別名・関連疾患名
- WBS / WS
- ウィリアムズ症候群
- 7q11.23微小欠失症候群(7q11.23 microdeletion syndrome)
- 特発性乳児高カルシウム血症(旧称)
- ※乳児期に一過性の高カルシウム血症を呈することが多いため、かつてこう呼ばれていました。
対象染色体領域
7番染色体 長腕(q)11.23領域の微小欠失
Williams-Beuren症候群(WBS)は、7番染色体の長腕にある「11.23」という非常に限定された領域が、ごくわずかに失われる(微小欠失)ことで発症します。この領域には約26〜28個の遺伝子が含まれており、それらが一度に失われる「隣接遺伝子欠失症候群」の代表的な疾患です。
【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】
欠失領域に含まれる複数の遺伝子が、WBSの多様な症状を引き起こします。
- ELN遺伝子(エラスチン遺伝子):
- 役割:血管や皮膚、肺などの組織に弾力性を与える「エラスチン」というタンパク質を作ります。
- 欠失の影響:大動脈弁上狭窄などの心血管疾患、皮膚のたるみ、しわがれ声、関節の柔軟性の異常などの原因となります。
- GTF2I / GTF2IRD1遺伝子:
- 役割:転写因子として多くの遺伝子の働きを調節します。
- 欠失の影響:WBS特有の**「社交的な性格」や知的障害**、視空間認知の困難さ、および特徴的な顔貌に関与していると考えられています。
- LIMK1遺伝子:
- 役割:神経細胞の骨格形成に関与します。
- 欠失の影響:視覚的な情報を空間的に把握する能力(視空間認知)の障害に関連していると推測されています。
- CLIP2遺伝子:
- 役割:脳内の細胞骨格の動態に関与します。
- 欠失の影響:小脳の機能や運動調整への影響が指摘されています。
発生頻度
出生児 約7,500人 〜 20,000人に1人
- 正確な頻度: かつては2万人に1人とされていましたが、診断技術(FISH法やマイクロアレイ法)の向上により、現在は1万人前後に1人程度と、比較的頻度の高い染色体異常症であると考えられています。
- 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。
- 日本国内: 日本国内においても同様の頻度で発生しており、指定難病(179)に認定されています。
臨床的特徴(症状)
WBSは、顔貌、心血管系、知能・性格、代謝など、全身に非常に特徴的な所見を呈します。
1. 特徴的な顔貌(Elfin-like facies)
「妖精(エルフ)のような顔立ち」と形容される、独特で魅力的な顔立ちが見られます。
- 広い額と眼間開離: 額が広く、両目の間隔が離れている。
- 星状虹彩(Stellate iris): 青や緑の瞳を持つ患者では、虹彩に白い星のような模様が見られることがあります。
- 厚い唇と口: 口が大きく、上唇が厚く、口角が上がっている(笑顔に見えることが多い)。
- 短い鼻と平坦な鼻根部: 鼻先が上を向いており、付け根が低い。
- ふっくらした頬: 頬の下部がふっくらしています。
2. 心血管疾患(最重要の合併症)
ELN遺伝子の欠損により、全身の血管に狭窄(狭くなること)が生じやすくなります。
- 大動脈弁上狭窄(SVAS): 大動脈の根元が狭くなる、WBSで最も多く見られる(約75%)心疾患です。
- 末梢性肺動脈狭窄: 肺へ送る血管が狭くなる状態。乳児期に多く見られ、成長とともに改善することもあります。
- 高血圧: 血管壁の弾力性低下や腎動脈狭窄により、若年期から高血圧を呈することがあります。
3. 知能と独特の認知特性
- 知的障害: 軽度から中等度の知的障害(平均IQ 50〜60前後)を伴うことが多いです。
- 認知のアンバランス: * 不得意: パズル、描画、空間把握などの「視空間認知」が極めて苦手です。
- 得意: 言語能力は比較的高く、ボキャブラリーが豊富で、おしゃべりを得意とする傾向があります。
- 聴覚過敏: 掃除機の音、拍手、花火などの特定の大きな音に対して、極度の不快感や恐怖を感じることがあります。
4. 特徴的な性格(超社交性)
WBSの患者様は、非常にユニークな心理的特性を持っています。
- カクテルパーティー・パーソナリティ: 初対面の人に対しても物怖じせず、非常に友好的で、饒舌に社交的な会話を好みます。
- 共感能力の高さ: 他人の感情に非常に敏感で、優しい性格の方が多いです。
- 不安感: 社交的である一方で、新しい環境や特定の状況に対して強い不安を感じるという二面性を持っています。
5. 代謝とその他の異常
- 特発性乳児高カルシウム血症: 乳児期に血中のカルシウム濃度が高くなり、イライラ、嘔吐、便秘の原因となることがあります。
- 成長不全: 出生時の体重は低めで、その後の身長・体重の伸びもゆっくりです。
- 早期老化様変化: 若年期から白髪が出たり、皮膚の弾力性が失われたりすることがあります。
- 歯科的問題: 歯が小さかったり(小歯症)、歯並びが乱れたりすることが多いです。
原因
7q11.23領域の微小欠失(新生突然変異)
WBSは、精子や卵子が作られる際の「組換え」のミスによって生じます。
- 新生突然変異(De novo deletion):約99%以上
ほとんどの症例において、両親の染色体は正常です。受精の過程で偶然に微小欠失が生じたものであり、両親の生活習慣や育て方が原因ではありません。この場合、次に生まれるお子様(きょうだい)への再発リスクは極めて低い(1%未満)です。 - 常染色体顕性(優性)遺伝:
