別名・関連疾患名
- SMS
- 17p11.2微小欠失症候群(17p11.2 microdeletion syndrome)
- 17p11.2欠失症候群
- 逆ポトツキ・ルプスキ症候群
- ※同じ領域の「重複」であるポトツキ・ルプスキ症候群(PTLS)と対照的な関係にあるため。
対象染色体領域
17番染色体 短腕(p)11.2領域の微小欠失
SMSは、17番染色体短腕の「11.2」というバンドに含まれる特定の領域が、ごくわずかに失われる(微小欠失)ことで発症します。
【ゲノム上の詳細と責任遺伝子】
- 責任領域: 約3.7Mb(メガベース)の共通欠失領域。
- 主要な責任遺伝子: RAI1 (Retinoic Acid Induced 1) 遺伝子
- 病態メカニズム: RAI1遺伝子は、脳の発達、骨格の形成、そして体内の「生物時計」を調節する非常に重要な転写因子をコードしています。この遺伝子が微小欠失によって1つ失われる(ハプロ不全)ことで、脳内の情報処理やメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌リズムに致命的なエラーが生じます。
発生頻度
約15,000人 〜 25,000人に1人
- 希少性: 比較的稀な疾患ですが、診断技術の向上により、かつて自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されていた方の中から発見されるケースが増えています。
- 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。
- 認知度: 独特な行動特性(睡眠リズムの逆転など)を持つため、一度特徴を知ると臨床的に疑いやすい疾患でもあります。
臨床的特徴(症状)
SMSの症状は、身体的な特徴以上に、精神・行動面と睡眠のリズムに極めて強い個性が現れるのが特徴です。
1. 睡眠リズムの劇的な逆転(概日リズム睡眠障害)
SMS患者の最も困難かつ特徴的な症状です。
- メラトニンリズムの逆転: 通常、夜間に分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」が、SMS患者では**「日中に高く、夜間に低い」**という逆転現象が起こります。
- 睡眠パターン: 夜中の1時や2時にパッチリと目が覚めてしまい、活動を始めます。一方で日中は猛烈な眠気に襲われ、居眠りを繰り返します。これは家族の生活にも多大な影響を及ぼします。
2. 特徴的な行動特性
他の疾患ではあまり見られない、SMSに特異的な行動様式があります。
- 自己抱擁(Self-hug): 興奮した時や嬉しい時に、自分の両腕を胸の前でギュッと交差させる独特のしぐさ。
- 「めくり・なめ」行動: 指先をなめたり、本や紙をめくったりする動作を繰り返す。
- 自己傷つけ行動: 指爪や趾爪を剥ぐ(Onychotillomania)、皮膚をむしる、異物を耳や鼻の穴に入れるなどの行動が見られることがあります。
- 爆発的な感情表現: 突然激しいパニックや攻撃性を見せた直後、非常に人懐っこく愛情深い態度に変わるなど、感情の起伏が激しい傾向があります。
3. 知的障害と言語発達
- 知的障害: 軽度から中等度の知的障害が見られることが多いです。
- 言語発達の遅れ: 幼少期は言葉の発達が著しく遅れますが、サイン言語(手話)などの視覚的なコミュニケーションの習得は比較的得意です。
4. 特徴的な顔貌
年齢とともに特徴がはっきりしてきます。
- 幅の広い顔立ち: 頬がふっくらしており、顔全体が四角形に近い形。
- 突出した額: 額が広く、前に出ている。
- 深い眼窩: 目が奥まっているように見える。
- テント型の口(テント状上唇): 上唇の中央が吊り上がり、富士山のような形になる。
- 小顎症(幼少期)から突出した下顎(成人期): 成長とともあごが前に出てくる傾向があります。
5. その他の身体的合併症
- 筋緊張低下: 乳児期に体が柔らかく、運動発達が遅れる。
- 低身長・脊柱側弯症: 骨格の成長に問題が生じることがあります。
- 感覚異常: 痛みに対する反応が鈍い(痛覚鈍麻)。
- 眼科的異常: 近視、斜視、網膜剥離(自己傷つけ行動に関連して起こるリスクがある)。
- 聴覚異常: 慢性的な中耳炎や、一部で軽度の難聴。
原因
17p11.2領域の微小欠失、またはRAI1遺伝子の変異(常染色体顕性遺伝形式)
- 17p11.2微小欠失(約90%):
染色体の一部が数メガベースにわたって欠けているタイプです。 - RAI1遺伝子内変異(約10%):
染色体の構造は正常ですが、RAI1遺伝子の中に小さな書き換え(点突然変異)があるタイプです。 - 新生突然変異:
ほとんどすべての症例において、両親の遺伝子は正常であり、受精の過程で偶然に生じたものです。次子への再発リスクは極めて低いです。
診断方法
臨床症状(特に睡眠と行動)からSMSを疑い、遺伝学的検査で確定します。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
