Mesomelia-synostoses syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • MSS
  • 肢中間部短縮型異形成症・骨癒合症候群
  • 関連:Verloes-David-Pfeiffer症候群
    • ※1995年にこの疾患を報告した医師たちの名を冠した旧称です。
  • 関連:肢中間部短縮(Mesomelia)
    • ※前腕や下腿といった、四肢の中間部分が特異的に短い状態を指す医学用語です。

対象染色体領域

8番染色体 長腕(q)13領域

本症候群は、8番染色体の長腕に位置する SULF1遺伝子およびSLCO5A1遺伝子を含む微小な欠失、あるいはその近傍の構造異常によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】

  • 責任領域: 8q13.2-q13.3
  • 主要な関与遺伝子: SULF1 (Sulfatase 1)
  • メカニズム: SULF1遺伝子は、細胞表面の「ヘパラン硫酸プロテオグリカン」という物質の修飾を行う酵素をコードしています。このプロセスは、骨の形成や成長に不可欠なシグナル伝達(BMPシグナルやWntシグナルなど)を調節するために極めて重要です。
  • ハプロ不全: 8q13領域の微小欠失により、これらの遺伝子が片方の染色体で失われる(ハプロ不全)ことで、成長板の軟骨細胞の分化や骨の分離が正常に進まず、骨の短縮や本来分かれているべき骨同士の癒合が生じると考えられています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 正確な頻度: 世界的な統計は存在しませんが、これまでに医学文献で報告されている家系は世界中で10家系、数十例程度に留まる、極めて希少な疾患です。
  • 診断の現状: 特徴的なX線所見があるため、骨系統疾患の専門医であれば診断可能ですが、あまりの希少さゆえに、一般的な小児科では「原因不明の多発奇形症候群」とされることがあります。

臨床的特徴(症状)

MSSは、四肢の骨格異常を核とし、顔貌や軟部組織、さらには内臓の合併症を伴う多系統疾患です。

1. 骨格系の特徴(最も顕著な症状)

  • 肢中間部短縮(Mesomelia):
    • 上腕や大腿(近位部)ではなく、**「前腕(橈骨・尺骨)」および「下腿(脛骨・腓骨)」**が特異的に短いことが特徴です。
    • これにより、全体的に低身長となり、腕や脚のバランスが独特なものになります。
  • 骨癒合(Synostoses):
    • 手根骨・足根骨の癒合: 手首や足首にある小さな骨同士がつながっています。
    • 肘関節の癒合/脱臼: 肘の関節が癒合して動かせない、あるいは橈骨頭が脱臼していることがあります。
    • 椎体の癒合: 背骨の骨がつながっていることがあります。
  • 手足の変形:
    • 指の短縮(短指症)や、中手骨・中足骨の異常な形態が見られます。

2. 特徴的な顔貌(Facial Features)

共通した独特の顔立ちが見られます。

  • 高い額: 額が広く、突き出している。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広い。
  • 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(タレ目)。
  • 低い鼻根部: 鼻の付け根が平坦。
  • 小さな口と顎: 唇が薄く、あごが小さい(小顎症)。
  • 耳の異常: 耳の位置が低い(低位付着耳)、後方に回転している。

3. 軟部組織・その他の異常

  • 多毛症: 背中や四肢に濃い産毛が見られることがあります。
  • 皮膚のひだ: 関節の周りなどに余分な皮膚のひだ(翼状頸など)が見られることがあります。
  • 喉頭・気管の異常: 喉頭軟化症や気管の狭窄が見られることがあり、呼吸に影響を与える場合があります。

4. 内臓および神経発達

  • 先天性心疾患: 一部の症例で中隔欠損などが報告されています。
  • 泌尿生殖器異常: 腎欠損や尿道下裂など。
  • 発達遅滞: 軽度から中等度の発達の遅れが見られることがありますが、知能が正常範囲内に留まる例も報告されており、個人差が大きいです。

原因

8q13領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

  • 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
    • 遺伝子のペアのうち、片方に欠失があるだけで発症します。
  • 新生変異と継承:
    • 継承例: 親から子へ50%の確率で遺伝した家系が複数報告されています。親が軽症で、子供の診断をきっかけに親の骨の癒合が判明することもあります。
    • 新生変異: 健康な両親から突然変異として生まれるケースも存在します。

