Split-hand/foot malformation 3 (SHFM3)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • SHFM3
  • 10q24微小重複症候群(10q24 microduplication syndrome)
  • 中心性欠損(Central ray deficiency)
  • 外指症(Ectrodactyly)
  • 10q24.31-q24.32重複症候群

対象染色体領域

10番染色体 長腕(q)24.31-q24.32領域の微小重複

SHFM3は、10番染色体上の特定の領域が「通常より多く存在する(重複)」ことによって引き起こされる、非常にユニークな遺伝的背景を持つ疾患です。

【ゲノム上の詳細と発症メカニズム】

  • 責任領域: 約500kb(キロベース)程度の微小な重複領域。
  • 主要な関与遺伝子: BTRC遺伝子POLL遺伝子FBXW4遺伝子、およびLBX1遺伝子が含まれます。
  • 病態メカニズム(ゲノム再構成): この領域が重複することで、四肢の形成に重要な役割を果たす「Dactylin(ダクチリン)」と呼ばれるタンパク質をコードする FBXW4 遺伝子の機能が破壊される、あるいは隣接する遺伝子の発現調節が乱れると考えられています。
  • 頂端外胚葉肥厚(AER)の異常: 胎児期の手足の芽(肢芽)において、先端部分の成長を促すAERという組織が正しく維持されず、中央部分(中指・中趾に相当する部分)の形成が途中で停止してしまうことで、裂手・裂足の形態が生じます。

発生頻度

出生児 90,000人 〜 150,000人に1人

  • 全体像: 裂手・裂足症候群(SHFM)自体が希少な疾患ですが、その中でSHFM3は比較的よく見られるサブタイプの一つです。
  • 遺伝的異質性: SHFMには複数の型がありますが、10番染色体の異常を原因とする3型は、特に「孤発例(家族に誰もいないケース)」と「家系内発症例」の両方が明確に報告されています。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも発症します。

臨床的特徴(症状)

SHFM3の症状は、主に手足の形態に現れます。知能や内臓への影響が少ない「非症候群性」であることが多いのが特徴ですが、その形状は非常に多様です。

1. 手足の形態異常(主要症状)

  • 中心性欠損(Cleft hand/foot): 中指(第3指)や中趾が欠損し、手足の中央に深いV字型またはU字型の裂け目が生じます。
  • 合指症・合趾症: 欠損していない指同士が癒合(くっついている)していることが多く、特に親指(第1指)と人差し指(第2指)、あるいは薬指と小指が合わさっているケースがよく見られます。
  • 指の低形成・無形成: 存在する指の数には個人差があり、2本〜4本と減少していることがあります。
  • 非対称性: 左右の手足すべてに症状が出る「四肢罹患」もあれば、片方の手だけに現れる「単肢罹患」もあります。また、手よりも足の方が症状が強く出やすい傾向も指摘されています。

2. 機能的な特徴

  • ピンセット把握: 指が2本しかない場合でも、それらをピンセットのように器用に使って小さな物を掴むことができます。
  • 歩行への影響: 足の裂け目が深い場合、靴のフィッティングが難しかったり、荷重のバランスが崩れて歩行が不安定になったり、成長に伴い足底に痛みが生じたりすることがあります。

3. 非四肢症状(随伴症状)

SHFM3は通常、知能や顔貌に影響を与えませんが、稀に広範囲な染色体重複がある場合、以下の症状を伴うことがあります。

  • 軽度の発達遅滞: 重複範囲が非常に広い特殊なケースで見られることがあります。
  • 爪の異常: 指の形成不全に伴い、爪が小さかったり欠損していたりすることがあります。

原因

10q24.3領域の微小重複(常染色体顕性遺伝形式)

  • 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
    • 親がこの染色体重複を持っている場合、50%の確率でお子様に遺伝します。
    • 不完全浸透と表現型の多様性: 変異(重複)を持っていても症状が出ない、あるいは極めて軽い(指が少し細いだけなど)場合があり、見た目では遺伝しているかわからないことがあります。
  • 新生突然変異:
    • 両親の染色体は正常(重複なし)で、お子様の受精時に偶然に重複が生じるケースも多く、家族歴がないからといって遺伝子疾患が否定されるわけではありません。

診断方法

多くの場合、出生時の身体的特徴から疑われ、高度な遺伝学的検査によって確定されます。

  • 臨床診断とレントゲン検査:
    • 手足の骨格構造をX線で撮影し、中指・中趾の骨の欠損や癒合のパターンを確認します。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 確定診断に最も有効な検査です。通常の染色体検査(Gバンド法)では見逃されるような、10q24領域の微小な重複を確実に検出します。
  • FISH法:
    • 特徴的な10q24領域に色をつけ、重複の有無を顕微鏡下で確認します。
  • 胎児診断:
    • 家族歴がある場合や、妊婦健診の超音波検査で手足の形態異常が疑われた際、羊水検査や絨毛検査を通じてマイクロアレイ解析を行うことで確定診断が可能です。

