別名・関連疾患名
- 13q欠失症候群(13q deletion syndrome)
- 13q末端欠失症候群(13q terminal deletion syndrome)
- 13番染色体長腕部分モノソミー
- RB1欠失症候群(網膜芽細胞腫を伴う場合)
対象染色体領域
13番染色体 長腕(q)の特定領域の微小欠失
13q部分モノソミー症候群は、13番染色体の長腕の一部が失われることで発症します。臨床的には、欠失部位によって大きく3つのグループに分類されます。
- グループ1:近位部欠失(13q14領域を含む)
- 最も注目される領域で、癌抑制遺伝子であるRB1遺伝子が含まれます。
- グループ2:中間部欠失(13q14より遠位、13q32を含まない)
- 比較的症状がマイルドな傾向がありますが、知的障害や成長障害が見られます。
- グループ3:遠位部欠失(13q32領域を含む末端欠失)
- 最も重篤な形態異常(脳、消化器、手足)を伴う傾向があります。
発生頻度
不明(希少疾患)
- 推定: 正確な統計はありませんが、染色体異常全体の中では比較的稀な部類に入ります。
- 診断の傾向: 以前は核型分析(Gバンド法)で見つかる大きな欠失が主でしたが、現在はマイクロアレイ検査により、これまで見逃されていた微小欠失が多数発見されるようになっています。
- 性差: 性別による頻度の差はなく、男女ともに発症します。
原因
13q領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)
- 新生突然変異(De novo deletion):約80%以上
両親の染色体は正常であり、受精卵が作られる過程、あるいは受精後の初期分裂において偶然に微小欠失が生じたものです。 - 均衡型転座の継承:
親のどちらかが「均衡型転座」の保因者である場合、次子に不均衡な形で染色体が受け継がれ、13qの一部を欠損した状態で生まれることがあります。 - 環状13番染色体(Ring chromosome 13):
13番染色体が輪の形(環状)になる際、両端の末端部分(p末端とq末端)が失われることで発症します。この場合、13q34付近の欠失を伴います。
臨床的特徴(症状)
欠失している領域(遺伝子の種類)によって症状が異なります。サイト利用者への利便性を考慮し、主要な症状を整理します。
1. 神経発達と知能
- 知的障害・発達遅滞: ほぼすべての症例で、軽度から重度の知的障害が見られます。
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳児期に体が柔らかく、首すわりやお座りなどの運動発達が遅れる原因となります。
- 小頭症: 脳の容積が小さく、頭囲が標準を下回ることが多く認められます。
2. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)
- 高い額: 額が広く、前に突き出している。
- 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている。
- 眼瞼下垂: まぶたが垂れ下がる。
- 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が丸い。
- 耳: 低位付着耳、あるいは耳介の変形。
- 突き出た前歯: 上の歯が前方に出ていることがあります。
3. 領域特異的な重要症状
- 網膜芽細胞腫(Retinoblastoma):
13q14.2領域に位置するRB1遺伝子が欠失している場合、小児期に眼のがんである網膜芽細胞腫を発症するリスクが極めて高くなります。この領域のモノソミーがある場合は、眼科的な超厳重監視が必要です。 - 全前脳症(Holoprosencephaly):
13q32.2領域が含まれる欠失では、胎児期に脳が左右に分かれない重篤な奇形である全前脳症を来すことがあります。 - 手足の異常:
親指の欠損または低形成(Hypoplastic thumbs)、第5指の内湾、足の指の癒合などが、特に遠位部の欠失で見られます。 - 消化器・泌尿生殖器奇形:
鎖肛、幽門狭窄症、腎欠損、尿道下裂(男児)など。
診断方法
臨床症状、特に網膜芽細胞腫や指の異常、知的障害の組み合わせから本症候群を疑い、遺伝学的検査を行います。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
確定診断のゴールドスタンダードです。13qのどの領域が、どの程度のサイズで欠けているか(微小欠失の範囲)を精密に特定できます。これにより、網膜芽細胞腫のリスクがあるかどうかを予測できます。 - 染色体核型分析(Gバンド法):
比較的大きな欠失や、転座、環状染色体の有無を確認するために行われます。 - 眼科的検査(眼底検査):
診断がついた際、あるいは13q14領域の欠失が疑われる場合は、直ちに眼腫瘍の有無を確認します。 - 画像診断(MRI / エコー):
脳の構造異常(全前脳症や脳梁欠損)、先天性心疾患、腎奇形の検索のために行われます。
治療方法
現代の医学において、失われた染色体領域を修復する根本的な治療法はありません。治療は、合併症の管理と発達支援を中心とした**「多職種連携による対症療法」**となります。
