Monosomy 13q34 syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 13q34微小欠失症候群(13q34 microdeletion syndrome)
  • 13q末端欠失症候群(13q terminal deletion syndrome)
  • 13番染色体長腕部分モノソミー(Partial monosomy 13q)
  • 第VII因子・第X因子欠乏症を伴う13q欠失症候群

対象染色体領域

13番染色体 長腕(q)34領域の微小欠失

本症候群は、13番染色体の最も末端に位置する「q34」と呼ばれるバンド領域が失われること(微小欠失)で発症します。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

13q34領域には、生存や身体機能の維持に不可欠な多くの遺伝子が含まれています。この領域の微小欠失により、遺伝子のコピー数が2つから1つに減る(ハプロ不全)ことで、以下のような臨床像が形成されます。

  1. F7遺伝子およびF10遺伝子:
    血液凝固に関わる「第VII因子(F7)」と「第X因子(F10)」の設計図です。これらが欠失することで、血液が固まりにくい「出血傾向」が生じます。
  2. LAMP2遺伝子:
    細胞内のリソソーム機能を司る遺伝子で、心臓や筋肉、脳の機能に関与します(ダノン病の原因遺伝子としても知られます)。
  3. PROZ遺伝子:
    これも凝固阻止に関連する遺伝子です。
  4. ARHGEF7遺伝子:
    神経細胞のシナプス形成や移動に関与しており、知的障害や発達遅滞の責任遺伝子候補とされています。
  5. CHAMP1遺伝子:
    細胞分裂に関わる遺伝子で、近年の研究により重度の言語発達遅滞との関連が指摘されています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 推定頻度: 正確な統計はありませんが、世界的に見ても報告例は限られており、数万人に1人、あるいはそれ以下の頻度と考えられています。
  • 過少診断の可能性: 特徴的な顔貌や軽度の発達遅滞のみを持つ症例もあり、出血傾向に対する詳細な血液検査や、高解像度のマイクロアレイ検査が行われない限り、見逃されている可能性があります。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。

臨床的特徴(症状)

13q34モノソミー症候群は、血液凝固の異常、特徴的な顔貌、成長・発達の遅れを三徴候とする多系統疾患です。

1. 血液凝固異常(出血傾向)

本症候群を疑う上で最も重要な所見の一つです。

  • 凝固因子の欠乏: 血液中の第VII因子および第X因子の活性が低下します。
  • 出血症状: 鼻血が出やすい、青あざができやすい、抜歯後や怪我の際に血が止まりにくいといった症状が現れます。
  • 重症化リスク: 重大な手術や外傷の際に、生命に関わる出血を引き起こすリスクがあります。

2. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)

13q末端欠失に特有の顔立ちが見られます。

  • 頭部: 小頭症(頭囲が小さい)。
  • 目: 眼間開離(目が離れている)、内眼角贅皮(目頭のひだ)、長いまつ毛。
  • 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が上を向いている(獅子鼻様)。
  • 耳: 低位付着耳(耳の位置が低い)、あるいは耳介の変形。
  • 口: 長い人中(鼻の下の溝)、薄い上唇、あるいは口蓋裂。

3. 神経発達と知的機能

  • 知的障害・発達遅滞: 軽度から中等度の発達の遅れが見られます。
  • 言語発達の遅れ: 運動発達に比べて、特に言葉の獲得が大幅に遅れる傾向があります。
  • 筋緊張低下: 乳児期に「フロッピーインファント」として現れることがあり、運動発達を遅らせる要因となります。
  • 行動特性: 自閉スペクトラム症(ASD)的傾向、注意力の散漫さ、あるいは非常に穏やかな性格などが見られることがあります。

4. 成長と骨格

  • 成長障害: 出生時および出生後の身長・体重の増加がゆっくりです。
  • 四肢の異常: 指が細長い、あるいは指の変形(重なり指など)が見られることがあります。

5. その他の合併症

  • 先天性心疾患: 心室中隔欠損(VSD)や心房中隔欠損(ASD)が報告されています。
  • 泌尿生殖器奇形: 腎欠損や男児における停留精巣。
  • 感覚器異常: 斜視、遠視、あるいは一部で難聴。

原因

13q34領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

  1. 新生突然変異(De novo deletion):
    患者の約80%以上において、両親の染色体は正常であり、受精の過程、あるいは胚発生の初期段階で偶然に13q34領域の微小欠失が生じたものです。これは誰のせいでもなく、予防できるものではありません。この場合、次に生まれるお子様(きょうだい)への再発リスクは極めて低いです。
  2. 均衡型転座の継承:
    親のどちらかが「均衡型転座(染色体の一部が入れ替わっているが、量は正常なので本人は健康)」を持っている場合、次子に不均衡な形で受け継がれ、微小欠失が生じるリスクがあります。この場合は、次子への再発リスクを考慮した遺伝カウンセリングが重要です。
  3. リング13染色体(Ring chromosome 13):
    13番染色体が環状になる過程で両端(p末端とq末端)を失うもので、この場合も13q34の欠失が含まれます。

