別名・関連疾患名
- SRS
- Russell-Silver syndrome (RSS)
- シルバー・ラッセル型小人症
- 11p15.5欠失/重複症候群(一部のサブタイプ)
- 7番染色体母性単親性二倍体 (upd(7)mat)
対象染色体領域
主に11番染色体 短腕(p)15.5領域、および7番染色体全体
シルバー・ラッセル症候群は、特定の遺伝子の「塩基配列の異常」ではなく、遺伝子が働くスイッチの切り替えミスである「エピジェネティクス異常」によって引き起こされるのが最大の特徴です。
- 11p15.5領域(約30〜60%):
この領域は「刷り込み(インプリンティング)領域」と呼ばれ、成長を促進する遺伝子(IGF2など)と抑制する遺伝子(H19など)が絶妙なバランスで働いています。SRSでは、この領域のメチル化異常(低メチル化)により、成長促進遺伝子の働きが弱まり、逆に抑制遺伝子が強く働いてしまいます。 - 7番染色体(約5〜10%):
「7番染色体母性単親性二倍体(upd(7)mat)」と呼ばれます。通常、父と母から1本ずつ受け継ぐはずの7番染色体を、両方とも母親から受け継いでしまう現象です。これにより、7番染色体にある成長に関わる父由来遺伝子が働かなくなり、成長障害が生じます。 - 14q32領域:
稀に14番染色体の異常(テンプル症候群)がSRSと酷似した症状を呈することがあります。
発生頻度
30,000人 〜 100,000人に1人
- 希少疾患: 正確な頻度は地域により異なりますが、世界的に希少疾患として認識されています。
- 過少診断: 軽症例では「単なる小柄な体質」と見過ごされることもあり、実際の頻度はもう少し高い可能性も指摘されています。
- 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも発症します。
臨床的特徴(症状)
SRSの臨床症状は非常に特徴的であり、国際的な臨床診断基準(Netchine-Harbisonスコアリングシステム)が用いられます。
1. 成長の遅滞
- 胎内発育不全 (SGA): 出生時の体重や身長が、妊娠週数に対して著しく小さい。
- 出生後の成長不全: 成長曲線から大きく下方に外れ、キャッチアップ(追いつき)成長がほとんど見られません。
2. 頭部・顔貌の特徴
- 相対的小頭症: 体の大きさに比べて頭が相対的に大きく見える。
- 三角形の顔立ち: 広い額と、小さく尖った顎が特徴的です。
- 低い位置の耳: 耳がやや下の方に付着していることがあります。
- 口角の下落: 「への字」の口。
3. 身体の非対称性
- 左右非対称(Asymmetry): 左右の手足の長さや太さが異なる「一側肥大(または一側萎縮)」が見られます。これはSRSを疑う重要な指標です。
4. 手足の特徴
- 第5指の弯曲: 小指が内側に曲がっている。
- 合指症: 足の第2趾と第3趾がくっついていることがあります。
5. 摂食・代謝の問題
- 低血糖: 皮下脂肪が極端に少なく、空腹時に血糖値が下がりやすい。特に乳幼児期は夜間の低血糖に注意が必要です。
- 食欲不振: 食べることに興味を示さず、少食であることが一般的です。
- 胃食道逆流症 (GERD): 嘔吐や食欲不振の原因となります。
6. 発達と知能
- 運動発達の遅れ: 筋力が弱いため、歩行開始などが遅れる傾向にあります。
- 知能: ほとんどの症例で知能は正常範囲内ですが、一部で学習障害や言語発達の遅れが見られることがあります。
原因
遺伝子刷り込み(インプリンティング)の異常
SRSは、DNAの塩基配列が書き換わる「突然変異」ではなく、遺伝子のスイッチ(メチル化)の状態が変わってしまうことで起こります。
- 11p15.5領域の低メチル化:
父親由来の染色体で本来オンになっているはずの成長促進スイッチがオフになり、成長が抑制されます。 - 7番染色体母性単親性二倍体 (upd(7)mat):
母親の遺伝子のみが存在することで、父親からしか発現しない成長遺伝子が欠乏します。 - 微小欠失・重複:
稀に11p15.5領域の微小な欠失や重複などの構造異常が原因となることもあります。
診断方法
臨床症状に基づくスコアリングと、分子遺伝学的検査を組み合わせて診断します。
- 臨床診断基準 (Netchine-Harbisonスコア):
以下の6項目のうち、4項目以上を満たす場合に疑われます。- 胎内発育不全 (SGA)
- 出生後の成長障害
- 相対的小頭症
- 前頭部の突出(額が広い)
- 身体の非対称性
- 摂食障害 / 低BMI
- 分子遺伝学的検査:
- MS-MLPA法: 11p15.5領域のメチル化異常を検出します。
- マイクロサテライト解析: upd(7)mat(7番染色体母性単親性二倍体)を検出します。
- マイクロアレイ染色体検査: 微小な欠失や重複がないかを確認します。
治療方法
根本的な「遺伝子のスイッチを正常化する」治療はありません。多職種チーム(小児科、内分泌科、整形外科、リハビリテーション科、栄養科)による包括的なサポートが必要です。
1. 成長のサポート
