別名・関連疾患名
- ソトス症候群
- 脳性巨人症(Cerebral Gigantism)
- ※かつて、脳の構造的特徴と過成長に注目して呼ばれていた名称です。
- 5q35微小欠失症候群
- ※原因が遺伝子単体の変異ではなく、5番染色体長腕の微小欠失による場合を指します。
- NSD1関連疾患(NSD1-related disorder)
対象染色体領域
5番染色体 長腕(q)35.3領域
ソトス症候群は、5番染色体長腕の末端近く(5q35.3)に位置する NSD1遺伝子 の機能不全によって引き起こされます。
【ゲノム上の詳細とNSD1遺伝子の役割】
- 責任遺伝子: NSD1 (Nuclear receptor-binding SET domain-containing protein 1)
- 役割: NSD1遺伝子は、ヒストンメチル基転移酵素というタンパク質をコードしています。これは、DNAが巻き付いているヒストンというタンパク質にメチル基を付加することで、多くの遺伝子の働きを「調節(オン/オフ)」するエピジェネティクスの司令塔のような役割を果たします。
- 病態メカニズム: 通常、この遺伝子は父由来と母由来の2つが働いていますが、片方の遺伝子に異常が生じ、タンパク質の量が半分に減ってしまう「ハプロ不全」が起こることで、細胞の成長や脳の発達を制御するシグナル伝達のバランスが崩れ、過成長や発達遅滞が引き起こされます。
発生頻度
約10,000人 〜 14,000人に1人
- 頻度: 先天性過成長症候群の中では最も頻度が高い疾患の一つです。
- 日本国内: 日本人における頻度も欧米とほぼ同様と推定されていますが、日本人症例の特徴として「染色体の微小欠失」が原因である割合が諸外国に比べて高い(約半数以上)ことが知られています。
- 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。
臨床的特徴(症状)
ソトス症候群の症状は多岐にわたり、成長、外見、精神発達の3つの大きな特徴があります。
1. 過成長(Overgrowth)
- 胎児期・出生時: 出生時から身長・体重・頭囲が大きく(SGAの逆)、特に身長と頭囲が著しく目立ちます。
- 乳幼児期・小児期: 骨格の発育が非常に早く、実年齢よりも骨の年齢(骨年齢)が進んでいることが一般的です。
- 最終身長: 思春期が比較的早く来る傾向があるため、最終的な成人身長は高身長の範囲内ではありますが、小児期の驚異的な伸びに比べると、最終的には「やや高い」程度に落ち着くこともあります。
2. 特徴的な顔貌(Characteristic Facial Features)
年齢とともに変化しますが、共通の独特な特徴があります。
- 長い顔: 顔の上下径が長い。
- 広い額: 前頭部が突き出しており、額が広く見えます。
- 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(タレ目様)。
- 高い生え際: 前頭部の生え際が後退して見えます。
- 尖った顎: 下顎が長く、顎先が細く尖って見える。
- 顔面潮紅: 頬が赤くなりやすい傾向があります。
3. 神経発達と知能
- 発達遅滞・知的障害: ほとんどの症例で、軽度から中等度の知的障害を伴います。
- 運動発達の遅れ: 筋緊張低下(乳児期の体の柔らかさ)や、体の大きさと筋力のバランスが取れにくいことにより、首すわり、歩行などの運動マイルストーンが遅れます。
- 言語発達の遅れ: 表出言語(話すこと)の遅れが目立つのが特徴です。
- 行動特性: 多動、衝動性、あるいは変化に対する不安、特定の物への強いこだわりなど、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに似た特性が見られることがあります。
4. その他の身体的合併症
- てんかん: 約20~30%の症例でけいれん発作が認められます。
- 脳の構造異常: 脳室拡大や脳梁の異常がMRIなどで確認されることがあります。
- 先天性心疾患: 心房中隔欠損症などの心奇形。
- 泌尿器系異常: 腎欠損、腎盂拡張、膀胱尿管逆流症。
- 脊柱側彎症: 急激な成長に伴い、背骨が曲がることがあります。
- 歯科的問題: 高口蓋や歯の形成不全、永久歯の欠損。
- 腫瘍のリスク: 非常に稀ですが、仙尾部奇形腫や神経芽細胞腫などの腫瘍発生リスクが一般よりわずかに高い(約2〜3%)可能性が指摘されています。
原因
NSD1遺伝子の変異または5q35微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)
ソトス症候群は、NSD1遺伝子の機能が損なわれることで発症します。
- NSD1遺伝子内変異(欧米症例に多い):
遺伝子の配列の中に小さな書き換え(点突然変異)があり、遺伝子が正しく働かないタイプです。 - 5q35微小欠失(日本人症例に多い):
NSD1遺伝子を含む、5番染色体末端の微小な領域がごっそりと欠けているタイプです。- 日本人ではこの「微小欠失」が約60%を占めるのに対し、欧米人では約10%程度です。
- 微小欠失タイプは、遺伝子内変異タイプに比べて、成長はややマイルドですが、知的障害や心奇形の合併がより重篤になりやすい傾向があるという研究結果もあります。
- 新生突然変異(約95%以上):
ほとんどすべての症例において、両親の遺伝子は正常であり、受精の過程で偶然に生じたものです。次子への再発リスクは極めて低いです。
診断方法
臨床症状からソトス症候群を疑い、遺伝学的検査で確定診断を行います。