診断方法

臨床的な特徴から本症候群を疑い、遺伝子検査によって確定されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断の第一選択です。13q34領域のどの遺伝子が、どのくらいのサイズで欠けているかを正確に特定できます。
  • 血液凝固検査:
    PT(プロトロンビン時間)の延長、および第VII因子・第X因子の活性測定を行います。原因不明の凝固異常から本症候群が発見されることもあります。
  • 画像診断:
    • 心エコー: 先天性心疾患の検索。
    • 頭部MRI: 脳の構造的異常や、一部で見られる脳梁の低形成などを確認。
    • 腹部エコー: 腎奇形の有無を確認。
  • FISH法:
    特定の13q末端プローブを用いて、欠失の有無を視覚的に確認します。親の染色体構成を調べる際にも有用です。

治療方法

現代の医学において、染色体の欠失を修復する根本的な治療法はありません。治療の主眼は、出血リスクの管理と、各症状に対する**「多職種連携による対症療法」**に置かれます。

1. 血液学的管理(最重要)

  • 出血予防: 抜歯、扁桃腺手術、その他の外科的処置の前には、必ず血液専門医と連携します。
  • 補充療法: 必要に応じて、新鮮凍結血漿(FFP)や凝固因子製剤の投与を計画的に行います。
  • 生活指導: 激しいコンタクトスポーツを避ける、血小板機能を阻害する薬剤(アスピリンなど)の使用を控えるなどの指導が行われます。

2. 外科的治療

  • 心奇形や口蓋裂、停留精巣などに対し、出血管理を徹底した上で、外科的矯正手術を行います。

3. 発達支援・療育(早期介入)

  • 言語療法(ST): 言語獲得の遅れに対し、早期からコミュニケーション支援(サイン、絵カード、音声出力装置など)を行います。
  • 理学療法(PT)および作業療法(OT): 筋緊張低下や運動発達遅滞に対するリハビリテーション。
  • 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた個別の教育支援計画(IEP)。

4. 継続的なスクリーニング

  • 眼科・耳鼻科: 斜視、屈折異常、難聴の定期的チェック。
  • 成長管理: 小児内分泌科による成長・栄養状態のモニタリング。

予後

予後は合併症(特に心疾患の重症度と、出血管理の適切さ)に大きく左右されます。

  • 出血管理が適切に行われ、心臓の手術が成功すれば、多くの方が成人期を迎えることができます。
  • 知的発達や言葉の遅れに対しては長期的なサポートが必要になりますが、適切な療育によりそれぞれのペースで成長し、社会参加を目指すことが可能です。

まとめ

Monosomy 13q34 syndrome(13q34モノソミー症候群)は、13番染色体の末端にある「出血を止める」「言葉や体の発達を促す」といった大切な設計図(遺伝子)が、ほんのわずかに失われる微小欠失によって起こる病気です。

「青あざができやすい」「血が止まりにくい」という特徴が、この病気を見つける大切な手がかりになります。

診断がついたとき、ご家族は将来への不安を感じられるかもしれませんが、現在は血液内科、小児科、心臓外科、そして療育の専門家がチームを組んで、一つひとつの課題をサポートできる体制が整っています。

特に出血への配慮をしっかり行うことで、学校生活や社会生活を安全に送ることが可能です。お子様の歩幅に合わせた成長を、医療チームと共に長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • McCabe, E. R., et al. (1985). Factor VII deficiency associated with a terminal deletion of chromosome 13q34. American Journal of Medical Genetics.
    • (13q34欠失と第VII因子欠乏症の関連を解明した初期の重要論文。)
  • Roberts, S. H., et al. (1986). The location of the coagulation factor VII gene on chromosome 13q34.
    • (第VII因子遺伝子が13q34に位置することを決定づけた遺伝学的研究。)
  • Ballarati, L., et al. (2007). 13q34 microdeletion syndrome: a recognizable clinical entity with a consistent core phenotype. American Journal of Medical Genetics.
    • (13q34微小欠失症候群を一つの臨床的実体として定義し、共通の顔貌や特徴を整理した文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: 13q34 Microdeletion Syndrome. (NCBI).
    • (最新の医学的知見に基づく診断・管理・遺伝カウンセリングの標準的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 13q deletions: 13q34 microdeletions: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイドブック。)
  • Orphanet: 13q34 microdeletion syndrome (ORPHA:96168).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要。)
  • Isidor, B., et al. (2016). CHAMP1 mutations cause a neurodevelopmental syndrome with severe speech impairment.
    • (13q34領域に含まれるCHAMP1遺伝子と言語発達遅滞の関連を解析した最新の研究。)

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