Axenfeld-Rieger syndrome, type 3 (RIEG3)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • アクセンフェルト・リーガー症候群(Axenfeld-Rieger syndrome; ARS)
    • ※臨床現場では、遺伝子型(1型か3型か)を区別せず、総称としてこう呼ばれることが一般的です。
  • FOXC1関連アクセンフェルト・リーガー症候群(FOXC1-related Axenfeld-Rieger syndrome)
    • ※原因遺伝子に基づいた、より正確な名称です。
  • 虹彩隅角形成不全症 1型(Iridogoniodysgenesis, type 1; IRID1)
    • ※虹彩と隅角の異常が主徴である場合の診断名ですが、遺伝学的にはRIEG3と同じスペクトラムに含まれます。
  • 6p25欠失症候群 / 6p25重複症候群
    • ※RIEG3の原因遺伝子を含む染色体領域の異常による疾患群です。
  • 関連:Axenfeld-Rieger syndrome, type 1 (RIEG1)
    • ※4番染色体のPITX2遺伝子変異によるタイプです。眼の症状は似ていますが、歯や臍(へそ)の異常が特徴的であり、本疾患(RIEG3)とは全身症状が異なります。

対象染色体領域

6番染色体 短腕(p)25.3領域

本疾患は、ヒトの6番染色体の短腕(pアーム)の最も先端に近い「25.3」と呼ばれるバンド領域に位置する、FOXC1遺伝子の変異、欠失、あるいは重複によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細とFOXC1遺伝子の役割】

FOXC1 (Forkhead Box C1) 遺伝子は、フォークヘッド型転写因子と呼ばれるタンパク質を作ります。これは、胎児期の発生において、特定の細胞集団に対して「移動せよ」「分化せよ」という指令を出す、極めて重要な司令塔(マスター遺伝子)です。

  • 神経堤細胞と中胚葉: 特に、**「神経堤細胞(Neural Crest Cells)」「中胚葉」**由来の組織の発達に関与します。これらは、眼の前眼部(角膜、虹彩、隅角)、心臓、血管、軟骨、脳の一部(小脳など)を作る材料となります。
  • 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect):
    • FOXC1遺伝子は、その「量」が非常に重要です。
    • 欠失・変異: 遺伝子の機能が半分になると(ハプロ不全)、眼や心臓の形成不全が起きます。
    • 重複: 逆に遺伝子が増えて過剰になっても、似たような眼の異常(虹彩形成不全など)が起こることが知られています。
    • つまり、この遺伝子は「多すぎても少なすぎてもダメ」という繊細なバランスの上に成り立っています。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていませんが、アクセンフェルト・リーガー症候群全体(全タイプ含む)として、出生200,000人に1人程度と推定されています。

その内訳として、RIEG1(PITX2変異)とRIEG3(FOXC1変異)が主要な原因であり、それぞれ全体の約40%ずつを占めると考えられています(残りの約20%は原因不明)。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとるため、家系内に複数の患者さんがいる(家族性発症)ケースが見られますが、突然変異(De novo)による孤発例も多く報告されています。

臨床的特徴(症状)

Axenfeld-Rieger syndrome, type 3 (RIEG3) の症状は、**「眼の発達異常」と「眼以外の全身合併症」に分けられます。

眼の症状は1型(RIEG1)と非常に似ていますが、「心臓」「聴覚」「脳」**の異常を合併しやすい点がRIEG3の特徴であり、逆に1型で特徴的な「歯」や「臍」の異常は少ない傾向があります。

1. 眼の症状(Ocular features)

ほぼ全ての患者さんに見られる中核症状です。両眼性ですが、左右で程度が異なることもあります。

  • 後部胎生環(Posterior embryotoxon):
    • 角膜(黒目)の縁にある「シュワルベ線」という組織が肥厚し、前方に偏位している状態です。
    • 医師が診察すると、角膜の辺縁に白い線として確認できます。
  • 虹彩の異常(Iris anomalies):
    • 虹彩突起(Iris processes): 虹彩(茶目)の根元から角膜の裏側へ、糸のような組織が癒着しています。
    • 虹彩低形成(Iris hypoplasia): 虹彩の実質が薄く、のっぺりとして見えたり(クリプトの消失)、一部に穴が開いていたりします。
    • 瞳孔偏位(Corectopia): 瞳孔が中心からずれています。
    • 多瞳孔(Polycoria): 瞳孔が複数あるように見えます。
    • これらは、胎児期に眼が作られる際、組織が完全に分離しきれなかった(分化異常)名残です。
  • 緑内障(Glaucoma):
    • 最も警戒すべき合併症です。患者さんの約50%(報告によってはそれ以上)が緑内障を発症します。
    • 眼の中の水(房水)の出口である「隅角」の発達が悪いため、眼圧が上がりやすくなります。
    • 乳幼児期(先天緑内障)から発症することもありますが、小児期〜若年成人期に発症することが多いです。自覚症状がないまま進行するため、生涯にわたる管理が必要です。