- 臨床診断基準: 「過成長」「特徴的な顔貌」「知的発達遅滞」の三徴を確認します。
- FISH法 / マイクロアレイ染色体検査:
日本人で多い 5q35微小欠失 を検出するために行われます。 - NSD1遺伝子シーケンシング:
微小欠失が見つからない場合、遺伝子内の微細な変異を探します。 - 画像診断:
- 骨年齢の評価: 手のレントゲンで、実年齢と骨の成長度合いを比較します。
- 頭部MRI: 脳の構造的特徴を確認します。
- 心エコー・腹部エコー: 合併症の検索。
治療方法
現代の医学において、遺伝子の異常を修復する根本的な治療法はありません。治療は、各症状に対する**「多職種連携による対症療法」**と、ライフステージに合わせた発達支援が中心となります。
1. 発達支援・療育
- 理学療法(PT): 筋緊張低下に対する運動発達の促進。
- 作業療法(OT): 手先の器用さや日常生活動作の訓練。
- 言語療法(ST): 言語獲得の支援。コミュニケーションが難しい場合は代替手段も検討します。
- 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた学習環境の整備。
2. 合併症の管理
- てんかん: 抗てんかん薬による適切な発作コントロール。
- 脊柱側彎症: 成長期に定期的な整形外科的チェックを行い、必要に応じて装具療法。
- 心・腎疾患: 程度に応じた外科的治療や経過観察。
- 歯科管理: 歯並びの問題に対する定期的な検診と矯正相談。
3. 社会的・心理的サポート
- 体が大きいために「実年齢より上」に見られ、本来の年齢相応の振る舞い以上に高い期待(プレッシャー)を周囲から受けやすいという心理的課題があります。本人の内面的な発達段階に合わせた接し方が重要です。
予後
- 生存期間: 重篤な合併症がない限り、寿命そのものは一般の方と変わりません。
- 成人の状態: 成人期には過成長のスピードは落ち着き、最終身長は高身長(あるいは正常範囲の上限)となります。知的障害の程度によりますが、適切な支援があれば就労し、自立した生活を送ることも可能です。
- 健康管理: 成人期以降も、高血圧や脊椎の問題などに対して、定期的な健康チェックを継続することが推奨されます。
まとめ
Sotos syndrome(ソトス症候群)は、5番染色体にある「NSD1」という、体の成長や脳の発達を調整する大切なスイッチ役の遺伝子が、うまく働かないことで起こる病気です。
「赤ちゃんの時から体が大きく、成長がとても早い」「額が広くてチャーミングな顔立ち」「言葉や体の動きがゆっくり」といった特徴があります。
特に日本人の場合は、遺伝子の周りがごっそりと欠けてしまう「微小欠失」というタイプが多いことがわかっています。
診断がついたとき、ご家族はお子様の体の大きさと、心の発達のギャップに戸惑うことがあるかもしれません。しかし、ソトス症候群のお子様たちは、適切なリハビリや教育支援を受けることで、一歩ずつ確実に成長していきます。
大切なのは、お子様の「今の体のサイズ」ではなく「今の心の発達段階」に寄り添って、長く温かく支えていくことです。専門医チームと共に、お子様の素晴らしい可能性を伸ばしていきましょう。
参考文献元
- Sotos, J. P., et al. (1964). Cerebral gigantism in childhood. A syndrome of excessively rapid growth with acromegalic features and a nonprogressive neurologic disorder. New England Journal of Medicine.
- (ソトス博士による最初の症例報告。本症候群の定義となった論文です。)
- Kurotaki, N., et al. (2002). Haploinsufficiency of NSD1 causes Sotos syndrome. Nature Genetics.
- (日本人研究グループによってNSD1遺伝子が原因であることを特定した画期的な研究。)
- Tatton-Brown, K., et al. (2005). Genotype-phenotype associations in Sotos syndrome: an analysis of 266 individuals with NSD1 aberrations. American Journal of Human Genetics.
- (遺伝子変異のタイプと臨床症状の関連を大規模に分析した文献。)
- GeneReviews® [Internet]: Sotos Syndrome. (NCBI).
- (最新の医学的知見に基づく診断・管理・遺伝カウンセリングの世界的データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Sotos Syndrome: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイドブック。)
- ソトス症候群親の会(日本の患者団体情報): 各年齢層における生活の実際と支援.
- Wakeling, E. L., et al. (2017). Diagnosis and management of Silver-Russell syndrome: first international consensus statement. (※過成長症候群の鑑別診断としてのリファレンス)
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