別名・関連疾患名
- JBTS6
- TMEM67関連ジュベール症候群
- COACH症候群 (COACH syndrome)
- ※C:Cerebellar vermis hypoplasia(小脳虫部低形成)、O:Oligophrenia(知的障害)、A:Ataxia(運動失調)、C:Coloboma(眼のコロボーマ)、H:Hepatic fibrosis(肝線維症)の頭文字をとったもの。JBTS6の多くがこの臨床診断名を冠します。
- MKS3 (Meckel syndrome, type 3)
- ※同じTMEM67遺伝子の変異ですが、より重篤な胎児期の疾患(メッケル症候群)を指します。
- 繊毛病 (Ciliopathy)
- ※細胞のアンテナである「繊毛」の異常に起因する疾患群の総称です。
対象染色体領域
8番染色体 長腕(q)22.1領域
JBTS6は、8番染色体上に位置する TMEM67遺伝子 の変異によって引き起こされます。
【ゲノム上の詳細とTMEM67遺伝子の役割】
- 責任遺伝子: TMEM67 (Transmembrane Protein 67)
- 役割: この遺伝子は「Meckelin(メッケリン)」と呼ばれるタンパク質をコードしています。メッケリンは、細胞の表面に存在する「一次繊毛(いちじせんもう)」の根元(基底小体)に位置しています。
- 病態メカニズム: 一次繊毛は、細胞外からの化学的・物理的シグナルを受信し、細胞内に伝える「アンテナ」の役割を果たしています。TMEM67遺伝子に変異が生じると、このアンテナの構造や機能に不具合が生じ、胎児期の脳(小脳虫部)、肝臓(胆管)、腎臓などの正常な発達に必要なシグナル伝達(WntシグナルやSonic Hedgehogシグナルなど)が阻害されます。その結果、全身に多様な奇形や機能不全が生じます。
発生頻度
約80,000人 〜 100,000人に1人(ジュベール症候群全体)
- JBTS6の割合: ジュベール症候群には35種類以上の型が知られていますが、JBTS6(TMEM67変異)は、全ジュベール症候群の中で 約7%〜10% を占めると報告されており、頻度の高いサブタイプの一つです。
- 地域差: 遺伝形式が常染色体潜性(劣性)であるため、近親婚の多い地域では頻度が高くなる傾向があります。
臨床的特徴(症状)
JBTS6は、脳の構造異常に加え、特に「肝臓」と「眼」の合併症が高い頻度で見られることが大きな特徴です。
1. 脳神経系の特徴(共通所見)
- 臼歯徴候 (Molar Tooth Sign; MTS):
- 脳のMRI検査における特徴的な所見です。中脳の低形成と小脳上脚の異常な伸長・走行により、軸位断(水平断面)が「奥歯(臼歯)」のような形に見えます。
- 小脳虫部低形成: 運動のバランスを司る小脳の中央部分が未発達です。
- 筋緊張低下 (Hypotonia): 乳児期から「体が柔らかすぎる」状態が見られ、運動発達の遅れに繋がります。
- 運動失調 (Ataxia): 成長とともに、歩行時のふらつきや手の震え、動作の不器用さが現れます。
2. 肝臓の合併症(JBTS6に非常に多い)
- 先天性肝線維症:
- TMEM67変異を持つ患者の多くに見られます。肝臓内の胆管が正しく形成されず、周囲に線維化(硬くなること)が進みます。
- 門脈圧亢進症: 肝臓が硬くなることで血流が滞り、脾腫(ひぞうが大きくなる)や食道静脈瘤を引き起こすことがあります。
- 症状: 初期は無症状のことが多いですが、血液検査での肝酵素(AST/ALT/γ-GTP)の上昇や、超音波検査での異常で発見されます。
3. 眼の合併症
- 眼のコロボーマ: 虹彩や網膜、視神経の一部が欠損する状態です。
- 網膜ジストロフィー: 網膜の細胞が徐々に変性し、視力低下や夜盲症(暗いところで見えにくい)が生じます。
- 眼球運動失行: 目をスムーズに動かせず、物を見るときに頭を振って代償する動きが見られます。
4. 腎臓の合併症
- ネフロン白 (Nephronophthisis): 腎臓の中に小さな嚢胞(水の袋)ができ、徐々に腎機能が低下します。JBTS6における腎合併症の頻度は約25%程度とされています。
5. 発達と知能
- 発達遅滞: 運動面(首すわり、お座り、歩行)は著しく遅れることが多いです。
- 知的障害: 知能指数は個人差が大きく、軽度から重度まで様々です。
原因
TMEM67遺伝子の変異(常染色体潜性遺伝形式)
- 遺伝形式:常染色体潜性(劣性)遺伝です。
- 両親は変異遺伝子を一つずつ持つ「保因者(キャリア)」であり、通常は無症状です。
- 子供が両親から変異遺伝子を一つずつ引き継いだ場合(25%の確率)に発症します。
- 遺伝子型-表現型相関: TMEM67遺伝子の変異の種類によっては、致死的なメッケル症候群(MKS3)となるか、ジュベール症候群(JBTS6)となるかが分かれます。