WBSを持つ方が子供を授かった場合、50%の確率でお子様に遺伝します。 - 非対立遺伝子間相同組換え(NAHR):
7q11.23領域は、似た配列が繰り返されているため、進化の過程で非常に不安定な構造をしています。そのため、この特定の領域が「うっかり」抜け落ちてしまう現象が起こりやすいのです。
診断方法
臨床的な特徴(顔貌、心疾患、性格)から疑い、確定診断には遺伝子検査が必要です。
- FISH法:
最も一般的な診断方法です。エラスチン遺伝子(ELN)に特異的な蛍光プローブを用いて、1本分が欠損していることを視覚的に確認します。 - マイクロアレイ染色体検査(CMA):
欠失の範囲を正確に特定できます。FISH法で見逃されるような極めて微小な欠失も検出可能です。 - 臨床評価:
- 心エコー: 血管狭窄の有無を調べます。
- 血液検査: 血中カルシウム濃度、腎機能をチェックします。
治療方法
根本的な遺伝子修復法はありませんが、合併症の管理と適切な療育によって、QOLを大きく向上させることができます。
1. 心血管系の管理(最優先)
- 定期的な心エコー、血圧測定が不可欠です。重度の狭窄がある場合は、外科的な手術が行われます。
- 注意点: 麻酔のリスクが通常より高いことが知られているため、歯科治療や手術で麻酔を使用する際は、WBSの特性を熟知した麻酔科医による管理が推奨されます。
2. 乳児期の栄養・代謝管理
- 高カルシウム血症がある場合は、カルシウムやビタミンDを制限した食事療法を行います。脱水症状にも注意が必要です。
3. 発達支援・教育(療育)
- 早期介入: 言語療法(ST)や作業療法(OT)、理学療法(PT)を組み合わせます。
- 視空間認知のサポート: 空間把握が苦手なため、視覚的な指示(図解など)だけでなく、本人が得意な「言葉」による説明を併用する学習支援が効果的です。
- 音楽療法: WBSの方は音楽に対して非常に高い関心と才能を示すことが多く、音楽を通じたコミュニケーション支援が有効な場合があります。
4. 聴覚・心理的サポート
- 聴覚過敏に対しては、イヤーマフの活用や、大きな音が鳴ることを事前に伝える(予期させる)ことでパニックを防ぎます。
- 社交的すぎるゆえのトラブル(見知らぬ人についていく等)を防ぐための社会性訓練も重要です。
予後
- 生存期間: 心血管系の合併症が適切に管理されていれば、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
- 自立度: 知的障害の程度によりますが、成人後は就労支援や社会資源を利用しながら自立した生活を送る方が増えています。
- 加齢の影響: 加齢とともに血管の硬化や高血圧のリスクが高まるため、成人期以降も生涯にわたる循環器科でのフォローアップが必要です。
まとめ
Williams-Beuren syndrome(ウィリアムズ・ボイレン症候群)は、7番染色体の一部にある「エラスチン」などの大切な設計図が、ほんの少し足りない(微小欠失)ことで起こる病気です。
この病気のお子様は、非常に表情豊かで、音楽とおしゃべりが大好きな、とても社交的な性格という素晴らしい個性を持っています。一方で、心臓の血管が狭くなりやすかったり、大きな音が苦手だったり、空間を把握するのが少し難しかったりといった面もあります。
診断がついた際、ご家族は不安に思われるかもしれませんが、WBSのお子様は「言葉」を介した心の交流がとても得意です。その「得意」を伸ばしながら、心臓の定期健診をしっかり受け、早期から療育を受けることで、豊かな社会生活を送ることができます。専門医のチームと共に、お子様の輝く笑顔と豊かな個性を大切に育んでいきましょう。
参考文献元
- Williams, J. C., et al. (1961). Supravalvular aortic stenosis. Circulation.
- (ウィリアムズ博士らによる、心血管疾患と顔貌の関連を初めて示した歴史的論文。)
- Beuren, A. J., et al. (1962). Supravalvular aortic stenosis in association with mental retardation and a peculiar facial appearance.
- (ボイレン博士らによる、知的障害を伴う症例についての独立した報告。)
- Ewart, A. K., et al. (1993). Hemizygosity at the elastin locus in a developmental disorder, Williams syndrome. Nature Genetics.
- (エラスチン遺伝子の欠失が原因であることを解明した最重要論文。)
- GeneReviews® [Internet]: Williams Syndrome. (NCBI).
- (最新の医学的知見、診断、管理指針が網羅されている世界的データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Williams Syndrome: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド。)
- Pober, B. R. (2010). Williams-Beuren Syndrome. New England Journal of Medicine.
- (WBSの臨床、遺伝学、管理に関する包括的なレビュー。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


