Cat eye syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • シュミット・フラッカロ症候群(Schmid-Fraccaro syndrome)
    • ※1965年にこの疾患の染色体異常のメカニズムを確立したSchmid博士とFraccaro博士にちなんだ、医学的に正式な別名です。
  • 部分的22qテトラソミー(Partial tetrasomy 22q)
    • ※遺伝学的な状態を正確に表した名称です。「22番染色体の一部が4本ある(テトラソミー)」という意味です。
  • 22番染色体逆位重複(Inv dup(22)(q11))
    • ※染色体の構造異常のタイプを示した名称です。
  • CES(略称)

対象染色体領域

22番染色体 長腕(q)11領域

(22pter-22q11)

本疾患は、ヒトの22番染色体の特定の部分(セントロメアからq11.1と呼ばれる領域まで)が、通常の2本ではなく、**「過剰な小さな染色体(マーカー染色体)」**として余分に存在することで引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と「テトラソミー」の意味】

ここが少し複雑ですが、本疾患を理解する上で最も重要なポイントです。

通常、ヒトは22番染色体を2本持っています(父由来・母由来)。

しかし、Cat eye syndromeの患者さんは、この2本の正常な22番染色体に加えて、**「小さな余分な染色体(Supernumerary Marker Chromosome; sSMC)」**を1本持っています。

この小さな染色体は、22番染色体の端っこ(q11領域)が鏡合わせのようにくっついて(逆位重複)できています。

つまり、特定の遺伝子領域(CECR:Cat Eye Syndrome Critical Region)が、以下のようになっています。

  • 正常な22番染色体(2本) + マーカー染色体に含まれる2本分 = 合計4コピー(テトラソミー)

この「遺伝子が4倍ある状態(遺伝子量効果)」が、体の発生に影響を与え、様々な症状を引き起こします。

※稀に、マーカー染色体が全身の細胞ではなく一部の細胞にのみ存在する「モザイク型」のケースもあり、その場合は症状が軽くなる傾向があります。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていませんが、約50,000人 〜 150,000人に1人と推定されています。

ただし、これは「典型的な症状を持つ患者数」に基づいた推定です。本疾患は症状の個人差が極めて大きく、特徴的な症状が乏しい軽症例(不全型)も多く存在するため、実際には診断されていない潜在的な患者さんがもっと多い可能性があります。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

Cat eye syndromeの症状は、「眼のコロボーマ」「耳前部の異常」「鎖肛(肛門閉鎖)」の3つが古典的な3大徴候として知られていますが、これらが全て揃う患者さんは全体の約40%程度です。

全く無症状に近い方から、心臓や腎臓に重い合併症を持つ方まで、スペクトラム(幅)が非常に広いのが特徴です。

1. 眼の症状(Ocular features)

疾患名の由来となった特徴ですが、必ずしも全員に見られるわけではありません(約50〜60%)。

  • 虹彩コロボーマ(Iris coloboma):
    • 虹彩(茶目)の一部が欠けており、瞳孔が鍵穴のような形、あるいは**「猫の目(縦長)」**のように見える状態です。
    • 通常は虹彩の下側が欠けています。
  • 脈絡膜・網膜コロボーマ:
    • 外見からは分かりませんが、眼の奥(網膜や脈絡膜)にも欠損が及んでいることがあります。この場合、視野の一部が欠けたり、視力が低下したりすることがあります。
  • その他: 斜視、小眼球症、片眼のみの異常などが報告されています。

2. 耳の症状(Auricular features)

実は、眼の症状よりも高い頻度(約80〜90%)で見られる、診断上非常に重要なサインです。

  • 耳前部タグ(Preauricular tags):
    • 耳の穴の前(顔側)に、小さな皮膚の突起(イボのようなもの)があります。片側だけの場合も両側の場合もあります。
  • 耳前部瘻孔(Preauricular pits):
    • 耳の前に小さな穴が開いています。
  • 耳介の変形: 耳の位置が低い、耳が小さい、形が変形しているなど。
  • 外耳道閉鎖: 稀に耳の穴が塞がっていることがあり、伝音性難聴の原因となります。

3. 消化器の症状

  • 鎖肛 / 肛門閉鎖症(Anal atresia):
    • 生まれつき肛門が開いていない、あるいは狭い、位置がずれている状態です。
    • 患者さんの約70〜80%に見られる高頻度かつ重要な合併症であり、出生直後の緊急手術が必要になることがあります。
    • 直腸が尿道や膣とつながっている(瘻孔)タイプもあります。