診断方法
臨床症状、MRI検査、および遺伝子検査を組み合わせて行います。
- 頭部MRI検査:
- 「臼歯徴候(Molar Tooth Sign)」の確認が診断の第一歩です。
- 臨床評価:
- 筋緊張低下、異常呼吸パターン(過呼吸と無呼吸の交互出現)、発達遅滞の確認。
- 遺伝子検査:
- 次世代シーケンシング(NGS)により、TMEM67遺伝子の変異を確認します。
- 全身のスクリーニング(合併症の検索):
- 腹部超音波・CT: 肝線維症や腎嚢胞の有無を確認。
- 血液検査: 肝機能、腎機能、血小板数のチェック(脾腫による低下の確認)。
- 眼科的検査: 眼底検査や網膜電図(ERG)による網膜変性の評価。
治療方法
現在の医療において、遺伝子や脳の構造そのものを修正する根本的な治療法はありません。多職種連携による**「包括的な対症療法」**が中心となります。
1. リハビリテーション(ハビリテーション)
- 理学療法 (PT): 筋緊張低下への対応、体幹の安定、歩行訓練。
- 作業療法 (OT): 日常生活動作の自立支援。
- 言語療法 (ST): 言葉の遅れや嚥下障害(飲み込み)への介入。
2. 肝臓・腎臓の管理
- 肝機能管理: 門脈圧亢進症に対するモニタリング。食道静脈瘤がある場合は内視鏡的治療が検討されます。重症の場合は肝移植が必要になることもあります。
- 腎機能管理: 水分摂取の調整や、血圧管理。末期腎不全に至った場合は透析や腎移植を検討します。
3. 眼科的サポート
- 視力矯正や、弱視・網膜変性に対する低視力支援(ロービジョンケア)。
4. 教育的・社会的支援
- 知的発達に合わせた特別支援教育。
- 家族に対する休息支援(レスパイトケア)や遺伝カウンセリング。
予後
予後は合併症の重症度、特に肝不全および腎不全の進行度に大きく左右されます。
- 脳の症状(運動失調)は進行性ではありませんが、肝・腎の症状は年齢とともに進行する可能性があるため、生涯にわたる定期的なフォローアップが不可欠です。
- 重篤な合併症がない場合、多くは成人期を迎えることができます。
まとめ
Joubert syndrome 6 (JBTS6) は、脳の司令塔である小脳の一部が未発達な状態で生まれてくる希少な疾患です。
この病気は単なる「脳の病気」ではなく、細胞のアンテナ(繊毛)の故障が原因であるため、肝臓や腎臓、目といった全身の臓器にも影響が及ぶことが特徴です。
特にJBTS6では肝機能のチェックが非常に重要になります。
診断を受けたご家族は、多くの検査や通院に戸惑われるかもしれません。しかし、早期に合併症のリスクを知り、適切に管理していくことで、お子様の健やかな成長を支えることができます。リハビリテーションを通じて一歩ずつ発達を促し、専門医チームと共に、お子様の未来を長期的にサポートしていきましょう。
参考文献
- Brancati, F., et al. (2009). TMEM67/MKS3 mutations cause autosomal recessive Leber congenital amaurosis and Joubert syndrome.
- (JBTS6の原因遺伝子としてのTMEM67の役割を解明した重要論文。)
- Doherty, D., et al. (2010). TMEM67 mutations are cause of the junctional forms of Joubert syndrome.
- (TMEM67変異がジュベール症候群の臨床像(特に肝合併症)にどのように寄与するかを解析。)
- Valente, E. M., et al. (2013). The Joubert Syndrome–Meckel Syndrome Axial: TMEM67 Mutations.
- (ジュベール症候群とメッケル症候群の遺伝的な連続性についての研究。)
- GeneReviews® [Internet]: Joubert Syndrome. (NCBI).
- (最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報が網羅されている世界的データベース。)
- OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man): #610688 JOUBERT SYNDROME 6; JBTS6.
- (学術的な遺伝子データと症例報告の集約サイト。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Joubert Syndrome Guide.
- (ご家族向けの平易な解説ガイド。)
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