- 成長ホルモン療法: 2歳を過ぎてもキャッチアップ成長が見られない場合、日本でも保険適用となる治療です。身長を伸ばすだけでなく、筋肉量を増やし、低血糖の予防にも役立ちます。
2. 栄養・代謝管理
- 低血糖の予防: 少量頻回食や夜間のコーンスターチ摂取などを行い、低血糖を防ぎます。
- 高カロリー摂取: 効率的にエネルギーを摂取できるよう、栄養士による指導が行われます。
3. 整形外科的治療
- 肢長差の補正: 左右の手足の長さに大きな差がある場合、靴の補高(インソール)や、必要に応じて骨延長術などが検討されます。
4. 発達支援
- リハビリテーション: 筋緊張低下に対する理学療法(PT)や、食欲不振・摂食障害に対する作業療法(OT)が行われます。
5. 心理・教育支援
- 外見的な特徴や小柄な体格、学習面での不安に対し、カウンセリングや特別支援教育の活用を検討します。
予後
- 身体的予後: 最終身長は標準より低くなる傾向がありますが、成長ホルモン療法により改善が見込まれます。
- 成人期のリスク: 小さく生まれた子供(SGA)が急激に体重を増やすと、将来的にインスリン抵抗性、2型糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクが高まることが知られています。そのため、過度な「太らせすぎ」には注意し、長期的な健康管理が必要です。
- 寿命: 合併症が適切に管理されていれば、寿命は一般の方と変わりません。
まとめ
Silver-Russell syndrome(シルバー・ラッセル症候群)は、お腹の中にいる時から成長がゆっくりで、生まれた後もなかなか体が大きくならない、非常に希少な体質です。
「顔が逆三角形に見える」「左右の手足の長さが少し違う」「食が細くて血糖値が下がりやすい」といった特徴がありますが、これらは11番や7番といった染色体の「スイッチ」の入り方が、通常とは少し異なっているために起こります。
「うちの子はなぜ食べないのか、なぜ大きくならないのか」と悩まれる親御様も多いですが、診断がつくことで、成長ホルモン療法などの適切なサポートを受けられるようになります。
小柄で可愛らしい外見を持つSRSのお子様たちは、適切な医療チームのサポートがあれば、それぞれのペースで健やかに成長していくことができます。低血糖の管理や成長の支援を通じて、お子様が持つ可能性を最大限に引き出していきましょう。
参考文献元
- Silver, H. K., et al. (1953). Syndrome of congenital hemihypertrophy, shortness of stature, and elevated urinary gonadotropins. Pediatrics.
- (シルバー博士による最初の報告。身体の非対称性と低身長の関連を定義しました。)
- Russell, A. (1954). A syndrome of intra-uterine dwarfism recognizable at birth with cranio-facial dysostosis, disproportionately short arms, and other anomalies.
- (ラッセル博士による胎内発育不全と特徴的顔貌に関する報告。)
- Netchine, I., et al. (2007). 11p15 imprinting center region 1 loss of methylation is a common and specific cause of Silver-Russell syndrome. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism.
- (11p15.5領域のメチル化異常がSRSの主要な原因であることを特定した論文。)
- Wakeling, E. L., et al. (2017). Diagnosis and management of Silver-Russell syndrome: first international consensus statement. Nature Reviews Endocrinology.
- (SRSの診断と管理に関する国際的な合意声明。現在の標準的な指針です。)
- GeneReviews® [Internet]: Silver-Russell Syndrome. (NCBI).
- (分子遺伝学、診断、臨床管理の世界的データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Silver-Russell Syndrome: A guide for parents and professionals.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイドブック。)
- 日本小児内分泌学会: SGA性低身長症の診療ガイドライン.
- (国内における成長ホルモン療法の基準や管理に関する指針。)
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