Alagille syndrome 1 (ALGS1)

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • アラジール症候群(Alagille syndrome; ALGS)
    • ※臨床的には1型と2型を区別せず、総称してこう呼ばれることが一般的です。
  • 動脈肝異形成症(Arteriohepatic dysplasia; AHD)
    • ※肝臓と心血管系の異常が主徴であることからつけられた、歴史的な別名です。
  • 症候性胆管減少症(Syndromic bile duct paucity)
    • ※「胆管が少ない」という病理学的特徴を指す名称です。
  • 関連:Alagille syndrome 2 (ALGS2)
    • NOTCH2遺伝子の変異によって起こるタイプです。症状はALGS1とほぼ同じですが、頻度は非常に低く(全体の数%)、ALGS1(JAG1変異)が全体の90%以上を占めます。

対象染色体領域

20番染色体 短腕(p)12.2領域

本疾患は、ヒトの20番染色体の短腕(pアーム)の「12.2」と呼ばれるバンド領域に位置する、JAG1遺伝子の変異または欠失によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細とNotchシグナル】

このJAG1遺伝子は、**「Notch(ノッチ)シグナル伝達経路」**という、細胞同士のコミュニケーションシステムにおいて非常に重要な役割を果たしています。

  • 役割: 胎児がお母さんのお腹の中で育つとき、ある細胞が隣の細胞に「あなたは肝臓の管になりなさい」「あなたは血管になりなさい」と指令を出す必要があります。JAG1は、この指令を伝える「手紙(リガンド)」のようなタンパク質を作ります。
  • 1型(ALGS1): 手紙(JAG1)が出せないため、指令が届かない状態です。
  • 2型(ALGS2): 手紙を受け取るポスト(NOTCH2受容体)が壊れている状態です。
    結果として、どちらも「管(くだ)」を作る指令がうまく伝わらず、全身の様々な臓器(肝臓の胆管、心臓の血管など)の形成不全が生じます。

発生頻度

30,000人 〜 70,000人に1人

正確な発生頻度は国や地域によって報告に差がありますが、およそ出生3万〜7万人に1人程度と推定されています。

しかし、これは「典型的な症状を持つ患者さん」の数であり、症状が軽微(例えば、軽い心雑音だけ、特徴的な顔立ちだけ)で診断に至っていない潜在的な患者さんを含めると、実際の頻度はもっと高いのではないかと考えられています。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとりますが、患者さんの約50〜70%は、両親からの遺伝ではなく、突然変異(De novo)によって発症しています。

臨床的特徴(症状)

Alagille syndrome 1の症状は、**「肝臓」「心臓」「顔貌」「眼」「骨格」の5大徴候が有名ですが、これに「腎臓」や「血管」の異常を加えた7つのシステムが主な影響範囲です。

最大の特徴は、「表現型の多様性(Variable Expressivity)」**です。同じ遺伝子変異を持つきょうだいでも、兄は重い肝臓病、弟は軽い心雑音のみ、といったことが頻繁に起こります。

1. 肝臓の症状(Liver):胆管減少と胆汁うっ滞

患者さんの約90〜95%に見られる、最も生活への影響が大きい症状です。

  • 胆管減少(Bile duct paucity):
    • 肝臓の中で作られた消化液(胆汁)を流す「肝内胆管」の数が、生まれつき少ない状態です。
  • 胆汁うっ滞(Cholestasis):
    • 出口が少ないため、胆汁が肝臓の中に溜まってしまいます。
    • 黄疸: 生後まもなくから、白目や皮膚が黄色くなる遷延性黄疸が見られます。便が白っぽくなる(白色便)こともあります。
    • そう痒感(かゆみ): 胆汁酸が血液中に溢れ出すことで、**「激しいかゆみ」**が生じます。これは患者さんのQOL(生活の質)を著しく下げる最大の要因の一つであり、夜眠れない、集中できないといった問題を引き起こします。
    • 黄色腫(Xanthoma): コレステロールの代謝異常により、皮膚(特に関節や手のひら)に黄色い脂肪の塊ができます。
  • 進行: 多くの患者さんで幼児期以降に肝機能は改善傾向を示しますが、約15〜20%の患者さんでは肝硬変へと進行し、肝移植が必要になることがあります。

2. 心臓・血管の症状(Heart & Vascular)

患者さんの約90%以上に何らかの心血管異常が見られます。

  • 末梢性肺動脈狭窄症(Peripheral Pulmonary Stenosis; PPS):
    • 最も一般的な所見です。心臓から肺へ血液を送る血管の、枝分かれした先の部分が狭くなっています。軽度であれば治療の必要はなく、自然経過観察のみで済むことも多いです。
  • ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot):
    • 重篤な心疾患として合併することがあります(約10%)。この場合は手術が必要です。
  • その他の心疾患: 心房中隔欠損症、心室中隔欠損症など。

3. 特徴的な顔貌(Facies)

