Patau syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 13トリソミー(Trisomy 13)
    • ※遺伝学的に最も正確で、現在の医療現場で最も一般的に使用される名称です。
  • Dトリソミー
    • ※染色体の大きさによる分類(Dグループ:13, 14, 15番)に基づいた呼称です。
  • 13番染色体三体性

対象染色体領域

13番染色体 全体

通常、ヒトの細胞には13番染色体が2本存在しますが、パトウ症候群ではこの13番染色体が3本存在します。

【ゲノム上の詳細と影響】

13番染色体は約1億1,400万個の塩基対で構成され、数百の遺伝子を含んでいます。この染色体が1本過剰になることで、そこに含まれる遺伝子の産物(タンパク質など)のバランスが崩れ、胎児の全身の臓器形成において極めて深刻な影響を及ぼします。特に脳、顔面、心臓、腎臓、消化器において、正中線(体の中心線)に沿った形成不全が起こりやすいのが本症候群の特徴です。

発生頻度

出生児 5,000人 〜 12,000人に1人

  • 頻度: ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)に次いで3番目に多い常染色体トリソミーです。
  • 母体年齢との相関: 21トリソミーや18トリソミーと同様、母親の出産年齢の上昇に伴い発生頻度が高くなる傾向があります。
  • 流産・死産のリスク: 妊娠中に13トリソミーと診断された場合、その約90%以上が残念ながら自然流産または死産に至ります。出生に至るのはごく一部です。

臨床的特徴(症状)

パトウ症候群の症状は全身の多系統に及び、出生時に認められる身体的特徴は極めて顕著です。

1. 中枢神経系および顔面の異常

正中線(体の真ん中)に沿った形成不全が目立ちます。

  • 全前脳症(Holoprosencephaly): 脳が左右に分かれない重篤な脳形成異常です。これにより、知的発達や生命維持機能に大きな影響が出ます。
  • 口唇裂・口蓋裂: 唇や口の中の天井が割れている状態です。
  • 小眼球症・単眼症: 目が非常に小さい、あるいは重症例では中央に一つしかないなどの異常が見られます。
  • 鼻の異常: 鼻の形成不全や、鼻の位置に管状の突起(象鼻)が見られることもあります。
  • 頭皮欠損: 頭の皮膚の一部が欠損していることがあります。

2. 四肢・骨格の異常

  • 多指(趾)症: 手や足の指が6本以上ある状態です。特に小指側に余分な指がある「軸後性多指症」が多く見られます。
  • 重なり指: 指が重なり合って握られている状態。
  • 揺り椅子状足底: 足の裏が丸く突出している状態。

3. 内臓の合併症(生命予後に直結する因子)

  • 先天性心疾患(約80%以上に合併):
    • 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)、右胸心など。これらは出生後の心不全や呼吸不全の主な原因となります。
  • 泌尿生殖器疾患: 嚢胞性腎疾患、馬蹄腎、男児における停留精巣、女児における双角子宮。
  • 消化器疾患: 臍帯ヘルニアや腸回転異常。

4. 感覚器およびその他

  • 難聴: 内耳の形成異常による重度の難聴。
  • 著しい発達遅滞: 運動、知能ともに最重度の遅滞を伴います。

原因

パトウ症候群は、染色体の過剰が生じるメカニズムによって3つのタイプに分けられます。

1. 標準型13トリソミー(約80%)

  • メカニズム: 卵子または精子が作られる過程(減数分裂)での染色体不分離が原因です。
  • 発生: ほとんどが新生突然変異であり、両親の染色体は正常です。

2. 転座型(約15%)

  • メカニズム: 13番染色体の一部が他の染色体(主に14番や15番)に付着しているタイプです(ロバートソン型転座)。
  • 遺伝リスク: 親が「均衡型転座保因者」である場合があり、その場合は次子への再発リスクを考慮し、親の染色体検査が推奨されます。

3. モザイク型(約5%)

  • メカニズム: 受精後の細胞分裂の段階で不分離が起こり、13トリソミーの細胞と正常な細胞が混在するタイプです。
  • 予後: 正常細胞の割合により、症状が比較的マイルドであったり、生存期間が長くなったりすることがあります。