2. 心疾患(Cardiac anomalies)

RIEG3(FOXC1変異)において、RIEG1よりも高頻度に見られる重要な合併症です。

  • 先天性心疾患:
    • 心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、弁の異常(僧帽弁逸脱、大動脈弁狭窄など)が見られることがあります。
    • FOXC1遺伝子が心臓の流出路や弁の形成に関わっているためです。
    • 診断時には必ず心エコー検査を行う必要があります。

3. 聴覚障害(Hearing loss)

  • 感音性難聴:
    • RIEG3の患者さんでは、難聴を合併するリスクがあります。
    • 軽度〜中等度であることが多いですが、補聴器が必要になる場合もあります。

4. 顔貌の特徴(Craniofacial features)

  • 広い鼻根部(Broad nasal bridge): 鼻の付け根が太く平坦です。
  • テレカンサス(Telecanthus): 内眼角(目頭)同士の距離が離れています。
  • その他: 平坦な中顔面、前頭部突出(おでこが出ている)などが見られます。RIEG1に比べて顔貌の特徴はマイルドであることも多いですが、眼間開離(目が離れている)傾向は見られます。

5. 中枢神経系の異常

  • FOXC1は脳の髄膜や血管の形成にも関わるため、MRI検査を行うと異常が見つかることがあります。
  • Dandy-Walker奇形様所見: 小脳虫部の低形成や、後頭蓋窩の拡大など。
  • 脳室拡大・水頭症: 脳脊髄液の循環が悪くなることがあります。
  • 白質病変: 脳の白質に小さな変化が見られることがあります。
  • ※多くの場合は無症状ですが、稀に発達遅滞や運動障害の原因となることがあります。染色体欠失(6p25欠失)の場合は、知的障害を合併する頻度が高くなります。

6. 歯・臍の異常について(RIEG1との違い)

  • 歯の異常: RIEG1(PITX2)では「歯が足りない(欠損歯)」「歯が小さい(小歯症)」が非常に特徴的ですが、RIEG3(FOXC1)ではこれらの異常は稀であるか、軽度です。
  • 臍の異常: RIEG1で見られる「おへその皮膚の余り(出べそ)」は、RIEG3では通常見られません。
  • この違いは、原因遺伝子を推定する上で非常に重要な手がかりとなります。

原因

6番染色体短腕(6p25.3)におけるFOXC1遺伝子の異常が原因です。

1. 発生機序

  • ハプロ不全(Haploinsufficiency):
    • 最も一般的な原因です。
    • FOXC1遺伝子の点変異(塩基配列の間違い)や、遺伝子全体の欠失により、作られるタンパク質の量が半分になってしまう状態です。
    • これにより、眼や心臓を作るための指令が量的に不足し、形成不全が起こります。
  • コピー数重複(Duplication):
    • 染色体の重複により、FOXC1遺伝子の数が増えてしまう(1.5倍になる)ことでも発症します。
    • 興味深いことに、遺伝子が「足りない」場合と「多すぎる」場合で、非常に似た眼の症状(虹彩隅角形成不全)が現れることが分かっています。これは、発生における遺伝子量のバランスがいかに繊細かを示しています。

2. 遺伝形式

  • 常染色体顕性遺伝(優性遺伝):
    • 両親のどちらかが遺伝子変異を持っている場合、50%の確率で子供に遺伝します。
    • 表現型の多様性: 同じ遺伝子変異を持つ親子でも、「親は緑内障のみ、子は心疾患を合併」といったように症状の出方が異なることがよくあります。
  • 新生突然変異(De novo):
    • 両親は正常で、受精の過程で偶然生じた変異であるケースも多いです。

診断方法

「眼の異常」に加えて「全身所見」や「家族歴」を評価し、遺伝学的検査で確定します。

  • 眼科的検査:
    • 細隙灯顕微鏡検査: 後部胎生環、虹彩突起、虹彩低形成を確認します。
    • 隅角検査(ゴニオスコピー): 隅角の構造異常(高位虹彩付着など)を直接観察します。
    • 眼圧検査・視野検査: 緑内障の有無を評価します。
  • 全身のスクリーニング:
    • 心エコー: 弁膜症や中隔欠損がないか確認します(RIEG3では必須)。
    • 聴力検査: 難聴の有無を確認します。
    • 頭部MRI: 脳の構造異常(小脳や脳室)がないか確認します。
    • 歯科・身体診察: RIEG1との鑑別のため、歯や臍の状態を確認します。
  • 遺伝学的検査:
    • 血液からDNAを抽出し、FOXC1遺伝子の解析を行います。
    • シークエンス解析: 点変異を調べます。
    • 欠失・重複解析(CMA/MLPA): 遺伝子のコピー数異常(欠失や重複)を調べます。
    • FOXC1に異常があればRIEG3、PITX2に異常があればRIEG1と確定されます。

治療方法

根本的な遺伝子治療法はまだありません。

治療の中心は、**「緑内障による失明を防ぐこと」と、「合併症の管理」**です。

1. 緑内障の管理(最優先)