「アラジール様顔貌」と呼ばれる独特の愛らしいお顔立ちをしています。成長とともに特徴がはっきりしてくることが多いです。

  • 逆三角形の顔: 額が広く、あごが小さく尖っています。
  • 眼の特徴: 眼が深くくぼんでいる(Deep-set eyes)、眼間開離(目が離れている)。
  • 鼻: 鼻筋が通っており、鼻先が少し上を向いている、または球状。
  • 耳: 耳の位置が低い、耳たぶが小さい。

4. 骨格の症状(Skeleton)

  • 蝶形椎(Butterfly vertebrae):
    • 背骨(椎骨)の形が、レントゲンで見ると蝶々が羽を広げたような形に見えます。
    • 患者さんの約30〜80%に見られますが、これ自体が痛みや神経症状を起こすことは稀で、通常は治療の必要はありません。診断の重要な手がかりとなります。

5. 眼の症状(Eye)

  • 後部胎生環(Posterior embryotoxon):
    • 黒目(角膜)の縁の内側に、白いリング状の線が見える状態です。
    • 視力には影響しませんが、眼科の細隙灯検査で見つかる診断的な特徴です。
  • その他、視神経乳頭の異常などが報告されています。

6. 腎臓の症状(Kidney)

  • 腎異形成、腎嚢胞、腎尿細管性アシドーシスなどが約40%に見られます。

7. 中枢神経・血管系の症状(Vascular/CNS)

  • 頭蓋内出血: アラジール症候群の予後を左右する重要な合併症として、脳血管の異常(もやもや病様血管や動脈瘤)による頭蓋内出血のリスクがあります(約14%という報告もあります)。
  • 軽度の発達遅滞が見られることもありますが、多くは正常知能です。

8. 成長障害

  • 胆汁が出ないことで「脂質」や「脂溶性ビタミン」の吸収が悪くなり、栄養不良による成長障害(低身長・低体重)を来すことがよくあります。骨折しやすくなる(ビタミンD不足)こともあります。

原因

JAG1遺伝子の変異または欠失が原因です。

1. JAG1遺伝子のハプロ不全

  • JAG1遺伝子は、Notchシグナル伝達のリガンド(指令役)です。
  • 通常、人は2本の染色体を持っていますが、そのうちの1本のJAG1遺伝子に異常がある(または欠失している)と、作られるJAG1タンパク質の量が半分になってしまいます(ハプロ不全)。
  • 肝臓の胆管や心臓の血管を作るには、厳密な量のJAG1タンパク質が必要であるため、量が半分になるだけで正常な構造が作れなくなります。

2. 遺伝子型と表現型の関連(Genotype-Phenotype Correlation)

  • 興味深いことに、「遺伝子が完全に欠失している人」と「遺伝子の一部だけ変異している人」の間で、症状の重さに明確な差はありません。
  • また、同じ変異を持つ家族内でも症状がバラバラであることから、JAG1以外の他の遺伝子(修飾遺伝子)や環境要因が、症状の重さを決めていると考えられています。

診断方法

臨床的な診断基準と、遺伝学的検査を組み合わせて行います。

  • 臨床診断:
    • 肝生検での「胆管減少」に加えて、主要5徴候(胆汁うっ滞、心疾患、骨格異常、眼異常、特徴的顔貌)のうち3つ以上が認められれば診断されます。
  • 遺伝学的検査:
    • シークエンス解析: JAG1遺伝子の変異を調べます。
    • マイクロアレイ染色体検査 / FISH法: JAG1を含む20p12領域の欠失(微細欠失)を調べます。
    • 遺伝子変異が見つかれば、症状が揃っていなくても確定診断となります。
  • 画像検査:
    • 腹部エコー、心エコー、脊椎レントゲン、頭部MRI/MRA(血管病変のスクリーニング)など。
  • 眼科検査:
    • 後部胎生環の有無を確認します。

治療方法

根本的な遺伝子治療法はまだありません。

治療は、症状を和らげ、合併症を防ぐ対症療法が中心となります。特に「肝臓」と「心臓」の管理が重要です。

1. 肝臓・栄養の管理

最も日常的なケアが必要な部分です。

  • 胆汁の流れを良くする:
    • ウルソデオキシコール酸(UDCA): 胆汁の流れを促進し、肝機能を保護します。
  • かゆみ(そう痒)対策:
    • これが非常に重要です。かゆみは睡眠障害や学習障害につながります。
    • 抗ヒスタミン薬、リファンピシン、ナルトレキソンなどが使われます。
    • 新薬(IBAT阻害薬): 近年、**マラリキシバット(Maralixibat)**などの「胆汁酸トランスポーター阻害薬」が登場しました。腸からの胆汁酸の再吸収をブロックして体外へ排出させることで、血中の胆汁酸を減らし、劇的にかゆみを改善する効果が期待されています(国や地域により承認状況が異なりますが、日本でも開発・承認が進んでいます)。
  • ビタミン補充:
    • 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)が吸収されにくいため、特殊なサプリメントで大量に補充します。これにより、くる病(骨の変形)や出血傾向、神経障害を防ぎます。
  • 栄養療法:
    • 脂肪の吸収が悪いため、吸収されやすい**MCTオイル(中鎖脂肪酸)**を含んだミルクや食事を使用し、カロリーを確保します。

