Greig cephalopolysyndactyly syndrome(GCPS)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • グレイグ症候群(Greig Syndrome)
  • GCPS
  • 多指合指・頭蓋顔面異常症候群
  • 関連疾患:パリスティ・ホール症候群(Pallister-Hall Syndrome; PHS)
    • ※同じGLI3遺伝子の変異で起こりますが、症状の現れ方(表現型)が異なります。
  • 関連疾患:非症候群性多指症(Non-syndromic polydactyly)

対象染色体領域

7番染色体 短腕(p)13領域

本疾患は、7番染色体短腕にあるGLI3遺伝子の変異、あるいは同領域を含む微小な欠失によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細とGLI3の役割】

GLI3遺伝子は、胚発生(赤ちゃんがお腹の中で形作られる時期)において極めて重要な「ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達経路」を制御する転写因子(遺伝子のスイッチ)をコードしています。

  • 正常な働き: 特に手足の指の数や形、頭蓋骨・顔面の形成をコントロールしています。指の形成において、どの部分が親指になり、どの部分が小指になるかという「位置情報」を正しく伝える役割を担っています。
  • GCPSにおける異常: GLI3遺伝子が正しく働かないことで、指の分化が過剰になったり(多指)、指の間の分離が不完全になったり(合指)、頭蓋骨の成長バランスが崩れたりします。

発生頻度

100,000人 〜 200,000人に1人

  • 希少疾患: 非常に稀な疾患に分類されますが、軽症例では「単なる多指症」として見過ごされている可能性もあり、実際の頻度はもう少し高いという説もあります。
  • 性差: 男女での発症頻度に有意な差はありません。
  • 遺伝形式: 常染色体顕性(優性)遺伝です。親から子へ50%の確率で遺伝しますが、家族に病歴がない「新生突然変異」も多く認められます。

臨床的特徴(症状)

GCPSの診断基準は、「頭蓋顔面の異常」と「手足の末端異常」の組み合わせに基づいています。

1. 頭蓋顔面の特徴(Cephalic features)

  • 大頭症(Macrocephaly): 頭囲が標準よりも著しく大きいことが特徴です。
  • 前頭部の突出(Frontal bossing): おでこが前へ張り出しています。
  • 眼間開離(Hypertelorism): 両目の間隔が広く離れています。
  • 鼻根部の平坦化: 鼻の付け根が低く、鼻が横に広く見えることがあります。
  • 高口蓋: 口の中の天井が高い。

2. 手足の異常(Polysyndactyly)

手と足の両方に特徴的な変形が見られます。

  • 軸前性多指症(Preaxial polydactyly): * 親指側(橈側・脛側)に余分な指がある状態です。特に足の親指が幅広く、あるいは2本に分かれている(二分母趾)のがGCPSの非常に強い特徴です。
  • 軸後性多指症(Postaxial polydactyly):
    • 小指側に余分な指がある状態です。
  • 合指症(Syndactyly):
    • 指と指が皮膚や骨でつながっている状態です。手では中指と薬指(第3-4指)、足では人差し指と中指(第2-3指)の間によく見られます。

3. 神経学的・発達的特徴

  • 知的発達: ほとんどの患者さんは、知能は正常範囲内です。
  • 脳の構造異常: 稀に脳梁欠損(左右の脳をつなぐ部分の欠損)や脳室拡大が見られることがありますが、それ自体が重篤な障害に直結しないことも多いです。
  • 発達遅滞: 非常に大きな染色体欠失(GLI3を含む周辺遺伝子の欠損)を伴う症例では、重度の知的障害や発達遅滞が見られることがあり、「GCPS隣接遺伝子欠失症候群」として区別されます。

原因

GLI3遺伝子の機能喪失変異(ハプロ不全)

GCPSの根本的な原因は、GLI3遺伝子の変異です。

  • 変異のタイプ:
    • 遺伝子の配列が途中で止まってしまう(ナンセンス変異)、一部が欠ける(欠失)、あるいは構造が大きく変わる変異が見られます。
  • ハプロ不全:
    • 人間は通常、父親と母親から一つずつ、計2つのGLI3遺伝子を持っています。GCPSでは、そのうち片方が機能しなくなることで、タンパク質の量が半分に減ってしまいます。この「半分では足りない」状態(ハプロ不全)が、体の形成に異常をきたします。
  • パリスティ・ホール症候群(PHS)との違い:
    • 変異が遺伝子の「中央付近」で起こると、タンパク質が完全に消失せず、異常な形で残ってしまうことがあります。この場合は、多指症に加えて「視床下部過誤腫(脳の腫瘍様病変)」や「肛門閉鎖」を伴う、より重篤なPHSになります。変異の場所によって病名が変わるのが、この遺伝子の不思議な点です。

