Split-hand/foot malformation 1 (SHFM1)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • SHFM1
  • 中心性欠損(Central ray deficiency)
  • 蝦蟇手・蝦蟇足奇形(Lobster claw malformation)
    • ※歴史的な呼称ですが、現在は患者・家族への配慮から「裂手・裂足(れっしゅ・れっそく)」と呼ぶのが一般的です。
  • SHFM1 with sensorineural hearing loss(感音性難聴を伴うSHFM1)
  • 7q21.3微小欠失症候群(7q21.3 microdeletion syndrome)

対象染色体領域

7番染色体 長腕(q)21.3領域

SHFM1は、7番染色体長腕(7q21.3)に位置する複数の遺伝子とその制御領域の異常によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と責任遺伝子の役割】

この領域には、四肢および顔面、耳の形成に不可欠な DLX5遺伝子 および DLX6遺伝子 が存在します。

  • DLX5 / DLX6: ホメオボックス遺伝子ファミリーに属し、胎児期の四肢の先端部(AER:頂端外胚葉肥厚)において、骨格のパターン形成を指示する司令塔の役割を果たします。
  • 制御領域(エンハンサー): DLX5/DLX6そのものの変異だけでなく、これら遺伝子の働きを調節する周辺の「エンハンサー領域」の微小欠失や再構成(転座・逆位)によっても、遺伝子のスイッチが正しく入らなくなり、発症の原因となります。
  • 症候群性SHFM1: 欠失範囲が広い場合、隣接する DSS1 遺伝子などが失われることで、難聴や知的障害を伴う「症候群性」の臨床像を呈します。

発生頻度

出生児 18,000人 〜 25,000人に1人

  • 全体像: 裂手・裂足症候群(SHFM)全体の中で、SHFM1は主要な原因の一つです。
  • 遺伝的異質性: SHFMには現在1型から6型まで報告されていますが、原因遺伝子が特定されているものの中でSHFM1(7q21.3)は臨床的に重要な位置を占めます。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。

臨床的特徴(症状)

SHFM1の症状は非常に多様であり、同じ家族内(同じ遺伝子変異を持つ者同士)であっても、症状の出方に大きな差(表現度の差)が見られるのが特徴です。

1. 手足の形態異常(主要症状)

  • 中心性欠損: 手または足の中央部分(中指・中趾)が欠損し、V字型またはU字型の深い裂け目が生じます。
  • 合指症・合趾症: 残った指同士が癒合していることが多く、把持(物を掴む)動作に影響を与えることがあります。
  • 指の欠損・低形成: 母指(親指)が残るケースもあれば、指の数が2本や3本に減少しているケースもあります。
  • 非対称性: 左右の手足で症状が異なることや、片手だけに症状が出る場合もあります。

2. 非四肢症状(随伴症状)

SHFM1では、7q21.3領域の欠失範囲や変異の種類により、手足以外の部位に症状が現れることがあります。

  • 感音性難聴(約30%): DLX遺伝子が内耳の形成にも関与しているため、難聴を合併する頻度が比較的高いです。
  • 顔面の異常: 稀に口唇裂、口蓋裂、あるいは下顎の形成不全が見られることがあります。
  • 知的障害: 染色体の微小欠失範囲が広く、脳の発達に関わる隣接遺伝子を巻き込んでいる場合に認められます。

3. 機能的側面

  • 把持動作: 手の裂け目を利用してピンセットのように物を摘む動作は可能なことが多いですが、細かな作業には制限が生じます。
  • 歩行: 足の変形がある場合、荷重のバランスが不安定になり、歩行の遅れや痛みが生じることがあります。

原因

7q21.3領域のDLX5/DLX6遺伝子の不活化(常染色体顕性遺伝形式)

  • 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
    • 両親のどちらかが変異を持っている場合、50%の確率でお子様に遺伝します。
    • 浸透度の低さ: 変異を持っていても、見た目には症状が全く現れない(非浸透)ケースや、爪の形が少し違うだけの軽微なケースがあるため、家系調査では注意が必要です。
  • 分子メカニズム:
    • 微小欠失: 7q21.3領域の欠損により、DLX5/6遺伝子、またはその制御領域が失われます。
    • 染色体構造異常: 転座や逆位によって、遺伝子とそのスイッチ(エンハンサー)の距離が離れてしまい、遺伝子が機能しなくなることがあります。
  • 新生突然変異:
    • 両親が正常で、お子様に初めて変異が生じるケースも多く認められます。

