別名・関連疾患名
- ダンディー・ウォーカー奇形(Dandy-Walker malformation; DWM)
- ※最も一般的に使用される、脳の構造的異常を指す名称です。
- ダンディー・ウォーカー複合(Dandy-Walker complex; DWC)
- ※かつて、DWMを含む一連の小脳・後頭蓋窩の異常(後述するバリアントなど)を包括する概念として使われていました。
- ダンディー・ウォーカー・バリアント(Dandy-Walker variant)
- ※DWMの定義を完全には満たさない、より軽度の小脳虫部低形成を指す古い分類名ですが、現在も臨床現場で使われることがあります。
- 第四脳室正中口閉鎖症
- 関連:大槽拡大(Mega cisterna magna)
- 関連:後頭蓋窩クモ膜嚢胞(Posterior fossa arachnoid cyst)
対象染色体領域
多様(特定の単一領域ではない)
ダンディー・ウォーカー症候群は、単一の遺伝子病というよりも、脳の形成過程における「結果としての構造異常」を指します。そのため、背景にある原因は多岐にわたります。
遺伝的な原因が特定される場合、以下の染色体領域や遺伝子が深く関与していることが知られています。
【主要な関連染色体・遺伝子】
- 3q24領域(ZIC1およびZIC4遺伝子):
- 3番染色体長腕にあるこれらの遺伝子の欠失や重複は、DWSの重要な原因の一つです。ZIC遺伝子群は小脳の細胞増殖を制御しています。
- 6p25領域(FOXC1遺伝子):
- 6番染色体短腕にあるFOXC1は、脳の髄膜や血管、小脳の形成に不可欠な転写因子です。この変異や欠失は、DWSに加えて眼や心臓の異常を伴うことがあります(アクセンフェルト・リーガー症候群との合併など)。
- 13番、18番、21番染色体のトリソミー:
- 染色体数異常に伴う多奇形の一環としてDWSが現れることが非常に多いです。
- Xq28領域:
- X染色体関連のDWS(特に男児に重篤)に関与する領域です。
発生頻度
10,000人 〜 30,000人に1人
- 小児水頭症との関連: 先天性水頭症の原因の約1〜10%を占めるとされています。
- 性差: 報告によって差がありますが、女性の方が男性よりもやや多い(女:男 = 約 3:2)傾向があるとされています。
- 診断の現状: 産科医療における超音波診断技術やMRIの普及により、出生前診断(胎児診断)されるケースが増加しています。
臨床的特徴(症状)
DWSの症状は、脳の構造異常の程度、および水頭症の有無、他の合併症の有無によって極めて多様です。出生直後に重篤な症状が出る場合もあれば、学童期や成人期になってから偶然発見される軽症例もあります。
1. 脳の三徴候(後頭蓋窩の構造異常)
DWSと診断されるための解剖学的な特徴は、以下の3点に集約されます。
- 小脳虫部の完全または部分的な欠損(低形成): 小脳の左右を繋ぐ中央部分(虫部)がうまく作られていません。
- 第四脳室の嚢胞状拡大: 脳脊髄液の通り道である第四脳室が大きく膨らんでいます。
- 後頭蓋窩の拡大とテント挙上: 脳の後ろ側のスペースが広がり、脳を仕切っている膜(小脳テント)が高い位置に押し上げられています。
2. 水頭症(Hydrocephalus)
- 頻度: 患者さんの約70〜90%に合併します。
- 症状: 脳脊髄液の循環が滞ることで、脳圧が上昇します。
- 乳幼児: 頭囲の急激な拡大、大泉門の膨隆、不機嫌、嘔吐、眼球が下を向く(落陽現象)。
- 年長児・成人: 激しい頭痛、嘔吐、視力障害、意識障害。
3. 神経発達・運動機能
- 運動発達遅滞:
- 筋緊張の低下(体が柔らかすぎる)や、逆に緊張が強くなる(痙性)ことが見られます。
- 首すわり、お座り、歩行などのマイルストーンが遅れる傾向があります。
- 小脳症状(失調症状):
- 体のバランスを取るのが難しい、ふらふらして歩く(体幹失調)、手先が不器用(企図振戦)などの症状が現れます。
- 知的障害:
- 約半数の患者さんには何らかの知的障害や学習障害が見られますが、小脳虫部の形成が良好で、他の脳奇形がない場合は、知能が正常範囲内に留まることも少なくありません。
4. 顔貌および全身の合併症
DWSは「孤発性(脳の異常のみ)」の場合と、「症候群性(全身の異常を伴う)」の場合があります。後者の場合、原因となる染色体異常に基づいた症状が出ます。
- 脳の他の奇形: 脳梁欠損(左右の脳を繋ぐ橋がない)、神経細胞の移動異常など。
- 顔貌: 眼間開離(目が離れている)、耳の位置の異常、口唇口蓋裂など。
- 多臓器の奇形: 心臓(中隔欠損など)、多指症、腎奇形など。
原因
胎児期における第四脳室正中口の形成不全と遺伝的・環境的要因
DWSの発生メカニズムは完全には解明されていませんが、妊娠初期(特に妊娠6週〜9週頃)の脳の形成過程において、第四脳室の出口(マジャンディー孔)がうまく開かないことや、小脳の元となる組織(神経上皮)の増殖異常が原因と考えられています。
1. 遺伝的要因
- 染色体異常: 13トリソミー、18トリソミー、トリプロイディ(三倍体)など。
- 遺伝子変異: 前述のZIC1, ZIC4, FOXC1などの変異。
- 症候群の一症状: ジュベール(Joubert)症候群、PHACE症候群、ウォーカー・ウォーブルグ症候群など、他の遺伝子疾患の一部として現れることがあります。
2. 環境要因(催奇形因子)
- 妊娠中の感染: 風疹、サイトメガロウイルスなど。
- 薬剤・物質: 妊娠中のアルコール摂取、抗てんかん薬(ワルファリンなどは避けるべき薬剤として有名)への暴露など。
- 母体代謝: 糖尿病など。
診断方法
画像診断が診断の決定打となります。
- 超音波検査(エコー):
- 胎児期や乳児期(大泉門が閉じる前)において、後頭蓋窩の拡大や嚢胞を確認する最初のスクリーニングとなります。
- MRI検査(磁気共鳴画像法):
- 確定診断に必須の検査です。
- 小脳虫部の欠損の程度、脳梁の有無、脳脊髄液の流れ、他の脳奇形の合併を詳細に評価できます。
- CT検査:
