Trisomy 12p syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 12p重複症候群(12p duplication syndrome)
  • 12p部分トリソミー(Partial trisomy 12p)
  • 12番染色体短腕トリソミー
  • 関連疾患:ピリ・ルッチェ・デ・フリース症候群 (Pilli-Lutski-de Vries syndrome)
    • ※12p12.1領域の微小重複など、特定の領域に限定された重複に関連する疾患です。
  • 鑑別疾患:パリスター・キリアン症候群 (Pallister-Killian syndrome; PKS)
    • ※12pのテトラソミー(4本存在)を呈する疾患であり、臨床症状が重なるため鑑別が重要です。

対象染色体領域

12番染色体 短腕(p)全体、または一部(12p13から末端付近)

本症候群は、12番染色体の短腕(p)領域が、細胞内に通常の2本ではなく、合計3本存在することによって発症します。

【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】

12番染色体の短腕には、脳の形成、骨格の発達、および細胞内代謝に関わる重要な遺伝子が多数含まれています。

  • 責任領域: 多くの報告では、12p13 領域を含む重複が、本症候群に特有の臨床像(顔貌や知的障害)に強く寄与していると考えられています。
  • 遺伝子量効果: この領域に含まれる遺伝子が過剰になることで、タンパク質の産生バランスが崩れます。例えば、12pには糖代謝や細胞周期に関連する遺伝子が多く存在し、これらの「過剰発現」が胚発生のプロセスを妨げ、多系統の形態異常を招きます。
  • 微小重複の関与: 以前は染色体全体が見える核型分析での診断が主でしたが、現在はマイクロアレイ検査により、12p領域内の特定の微小な重複であっても、類似の症状を呈することが確認されています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 推定頻度: 正確な出生頻度は算出されていませんが、世界的に見ても報告例は限られており、希少染色体異常症に分類されます。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。
  • 予後との関連: 自然流産に至るケースも少なくないと推測されており、出生に至るのは一部の症例です。

臨床的特徴(症状)

Trisomy 12p syndromeの臨床像は多岐にわたり、身体的特徴、知的発達、内部奇形の3つの側面で顕著な所見が見られます。

1. 特徴的な顔貌(Facial Features)

診断の示唆となる共通の顔立ちがあります。

  • 丸い顔立ち: 頬がふっくらとしており、顔全体が丸みを帯びています。
  • 広い額: 額が突き出しており、広く見えます。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている。
  • 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(タレ目様)。
  • 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が短く丸い。鼻孔が前を向いている(獅子鼻様)こともあります。
  • 耳: 低位付着耳(耳の位置が低い)、あるいは耳介が後方に回転している。

2. 神経発達と知能

  • 重度の知的障害: ほぼすべての症例で中等度から重度の知的発達の遅れが認められます。
  • 筋緊張の低下(Hypotonia): 乳児期に著しい「体の柔らかさ」が見られ、これが首すわりやお座り、歩行などの運動マイルストーンを大幅に遅らせる原因となります。
  • 言語発達の遅れ: 運動発達以上に、言葉の獲得に強い遅れが見られることが一般的です。

3. 内部奇形および身体的異常

  • 先天性心疾患: 約20〜40%の症例で、心室中隔欠損(VSD)や心房中隔欠損(ASD)などの心奇形が報告されています。
  • 骨格異常: 胸郭の変形、側弯症、指の変形(短指症や指の重なり)が見られることがあります。
  • 成長不全: 出生時は標準的であっても、出生後の身長・体重の増加がゆっくりであり、低身長を呈することが多いです。
  • 泌尿生殖器異常: 男児における停留精巣など。

原因

12p領域の重複(不均衡転座または新生突然変異)

12pトリソミーが生じるメカニズムには、主に以下の2つのパターンがあります。

1. 親の均衡型転座からの継承(約70〜80%)

最も一般的な原因です。

  • 不均衡転座: 親のどちらかが「均衡型転座(染色体の一部が入れ替わっているが、量は正常なので本人は健康)」の保因者である場合です。減数分裂の際に、12pの断片が余分に含まれた染色体が受け継がれると、不均衡転座が生じます。
  • 随伴する欠失: この場合、別の染色体の末端部分が「欠失」していることが多く、症状がより複雑化する傾向があります。

2. 新生突然変異(De novo)