4. 心臓・腎臓の症状

  • 先天性心疾患(Congenital Heart Defects):
    • 約50〜60%に合併します。
    • 総肺静脈還流異常症(TAPVR)やファロー四徴症(TOF)といった複雑な心奇形から、心室中隔欠損症(VSD)などの一般的なものまで様々です。
  • 腎臓・尿路異常:
    • 腎無形成(片方の腎臓がない)、腎低形成(小さい)、水腎症などが見られます。

5. 神経発達・認知機能

他の染色体異常症候群(13トリソミーや18トリソミーなど)と大きく異なる点であり、ご家族にとって希望となるポイントです。

  • 知的発達:
    • 多くの患者さんは、軽度の知的障害、あるいは正常知能(境界域含む)です。
    • 重度の知的障害を伴うことは稀ですが、合併症(重篤な心疾患など)の有無や治療経過によって発達に影響が出ることはあります。
  • 発達特性:
    • 運動発達や言葉の遅れが見られることはありますが、ゆっくりと獲得していくことが多いです。

6. その他の合併症

  • 骨格: 側弯症、半椎体、橈骨(腕の骨)の異常など。
  • 成長: 小柄な体格(低身長)であることがあります。
  • 顔貌: 眼間開離(目が離れている)、内眼角贅皮(目頭のひだ)、下向きの眼瞼裂など、軽度の特徴が見られることがあります。

原因

**22番染色体由来の「過剰なマーカー染色体」**が原因です。

1. 発生機序

  • マーカー染色体の正体:
    • 22番染色体の短腕(p)と、長腕のごく一部(q11.1)が切り取られ、2本くっついて(逆位重複して)輪っか状や小さな棒状になったものです(専門的には「同腕染色体」や「二動原体染色体」と呼ばれます)。
  • なぜ起こるのか?
    • De novo(新生突然変異): 患者さんの多くは、両親の染色体は正常で、受精の過程(精子や卵子が作られる時)で偶然生じた突然変異です。
    • 家族性(Familial): 親のどちらかが、同じマーカー染色体を持っている(モザイク型で症状がない、あるいは軽微な症状のみ)場合があります。この場合、親から子へ遺伝することがあります。

2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)

  • 22q11領域にある遺伝子(CECR1, CECR2など)が、通常の2倍(合計4コピー)になることで、胎児期の眼、耳、肛門、心臓の発生プロセスに混乱が生じます。
  • なぜ症状に個人差があるのかは完全には解明されていませんが、マーカー染色体の大きさの違いや、モザイク率(マーカーを持つ細胞の割合)の違いが関与していると考えられています。

診断方法

「耳の前の突起」「鎖肛」「コロボーマ」などの臨床症状から疑われ、遺伝学的検査で確定します。

  • 染色体検査(Gバンド分染法):
    • 通常の核型分析を行うと、46本の染色体に加えて、小さな「47本目の染色体(マーカー染色体)」が見つかります。核型は 47,XX,+mar または 47,XY,+mar と表記されます。
  • FISH法 / マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • その「マーカー染色体」が何者であるかを特定するために行います。
    • 22番染色体のセントロメアやq11領域のプローブを用いたFISH法により、マーカーが22番由来であり、かつ重複していることを確認します。これで確定診断となります。
  • 画像検査(スクリーニング):
    • 診断がついた場合、無症状であっても全身の精査が必要です。
    • 心エコー: 先天性心疾患の有無。
    • 腹部エコー: 腎臓の形態異常の有無。
    • 眼科検査: 視力、眼底検査(網膜コロボーマの有無)。
    • 聴力検査: 難聴の有無。

治療方法

過剰な染色体を取り除く治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法(特に外科的治療)と、発達を促す療育が中心となります。生命予後は、重篤な心疾患の有無に大きく左右されますが、適切な治療を行えば予後は比較的良好です。

1. 外科的治療(新生児期〜乳児期)

  • 鎖肛の手術:
    • 出生直後に人工肛門(ストーマ)を作る手術を行い、体格が大きくなってから肛門を作る根治手術を行うのが一般的です(病型によります)。小児外科医による長期的な排便管理が必要です。
  • 心疾患の手術:
    • TAPVRやTOFなどの重篤な心疾患がある場合、心臓血管外科による手術が必要です。
  • 耳前部タグの切除:
    • 必須ではありませんが、美容的な観点や、引っかかりやすさを考慮して形成外科で切除することがあります。