1. 眼科的治療・管理(最優先)
- 網膜芽細胞腫のサーベイランス: RB1遺伝子領域の欠失がある場合、生後すぐから数ヶ月おきに定期的な眼底検査を行います。
- がん治療: 腫瘍が見つかった場合は、レーザー治療、化学療法、凍結療法、あるいは眼球摘出術など、腫瘍の進行度に合わせた治療を行います。
2. 外科的治療
- 消化器・泌尿器: 鎖肛や尿道下裂に対する形成手術。
- 整形外科: 親指の再建術や、足の変形に対する矯正。
- 心臓手術: 先天性心疾患(中隔欠損など)がある場合、外科的矯正を行います。
3. 発達支援・療育
- 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)を組み合わせ、筋緊張低下や運動発達遅滞、コミュニケーションの困難さをサポートします。
- 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた個別の教育支援計画。
4. 遺伝カウンセリング
- 次子への再発リスクを評価するため、親の染色体検査(転座保因者の確認)と専門的なカウンセリングが不可欠です。
予後
予後は、**「欠失の範囲」と「網膜芽細胞腫の有無」**に大きく左右されます。
- 生存期間: 13q32領域を含む重篤な脳・内臓奇形がある場合は、乳幼児期の予後が厳しいことがあります。一方で、それ以外の領域の欠失で、合併症が適切に管理されていれば、成人期を迎えることが可能です。
- 生活の質(QOL): 知的障害の程度によりますが、早期からの療育と適切な環境調整により、それぞれのペースで生活能力を獲得していきます。網膜芽細胞腫を早期に発見・治療し、視覚を守ることもQOLにおいて極めて重要です。
まとめ
Partial Monosomy 13q syndrome(13q部分モノソミー症候群)は、13番染色体の長腕にある大切な設計図が、ほんのわずかに失われる微小欠失によって起こる病気です。
この病気の最大の特徴は、「どの部分が欠けているか」によって症状が全く異なる点にあります。あるお子様では目のがん(網膜芽細胞腫)のリスクが中心となり、別のお子様では脳や手足の形に特徴が出ることがあります。
現在はマイクロアレイ検査によって、欠けている部分を非常に詳しく調べることができるため、将来起こりうるリスクを予測し、早期に対策を立てることが可能です。
診断がついた際、ご家族は不安に思われるかもしれませんが、眼科、小児科、神経科、そして発達支援の専門家がチームを組んで、お子様を全力でサポートしていきます。一つひとつの症状に丁寧に向き合い、お子様の歩みを共に支えていきましょう。
参考文献元
- Allderdice, P. W., et al. (1969). The 13q- deletion syndrome. American Journal of Human Genetics.
- (13q欠失症候群の初期の症例報告と症候群としての定義。)
- Brown, S., et al. (1993). Molecular characterization of the 13q deletion syndrome. American Journal of Human Genetics.
- (13q欠失の範囲と臨床症状の相関(フェノタイプ・ジェノタイプ相関)を分子レベルで解析した重要論文。)
- Lohmann, D. R., & Gallie, B. L. (2004). Retinoblastoma. GeneReviews® [Internet].
- (13q14欠失を含む網膜芽細胞腫の診断・管理・遺伝カウンセリングの標準的データベース。)
- Kirchhoff, M., et al. (2009). Clinical characterization of 13q deletion syndrome: From karyotype to array CGH. American Journal of Medical Genetics.
- (アレイCGH(マイクロアレイ)を用いた13q欠失の最新の診断と臨床像の整理。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 13q deletions: proximal, intermediate and distal. A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、欠失部位別の詳細な家族向けガイドブック。)
- Orphanet: 13q deletion syndrome (ORPHA:1552).
- (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)
- Ballarati, L., et al. (2007). 13q34 microdeletion syndrome: a recognizable clinical entity.
- (13q末端領域(13q34)に特化した臨床的特徴の解析。)
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