- 骨の形状(後頭蓋窩の拡大)や、急激な水頭症の悪化を確認するために用いられますが、放射線被曝を考慮し、小児ではMRIが優先されます。
- 遺伝学的検査:
- 染色体核型分析 / マイクロアレイ検査: 他の身体的特徴がある場合、背景にある染色体異常を特定するために行われます。
- 次世代シーケンサー(パネル検査など): 特定の遺伝子症候群を疑う場合に検討されます。
治療方法
脳の構造そのものを正常に作り替える治療はありません。治療の主眼は、**「脳圧の管理(水頭症治療)」と「発達の最大化(療育)」**に置かれます。
1. 脳神経外科的治療(水頭症に対して)
脳圧が高まっている場合、緊急または計画的な手術が必要です。
- シャント術(脳室-腹腔シャント):
- 脳室に細い管を入れ、過剰な脳脊髄液をお腹(腹腔)などに流して吸収させる方法です。DWSでは、脳室用と嚢胞用の2つのシャントが必要になる複雑なケースもあります。
- 内視鏡的第三脳室底開窓術(ETV):
- 内視鏡を使い、脳内に新しい液の通り道を作る方法です。シャントを使わない利点がありますが、DWSの症例に適応できるかは慎重な判断が必要です。
- 嚢胞開窓術:
- 拡大した第四脳室(嚢胞)の壁を切り開き、液の循環を改善します。
2. リハビリテーション・療育
- 理学療法(PT):
- 体幹の安定、バランス訓練、歩行練習を行い、運動発達を支援します。
- 作業療法(OT):
- 手先の細かな動きや、日常生活動作(ADL)の自立を支援します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れや、嚥下(飲み込み)の問題がある場合に対応します。
- 早期介入:
- 脳の可塑性が高い乳幼児期から療育を開始することが、長期的な予後を大きく左右します。
3. 合併症の管理
- てんかん: 抗てんかん薬による適切な発作管理を行います。
- 眼科・耳鼻科: 斜視、視力障害、難聴などのチェックと対応。
- 整形外科: 筋緊張異常に伴う関節の変形や側弯症の管理。
4. 遺伝カウンセリング
- 情報の整理:
- 孤発性(その子一代限り)なのか、症候群性(遺伝の可能性がある)なのかを整理し、家族の不安に寄り添います。
- 次子再発リスク:
- 孤発性のDWSであれば再発リスクは低い(1〜5%未満)ですが、背景に特定の遺伝子疾患がある場合は、その疾患の遺伝形式(50%や25%など)に従います。
まとめ
Dandy-Walker syndrome(ダンディー・ウォーカー症候群)は、小脳とその周辺の「脳脊髄液の通り道」が生まれつきうまく作られない状態を指します。
「症候群」という名前の通り、症状の現れ方はお子さんによって千差万別です。
水頭症(脳に水が溜まる状態)に対して手術が必要になることも多いですが、現代の脳外科技術により適切に管理できるようになっています。
ご家族にとって、脳の奇形という診断は非常に重く感じられるかもしれません。しかし、脳は非常に柔軟で、リハビリテーションや周囲のサポートによって、予想を超える成長を見せてくれることが多々あります。
知的発達が正常で、通常の学校生活を送っているお子さんもたくさんいらっしゃいます。
大切なのは、早期に診断を受け、専門医(脳神経外科、小児科)と連携しながら、その子に合ったリハビリの機会を作ってあげることです。
小児科医、療法士、そして遺伝カウンセラーと共に、お子さんの歩みを一歩ずつ、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Dandy, W. E., & Blackfan, K. D. (1914). Internal hydrocephalus: An experimental, clinical and pathological study. American Journal of Diseases of Children.
- (※本症候群の基礎となる水頭症と脳構造の関連を初めて体系的に示した歴史的文献。)
- Walker, A. E. (1944). A case of congenital atresia of the foramina of Luschka and Magendie: Surgical cure of atresia of the dural sinuses. Journal of Neuropathology & Experimental Neurology.
- (※第四脳室正中口の閉鎖と小脳異常の関連を詳述し、疾患名の由来となった重要論文。)
- Barkovich, A. J., et al. (2009). A developmental and genetic classification for malformations of the cerebellum. Nature Reviews Neurology.
- (※小脳奇形の現代的な分類と遺伝学的背景を整理した、専門家にとってのスタンダードなレビュー。)
- Parisi, M. A., & Dobyns, W. B. (2003). Cerebellar hypoplasia: Overview and considerations for genetic testing. American Journal of Medical Genetics.
- (※小脳低形成とDWSの遺伝学的検査、診断の進め方に関する包括的ガイド。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Dandy-Walker Malformation (2020).
- (※患者家族向けに、画像診断の意味や発達支援、生活のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: Dandy-Walker Malformation. (NCBI).
- (※診断基準、分子遺伝学、管理指針を網羅した、最新の医学的知見を提供するデータベース。)
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