Tetrasomy 15q26 syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 15q26微小重複症候群(15q26 microduplication syndrome)の重症型
  • 15q末端テトラソミー(Terminal tetrasomy 15q)
  • 15q26重複症候群(15q26 duplication syndrome)
  • 15q遠位部テトラソミー(Distal tetrasomy 15q)

対象染色体領域

15番染色体 長腕(q)26領域の重複(計4コピー存在)

本症候群は、15番染色体の最も末端に近い「q26」というバンド領域が過剰に存在する染色体異常です。通常、この領域は父由来・母由来の1つずつ(計2コピー)存在しますが、テトラソミーではこれが4コピー存在します。

【ゲノム上の詳細と最重要遺伝子:IGF1R】

この領域に含まれる遺伝子の中で、臨床的に最も重要と考えられているのが IGF1R遺伝子 (Insulin-like Growth Factor 1 Receptor:インスリン様成長因子1受容体) です。

  • 役割: IGF1Rは、成長ホルモンの指令を細胞に伝え、骨の伸長や細胞の増殖を促す「受容体」をコードしています。
  • 病態メカニズム: * この領域が「欠失」すると(15q26モノソミー)、受容体が足りず著しい低身長になります。
    • 逆に、この領域が「重複」あるいは「テトラソミー」になると、受容体が過剰に発現します。15q26テトラソミーではIGF1R遺伝子が4コピーになるため、理論上、成長シグナルが過剰に伝達され、過成長や特定の骨格異常、神経発達への影響が生じると考えられています。
  • 微小重複との関連: 近年、染色体全体ではなく、このq26領域内の特定の遺伝子群のみが重複する微小重複の症例も報告されていますが、テトラソミーはそれよりも遺伝子量が多く、より顕著な症状を呈します。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 正確な頻度: 世界的な統計は存在しませんが、医学文献で報告されている症例数は極めて限られています。世界中で数十例から百例程度と推測される希少疾患です。
  • 診断の現状: 外見的な特徴が他の染色体異常と重なる部分があるため、高度なゲノム解析(マイクロアレイ検査等)が行われない限り、正確な診断を下すことが難しい疾患です。
  • 性差: 現在の報告レベルでは男女差は認められていません。

臨床的特徴(症状)

Tetrasomy 15q26 syndromeの臨床像は、過成長、知的障害、そして特徴的な身体所見の組み合わせによって構成されます。

1. 成長と体格

  • 過成長(Overgrowth): 多くの症例で出生時より体格が大きく、乳幼児期から小児期にかけて身長が成長曲線の上限を上回ることがあります。これはIGF1R遺伝子の過剰発現と密接に関連しています。
  • 大頭症(Macrocephaly): 体格に比例して、あるいは相対的に頭囲が大きいことが一般的です。

2. 神経発達と知能

  • 知的障害: 軽度から中等度の知的障害がほとんどの症例で認められます。
  • 発達遅滞: 運動発達(首すわり、歩行)や言語獲得の遅れが幼児期から顕著になります。
  • 自閉スペクトラム症(ASD)的特性: 社会的なコミュニケーションの困難さや、特定のこだわり、多動性などが報告されています。

3. 特徴的な顔貌(Facial Features)

診断の示唆となるいくつかの外見的特徴があります。

  • 広い額: 額が突き出しており、広く見える。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている。
  • 眼瞼裂斜上: 目尻が上がっている。
  • 耳の異常: 耳の位置が低い(低位付着耳)、あるいは耳介の形成不全。
  • 尖った顎: 下顎が発達しており、顎先が細く尖って見えることがある。

4. 骨格および身体の異常

  • 関節の過伸展: 関節が通常よりも柔らかく、曲がりやすい。
  • 脊柱側彎症: 背骨が左右に曲がる症状が成長とともに現れることがあります。
  • 腎異常: 腎欠損や馬蹄腎、腎盂拡張などの合併が報告されることがあります。
  • 先天性心疾患: 頻度は高くありませんが、心房中隔欠損症などの心奇形が報告されるケースがあります。

原因

15q26領域の過剰(常染色体顕性形式に相当する遺伝子量効果)

15q26領域が4コピーになる原因には、大きく分けて以下のパターンがあります。

  1. 過剰なマーカー染色体(Supernumerary Marker Chromosome: sSMC):
    通常の46本の染色体とは別に、15番染色体由来のq26領域を含む小さな「余分な染色体」が2つ、あるいは1つの二動原体染色体として存在する場合です。
  2. 不均衡転座の継承:
    親のどちらかが均衡型転座の保因者である場合、減数分裂のミスにより15q末端が重複した状態で受け継がれることがあります。
  3. 新生突然変異(De novo):
    多くの場合、両親の染色体構成は正常であり、受精卵の形成過程で偶然に微小な領域の重複やテトラソミーが生じます。