診断方法

臨床所見、家族歴、および遺伝子検査を組み合わせて診断します。

  • 臨床診断基準:
    • 軸前性多指症(特に足の親指の二分)を伴う手足の異常。
    • 大頭症、眼間開離などの顔貌。
    • 常染色体顕性遺伝の家族歴。
  • 画像検査:
    • 手足のレントゲン: 骨の構造を確認し、手術計画を立てます。
    • 頭部MRI/CT: 大頭症がある場合、水頭症や脳梁欠損の有無を確認するために行われます。
  • 遺伝子検査:
    • GLI3遺伝子のシーケンス解析: 遺伝子の配列を直接読み取り、変異を特定します。
    • MLPA法 / マイクロアレイ検査: 遺伝子の大きな欠失がないかを調べます。

治療方法

現在の医学では遺伝子そのものを治すことはできません。治療の中心は、機能と外見を改善するための**「外科的手術」**と、発達のサポートになります。

1. 手足の形成手術

  • 多指の切除・再建: * 余分な指を切除し、残った指の機能を最大化するための再建術を行います。通常、手を使う機能が発達する1歳前後までに行われることが多いです。足の親指(二分母趾)については、靴を履く際の支障をなくすために形を整えます。
  • 合指の分離術:
    • つながっている指を切り離し、皮膚が足りない部分には移植(植皮)を行うこともあります。

2. 頭蓋顔面の管理

  • 経過観察: 大頭症自体に治療は不要なことが多いですが、急速に頭囲が拡大する場合は、脳脊髄液が溜まる「水頭症」の合併がないか脳神経外科で精査します。
  • 形成外科: 眼間開離などが非常に顕著で、心理的・機能的な影響がある場合には、将来的に顔面形成術が検討されることもありますが、一般的ではありません。

3. 神経・発達支援

  • 発達のモニタリング: 定期的な発達検査を行い、遅れが見られる場合には早期に理学療法(PT)や作業療法(OT)を開始します。
  • 特別な教育的配慮: 染色体欠失に伴う知的障害がある場合は、個別の教育支援計画を立てます。

予後

GCPSの予後は、一般的にきわめて良好です。

  • 生命予後: 寿命に影響を与えるような重篤な内臓奇形(心疾患など)は通常伴わないため、一般の方と同じ寿命を全うできます。
  • 生活の質(QOL): 手足の手術が成功すれば、運動機能にも大きな問題はなく、スポーツや趣味を楽しむことも可能です。知能が正常であれば、学業や就業において制限を受けることもほとんどありません。
  • 遺伝的アドバイス: 成人した患者さんが子供を持つ場合、50%の確率で次子に遺伝するため、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。

まとめ

Greig cephalopolysyndactyly syndrome (GCPS) は、おでこが少し張り出した大きな頭と、手足の指が多かったりつながったりして生まれてくる、珍しい遺伝性の病気です。

「指が多い」と聞くと驚かれるかもしれませんが、現代の形成外科技術は非常に進歩しており、適切な時期に手術を受けることで、機能的にも見た目にも非常にきれいに治すことができます。

また、この病気の多くのお子様は知能が正常で、元気に学校に通い、大人になってからも社会で活躍されています。

大切なのは、指の数や頭の大きさという「目に見える特徴」だけに囚われず、お子様一人の人間としての成長を温かく見守ることです。専門の医療チーム(形成外科、小児科、遺伝科)としっかり連携し、一つひとつの課題を解決していけば、お子様は素晴らしい未来を歩んでいくことができます。

参考文献

  • Greig, D. M. (1926). Oxycephaly. Edinburgh Medical Journal.
    • (デイビッド・グレイグ博士による最初の症例記述。本症候群の歴史的端緒となった文献です。)
  • Vortkamp, A., et al. (1991). GLI3 zinc-finger gene interrupted by translocations in Greig cephalopolysyndactyly syndrome. Nature.
    • (GCPSの原因がGLI3遺伝子であることを世界で初めて証明した重要な論文です。)
  • Biesecker, L. G. (2008). The Greig cephalopolysyndactyly syndrome. Orphanet Journal of Rare Diseases.
    • (GCPSに関する包括的なレビュー。診断基準、疫学、管理が網羅されています。)
  • Johnston, J. J., et al. (2010). The GLI3 phenotype receptor: Correlating genotype with phenotype in GCPS and PHS.
    • (GLI3遺伝子の変異場所と症状(GCPSかPHSか)の関係を詳細に分析した文献です。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Greig Cephalopolysyndactyly Syndrome (GCPS): A guide for families.
    • (希少染色体・遺伝子異常の支援団体による、家族向けのわかりやすいガイドブックです。)
  • GeneReviews® [Internet]: Greig Cephalopolysyndactyly Syndrome. (NCBI).
    • (最新の医学的エビデンスに基づく診断・治療・管理の標準的データベースです。)
  • OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man): #175700 GREIG CEPHALOPOLYSYNDACTYLY SYNDROME.
    • (世界中の研究者が参照する、遺伝子疾患の学術的情報を集約したサイトです。)

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