2. 外科的治療(肝臓)

  • 部分的胆汁外瘻術(PBDE):
    • 胆汁の一部を体の外(ストーマ)に出す手術です。かゆみがひどく、薬が効かない場合に行われることがありましたが、新薬の登場により頻度は減る可能性があります。
  • 肝移植:
    • 肝硬変に進行した場合、または薬でコントロールできない耐え難いかゆみや骨折、成長障害がある場合、肝移植が行われます。移植後の予後は良好です。
    • ※胆道閉鎖症と異なり、葛西手術(肝門部空腸吻合術)は原則として行いません(かえって肝臓を悪くする可能性があるため)。乳児期の鑑別診断が極めて重要です。

3. 心臓・血管の管理

  • 心疾患:
    • 軽度の肺動脈狭窄であれば経過観察です。重度の場合やファロー四徴症の場合は、カテーテル治療(バルーン拡張)や外科手術を行います。
  • 脳血管:
    • もやもや病などのリスクがあるため、定期的なMRI/MRA検査が推奨されます。

4. 腎臓の管理

  • 定期的な尿検査、血液検査、血圧測定を行い、腎機能をモニタリングします。

5. 遺伝カウンセリング

  • 家族への支援:
    • 親が未診断の軽症患者(保因者)である可能性があるため、両親の検査や診察(心雑音の聴取、眼科検査など)を行い、次子再発リスク(50%か、突然変異か)を評価します。
    • 成人期に達する患者さんも多いため、就労や結婚、妊娠出産に関する相談(移行期医療)も重要です。

まとめ

Alagille syndrome 1(ALGS1)は、20番染色体のJAG1遺伝子の変化により、胆管や血管がうまく作られなくなる疾患です。

この病気は、「黄疸」や「心雑音」で気づかれることが多いですが、最大の特徴は「人によって症状が全く違う」ということです。重い肝臓病で移植が必要になるお子さんもいれば、大人になるまで気づかないほど軽い症状の方もいます。

ご家族にとって、長引く黄疸や、夜も眠れないほどの「かゆみ」は、見ていて本当に辛いものだと思います。

しかし、近年、この「かゆみ」に対する画期的な新薬が登場し、治療の選択肢は大きく広がっています。

また、栄養管理(特殊ミルクやビタミン剤)をしっかり行うことで、骨を丈夫にし、成長を促すことができます。

心臓の病気や、脳の血管のリスクについても、定期的なチェックを行うことで、早期に対処が可能です。

大切なのは、この病気が「全身の病気」であることを理解し、小児科(消化器・循環器)、眼科、腎臓内科、移植外科など、複数の専門家とチームを組んで長期的に付き合っていくことです。

肝移植を受けたお子さんも含め、多くの患者さんが学校に通い、社会で活躍されています。

「アラジール様顔貌」と呼ばれるその愛らしいお顔は、多くの医療者にとって、困難に立ち向かう強さと明るさの象徴でもあります。

焦らず、一つひとつの症状に対して、専門医や遺伝カウンセラーと相談しながら、お子さんの健やかな成長を支えていきましょう。

参考文献

  • Alagille, D., et al. (1987). Syndromic paucity of interlobular bile ducts (Alagille syndrome or arteriohepatic dysplasia): review of 80 cases.
    • (※アラジール症候群の臨床的特徴(5大徴候)を確立し、疾患概念を定義した歴史的かつ最も重要な原著論文。)
  • Li, L., et al. (1997). Alagille syndrome is caused by mutations in human Jagged1, which encodes a ligand for Notch1. Nature Genetics.
    • (※JAG1遺伝子がアラジール症候群の原因であることを発見し、Notchシグナル伝達とヒト疾患の関連を初めて証明した画期的な研究。)
  • Kamath, B.M., et al. (2010). Consequences of JAG1 mutations.
    • (※数百例規模の患者データを解析し、JAG1変異と臨床症状の相関、および頭蓋内出血などの重篤な合併症のリスクについて報告した大規模研究。)
  • Turnpenny, P.D., et al. (2007). Alagille syndrome: pathogenesis, diagnosis and management.
    • (※診断から治療、長期予後までを網羅した包括的なレビュー論文。)
  • GeneReviews® [Internet]: Alagille Syndrome. Initial Posting: 2000; Last Update: 2019. Authors: Kamath BM, et al.
    • (※診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)
  • Gonzales, E., et al. (2021). Maralixibat treatment for Alagille syndrome.
    • (※新薬マラリキシバットの治験結果を報告し、そう痒感の改善効果を示した、最新の治療に関する重要文献。)
  • 難病情報センター(Japan Intractable Diseases Information Center): アラジール症候群(指定難病298).
    • (※日本の公費助成対象疾患としての定義や、国内の診療状況に関する情報源。)

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