診断方法

1. 出生前診断

  • 超音波検査: 全前脳症、口唇口蓋裂、多指症、臍帯ヘルニア、胎内発育不全などの所見から疑われます。
  • 非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT): 母体血中の胎児由来DNAを解析。
  • 確定的検査: 羊水検査または絨毛検査による染色体核型分析。

2. 出生後診断

  • 染色体核型分析(Gバンド法): 新生児の血液細胞を用いて染色体構成を確認し、確定診断を下します。

治療方法・ケアの考え方

パトウ症候群の治療方針は、近年大きく変化しています。以前は「救命不可能」として姑息的ケア(看取り)が中心でしたが、現在は**「個別の症状に合わせた対症療法」**と、ご家族の意向を尊重した意思決定が重視されています。

1. 呼吸・循環管理

  • 出生直後の呼吸不全に対し、酸素投与や人工呼吸器の検討を行います。
  • 心不全症状を和らげるための強心剤や利尿剤の投与。

2. 外科的治療(積極的治療)

  • 心臓手術: 心不全のコントロールや肺高血圧の進行を防ぐため、姑息術(肺動脈絞扼術など)や根治術が検討されるケースが増えています。
  • 口唇裂・口蓋裂の手術: 哺乳や呼吸の改善のために行われます。
  • 指の切除: 多指症に対する形成外科的手術。

3. 支持療法とハビリテーション

  • 栄養管理: 吸い込む力が弱いため、経管栄養(鼻チューブ)や胃瘻によるサポート。
  • 感染症対策: 肺炎などを起こしやすいため、迅速な抗生剤治療やワクチン接種。
  • 発達支援: 物理療法(PT)などを通じ、お子様の持つ力を引き出し、家族とのふれあいを支えます。

予後

  • 生存率: 以前の統計では「1年生存率は10%未満」「生存期間の中央値は7〜10日」とされてきました。
  • 現在の動向: 医療技術の進歩と積極的治療の導入により、1年以上生存するお子様は増えており、10代まで成長するケースも報告されています。
  • 死因: 主に心不全、無呼吸、重症感染症が原因となります。

まとめ

Patau syndrome(パトウ症候群)は、13番染色体が3本あることで、脳や顔面、心臓などに多くの形成異常を伴って生まれてくる疾患です。

告知を受けたご家族にとって、その衝撃と悲しみは計り知れないものです。かつては非常に短い命とされてきましたが、現在は医療の進歩により、ご家族と共に過ごす時間を少しでも長く、豊かなものにするための選択肢が増えています。

手術を行うか、それとも穏やかな時間を優先するか。正解はありません。大切なのは、医療チーム(小児科医、看護師、遺伝カウンセラー)と対話を重ね、ご家族が納得できる「お子様にとって最善の道」を一緒に探していくことです。お子様は、たとえ言葉がなくても、確かに家族の愛を受け取り、生きる力を見せてくれます。

参考文献元

  • Patau, K., et al. (1960). Multiple congenital anomaly caused by an extra autosome. The Lancet, 1(7128), 790-793.
    • (パトウ博士による最初の症例報告。本症候群の定義となった論文です。)
  • Cereda, A., & Carey, J. C. (2012). The trisomy 13 syndrome. Orphanet Journal of Rare Diseases, 7(1), 81.
    • (疫学、臨床像、管理、予後に関する包括的なレビュー。)
  • Kosho, T., et al. (2006). Neonatal management of trisomy 13: Clinical details of 24 patients. American Journal of Medical Genetics.
    • (日本における13トリソミーの積極的治療と生存率向上に関する重要な研究。)
  • National Organization for Rare Disorders (NORD): Trisomy 13.
    • (最新の希少疾患データベースによる臨床管理ガイド。)
  • GeneReviews® [Internet]: Trisomy 13. (NCBI).
    • (分子遺伝学、診断、遺伝カウンセリングの世界的リファレンス。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Trisomy 13 (Patau Syndrome).
    • (ご家族向けにわかりやすく書かれた詳細なガイドブック。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。