確定診断のゴールドスタンダードです。17p11.2領域の微小欠失を精密に特定します。 - FISH法:
特定の領域を光らせて欠失を確認します。 - RAI1遺伝子のシーケンシング:
マイクロアレイで欠失が見つからない場合、遺伝子そのものの変異を探します。 - 臨床評価:
睡眠日誌の記録や、身体的特徴の評価。
治療方法
根本的な治療法はありません。睡眠障害の改善と、行動特性への理解・対応を主軸とした**「多職種連携による対症療法」**が行われます。
1. 睡眠障害の改善(最優先事項)
- メラトニン療法: 夜間のメラトニンレベルを上げるために、就寝前にメラトニン製剤を投与します。
- β遮断薬(アテノロール等)の昼間投与: 日中のメラトニン分泌を抑制し、夜間の分泌を促す試みが行われることがあります。
- 環境調整: 寝室を安全に保ち、夜間の覚醒時に家族が疲弊しないような対策を講じます。
2. 行動・精神的サポート
- 行動療法: パニックや自己傷つけ行動に対し、応用行動分析(ABA)などを用いた介入。
- 薬物療法: 激しい情緒不安定や多動に対し、抗精神病薬や気分安定薬が検討されることがあります。
3. 発達支援・教育
- 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)。視覚的な手がかり(絵カードなど)を活用した教育が効果的です。
- 特別支援教育: 睡眠不足による日中の集中力低下を考慮した個別の教育支援。
4. 家族への支援
- レスパイトケア: 家族の睡眠不足と精神的疲弊は非常に深刻な問題となるため、ショートステイや訪問看護を積極的に活用し、休息を確保することが重要です。
予後
- 生存期間: 重篤な内臓合併症が少なければ、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
- 社会性: 生涯にわたるサポートが必要ですが、適切な支援環境のもとで、就労支援やグループホームなどの社会資源を利用しながら生活することが可能です。
まとめ
Smith-Magenis syndrome(スミス・マギニス症候群)は、17番染色体の「RAI1」という、体のリズムや成長を司る大切な遺伝子が、ほんのわずかに足りない(微小欠失)ことで起こる病気です。
この病気の最大の特徴は、「昼夜が逆転してしまう睡眠リズム」と、パニックや「自分を傷つけてしまう行動」にあります。これらはお子様のわがままや育て方のせいではなく、脳内の時計やホルモンのバランスが原因であることが科学的にわかっています。
診断がつくことで、メラトニンを用いた睡眠の調整や、特性に合わせた接し方のヒントを得ることができます。
SMSのお子様たちは、一方で非常に愛情深く、人を喜ばせることが大好きな一面も持っています。ご家族だけで抱え込まず、医療や福祉のチームと共に、お子様とご家族が安心して眠り、笑顔で過ごせる環境を作っていきましょう。
参考文献元
- Smith, A. C., Magenis, R. E., et al. (1986). Interstitial deletion of (17)(p11.2p11.2) in nine patients. American Journal of Medical Genetics.
- (スミス博士とマギニス博士による、本症候群を定義した最初の論文。)
- Gropman, A. L., et al. (2006). The behavioral phenotype of Smith-Magenis syndrome.
- (SMSの行動特性や睡眠障害を詳細に解説した研究。)
- Potocki, L., et al. (2000). Molecular mechanism for duplication 17p11.2—the homologous recombination reciprocal of the Smith-Magenis microdeletion.
- (重複(PTLS)と欠失(SMS)のメカニズムを比較した論文。)
- GeneReviews® [Internet]: Smith-Magenis Syndrome. (NCBI).
- (診断、管理、遺伝カウンセリングに関する世界的標準データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Smith-Magenis Syndrome: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイド。)
- De Leersnyder, H., et al. (2001). Beta-1-adrenergic antagonists improve sleep and behavioral disturbances in Smith-Magenis syndrome.
- (β遮断薬を用いた睡眠障害治療の有効性に関する臨床研究。)
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