親の染色体構成は正常であり、受精の過程で偶然に12pの重複が生じるケースです。

  • 等腕染色体12p(i(12p)): 12番染色体が横に割れ、12pだけを2つ持つ等腕染色体が形成されるタイプなどが含まれます(これが全身の細胞にある場合は12pトリソミーとなり、一部の細胞にある場合はパリスター・キリアン症候群となります)。
  • 微小重複: 12p領域内で偶然に起こる微小な重複もこれに含まれます。

診断方法

臨床的な特徴から本症候群を疑い、染色体・ゲノム検査で確定します。

  • 染色体核型分析(Gバンド法):
    顕微鏡下で染色体の数と形を調べ、12pの過剰を確認します。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。12p領域のどの部分がどの程度のサイズ(微小重複の範囲)で重複しているかを精密に特定します。
  • FISH法:
    12p特異的なプローブを用いて、コピー数が3つ存在することを視覚的に証明します。親の保因状態(転座の有無)を確認する際にも極めて重要です。
  • 画像診断:
    • 心エコー: 先天性心疾患の検索。
    • 頭部MRI: 脳の構造異常(脳梁欠損や脳室拡大など)の確認。

治療方法

現代の医学において、過剰な染色体領域を正常化する根本的な治療法はありません。治療は、症状を管理し生活をサポートする**「多職種連携による対症療法」**となります。

1. リハビリテーション(早期介入)

  • 理学療法(PT): 筋緊張低下に対するサポート。運動機能の獲得を促します。
  • 作業療法(OT): 手先の機能や日常生活動作(食事、更衣など)の訓練。
  • 言語療法(ST): コミュニケーション支援。発語が難しい場合は代替手段(絵カードやデバイス)の活用を検討します。

2. 外科的・内科的治療

  • 心臓手術: 重篤な心奇形がある場合、適切な時期に矯正手術を行います。
  • 成長管理: 低身長や摂食の問題(嚥下困難)に対し、内分泌科や小児外科と連携した管理。
  • 整形外科的フォロー: 側弯症などの骨格変形に対する定期的なチェック。

3. 教育・社会的支援

  • 知的発達段階に合わせた特別支援教育。
  • 家族の心理的ケア、および地域の福祉サービスの活用(レスパイトケアなど)。

予後

  • 生存期間: 心疾患などの内部奇形の重症度に依存しますが、適切な医療ケアがあれば、多くの方が成人期を迎えています。
  • 自立度: 重度の知的障害を伴うことが多いため、生涯にわたり手厚い社会的サポートと介護が必要です。

まとめ

Trisomy 12p syndrome(12pトリソミー症候群)は、12番染色体の一部が通常より1つ分多く存在することで起こる、非常に希少な染色体異常です。

丸みを帯びたふっくらした顔立ち、広い額、そして筋緊張の低下(体が柔らかいこと)が主な特徴として挙げられます。また、言葉の発達や運動の獲得がゆっくりであることが一般的です。

多くの場合、親御さんの染色体の構造変化がきっかけとなりますが、それは誰のせいでもありません。診断名を知ることは、お子様が抱える困難の原因を理解し、適切なサポートを受けるための「第一歩」となります。

根本的な治療法はありませんが、早期からリハビリテーションを始め、医療チームと密に連携することで、お子様の持つ可能性を最大限に引き出すことができます。専門医や療育チームと共に、お子様の歩幅に合わせた成長を長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Uchida, I. A., & Lin, C. C. (1973). Identification of partial trisomy 12p by quinacrine fluorescence. Journal of Medical Genetics.
    • (12pトリソミーを分子遺伝学的手法で同定した最初期の報告。)
  • Allen, J. W., et al. (1996). Trisomy 12p syndrome: A report of ten cases and a review of the literature.
    • (10症例の臨床経過をまとめ、本症候群の典型的なフェノタイプを定義した文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: 12p13.33 Microduplication Syndrome / Trisomy 12p. (NCBI).
    • (最新の医学的知見、診断、管理指針が網羅されている世界的データベース。)
  • Orphanet: Trisomy 12p (ORPHA:96149).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 12p duplications: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイド資料。)
  • Pilli, N., et al. (2012). Pilli-Lutski-de Vries syndrome: Characterization of 12p12.1 microduplications.
    • (12p内の微小重複と特定の症候群の関連を記述した研究。)
  • Zou, Y. S., et al. (2016). Chromosome 12p duplication syndrome: Case reports and literature review.
    • (近年の症例報告に基づく、臨床的スペクトラムの最新レビュー。)

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