診断方法

臨床的な身体的特徴と、X線検査による骨の評価、そして遺伝子検査によって診断されます。

  • 全身骨レントゲン検査(Skeletal Survey):
    • MSS診断の最も重要なステップです。前腕・下腿の短縮、手根骨・足根骨の癒合、橈骨頭脱臼などの特徴的なパターンを確認します。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 確定診断のゴールドスタンダードです。8q13領域に微小な欠失があることを証明します。
  • 身体診察:
    • 肢中間部短縮の有無、特徴的な顔貌、関節の可動域制限を確認します。
  • 心エコー・腹部エコー:
    • 内臓合併症(心奇形、腎奇形)を検索するために不可欠です。

治療方法

現代の医学において、染色体の欠失を修復する根本的な治療法はありません。治療は、機能障害の改善と合併症の管理を中心とした**「多職種連携による対症療法」**となります。

1. 整形外科的治療

  • 関節可動域の改善: 肘や手足の癒合、脱臼に対し、機能的な制限が強い場合には、外科的な矯正術や関節形成術が検討されます。
  • 肢延長術: 極端な足の短縮があり、将来的な歩行や生活に支障がある場合、骨延長術(イリザロフ法など)が検討されることがありますが、MSSにおける適応は慎重に判断されます。
  • 理学療法(PT): 関節の柔軟性を維持し、筋力を強化するために早期から開始します。

2. 呼吸・耳鼻咽喉科的サポート

  • 喉頭軟化症や気管狭窄がある場合、乳幼児期の呼吸管理が重要になります。重症の場合は気管切開が必要になるケースもあります。

3. 発達支援・療育

  • 早期介入: 運動発達や言葉の遅れに対し、作業療法(OT)や言語療法(ST)を組み合わせてサポートします。
  • 特別支援教育: 知的・身体的状況に合わせた適切な学習環境を選択します。

4. 外科的介入(内臓合併症)

  • 先天性心疾患や泌尿器奇形に対し、必要に応じて外科手術を行います。

予後

  • 生命予後: 呼吸器や心臓の重篤な合併症が適切に管理されれば、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
  • 生活の質(QOL): 肢の短縮や関節の可動域制限による身体的な不自由さは残りますが、福祉機器の活用や環境調整により、自立した生活を送ることが可能です。
  • 成人期: 骨の癒合に伴う早期の変形性関節症(関節の痛み)が出やすいため、長期的な整形外科的フォローアップが重要です。

まとめ

Mesomelia-synostoses syndrome(肢中間部短縮・骨癒合症候群)は、腕や脚の中間の骨が短く、手首や足首の小さな骨がつながって生まれてくる、非常に珍しい骨の病気です。

「腕が短い」「関節が動かしにくい」といった身体的な特徴に加えて、独特な顔立ちや呼吸器の弱さを伴うことがあります。

この病気は8番染色体の小さな欠失が原因であることがわかっており、現在は遺伝子検査で正確に診断することが可能です。

ご家族にとって、これほどまでに情報が少ない病気と向き合うことは大変な不安かと思います。しかし、整形外科、小児科、リハビリテーション科などの専門家がチームを組むことで、お子様の持っている機能を最大限に活かし、健やかな成長を支えることができます。ゆっくりとした歩みであっても、適切なサポートがあれば、お子様は自分らしい人生を切り拓いていくことができます。

参考文献元

  • Verloes, A., David, A., & Pfeiffer, R. A. (1995). Mesomelia-synostoses syndrome: a distinctive entity. Journal of Medical Genetics.
    • (本症候群を一つの独立した疾患として最初に提唱した歴史的論文です。)
  • Isidor, B., et al. (2010). Mesomelia-synostoses syndrome results from deletion of SULF1 and SLCO5A1 genes at 8q13. Human Mutation.
    • (MSSの原因が8q13領域の欠失であり、SULF1遺伝子が関与していることを世界で初めて証明した最重要論文です。)
  • Castori, M., et al. (2011). The Mesomelia-synostoses syndrome (Verloes-David-Pfeiffer syndrome). American Journal of Medical Genetics.
    • (臨床症状の多様性と最新の分子遺伝学的知見をまとめた包括的レビューです。)
  • GeneReviews® [Internet]: Mesomelia-synostoses syndrome. (NCBI).
    • (診断、管理、遺伝カウンセリングの標準的指針を網羅したデータベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Mesomelia-synostoses syndrome (8q13 deletion).
    • (希少染色体異常の支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイドブック。)
  • Orphanet: Mesomelia-synostoses syndrome (ORPHA:2499).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる概要情報。)

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