2. 眼科的ケア

  • 視力管理:
    • 網膜コロボーマによる視力低下がある場合、眼鏡による矯正や、弱視訓練を行います。
  • 遮光:
    • 虹彩コロボーマ(虹彩の欠損)により、目に入る光の量を調節できず、眩しさを強く感じる(羞明)ことがあります。
    • 遮光眼鏡(サングラス)や、つばの広い帽子を使用することで、不快感を軽減し、視機能を守ります。

3. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、発達の遅れが気になる場合は、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)などを開始します。
  • 教育:
    • 知的障害は軽度〜正常範囲であることが多いため、通常学級に通うお子さんも多いです。学習障害や難聴がある場合は、個別の支援計画に基づいたサポートを行います。

4. 健康管理

  • 感染症予防:
    • 心疾患や腎疾患がある場合、感染症が悪化しやすいため、ワクチン接種や感染対策を徹底します。
  • 腎機能チェック:
    • 腎奇形がある場合、定期的な尿検査や血液検査で腎機能をモニタリングします。

5. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 染色体検査の結果(マーカー染色体)の意味を分かりやすく説明します。
  • 家族への支援:
    • 両親の染色体検査を行うかどうかを相談します。もし両親のどちらかがマーカーを持っていた場合、次子への遺伝リスクや、きょうだいの検査についても話し合います。
    • 「猫目」という病名に対する心理的なケアや、見た目の悩み(耳のタグや目の形)に対するサポートも重要です。

まとめ

Cat eye syndrome(キャット・アイ症候群)は、22番染色体の一部が余分に増えることで起こる疾患です。

「猫の目」という名前から、目の病気だと思われがちですが、実際には「耳の前のポチッとした突起」や「生まれつき肛門がない(鎖肛)」といった症状の方が高頻度に見られることがあります。

この病気の大きな特徴は、「個人差がとても大きい」ということです。

心臓や消化器の手術が必要な赤ちゃんもいれば、大人になるまで自分がこの体質であることに気づかずに過ごしている方もいます。

ご家族にとって、生まれたばかりの赤ちゃんに手術が必要と言われたり、染色体の異常が見つかったりすることは、大きな衝撃と不安をもたらすことでしょう。

しかし、この疾患に伴う鎖肛や心疾患は、現代の医療技術で治療可能なものがほとんどです。

眼のコロボーマがあっても、適切なケア(サングラスなど)を行えば、日常生活に支障がないことも多いです。

そして何より、知的な発達に関しては、多くのお子さんがゆっくりながらも言葉を覚え、学校に通い、社会生活を送ることができます。

「染色体異常=重い障害」というイメージを持たれるかもしれませんが、Cat eye syndromeの患者さんは、それぞれに個性的な魅力を持って、元気に成長していきます。

小児外科医、眼科医、循環器内科医、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、一つひとつの症状を丁寧にケアしながら、お子さんの豊かな人生を支えていきましょう。

参考文献

  • Schmid, W., & Fraccaro, M. (1965). The chromosome marker of the cat eye syndrome.
    • (※本症候群の遺伝学的基礎を確立した歴史的な論文。別名「Schmid-Fraccaro症候群」の由来。)
  • McDermid, H.E., et al. (1986). Characterization of the supernumerary chromosome in Cat Eye Syndrome. Science.
    • (※マーカー染色体が22番染色体由来(テトラソミー)であることを分子遺伝学的に証明した重要文献。)
  • Berends, M.J., et al. (2001). Two cases of Cat Eye syndrome with a similar distinct phenotype but a different cytogenetic anomaly.
    • (※典型的な症状を持つ患者と、非典型的な遺伝子型を持つ患者を比較し、表現型の多様性について報告した文献。)
  • Rosias, P.R., et al. (2001). Phenotypic variability of the cat eye syndrome.
    • (※家族内発症例を含めた多数例の検討を行い、無症状の保因者から重症例までの幅広いスペクトラム(個人差)を詳細に解析した研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Cat Eye Syndrome (2018).
    • (※患者家族向けに、各症状(眼、耳、消化器)の詳細なケア、発達の見通し、生活上のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
  • GeneReviews® / NORD (National Organization for Rare Disorders): Cat Eye Syndrome.
    • (※希少疾患データベースにおける疾患定義、疫学情報、および最新の管理指針。)

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