診断方法

臨床症状のみで診断を確定することは不可能であり、分子細胞遺伝学的な検査が必須です。

  1. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。15q26領域のコピー数を精密に測定し、テトラソミー(4コピー)であることを特定します。
  2. 染色体核型分析(Gバンド法):
    余分な染色体断片(マーカー染色体)の有無や、染色体全体の構造を確認します。
  3. FISH法:
    15q末端特異的なプローブを用いて、コピー数が過剰であることを視覚的に確認します。
  4. 臨床評価と画像診断:
    過成長の程度の確認、および心エコー、腹部エコー、脳MRIによる合併症のスクリーニングを行います。

治療方法

現代の医学において、過剰な染色体領域を削除したり、遺伝子量を正常に戻したりする根本的な治療法はありません。治療は、症状を管理し生活をサポートする**「多職種連携による対症療法」**が中心となります。

1. 発達支援・療育

  • 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)を組み合わせ、運動能力、日常生活動作、コミュニケーション能力の向上を図ります。
  • 特別支援教育: 知的レベルや個々の学習能力、行動特性に合わせた教育支援計画を策定します。

2. 整形外科的治療

  • 骨格管理: 脊柱側彎症や関節の不安定性に対し、定期的な経過観察と、必要に応じた装具療法や外科的手術を行います。

3. 内科・内分泌管理

  • 過成長のモニタリング: 著しい過成長に伴う心血管系への負担や骨格への影響を観察します。
  • 合併症治療: 腎奇形や心疾患がある場合、それぞれの専門医による治療(投薬や手術)が行われます。

4. 遺伝カウンセリング

  • 家族に対し、疾患の性質、将来の見通し、および次子への再発リスクについて正確な情報提供と心理的サポートを行います。

予後

  • 生存期間: 重篤な内臓合併症(心奇形や腎不全など)がなければ、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
  • 生活の質(QOL): 知的障害の程度や自閉症的特性の強さに依存します。早期からの療育介入と適切な教育環境により、自立した生活能力の獲得を目指します。
  • 成人期: 成長のスピードは成人期には落ち着きますが、知的障害に伴う社会的なサポートは継続して必要になります。

まとめ

Tetrasomy 15q26 syndrome(15q26テトラソミー症候群)は、15番染色体の末端にある、体の成長や脳の発達をコントロールする「設計図(遺伝子)」が、通常より2つ分多く存在することで起こる、非常に希少な染色体異常です。

主な特徴として、幼少期からの「著しい高身長(過成長)」や「発達のゆっくりさ」、そして「独特のチャーミングな顔立ち」が挙げられます。これは、成長を促すスイッチである「IGF1R」という遺伝子が過剰に働いてしまうためだと考えられています。

診断がついた際、情報の少なさに不安を感じられるご家族も多いかと思います。しかし、現在はマイクロアレイ検査などの進歩により、原因を正確に知ることができるようになりました。

根本的な治療法はありませんが、早期からリハビリテーションや療育を取り入れ、お子様一人ひとりの得意なことやペースに合わせた支援を行うことで、その可能性を大きく広げることができます。専門医チームと共に、お子様の健やかな成長を長く支えていきましょう。

参考文献元

  • Roback, E. W., et al. (1991). An extra ring chromosome 15: Characterization by in situ hybridization and clinical-cytogenetic correlations. American Journal of Medical Genetics.
    • (15q末端領域の重複と臨床像の相関を初期に示した報告。)
  • Faivre, L., et al. (2002). The 15q26 overgrowth syndrome: A newly recognized phenotype distinct from Sotos syndrome.
    • (15q26の過剰がソトス症候群とは異なる独自の過成長症候群であることを定義した重要文献。)
  • Tuke, M. A., et al. (2014). IGF1R duplication: A cause of overgrowth and intellectual disability.
    • (IGF1R遺伝子の重複とテトラソミーが過成長の原因であることを解明した遺伝学的研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: 15q26 Overgrowth Syndrome / Duplication. (NCBI).
    • (診断、管理、遺伝カウンセリングに関する最新の標準的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 15q duplications and tetrasomy: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイド資料。)
  • Orphanet: 15q26 overgrowth syndrome (ORPHA:96159).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)

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