治療方法

根本的な「染色体の重複を消す」治療法はありません。治療の柱は、機能の改善と整容を目的とした**「整形外科的介入」と、日常生活を支える「リハビリテーション」**です。

1. 手の外科手術(整形外科・形成外科)

手術は、お子様が自分の手を「道具」として効率よく使えるようになることを目的とします。

  • 合指分離術: くっついている指を切り離し、一本ずつの動きを確保します。これにより「摘む」機能が向上します。
  • 裂手閉鎖術: 中央の深い裂け目を閉じ、手の幅を狭めて見た目を整えるとともに、物を握る際の安定性を高めます。
  • 指の軸調整: 曲がっている指をまっすぐに矯正し、機能性と外見を改善します。
  • 手術時期: 1歳から就学前(6歳頃)にかけて、成長の段階に合わせて段階的に行われるのが一般的です。

2. 足の外科手術

  • 機能的再建: 歩行の障害となっている部分の矯正。
  • 靴の工夫: 手術で形を整えるとともに、インソール(足底挿板)や装具を用いて、安定した歩行をサポートします。

3. リハビリテーション(作業療法・理学療法)

  • 作業療法(OT): 手術後の手の使い方を訓練し、食事、更衣、書字などの日常生活動作(ADL)をスムーズに習得できるよう支援します。
  • 理学療法(PT): 足の変形に伴う歩行の癖を補正し、バランスの良い歩き方を身につけます。

4. 心理・社会的サポート

  • 成長とともに、自分の手足の形が他人と違うことに気づき、悩む時期が来ることがあります。心理士によるカウンセリングや、同じ疾患を持つ家族会との交流が大きな支えとなります。

予後

  • 身体機能: 現代の優れた外科手術とリハビリにより、ほとんどの患者様は日常生活を自立して送ることができます。細かい作業を必要とする職業に就いている方も少なくありません。
  • 知的・全身予後: 知能は正常であることが多いため、学業や社会進出において、手足の機能的な制限以外に大きな障壁はありません。
  • 遺伝的予後: 本人が子供を持つ場合、50%の確率で同じ染色体重複が伝わりますが、お子様の症状の重さは親と同等とは限らず、より軽かったり、逆に重かったりする可能性があることを遺伝カウンセリングで理解しておくことが重要です。

まとめ

Split-hand/foot malformation 3 (SHFM3) は、10番染色体の一部が少しだけ多く存在する(微小重複)ことによって、手足の形が個性的に作られる病気です。

「真ん中の指がない」「指がつながっている」といった特徴を聞くと、将来を心配されるかもしれませんが、この病気の最大の特徴は、お子様たちが驚くほど自分の手を工夫して使いこなし、何でもできるようになる「適応力の高さ」にあります。

現代の整形外科医療は非常に進歩しており、一歳頃から適切な手術を受けることで、より使いやすく、整った形に近づけることが可能です。

知能や内臓の心配がほとんどないケースが多いことも、大きな安心材料の一つです。専門医のチームと相談しながら、お子様が「自分の手足は、自分の素晴らしい個性である」と自信を持って成長していけるよう、温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • de Mollerat, X. J., et al. (2003). Split-hand/split-foot malformation 3 (SHFM3) result from a 10q24 microduplication. American Journal of Medical Genetics.
    • (SHFM3が10q24の微小重複によって引き起こされることを初めて証明した歴史的論文。)
  • Lyle, R., et al. (2006). Split-hand/split-foot malformation 3 (SHFM3) at 10q24, development of rapid diagnostic methods and gene expression in relevant tissues.
    • (診断方法の確立と、責任領域における遺伝子発現を解析した研究。)
  • Dimitrov, B. I., et al. (2010). Genotype-phenotype correlation in 10q24 microduplications: Split hand/foot malformation type 3 and beyond.
    • (重複の範囲と症状の重さの関連を詳細に調査した文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: Split-Hand/Foot Malformation Landscape. (NCBI).
    • (診断基準、分子遺伝学、管理指針を網羅した世界的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 10q24 microduplications (SHFM3).
    • (染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイドライン。)
  • Kano, H., et al. (2005). Genomic reorganization and FBXW4 expression in SHFM3.
    • (FBXW4遺伝子の機能不全がどのように手足の形成に影響するかを考察した研究。)
  • Saito, T., et al. (2018). Clinical and genetic characteristics of Japanese patients with SHFM3.
    • (日本人症例におけるSHFM3の特徴をまとめた国内の研究報告。)

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