生涯にわたる定期的なチェックと治療が必要です。

  • 薬物療法(点眼):
    • まずは点眼薬(β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン関連薬など)で眼圧をコントロールします。
    • しかし、隅角の形成異常という「構造的な問題」があるため、薬が効きにくい(抵抗性)ケースが少なくありません。
  • 外科的手術:
    • 薬で眼圧が十分に下がらない場合、早期に手術を行います。
    • 隅角切開術(ゴニオトミー) / トラベクロトミー: 隅角を切開して房水の流れを良くします。小児期には高い効果が期待できます。
    • 線維柱帯切除術(トラベクレクトミー): 房水のバイパスを作ります。
    • チューブシャント手術: インプラントを挿入して房水を逃がします。
    • 複数回の手術が必要になることもあります。

2. 全身合併症の治療

  • 心疾患:
    • 経過観察で良い軽度のものから、手術が必要なものまで様々です。循環器内科医による管理が必要です。
  • 難聴:
    • 必要に応じて補聴器を使用し、言語発達を支援します。
  • その他:
    • 羞明(まぶしさ)がある場合は、遮光眼鏡(サングラス)を使用します。

3. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 「RIEG3」という診断がついた場合、RIEG1と違って「心臓」や「耳」にも注意が必要であることを理解してもらいます。
  • 家族への支援:
    • 親が未診断の軽症例(自覚症状のない緑内障など)である可能性があるため、両親の眼科検診を強く推奨します。
    • 次子再発リスクや、将来の妊娠に関する相談(着床前診断など)に応じます。

まとめ

Axenfeld-Rieger syndrome, type 3 (RIEG3) は、6番染色体のFOXC1遺伝子の働きに関連して、眼や心臓、耳などが生まれつき特徴的な形や機能を持つ疾患です。

この病気は、1型(RIEG1)とよく似ていますが、歯やおへその異常が少なく、代わりに心臓の病気や難聴を合併しやすいという特徴があります。

患者さんやご家族にとって、最も大切なミッションは**「緑内障から視力を守ること」**です。

この病気では、眼の中の水はけが悪くなりやすく、約半数の方が緑内障を発症します。緑内障は「大人の病気」と思われがちですが、この病気の場合は子供の頃から注意が必要です。

痛みなどの自覚症状がないまま進行することもあるため、「見えているから大丈夫」と安心せず、眼科での定期検診(眼圧検査など)を生活の一部にしてください。

早期に発見できれば、点眼薬や手術によって、視力を維持し続けることができます。

また、心臓や耳についても、一度しっかり検査を受けておけば、適切な管理が可能になります。

知的な発達については、染色体の大きな欠失を伴わない限り、多くの患者さんが正常範囲内であり、通常の学校生活や社会生活を送っています。

眼科医、循環器内科医、小児科医、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、定期的なチェックを続けながら、お子さんの健やかな未来と「見える世界」を、長く、温かく守っていきましょう。

参考文献

  • Nishimura, D.Y., et al. (1998). The forkhead transcription factor gene FKHL7 is responsible for glaucoma phenotypes which map to 6p25. Nature Genetics.
    • (※FOXC1遺伝子(当時はFKHL7と呼ばれた)が、6p25領域にマップされる緑内障や虹彩異常(RIEG3)の原因であることを特定した、歴史的かつ最も重要な原著論文。)
  • Tumer, Z., et al. (2016). Axenfeld-Rieger spectrum: Overview of the genetic heterogeneity and genotype-phenotype correlations.
    • (※アクセンフェルト・リーガー症候群全体のレビュー。特にRIEG1(PITX2)とRIEG3(FOXC1)の臨床像の違い(歯・臍 vs 心臓・聴覚)について詳細に比較・解説した重要文献。)
  • Strungaru, M.H., et al. (2007). PITX2 and FOXC1 spectrum of mutations in ocular syndromes.
    • (※眼形成異常におけるFOXC1変異の種類と、緑内障発症リスクの相関について解析した研究。)
  • Ito, Y.A., et al. (2014). Copy number variation of FOXC1 is a frequent cause of anterior segment dysgenesis.
    • (※FOXC1遺伝子の「欠失」だけでなく「重複(コピー数増加)」もまた、同様の眼異常を引き起こす頻度の高い原因であることを明らかにした論文。)
  • GeneReviews® [Internet]: Axenfeld-Rieger Syndrome. Initial Posting: 2003; Last Update: 2018. Authors: Alward WLM.
    • (※診断基準、最新の管理指針、各タイプ(RIEG1, RIEG3)の鑑別点、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)
  • Reis, L.M., et al. (2012). FOXC1 Dosage Variance Causes the Anterior Segment Defects and Glaucoma in Axenfeld-Rieger Syndrome.
    • (※FOXC1の遺伝子量効果(Dosage effect)に焦点を当て、分子メカニズムと臨床像の関連を詳述した文献。)

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