診断方法

胎児期の超音波検査、あるいは出生後の身体診察から疑われ、遺伝子検査で確定します。

  • 臨床診断:
    • 特徴的な手足のX線検査を行い、骨格の欠損パターンを評価します。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 確定診断の第一選択です。7q21.3領域の微小欠失を精密に検出します。
  • FISH法:
    • 染色体の転座や再構成が疑われる場合に、特定の領域を視覚的に確認するために用いられます。
  • 次世代シーケンサー(NGS):
    • 欠失が見つからない場合、DLX5DLX6の遺伝子内変異を探すために行われます。
  • 聴力検査(ABRなど):
    • 診断確定後、難聴の有無を確認するために全例で行うことが推奨されます。

治療方法

根本的な「遺伝子の修復」は不可能ですが、整形外科的な手術とリハビリテーションにより、機能と外見の両面を改善することが可能です。

1. 外科的手術(整形外科・形成外科)

手術の目的は「機能の最大化」と「外見の整容」です。

  • 合指分離術: 指がつながっている場合、指を離して独立した動きを可能にします。
  • 裂手閉鎖術: 手の中心にある裂け目を閉じ、手の幅を整えて掴みやすくします。
  • 母指化手術: 親指が欠損している場合、人差し指などを親指の位置に移設し、つまむ機能を獲得させます。
  • 時期: 一般的に、手の成長と機能発達に合わせて、1歳から就学前までに行われることが多いです。

2. 聴覚サポート

  • 補聴器: 難聴が認められる場合、言語発達を促すために早期から補聴器の装用を開始します。
  • 人工内耳: 難聴が重度の場合、検討されることがあります。

3. リハビリテーション

  • 作業療法(OT): 手術後の手の使い方を訓練し、日常生活動作(食事、書字など)の自立を目指します。
  • 理学療法(PT): 足の変形がある場合、適切な歩行訓練や、必要に応じた装具(インソール)の作成を行います。

4. 心理的・社会的サポート

  • 外見上の特徴があるため、思春期以降の心理的ケアや、学校生活における周囲の理解促進が重要です。

予後

  • 身体機能: 適切な手術とリハビリテーションにより、多くの患者は日常生活を自立して送ることが可能です。スポーツや楽器演奏を楽しんでいる方も多くいます。
  • 知的予後: 症候群性でない(手足の症状のみの)場合は、知能は正常であり、教育や就業において制限はありません。
  • 次世代への影響: 顕性遺伝であるため、将来子供を持った際の遺伝カウンセリングが重要となります。

まとめ

Split-hand/foot malformation 1 (SHFM1) は、7番染色体にある「手足の形を作るスイッチ」が、胎児期にうまく入らないことで起こる先天的な体質です。

手の中心部が分かれている独特な形をしており、驚かれることもあるかもしれませんが、この形は「物を掴む」という機能においては、意外なほど器用な動きを可能にすることもあります。

現在の医療では、1歳頃から段階的に手術を行うことで、指を増やしたり、隙間を閉じたりして、より使いやすく、整った形に近づけることができます。

大切なのは、お子様が自分の手を「道具」として愛着を持って使いこなせるよう、早期から整形外科やリハビリの専門家とつながることです。また、この病気は難聴を伴うことがあるため、耳のチェックも忘れずに行いましょう。お子様は、その手で自分らしい未来を力強く掴み取っていくことができます。

参考文献元

  • Scherer, S. W., et al. (1994). Physical mapping of the split hand/split foot locus on chromosome 7 and demonstration of a Schinzel-Giedion syndrome–like phenotype in a patient with a de novo t(6;7)(q15;q21). Human Molecular Genetics.
    • (SHFM1領域の特定とDLX遺伝子の関与を解明した初期の重要論文。)
  • Schanze, D., et al. (2012). Microdeletions in 7q21.3 as a cause of split hand/split foot malformation type 1. American Journal of Medical Genetics.
    • (7q21.3の微小欠失とSHFM1の相関を現代的な解析手法で示した文献。)
  • Wieland, I., et al. (2004). Refinement of the Split-Hand/Split-Foot Malformation locus SHFM1 and mutation analysis of candidate genes (DLX5, DLX6, and DSS1).
    • (DLX5/6遺伝子とDSS1遺伝子の構造的役割を解析した研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: Split-Hand/Foot Malformation Landscape. (NCBI).
    • (SHFM全般の診断、管理、遺伝カウンセリングを網羅したデータベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 7q21 deletions (including SHFM1).
    • (染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイドライン。)
  • Orphanet: Split hand-foot malformation 1 (ORPHA:79452).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要。)

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