーションの苦手さ、こだわり、視線が合いにくいなどの特性が見られることがあります。
- ADHD: 多動、不注意、衝動性。
- 不安の強さや、かんしゃくが見られることもあります。
3. 骨格・四肢の異常
手足の特徴は診断の手がかりになることがあります。
- 指の異常:
- 皮膚性合指症(Cutaneous syndactyly): 指と指の間(特に第2指と第3指、または第3指と第4指)に水かき状の皮膚があることがあります。
- 短指症(Brachydactyly): 指が短い。
- 湾曲指(Clinodactyly):小指が内側に曲がっている。
- 親指が太い、あるいは位置が特徴的であることなどが報告されています。
- 関節:
- 関節の過伸展(体が柔らかすぎる)が見られることがあります。
4. その他の合併症
重複範囲が広い場合や、個人差により以下のような合併症が見られることがあります。
- 心疾患:
- 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)などの先天性心疾患(約20〜30%)。
- 腎・泌尿器:
- 停留精巣(男児)、水腎症など。
- 眼科:
- 斜視、屈折異常(遠視・乱視)。
- その他:
- 臍ヘルニア、鼠径ヘルニア。
- けいれん発作(てんかん)を合併するケースも報告されていますが、頻度は高くありません。
原因
7番染色体短腕(7p22.1)における微細重複が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 7p22.1重複症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
- 家族性(Inherited):
- 親からの遺伝であるケースも比較的多く報告されています。
- 親自身も同じ重複を持っていて、軽度の学習障害や大頭症があるものの、診断されずに社会生活を送っている場合(軽症例や不完全浸透)があります。
- また、親が「均衡型転座」の保因者である場合、子に不均衡な重複として遺伝することがあります。
- 親が保因者の場合、きょうだいへの再発リスクは50%(常染色体顕性遺伝形式の場合)となります。
2. ACTB遺伝子の過剰発現
- 本症候群の本質は、ACTB遺伝子が3コピー(通常より1.5倍)になることです。
- βアクチンが増えすぎると、神経細胞の形が変わってしまったり、脳の構築が変わってしまったりします。これが大頭症や知的障害の直接的な原因と考えられています。
- ※ちなみに、ACTB遺伝子の「欠失(減少)」や「機能喪失変異」は、また別の発達障害や奇形症候群を引き起こすことが知られており、この遺伝子の量は厳密に制御されている必要があります。
診断方法
「大頭症」「発達遅滞」「特徴的な顔貌」があり、一般的な検査で原因が分からない場合に疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 7p22.1領域の微細な重複を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、ACTB遺伝子が含まれているかを特定できます。
- 従来のGバンド検査では、重複が小さすぎる場合に見逃されることがあるため、CMAが必須です。
- 両親の解析(Parental Testing):
- お子さんの診断確定後、両親の検査(CMAやFISH法)を行うことが推奨されます。
- 家族性か突然変異かを知ることは、次子のリスク評価や、親自身の健康管理においても重要です。
- 画像検査(MRI / CT / エコー):
- 大頭症がある場合、水頭症などの器質的疾患を除外するために頭部MRIやCTが行われることがあります。通常、7p22.1重複では脳室拡大などはあっても、手術が必要な水頭症ではないことが多いです。
- 心エコーで心疾患の有無を確認します。
治療方法
重複した染色体を元に戻す治療法はありません。
治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、発達を促す**療育(ハビリテーション)**が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。絵カードやサインなどのAAC(補助代替コミュニケーション)も有効です。
- 理学療法(PT):
- 筋緊張低下に対し、体幹を鍛え、粗大運動(歩行など)の発達を促します。
- 教育:
- 知的障害の程度に合わせ、特別支援学校や支援学級、通級指導教室など、個別に適した教育環境を選択します。多くの患者さんは、適切な支援の下で学校生活に適応します。
2. 健康管理・サーベイランス
- 頭囲のモニタリング:
- 乳幼児健診などで頭囲の成長曲線をチェックします。急激な拡大がない限り、特別な治療は不要です。
- 心疾患:
- 心疾患がある場合、定期的な経過観察や、必要に応じた手術・投薬を行います。
- 眼科・耳鼻科:
- 視力や聴力の検査を定期的に行い、学習の妨げにならないようにケアします。
- てんかん:
- まれに発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
3. 遺伝カウンセリング
- 情報の整理:
- 「7p重複」と検索すると、より広範囲で重篤な「7pトリソミー」の情報が出てくることがありますが、7p22.1微細重複は比較的マイルドな経過をたどることが多いです。正確な情報を理解できるようサポートします。
- 家族へのケア:
- 親が保因者だった場合、「遺伝させてしまった」と自分を責めないよう、遺伝のメカニズム(誰にでも起こりうる変異であり、個性の一部であること)を説明します。
まとめ
7p22.1 microduplication syndromeは、7番染色体の先端部分が少しだけ増えることで起こる疾患です。
この疾患のお子さんは、おでこが広く、頭が少し大きめで、とても愛らしいお顔立ちをしていることが多いです(大頭症)。これは、脳や体の骨組みを作る遺伝子(ACTB)が増えていることに関連しています。
ご家族にとって、「染色体異常」や「発達の遅れ」という言葉は、将来への大きな不安を感じさせるものかもしれません。
しかし、この疾患は、重篤な内臓の病気を合併することは比較的少なく、命に関わるリスクは低い傾向にあります。
発達のペースはゆっくりですが、療育を受けることで、お座りができたり、歩けるようになったり、お話しできるようになったりと、その子なりのステップを着実に進んでいきます。
知的な遅れがあっても、ニコニコと社交的な性格のお子さんも多く、学校生活や地域の中で楽しく過ごしている例もたくさんあります。
また、この体質は親御さんから受け継がれていることもあり、その場合は親御さんも同じ特徴(少し頭が大きいなど)を持っていることがあります。それは「病気」というよりも、「家族の体質・個性」に近いものと言えるかもしれません。
小児科医、療育スタッフ、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんのユニークな成長を、長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Cuvertino, S., et al. (2017). ACTB loss-of-function mutations result in a pleiotropic developmental disorder.
- (※ACTB遺伝子の機能不全に関する論文だが、ACTBの重複(Duplication)についても言及があり、遺伝子量効果による表現型の違い(大頭症 vs 小頭症)を理解する上で重要な文献。)
- Takenouchi, T., et al. (2014). 7p22.1 microduplication syndrome: A novel clinical entity.
- (※7p22.1微細重複症候群を新たな疾患単位として提唱し、大頭症、特徴的顔貌、発達遅滞といった中核症状を定義した重要論文。)
- Cox, D.M., et al. (2000). Copy number variants of the 7p22.1 region involving ACTB associated with macrocephaly and developmental delay.
- (※ACTB遺伝子を含む7p22.1領域のコピー数変異(CNV)と、大頭症・発達遅滞の関連を詳細に解析した研究。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 7p duplications (2019).
- (※患者家族向けに、7p重複全般の特徴、発達の目安、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。7p22重複に関する記述も含む。)
- Caselli, R., et al. (2018). 7p22.1 microduplication syndrome: new cases and literature review.
- (※新規症例の報告とともに、過去の文献をレビューし、臨床的特徴の多様性と共通点(大頭症など)をまとめた文献。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: ACTB.
- (※ACTB遺伝子のトリプロセンシティ(重複による病原性)に関する科学的評価。重複が大頭症や神経発達障害を引き起こすことのエビデンスが評価されている。)
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